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( ゚Å゚)ノ MerryChristmas♪


先日行ったXmas企画での
TreasureHantフリリク、
まず最初は1位だった
まりあ様リクのお話になります。


真壁とのお話です。
執事ENDを迎えた
真壁とヒロインの
その後だと
思ってください。


イギリス、ロンドンで
真壁と2人で過ごす
クリスマス―――、
少し切ないです。


とても長いので
前編・後編にしました。
詳しいリク内容に関しては
後編につけるあとがきでww


フリリク作品ですので
こちらの記事での名まえは
「まりあ」になっています。
Xmas企画ページの
作品集の中にも
フリリク作品を納めますので
名前変換はそちらでどうぞ。

とても長いので
携帯機種の関係で
1つの記事では切れてしまわれる方は
どうぞ分割でお読み下さい。

その1 その2 その3 その4




以下、創作になります。
創作である事を
ご了承の上、
ご理解くださる方のみ
どうぞお読み下さい。


******* If you would love me.... 前編 ********

FOR MARIA!!







「執事が、一番幸福に感じるときはどんな時かおわかりですか」
「わからないわ」
「私がお仕えしていることで、ご主人様が幸福を感じているとわかったとき、でございます」
「じゃあ・・・真壁さん、幸せね?」
「ええ。もちろんでございます」
「いつまでも、私の力が続く限り、まりあお嬢さまのおそばで、仕えさせていただきます」

ずっとずっと一緒にいよう。
真壁さんと一緒に
生きていこう。
それが、あたしと真壁さんの
正しい在り方だと思うから。





一年前のあの日。
あずまやで
ティータイムをしたときのこと。
忘れない。
ずっとずっと
真壁さんがあたしの傍にいると
誓ってくれた日。




・・・・・・・・



あたしは九条院家の令嬢。
そして真壁さんは
その専属執事。
それ以上の関係も
それ以下の関係でもない。

真壁さんは執事として
あたしに尽くしてくれる。
あたしはそれを受け止める。
そして真壁さんを信頼して
彼を使用人として使う。

あたしは真壁さんの主で
真壁さんはあたしの執事。


親しくしても
その一線を踏み越えない。
令嬢と執事であることを
忘れず、そのように振舞う。


これが正しい在り方。


これでいいんだ。



―――ずっとそう思ってた。
ううん、そう思おうと思っていた。


だって、あの人には
・・・執事とその令嬢の
関係以上の事を
望めなかったから。

最初のうちのあれこれ
ぎくしゃくしたことも。
姉さんの披露宴ぐらいの時も
きっと上手く距離をお互いに
とれなかったから。


分をわきまえる。
距離を保つ。


あれこれあって
行き着いた先が
この関係なんだと思ってた。







最初のうちは
これでいいと思っていた。
でもしばらくして
本当にこれでいいのかなと思った。



そして月日が流れて。


真壁さんと過ごす日々も
1日1日増えていく。
あたしと真壁さんの距離が
近くなっていく。


最初に出逢った頃、
真壁さんは全然笑わなくて
厳しくて他人行儀で
心の中にあたしを
一切入れてくれなかった。

自分の話さえも
してくれなかった。
「執事」であること以上を
しなかった。



それが・・・今では。


あたしを名前で
呼ぶようになった。
まりあお嬢さま、と。
とても優しい声。


いつも傍にいて
あたしを見つめてる。
目が合うと必ず
真壁さんが微笑んでくれる。


あたしの好きなものは
なんだって知ってる。
あたしが何を考えてるのか
何をしたいかさえも
真壁さんは全部わかってる。


何かしたいときは
ただ呼べばいい。
真壁さんって。


あたしが告げる前に
先回りして
真壁さんが当ててしまう。
なんだって。


そして、彼は
なんだって叶えてくれる。
ただ1つの願い以外は。



あたしの考えてることは
全部わかっているのに。
きっと彼はわかっていて
わからないふりをしているんだと
たまに思うの。










諦めようと思った。

諦めた方がいいと思った。
この恋は叶わないと。




気がついたら
自然と好きになっていた。


いつも傍にいて、
あたしの事を思ってくれてるから、
だけじゃない。

たまに見せてくれる
プライベートな顔。
遊戯室でビリヤードしている時の
鋭い視線。


紅茶を入れているときに
水色をじっと見詰めて
ふっと笑う時の横顔。


朝、アーリーモーニングティを
持ってきてくれる時
目をこすって
寝ぼけているあたしの
乱れた服を
そっと直してくれる指先。


パウダールームで
出かける準備をしているときに
髪の毛を綺麗にセットしてくれる時
背中に感じる彼の気配。


いつもいつも傍にいてくれる。



この人はただあたしにだけ
優しいってことを知ってる。

そう、あたしだけ
「特別」にしてくれてるってことも。

真壁さんがずっと一緒にいてくれる。
いつも傍にいて
あたしを見つめてくれている。


傍にいる時間が長くなれば
長くなるほど
真壁さんは優しくなっていって
あたしを特別にしてくれて
それが彼の仕事だからだと思っても。


あたしは嬉しく思いながら
反面、戸惑っていた。



―――この人の優しさは
ただ、あたしだけのためで
とても「特別」過ぎて・・・




だから、誤解したくなる。




あたしのこと
本当は「お嬢さま」じゃなくて
1人の女の子として
好きなんじゃないだろうかって。


他の誰かに接する時と
明らかに違う
「大事」の仕方。


この人がこんなに優しいだなんて
きっと誰も知らなかっただろう。


中岡さんが前に
真壁さんがあたしに本当に
「特別に」優しい、し
そういう執事になるとは
思わなかった、と
言っていた。



でも、彼は知らない。


中岡さんが見ていない
2人っきりの時に
真壁さんがもっと
よりいっそう
あたしに優しいことを。



2人っきりの時に
真壁さんがじっとあたしを
見つめる視線が
どれだけ優しいかを。



きっと、誰も知らない。


その優しさは
どこから来てるの?って
その瞳の奥に
問いかけたくなる。




真壁さん、あたしのこと好き?




