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執恋お友達のsana様から
戴いたお話です。
長いので分割を作っています。
( その1 その2 その3 )
1つの記事で読まれたい方は
こちらからどうぞ。

以下、創作になります。
Authorはsana様です。
創作であることをご了承の上
ご理解いただけた方のみ
どうぞお読み下さい。

********* Smile in....その2 ********











次の日の夜、
約束の時間より少し前。
私はあずまやに座って
樫原さんを待っていた。



10月もおわりになると
夜はかなり寒い。
コートを着て
暖かくしていたけれど、
しばらく座っていると
徐々に体が冷えてくる。


自分の体が少し震えているのが
寒さなのか緊張なのか、
良くわからなかった。



そういえば、
どうしてこんな寒い季節に、
夜あずまやで、なんて
言ったんだろう。
なんでもカンペキな樫原さんだから、
何か考えがあるのかな。




そのとき、屋敷の方から
物音がして、振り向くと
樫原さんがワゴンを押しながら
やってくるところだった。



「お待たせしてしまって申し訳ございません。
冷えてしまわれたでしょう」



ワゴンの上にはティーセットと
魔法瓶が置かれていた。
樫原さんがティーカップに
入っていたお湯を別の器に移して、
魔法瓶から紅茶を注いだ。


ふわっと白い湯気が広がる。



「ウバです。ミルクとの相性が良いので、よろしければ」

「うん、じゃあお願いします」



そう言ってから、
私ははっと気づいた。


今日は樫原さんのお誕生日なのに。
こんな時間まで
お仕事をさせてしまっている。

お仕事させるつもりじゃなかったけど・・・
でもやっぱり、そうなっちゃうよね。


うつむいた私の目の前に、
ふいにオレンジの
鮮やかな色が飛び込んできた。



「あ・・・ジャック・オー・ランタン!」


ハロウィンの、
かぼちゃをくりぬいて作るランタン。


学校でも10月に入ってから
たくさん飾られてとても賑やかだ。
それが私の前にひとつ、
でん、と置かれていた。
暖かく火が灯っている。


「うわあ、かわいい・・・」

「そう言っていただけると、作った甲斐がございます」

「・・・樫原さんが!?」


びっくりした。


いくらスーパー執事さんだからって、
そんな工作みたいなことまで。


「すごい。本当に樫原さんて何でもできるのね・・・」

「とんでもございません」


樫原さんはやわらかく
微笑んで言った。


「私にだって、できないことはたくさんございます」


私はミルクティーを一口飲む。


甘さと苦さと熱さが
とても心地いい。
寒さでこわばった体が
ほぐれるように温かくなる。


「だって、こんなにおいしい紅茶も飲んだことないし」


カップを少し持ち上げて、
微笑み返す。
なんだかすごく幸せな時間だ、と思った。



樫原さんが作ってくれた
ジャック・オー・ランタンと紅茶。
樫原さんと二人だけの、
あったかくて静かな時間。
今ならすごく自然に、
穏やかな気持ちで、
伝えられそうな気がした。



「いつか、私がタバコを吸っているところを
ご覧になったでしょう?」

「え?」



ふいに問いかけられて
顔をあげると、樫原さんは
妙にマジメな顔をしていた。


「私が休憩しているところに、お嬢様が
ビリヤードの練習にいらしたときです」
「あ・・・はい」



そういえば、あのときに
樫原さんのこと
すごく意識しちゃったんだよな・・・。
思い出して顔が熱くなる。


「あのとき申し上げましたでしょう?
どうしてもタバコがやめられない、と」


少し翳った笑みを
浮かべていた樫原さんを思い出す。
あの瞬間。
“いつもの笑顔”じゃない笑顔を見て、
急に樫原さんが近くなった気がした。


「あれが、私の数ある“できないこと”のひとつでした」


あのときの話をしているからか、
樫原さんの感じが
少しだけ執事さんじゃない・・・気がする。


「でもね」


急にいたずらっぽく目を輝かせて、
樫原さんは一歩、私との距離を縮めた。


「それが、できるようになったんです」
「え・・・」



できるようになった。

ということは。

もしかして。


「タバコ・・・やめたんですか?」

「ええ」

「・・・・・」



にこやかな樫原さんとは逆に、
私は目の前が真っ暗になった。


今までできなかった禁煙を
やっと成功させた人に、
よりによって灰皿をプレゼントするなんて・・・。


なんてタイミングが悪いんだろう。
あまりのショックで涙が出そうだった。


さっきまでの勢いが
胸の中ではじけて跡形もなく
消えてしまっているのを感じながら、
私はただ樫原さんの
次の言葉を待っていた。



「大学時代からもう10年以上、これだけはどうしても
ないとダメだったのが、不思議にすっぱりとやめられたんです。
―――どうしてだと思われますか?」

「・・・・・・え?」



まだショックから
抜け切れていなかったのと、
まさか質問されると
思っていなかったのとで、
私の反応はだいぶ遅れた。


樫原さんは気を悪くした様子もなく、
じっと私を見ている。


「え、ええと・・・」



やめられた理由、やめられた理由・・・。



考えながら下を向くと、
足元にこっそりと置いた
プレゼントが目に入って
余計に頭が回らなくなる。


ああもう、どうしてこうなっちゃうんだろう。



「お、お医者さまに相談したとか・・・」


苦し紛れにしぼり出した答えに、
樫原さんがにっこり笑う。


「ハズレです」

「あ、そ、そうですか・・・」


なんだか何もかもがハズレている。