訊いたらきっと
彼は返事に困るだろう。
ううん、もしかしたら
主の願いをききとどける執事として
自分の本心ではなく
「執事」として好きだと
答えを返すかもしれない。


「専属執事として」
この人はあたしの願いは
全て叶えてくれるから。


だから。


ずっと訊けないままだった。


ずっと傍にいるのに
真壁さん自身の気持ち、
1人の人間としての
あたしへの気持ちは
わからなかった。


きっとあたしも
尋ねられなかったし
真壁さんも・・・。



(真壁さんのことが好き)


この気持ちを認めたら
傍にいられなくなる。


真壁さんの心が知りたかった。
でも知るのが怖かった。

真壁さんが得意の
ポーカーフェイスの
その下にある素顔を
あたしは知らないから。


いつもの優しさ、
誤解してしまいそうな
あたしだけにしか見せない
その優しさが、もし全て
「専属執事」だという
理由だったとしたら。



真壁さんが傍にいるだけで
苦しくなってしまうから
考えないようにしてた。


執事とそのお嬢さまという関係に
がんじがらめになっている
自分には気がついていた。


いつの間にか
言い訳しか
出てこないようになっていた。


優しくされたら
「専属執事だから」
甘える時も
「専属執事だから」。


いつかあたしと真壁さんの間に
引いた1本の線を
越えることができなかった。



できないから
忘れようと思っていた。










・・・・・・・・






「わあ・・・すごく綺麗。ロンドンの郊外まで見渡せるわ」

「まりあお嬢さま。あちらのウェストミンスター寺院です」


窓の外を
真壁さんが指差す。


夜のロンドンは
とても賑やかで
あんまりよくわからなかったけど
日本とは違う建物、言葉
そして空気。


なんだかドキドキする。
すぐ後ろに真壁さんが
ついてくれてるから。


彼の気配がする。



あたしはとてもドキドキしてるけど
でも真壁さんはあまり変わらない。



「明日行くところ?イギリスの王室が戴冠式で使う教会だっけ?確かダイアナ妃の葬儀をしたところだって言ってたよね。」

「よく覚えていらっしゃいますね」

「あれだけ予習させられたんだもん、覚えてない方がおかしいわ」



ちょっと大袈裟に
顔をしかめたら
真壁さんが褒めてるのか
わからないけれども
苦笑して言ってくれた。

「流石は、お嬢さまです」


「ありがと」


観覧車に乗って。
ロンドンの冬の空を横切る。
窓の外はもう真っ暗だ。








今日、ロンドンについた。

ロンドンの街は
クリスマスを迎える季節だからか
イルミネーションが
いたるところで煌いている。


ロンドンのクリスマスは
とても素敵だよ、と
教えてくれたのは義兄さん。


観にいってみたいな、と
呟いた言葉を
実現してくれたのは樫原さん。


専属執事の真壁さんが
以前イギリスに
留学したことがあるからと
授業が終わった夕方、
すぐさまロンドンへ飛んだ。


本当は春の卒業旅行で
イギリスに来るつもりだった。


前から真壁さんに
イギリスでの留学生活を聞いてて
行ってみたいな、と言ったら
真壁さんも賛成してくれた。
いつも楽しそうに
懐かしそうに真壁さんが語る
イギリスのあれこれを
あたしも見たかった。


だから白凛学園を卒業したら
イギリス旅行をしようと思っていた。


ヨーロッパにしばらく
出張に行っていた
義兄さんがロンドンでの話を
ディナーの席でしたときに
卒業旅行で行ってもいい?と
甘えてみたら
義兄さんが満面の笑みで
3月まで待たずに
次の休みに行っておいで、と
言ってくれた。


冬休みは10日ほどある。

クリスマスもお正月も
ロンドンになっちゃうけど
いいのかな?と迷ったら
姉さんが、義兄さんと同じく
ロンドンのクリスマスは
素敵だから、見に行って来たら?と
言ってくれた。そして
春にもいけばいいじゃないの、と
勧めてくれた。


春なら、あたしと慎一郎さんも
一緒に休みをあわせて取るから
その時は家族で。
でもその前に遊びに行ってらっしゃい、
ロンドンのクリスマスは必見よ。
真壁さんがいるなら
大丈夫よね。


そう笑って言うものだから
後ろで控えている
真壁さんをちらりと見たら
優しく微笑んだ真壁さんが
軽く頷いた。


お任せ下さい、と。







それで、今、
真壁さんと2人、
ここロンドンにいる。



イギリスについてすぐ
ホテルに荷物を置いた。
ホテル選びは
真壁さんに任せた。


きっと真壁さんのことだから
執事の目線で
最高級のサービスを
あれこれとみたいだろうと思って。


そうしたら真壁さんが
選んでくれたのが
ホテルリッツだったから
ちょっとびっくりした。


リッツってパリじゃないの?


そう聞いたら
パリのリッツについで
創業100年を越えるホテルで
ここのティールームの
アフターヌーンティが
素晴らしいと、真壁さんが
教えてくれた。



アールデコ調の
曲線が綺麗な家具や
ロビーがとても素敵なホテル。


聞けば、なかなか
あたしと真壁さんが
滞在できるような部屋は
埋まっていて
予約できないらしいけど
樫原さんがどうにかしてくれたらしい。


こっちへ来る航空券も
樫原さんが全部手配してくれた。


ホテルについてすぐ
真壁さんが荷物のパッキングを
片付けてくれて。
その間、お茶を飲んで待ってて。


水が違うし
一緒にもって来てくれた
スコーンも味が違って
本場の味なのね、と
言ったら、真壁さんが
優しく笑ってくれた。


少し休憩したあと。



片付け終わったから
一緒に街にでることにした。








・・・・・・・・・





石畳の歩道を
真壁さんと並んで歩く。
石畳を通じて
寒さが上がってくる。


だいぶロンドンは
東京より冷える。



夕暮れの時間についたから
なんだか街の様子は
よくわからないけど
でも真壁さんが居るから大丈夫。



いつもの真壁さんの定位置は
あたしの後ろだけど
でも知らない街だし
真壁さんが案内してくれるから。


横を歩く真壁さんを
肩越しに
チラッと見上げる。

真壁さんとこうやって
旅行に出たのは
実は初めて。

だから、ちょっと緊張してる。



少しだけふんわりと
後ろに撫で付けられた髪型。
はらりと落ちてくる前髪。
端正な横顔。
きりっとした
銀縁の眼鏡の下には
ポーカーフェイス。
色が白い人だから
ダークグレイのコートが
とてもよく似合う。


首元に巻いてある
濃いグレンチェックのマフラー。
紫の細い線がアクセントで素敵。

180センチの身長で
すらりとスレンダー。
磨き上げられた革靴。


(・・・カッコいいんだよね)


あたしが見ているのに気づいた
真壁さんがいつもの冷静な顔で

「どうかされましたか?」

そう聞くから。


「ううん。なんか・・・」

「はい」

「ううん、なんでもない」

「そうですか」

ロンドンは東京よりも
冷えますので
もし寒かったり
お疲れでしたら
すぐにおっしゃってください。


そういつもの執事口調で
言われて、はい、と頷いた。



見つめてたのは
そう、じゃないよ。
真壁さんが
カッコいいからだよ。




・・・本当は、
「手を繋いでもいい?」って
聞きたかった。
迷子になると怖いから、と
理由を付け加えたら
きっと真壁さんは
苦笑して、許してくれるだろう。



でも・・・。


なんか、デートみたいで
落ち着かないの。
いつもと違うから。



それに。


恋人でもないのに、
お嬢さまであるからって
特権のようにして
「命令」して
手を繋いでもらうって
なんだか寂しいんだ。


繋いだ手は温かいだろう。
でも、それはこの人の仕事で
そこにある気持ちは
きっと、忠誠心、とか
そういうのだ。



それがたまらなく
―――寂しいよ。







・・・・・・・・・・



出発前、空港には
近くまで仕事できていた
義兄さんと樫原さんが
見送ってくれた時。


真壁さんと2人で
こうやってどっかに泊まるの
初めてなんだ。
だからちょっと緊張する。



そう樫原さんに漏らしたら
樫原さんはいつもの笑顔で
微笑んでくれた。



真壁はお嬢さまの
専属執事なんですから
緊張することなど
なにもありませんよ。
お屋敷での生活と
変わることはなにもありません。
全て真壁に任せておけば
大丈夫です。



だって真壁さん、
専属執事だけど・・・
そ、その・・・
一緒の部屋で、ってなると
おと、男の人だから。

九条院家のお屋敷だと
隣の部屋だから
扉と壁で隔てられてるけど
でもホテルだったら
そうじゃないでしょ?

い・・・嫌じゃないけど
でもなんか
男の人と2人で旅行って思うと
なんだか気恥ずかしくて。



恥ずかしくて
ちょっと口ごもりながら
話すあたしを
樫原さんが目を丸くして見つめた。

そして、そのあと
いつものふんわりとした
笑顔で告げた。




それならばお嬢さま。
リッツでは、
お嬢さまが気にしているから
スイートではなく
違う部屋を真壁には
取るようにいいましょうか?
まあ、その方が
慎一郎様も安心しますし
私だって―――


え?
あー!でも、
そんなこと言ったら
真壁さんがびっくりしちゃう!
だ、だめだよ!



ちらりと真壁さんを見る。
飛び立つ前の荷物忘れがないか
最終確認をしてるみたい。


慌てて、大丈夫だから、という
手を振りながら
照れるあたしをみて、
樫原さんがふっと笑った。


お嬢さまは真壁のことを
一人の男として見て
いらっしゃるのですね。



え?


上手く聞き取れなくて
聞き返したあたしに
樫原さんはいつもの笑顔で
優しく言った。




いい機会です、お嬢様。


ん?


きっと楽しい思い出が
沢山できると思いますよ。
ロンドンでの観光、
どうぞ楽しんできてくださいませ。


うん、ありがとう。
樫原さんにもお土産買ってくるね。
何がいい?


いえ、私には。
慎一郎様にぜひともお土産を。


あはは。
義兄さんには忘れずに買うよ。
でも樫原さんにも買ってきたいの。
だってこうやって
ロンドンにいけるのも
樫原さんがいろいろと
手配してくれたからだもの。


私は自分の仕事を行ったまでです。


あたしの気持ちなの。
だから、何が欲しいか言って?



お土産あげる、って
押し付けがましい
あたしのお願いを
樫原さんが
ふっと笑う。
いつもの完璧な笑顔じゃなくて
小さい子を見るような
そんな親しげな微笑。




そこまで言うのでしたら・・・


ん。


じゃあ、お土産はまりあお嬢様で。


え?


お嬢さまが戻ってきて
私に見せてくれる
楽しかったという笑顔が
最高のお土産です。



もう、樫原さんったら。



思わず樫原さんと
顔を見合わせて笑う。


「あれ?何、楽しそうに侑人と話してるの?」


真壁さんとあれこれ話していた
義兄さんが話に割り込んでくる。


「ううん、こっちの話」


そう言って
樫原さんを見たら
樫原さんもにっこり笑った。


「おや?内緒かい?」

「うん」

「侑人も?」

「ええ。お嬢さまが内緒だといわれるのでしたら」


樫原さんがいつもの笑顔で
きっぱりと義兄さんに言う。
そして、あたしをみて
にっこりと笑った。


これって共犯者の笑いだね。

思わず樫原さんが
お茶目に見えて
あたしもくすっと笑った。
樫原さんもくすっと笑う。


そんなあたし達2人を見て
義兄さんが叫ぶ。


「えー!そんなに楽しそうだったら
何を話していたか気になるじゃないか」


拗ねそうな義兄さんをみて
樫原さんがにこにこする。


樫原さんって・・・
たまに義兄さんに
ちょっとだけ意地悪する。
でもきっとそれは
とっても義兄さんのことが
好きだからだわ。
二人揃うと
ボケとツッコミみたいだもの。



こういうのが
理想の主従関係っていうのかな?


信頼関係があって
どっちもお互いのことが好きで
大事にし合ってるって
主従関係の見本のような気がする。


(あたしと真壁さんは・・・)


あたし達も
きっととてもいい関係だろうけど
でも・・・少なくてもあたしは・・・。




また、ちらりと
真壁さんを見たら
準備完了したらしく
こっちを見ていた。


ちょっと遠目だけど
じっとあたし達を見てる。
ううん、あたしを見てる。



今いくね。



そう軽く頷いたら
真壁さんが了解の印に
目を伏せたのがわかった。


「じゃああたし、もう行くね。」


手を上げて行こうとしたら
義兄さんが
なんだか寂しそうな顔をしてるから。
義兄さんの腕を取って
そこに自分の腕を絡めて
にっこり笑った。


「帰ってくるときは義兄さん、迎えに来てね」


クリスマスも
ニューイヤーも
電話するから。



きっとこうやって甘えたら
義兄さんが喜ぶのは
もうわかってる。


たった10日ほどの
旅行だというのに。
それでも義兄さんは
寂しがる。

それに近くで
仕事があったからついで、と
見送りに来てるけれど
きっとその近くは
本当に「近く」ではないはず。



あたしの、「電話する」、
「迎えに来てね」の
おねだりで
義兄さんの顔が
ぱーっと明るくなる。


「楽しんでおいで、まりあちゃん」

「うん、楽しんでくるね」


じゃあ。


そう言って
バイバイと手を振ると
もう拗ねた様子なんか
全然無くて
満面の笑みで手を振ってくれた。
その横で
樫原さんが苦笑している。



2人に見送られて
搭乗口から中に入った。














飛行機の中で、うとうととしてた。
さっきまで学校で
着替えてすぐに出発っていう
強行スケジュールで疲れてた


それにロンドンに行くと
急遽決めた後
真壁さんが観光するところや
あれこれを決めてくれて
あたしはただ、行くだけでいいけど
それでも、ロンドンにいけるって
とても楽しみで
昨日の夜、よく眠れなかったんだ。



眠ってていいですよ。
ロンドンに着く少し前に
起こしますので。


そう真壁さんが
言ってくれるから。
スーッと眠った。



傍に座っている
真壁さんの肩に
頭をもたれさせて。








・ ・・・・・・・・・・





真壁さんと2人で歩く
ロンドンの街は。
街並みがすっきりしてて
石畳が綺麗。

アーケード街もそうだけど
街中の標識や
ところどころにある銅像とか
なんだかとても新鮮。


思っていた以上に
クリスマス時期だからか
とても綺麗な街並みに
変身していた。


着いてすぐホテルで
軽くお茶して
夜のロンドンの街を
歩くことにした。


通りすがる人たちが
喋っている言葉も
外国語で
服装もそうだけど
雰囲気も全然違う。



最初の日は疲れているだろうから
ホテルでのんびりする予定と
真壁さんは言っていたけど
飛行機の中でずっと寝ていたせいか
そこまで疲れてなくて。



せっかくロンドンに来たんだから
どっか連れて行って、と頼んだら、
真壁さんが
「きっとそうなると思っていました」
と苦笑した。



真壁さんがあたしに
コートを着せて
夜のロンドンに
連れ出してくれた。






・・・・・・・・・



街並みを歩く。
今日は寒いから、と
真壁さんがロングブーツを
出してくれた。
それと合わせて
暖かいコートも羽織らせてくれた。



横を歩く真壁さんは
いつもとは違った感じ。
道を知っているからか
迷いなく歩いていくのが
かっこいいと思うの。



それに・・・
やっぱり留学してて
なじみのある土地だから
懐かしいのかな。


いつもはあたしだけに
集中しているその意識も
その視線も、一緒に歩いてると
真壁さんが街並みをみたり
風景をみていたりするのが
伝わってくる。



(一緒にロンドンに来れてよかった)


口には出さないけど
真壁さんが
とても楽しんでいるのが
伝わってくる。


それがとても嬉しかった。


前に紅茶の話をしたときも
イギリスの紅茶専門店のことや
有名なティールームの話や
色んなイギリスでの思い出を
話してくれた。


執事が生まれた国でもあるし
真壁さんにとって
きっとこの国は
特別なんだと思う。


ニューイヤーも
ここ、ロンドンで過ごす。
いつもだったら
九条院家でのパーティを
楽しむところだけれど・・・。


(電話、忘れないようにしなくちゃ)


今年はちょっと違う。
真壁さんと一緒に過ごすロンドン。


出発する前に
樫原さんと話してた事を思い出す。

ちょっと恥ずかしいけど・・・
でも。


好きだけれども
好きだと伝えられなくて
お互いに微妙な距離を置いている
あたしと真壁さんだけど・・・
こういう風に
2人っきりになれるのは
とても嬉しいの。


うん、きっと嬉しいはず。



「ねえ、真壁さん」

「はい、お嬢様」

「なんだか2人でこうやって街を歩くなんて久しぶりだね」

あたしの言葉に
真壁さんが驚く。

「そうでしょうか?」

「うん。私服の真壁さんなんて、本当に久しぶりだよ」


あたしの言葉に
真壁さんがしかめっ面をして
いつもの口調で言った。

「これは私服ではありません」

「え?」

「コートの下にはきちんと執事服を着ております」

「・・・うん」

「執事として、このような観光先でもお嬢さまのお付を―――」

「真壁さん」


ただ、私服の真壁さんを
久しぶりに見て
相変わらず素敵だなって
思っていたのに・・・。



私服の真壁さんと一緒に歩くなら
あたし達、カップルに見えないかな、
なんて、そんな風にちょっと思って
それで嬉しくなって・・・聞いただけ。


こんなに言葉たくさん使って
全力で否定しなくてもいいのに。


「執事」として一緒にいると
強調されると、なんだか少し
胸が痛いよ。


「わかったから」

「え?」

「・・・ううん、いい。わかったから」


ちょっとでも
デートみたいって思って
あたしは緊張してるのに
真壁さんにとっては
これは執事の仕事の一環で
別にそこまで、のことじゃない。



ただ、それを
今ここで
また実感して。


ちょっとだけ
気持ちが落ち込む。
思わず足取りが重くなったら


「タクシーを拾いましょうか、お嬢様?」
やはりお疲れでは?
ホテルに帰って休みましょうか?

そう聞かれた。


ホテルを出るときにも
聞かれたんだけど・・・
せっかくだから
街を歩いてみたい、と
あたしがお願いしたので
それで目的地まで
二人揃って歩いてる。


「ううん。大丈夫だよ」

ただちょっと寒かっただけ。


―――気持ちが落ち込んだから
それで下向きになったんだけど・・・
言い訳をしたら
真壁さんが立ち止まった。


・・・え?


思わず見上げると
真壁さんがするっと首もとから
マフラーを外して
あたしの首元にゆったりと
巻いてくれた。


「ッ・・・・!」

「寒いのでしたら、私ので申し訳ございませんが、今しばらくこちらを」

「こ、これ・・・」

「首元だけでも暖かくするだけで、だいぶ変わりますから」


首元に巻かれたマフラーが
ふわふわしてて
そしてあったかい。
今まで真壁さんが巻いていたから
その温度が残ってる。


ちょっと大きくて
ぐるぐる巻きに真壁さんが
巻いてくれたんだけど
本当に顎の辺りまで来てて。


「あったかい・・・・」


思わずそう声が漏れた。

「よかったです」

真壁さんがくすっと
笑うのがわかる。


「ありがとう、真壁さん」


なんだか今日の真壁さんは
いつもより優しく感じるよ。
日本に居る時は
こんなことしてくれないのにね。


そうボソッと言ったら
それが聞こえてたのか。


「ッ・・・!」


真壁さんがちょっと
びっくりしたような顔の後で
うつむいちゃった。


「え?」

「あ、いえ。何でもございません」


心なしか
頬が赤いような気がする。
あれ・・・寒いのかな?


「そう?なんだか顔赤いよ?」

やっぱり真壁さん
寒いんじゃない?
マフラー返そうか?


そう言って首に巻いてくれた
マフラーをはずそうとしたら
真壁さんにそっと手を止められた。


「大丈夫ですよ、まりあお嬢さま」


少し頬は赤いけど
一生懸命真面目な顔をして(?)
真壁さんが言ってくれた。


「寒くない?」

「ロンドンの冬には慣れております」

「そう?」

でも、氷点下近くの温度だから
結構寒いと思うよ。

「真壁さん、風邪引いちゃう」

だって、そのコートの下は
いつもの執事服で。
コートも素敵だけど
でも夜だからか
冷え込んできてるし・・・。


「主人に風邪を引かせる執事は風上にもおけません」

「・・・」

「ですから私のことはご心配なさらずに」

「わかったわ」

「あまり遅くならないように早めに行きましょう」


また歩き出した
真壁さんの横に
遅れないようについていく。


「待って」


―――執事だから、
といわれると
マフラーを巻いてくれた優しささえ
仕事上のことかと
思ってしまう。

でも思ってしまう
あたしがいると同時に
そうじゃなければいいと
願うあたしもいる。


「失礼いたしました、お嬢様」


少し早足だったのを
緩めてくれる。
人ごみが増えてきて
歩く時にぶつかりそうになる。


はぐれそうになったときに。
ぎゅっと手を握られた。
真壁さんの白い手袋の感触。
温かい。

え?

真壁さんを見上げると

「人が増えてきましたので、はぐれずに居てくださいませ」

お嬢さまを迷子などに
させるわけにはいきませんから
私で申し訳ないのですが
手をお繋ぎさせてください。


すごく冷静な声で
そしていつもの
ポーカーフェイスでそういわれた。


「・・・はい」


真壁さんは
ぎゅっとあたしの手を握って
そのまま歩いてくれた。


なんだかとてもドキドキする。
横並びで歩くのも
初めてだけど
こうやってマフラーを巻いてくれたり
手を繋いでくれたり。


それが「執事」だから、
といわれても。

あたしはドキドキするばかりだ。



(しばらく・・・あたし達2人っきりだよね・・・)


思わず赤くなってくる。


真壁さんはあたしの執事で
あたしを意識することなんてないのに。


あたしが勝手に
ただ、そういう風に
意識してしまって。
意識することなんて
全然ないはずなのに。



きっと真壁さんにとっては
これも執事として
きちんとお嬢さまを守る、ことの
一環なんだろ・・・。


(でも、こうやってマフラーとか手を繋ぐとか・・・)


・・・・この人は
たまにとても近くて。
それも、あたしだけに
とてもとても優しくて。
それが仕事だからといっても。



誤解したくなる。


あたしは・・・・
真壁さんのこと・・・・。



恋人同士みたいだと
誤解したいけど
きっとこれはそうじゃない。



真壁さんと繋いだ手が
繋いでいない反対側と比べたら
とても温かい。
でも、繋いだ手の側の心は
とても切ない。



誰かと手を繋ぐことが
切ないなんて
考えたことも無かった。

ううん。
誰かに手を引かれて
歩くのも久しぶり。

知らない土地で
歩いてて
しっかりと手を握られてるのは
とても安心するけれど
その握っている意味は
あたしの心を切なくさせる。



自分でも
よくわからない気持ちが
たくさん胸に渦巻いている。




(―――誤解したくなるのはきっと―――)







にぎやかな街並みとは
正反対で。
真壁さんは
あたしの手を引いて
黙々と歩き続けた。


石畳にコツコツと響く
あたしのブーツの音。

真壁さんの歩く速度と
あたしが歩く速度が一緒。
靴音が揃ってきこえる。


(あたしに歩く速度合わせてくれてる)


細かい気遣い。
横に並んで歩きながら
気にしていないようで
真壁さんがちらちらと
あたしの方を
気を使っているのがわかる。


あたしは切なくなりながらも
真壁さんが繋いでくれた手の
ぬくもりと
マフラーのぬくもりだけを
感じていた。





・・・・・・・・・・・・



真壁さんが連れてきてくれたのは
大きな観覧車だった。

テムズ河沿いの
ロンドン・アイと呼ばれる
大きな観覧車。
世界最大級の観覧車で
床以外は全面ガラス張りの
観覧車だった。


「・・・・なんだかとても高いわ」


パンフレットを渡されて
手袋のままそれを持って・・・
観覧車を敷地入り口から眺めた。


真壁さんが観覧車を見上げて
溜息をついているあたしを
くすっと笑った。


「この観覧車からでしたら、ロンドンの名所が一望できます」

それはわかってるけど・・・。

もう夜になってしまっている
ロンドンの街を
この観覧車に乗ってみると
きっと綺麗だと思う。


「でも、あたし、高いところそんなに得意じゃないのに」


ちょっと不安げに漏らしたら
真壁さんが真面目な顔で


「じゃあ、お嬢様。観覧車はやめましょうか?」

「え?」

「お嬢さまが高所恐怖症とは存じませんでした。申し訳ございません」


深々と一礼されちゃって
慌てて訂正する。


「あ、違うの!だ、大丈夫、だって真壁さんがついててくれるんでしょ?」


あたしの言葉で
顔を上げた真壁さんが
これまた真面目な顔で


「勿論、常にお傍におりますよ」

「ならよかった。全面ガラス張りなのが、ちょっと怖いだけ」

「この真壁がお嬢さまの傍についておりますので、ご安心下さい」



さあ、どうぞ。

真壁さんが手を差し出してくれる。
あたしはパンフレットを
バッグに仕舞いこんだ。



観覧車の入り口まで
歩いていく。
楡の木、マロニエの木。
青いイルミネーションの装飾。
青い電飾が施された
とても素敵な素敵な観覧車。


まっすぐに続く道を
真壁さんと2人で歩く。



それにしても。


「ねえ、真壁さん。なんでここを最初に選んだの?」

勿論、夜のロンドンの街を
こうやって観覧車で
一望するなんて・・・
とっても素敵だけど・・・
さっきホテルを出るときに
ロンドン・アイを
迷わず選んだのを
あたしは知ってる。


ロンドンに着く前に
日本で既にチケットも
手配していたみたい。
いつの間に、と思った。



今回の観光は
あたしの希望を聞いて
真壁さんが全て計画を立てて
予約もチケットもしてくれたけど。
この観覧車のことは
全然教えてくれなかった。


ただロンドンについた最初の夜は
もし疲れていなければ
ロンドンの夜の街を
少し歩いてみよう、というぐらいの
予定だったのに・・・。


日付入りの予約のチケット。


きっと来る、って
わかってたんだはず。


(真壁さんの中でロンドン・アイははずせないポイントだったのかな?)



「ロンドン・アイを選んだ理由は、お嬢さまに私のロンドンでの一番のお気に入りをお見せしたかったからです」


「え?」


「このロンドン・アイから眺める景色、夜景や名所の一望は、きっと忘れることができない思い出になるでしょう」


「・・・・真壁さんは留学していた時にここによく来てた?」


「ええ。ここからの景色が好きで、たまに乗っていました」


乗らなくても
近くにはまさに
イギリスらしい風景ですからね。
国会議事堂、ビック・ベン。
ウエストミンスター寺院。


真壁さんが近くの
観光名所を指折り数える。
とても楽しそう。



歩きながら手がかじかむ。
真壁さんに繋がれている手は
暖かいけれど
でも反対の手は寒いから
息をはーっと吐いて暖める。



目の前の観覧車を見つめる
真壁さんの遠い視線。
留学していた頃を
思い出しているのかな?
懐かしそう・・・。


向かいから歩いてくる人たちは
きっと観覧車に
乗り終わった人たちだろう。
とっても楽しそうな顔をして
くっつきあって
楽しそうに喋る恋人同士と
すれ違う。


「・・・真壁さん、前は誰と一緒に乗ったの?」


もしかして、真壁さんも
ここで誰か・・・大切な人と
観覧車に乗ったのかな?と
一瞬だけちらりと思った。
横顔を見ていたら
なんだか思わず聞いてしまった。


だって、デートするには
格好の場所だもの。


真壁さんがびっくりした顔で
あたしを見る。


「あ・・・ごめんなさい」


真壁さんが
とても驚いた顔をしたから
思わず場違いな事を
聞いてしまったと思って。


「デートに格好の場所だと思ったら、つい」



それに真壁さんが
最初にここを何も言わずに
決めてしまったから。


・・・・女の子がここをとても喜ぶって
わかって、ここにしたのかな、って
思ったの・・・。


「思わず立ち入った事を聞いてしまったわ。ごめんなさい」


そんなの、あたしには
関係ないことだよね、ごめんね。



「真壁さんに恋人がいたとしても、あたしには全然関係ないことなのに」


聞かれてもないのに
思わず気まずさを
誤魔化すために
あたしはずらずらと
言い募る。




真壁さんは
あたしの執事さんだけど
プライベートまで
あたしが立ち入ることは
しちゃいけないのに、ね。
ごめんね。



思わずそう笑って誤魔化すと
真壁さんが真面目な顔をして



「お嬢さま」

と呼んだ。


「・・・・。」


続きに何か言おうとして
でも口をつぐんじゃった。
そして眉をしかめて
難しい顔をしてる。



気まずい事を
言っちゃったな。


あたしは真壁さんに
恋人がいないって
思っていたけど・・・
でもそれは日本で
九条院家で働いている時の
彼をみていて、そう思っただけで
ロンドンに留学していた頃は
恋人もいたかもしれない。


(ありえなくないこと、だよね・・・)


だってさっき観覧車を眺めた
真壁さんの視線は・・・
少し切なげで
その表情からは
想いが量れないような
立ち入っちゃいけないような
そんな感じだったの。


真壁さんは眉間に
皺を寄せて
なんだか考えてるみたい。


「ごめんね、真壁さん」


もういいよ、って笑って
もう一度誤魔化して。


「さあ、行こう。入り口、あっちだよ」


見えてきた観覧車の入り口。
わざと話題を変えた。
胸が痛む。


あたしだけが
“これはデートみたい”って
勝手に思ってて。
真壁さんが前に誰と
これに乗ってデートしたんだろう?って
自分の想像の中で
ちょっと嫉妬して。
詮索して。


―――きっとあたしの表情が
ぎこちなくて
誤魔化しているのを
真壁さんは知っているはず。


繋がれていた手を
そっと抜き取って
あたしは両手を
自分のコートのポケットに入れた。


気をつけないと
甘えすぎてしまう。
誤解してしまう。


甘えすぎて―
――戻れなくなってしまう。



繋いだ手を離したあたしを
真壁さんは何も言わなかった。
さっきまで繋いでいた
手をちらりと見る。


白い手袋。


真壁さんは
ポーカーフェイスのまま。
たださっきより
少し表情が硬かった。


あたしはコートのポケットに
両手を入れた。


気まずいまま
何も話すことも無く歩いた。





・・・・・・・・・・・・




観覧車の入り口で
他の乗客と一緒に乗り込む。
カプセル型。

あたし達のほかにも
乗客が居る。
家族連れや友達同士、
それに恋人同士も。

皆それぞれ
ガラス張りの窓に
張り付くようにして
ゆっくりと上がっていく
外の景色を見つめている。



ロンドンの夜景は
とても華やかで
テムズ河沿いはすぐわかる。
河の蛇行に沿って
イルミネーションが飾られてるみたいだから。


テムズ河は黒い線のよう。
それを彩る街並みの光。

キラキラと光る
イルミネーションが
水面に映る。
黒い河に揺らめく光の道が
できているように。

ところどころに架かっている
橋もよく映画とかで
見たことがある風景。


遠くに小さく見えるロンドン塔。
ライトアップされている。


近くにある国会議事堂。
ネオゴシック様の
鋭い煙突や直線が
光を受けて、きりっと
夜の街並みの中に
どっしりと座り込んでいるかのよう。


時計台、ビック・ベンの
時計の盤が見えてくる。




観覧車に乗り込んだあと
窓の外の光景を眺めて。

真壁さんが指差してくれる
ロンドンの観光名所を
一望しながら。


話が切れるのを待って
真壁さんにそれとなく
切り出した。



「ごめんね、真壁さん」

「はい?」

いきなりのあたしの
謝罪で、真壁さんが
ちょっとびっくりしてる。


「・・・こういう素敵なところ、きっと仕事とかのお付じゃなくて、デートとかで来たいところだと思うのに、あたしなんかでごめんね」

「お嬢さま・・・・」


誤魔化そうと思っていたけど
なんだかそれじゃあ
効かなくて。
思わず悪あがきみたいに
話を蒸し返してた。


ううん、さっきのことだけじゃなくて。


これは・・・
いつもあたしが感じてるけど
でも見ないようにしている気持ち。


なんでこれを
ここで真壁さんに
打ち明けちゃうのか
わからなかった。


でも。


一緒に歩くロンドンの街は
きっととても
楽しいものだと思ってた。
こっちに来るまでは。


でも。

来てしまって
2人っきりで
本当に2人っきりでいると
いつも胸の中で
もやもやしていることが
抑えられなくなってくる。


あたし一人、勝手に
意識してるっていうのが
とても切ないから。
そんな気持ち抱いてないって
虚勢じゃないけど・・・
でも切な過ぎて思わず言ってしまった。


「真壁さんに恋人ができたら、教えて」
「いくら執事と令嬢でも、誤解されちゃ困るでしょ?」


「・・・誤解といいますと?」


真壁さんが真面目な声で
聞き返してくる。


「・・・真壁さん、たまにあたしを大事にしすぎて、こうやってマフラーを貸したりとか、手をつないだりとか、それって執事の仕事なのに、恋人に誤解されたりするかもしれないから」

「だから、真壁さんに恋人ができたら、あたしにちゃんと教えてね」

そうしたら
できるだけ沢山
お休みもあげるから。
年頃の女の子の
執事をしてるって
恋人が嫌がるなら
専属変えてもいいよ。


中岡さんや隆也くんでも
きっとあたしの専属勤まるわ。
中岡さんはいつも優しいから
お兄ちゃんみたいに
なってくれるだろうし
隆也くんは年が近いから
きっと仲良しになれる。


もし真壁さんが
あたしの専属ができなくなっても
あたしは大丈夫だからね。

九条院家の執事さんたちは
すごく優秀だから
きっとあたしの執事さんが
変わったとしても
かまわないよ。

それに、楽しいかもしれないよね。
専属じゃなくて
普通にかわりばんこで
執事をしてもらったら
毎日もっと楽しいかも。

だってみんなそれぞれ
素敵なんだもん。




・・・聞いている
真壁さんの表情が
こわばっていくのがわかる。


(違う、こんなこと、言いたくないのに)

こんなんじゃないのに。
あたし、なんでこんな。
憎まれ口じゃないけど
何でこんなこと言ってるんだろう。



勝手に好きになってしまったことが
悔しかったから?

それとも正直になれなくて
好きだけど
そんな風に振舞えないから?

素直になれないから?



(こんなの―――ただ拗ねてるだけだよ・・・)


思わず自分に悪態つきたくなる。



でも。

あたしの気持ちがばれたり
負担に思われたくない。
勝手に好きになったなんて
気づかれたくない。


だから、全然真壁さんなんか
意識してないんだよ、って・・・。


それだけのために
こんな変な事を口走って―――


声が震えそう。
でも、きちんとここで
誤魔化しておかなくちゃ・・・。
きっと真壁さんが
困っているだろうから。


「だから、いつ真壁さんがあたしの専属じゃなくなっても大丈夫だよ」


極めつけの言葉を
真壁さんに投げつけて
あたしは顔を背けて
窓を振り返った。

告げた言葉が
とても辛い。
目が潤んできそうになったのを
みられたくなくて。


さっきまで楽しそうに
夜景で見えるところを
指差しして教えてくれた
真壁さんは・・・・
きっとあたしの言葉の真意を
考えてるんだろう。


黙ってしまった。




さっきよりも
もっとぎこちない空気。




窓の外に広がるロンドンの夜景。
涙でにじむ。



(泣いちゃだめ)



あたしと真壁さんは
主人と、その専属執事で
それ以上でも
それ以下でも
・・・なんでもない関係。


ただ、あたしが勝手に好きなだけ。


そんなの、前から
わかってたじゃない。
あたしだけに優しいのは
ただ、あたしが「主人」だからだって。


わかってるのに。

そうじゃないって言ってほしくて。
そうじゃないって言葉を聞きたくて。

でも、気づいてほしくなくて。
負担だと思われたくなくて。


こんなこと言ってる。




しばらく真壁さんは
何も言わなかった。







周りの乗客は
それぞれ歓声をあげながら
外の景色を楽しんでいる。
子供達は立ち上がって
左右の窓を言ったりきたりして
360度の景色を楽しんでいる。


そんな中、ただ
あたしと真壁さんだけは
気まずい雰囲気のまま。





不意に真壁さんが口を開く。


「お嬢さま、先ほどのお話ですが」

「え?」

「恋人などおりません」

「っ・・・・!」

その言葉でびっくりして
真壁さんを振り返った。


真壁さんは
とっても真面目な顔で
あたしを見つめていた。


「職務優先ですので、今後も恋人など作ろうとは考えておりません」
「ですから、私に恋人ができてお嬢さまの専属執事を離れるなど、そういうことは一切ありませんので、ご安心下さい」


真壁さんがふっと笑う。
いつもの我侭なあたしを
たしなめるような微笑。


傍を離れない、という
言葉よりも
ただ最初の
職務優先、って言葉が
耳に残った。


「・・・・恋より仕事の方が大事なのね」


・・・そんなことわかってるのに。
真壁さんに聞き返すこと無いのに。


「はい」


迷いも無い
きっちりとした返事。


「そんなに執事の仕事が好き?」


あたしの呟きを聞いた真壁さんが
少しくすっと笑った気がした。


「これは私の天職でございます」

そして真面目な顔で言う。

「九条院家に使えさせていただき、お嬢様の専属執事として日々お仕えできることに深く感謝しております」


真壁さんが視線を伏せて
深々と一礼した。
そのあくまでも
執事の姿勢を見ているのが
―――辛かった。


感謝、か・・・。


「真壁さん・・・」


頭をあげた真壁さんが
そっとあたしの手を取った。


「お嬢さまは先ほど、私がお嬢さまを大事にしすぎるとおっしゃいましたが、それは私にとって当然のことです。」

「・・・・」


「お嬢さまは私の主人ですので、専属執事として当然の事をしているだけです」


「・・・真壁さん」


「お嬢様が私の身辺の心配をする必要はありません。誤解をうけるようなことも一切ありません。」


きっぱりと言い切られた。
あたし達の関係は
「主人と使用人」、
ただそれだけだって
断言されていることと同じ。


心の中に苦いものが
広がっていく。



「しかし、お嬢様がもし私が専属執事として気に入らないのでしたら、いつでも他の執事にこの役目は渡しますので、遠慮なくおっしゃってください」


「・・・そうね。わかった」


カプセルの中は暗いから
外の夜景の光が
真壁さんの眼鏡に映ってる。
どんな表情をしてるか
逆光でわからない。


・・・・でもその真面目そうな顔を
みていられなくて
あたしは真壁さんに包まれた手を
抜き取って、また背中を向けた。




窓の外に目を移す。


なんでロンドンなんか
真壁さんと一緒に
来ちゃったんだろう?

なんで単純に一緒に来たら
楽しいだろう、って思ったんだろう。

・・・なんで2人で楽しくするはずが
あたしは拗ねてるんだろう?
こんな風に真壁さんを困らせて。
挙句の果てには
その我侭で真壁さんからは
聞きたくない言葉を聞く。



なんでこんな風な
まわりになっちゃってるの?



あたしは思い出す。



―――こうやって
執事と令嬢じゃないで
出逢っていたら
きっともっと違ってた?


こんなに、この関係に縛られて。



出会った頃は
こうじゃなかった。
もっとぎこちなかったけど
でもこんなにきっちりと
線は引いてなかった。


初めてのお茶会での夜
真壁さんに抱きついて
「真壁さんがいてくれたらなんでもできる」と
その時のあたしと真壁さんは
こんなじゃなかった。


真壁さんがここまで
「執事然」とはしてなかった。


真壁さんとこの関係から
抜け出すことはできないの?


あたしは1人の女の子で・・・
真壁さんの一番近くに居て
真壁さんのいいところも
悪いところも・・・
色んなところを知ってる。


知ってて心惹かれてる。


真壁さんが執事なんていやなの。
あたしの恋人になって欲しい。


でもそれを告げることはできない。




いつから、こうなった?


こんな関係になる前に戻りたい。




ビック・ベンの時計台。
涙がにじむ。
夜景の光のキラキラが
瞼で広がる。


涙がこぼれたら
きっと真壁さんが気づいてしまう。
だから泣いちゃだめ。


わかってたのに。
わかってたのに・・・。

切ないよ。
すごく切ないよ。



一番大好きな人が傍にいるのに。
傍にいてくれることが
とても切ない。


だって真壁さんの心は
あたしに無いから。

だってこの人が
あたしを好きになることはないから。
あたしを1人の女の子として
好きになることは―――。


真壁さんを専属執事に
しなければよかった。


専属じゃなくて
ただ屋敷の使用人で
顔をたまにあわせるだけの関係なら
こんなにぎちぎちに
主従関係に縛られなかったかもしれない。






あの時計の針を
逆に回して
出逢った頃から
もう一度時間が戻るなら。


真壁さんとこんな関係になる前に。



ううん。
出会う前からでいい。


こんな関係になる前の
もっと前からでいい。




もっとあたしに勇気があったら。
あの時、もう一度問いただしていたら。
無理にでも真壁さんに
質問していたなら。




こんな関係じゃなかった頃に――――――





(お願い。時間を戻して)



ぎゅっときつく瞼を閉じた。





その時。




時計台の鐘の音が聞こえた。


(ビック・ベン?)


聞こえたと同時に
観覧車が激しく揺れた。


「きゃあっ」

思わず悲鳴を上げる。

「お嬢さま!!」

「真壁さん!!」


足元がぐらつく。


他からも悲鳴が聞こえる。
大きい横揺れ。
地上からだいぶ高いところで
観覧車が揺れる。


(怖い!!!)


思わずぎゅっと目を瞑った。
よろめいて
窓に激しくぶつかった。
他の乗客ともぶつかる。
足を踏まれる。
観覧車内で悲鳴や
荷物が落ちる音が聞こえる。




どうにか身体を支えようとして
足をひねった。

「っ・・・・!!!!」


痛んだ足首でよろめいて
窓にぶつかった拍子に
尻もちをついた。

(やだ!また何か落ちてくる!!)



身体が震えてる。
高いところは苦手。
真壁さんと一緒だと思ったから
大丈夫だと思って乗ったのに。


怖くて、涙が出てくる。
身体が動かない。
震えてくる。


観覧車内が騒がしい。
その時、ぎゅっと膝を抱え
床に崩れたあたしを
誰かがぐっと抱きしめてくれた。


(え!?)

揺れが続く。


(・・・お願い!!!止まって!!)


落ちたらどうしよう
身体が大きく震える。
怖くて、ずっと目を瞑っていた。


横揺れが1度大きく来たあと
だんだん収まってきた。
震えるあたしを
きつく抱きしめる誰か。


(大丈夫、大丈夫)



耳元で小さく呟く声が聞こえる。


揺れが小さくなって止まった。
他の乗客たちが
動き出す音が聞こえる。

でもあたしは
まだ身体が震えてて。
そのまま座り込んでた。
息を殺していたから
苦しくて、息を呑んだり
激しく呼吸をした。

そんなあたしを
抱きしめていた人が
腕を解く。


耳元で聞こえる。


「・・Hey, Are your all right?」


え?えいご?
真壁さん・・・じゃない・・・?


あたしでもわかる片言の英語。

びっくりして
あたしは膝を抱えて
ぎゅっと瞑っていた目を
見開いた。


そこには。


乱雑になった観覧車内の中で
慌しいほか乗客にまぎれて
あたしのすぐ前には
膝を突いた人がいた。



逆光でよく顔が見えない。
でも真壁さんじゃない。
服が違う。
ダークグレイのコートじゃない。
・・・黒のジャケット。


かと思ったら・・・・
夜景の光でその顔が
映し出される。


端正な顔。
白い肌。
きりっと涼しげな目元。
一文字に結ばれたような唇。
スレンダーな身体。
長身を折り曲げて
座り込んだあたしを
落ちてくる荷物や
倒れこんでくる乗客から
守ってくれたのか
少し乱れた髪の毛。


軽く後ろに撫で付けられた
濃紺の髪の毛・・・。

眼鏡をしていない。


でも・・・すぐ近くにいるからわかる。
真壁さんがつけている香水の香り。



知ってる人・・・・え・・・?



「・・・真壁・・・さん?」

「え?」

「・・・・え・・・誰?」


お互い驚いたまま
目を見開いて
相手を見てる。

すごく知ってる顔なのに
頭の中で
「違う」って声がする。
それと同時に
「あの人だ」って声も。



・・・この人・・・もしかして・・・
心臓がどきっとする。
思わず驚きのあまり
あいた口がふさがらない。


心臓が激しく鳴り出す。


「お前、何で・・・名前を・・・?」



声を聞いてわかる。
真壁さんだ。


でも、真壁さんじゃない。

だって・・・
さっきまで
あたしの傍にいた真壁さんは
こんな服を着ていなかったし
眼鏡をかけてた。



それに・・・・
雰囲気が違う。


「・・・真壁さん、なの?」


震える声で聞き返した。


混乱してくる。
え?なにこれ?


「そうだけど、お前、誰・・・?」


あっちも驚いた顔で
目を見開きながら
聞き返してくる。


この人は真壁さんだって
頭の中ではすぐさま一致した。


でも・・・え?

何が起こったの・・・?!
頭が混乱してくる。




だって、目の前にいる人は
いつもの真壁さんじゃない。



22歳には見えないくらい
落ち着いている
真壁さんじゃない。











どう見ても
あたしと同じ年頃の
男の子だった。








********** If you would love .... 前編終了 ********




後編へ続く。





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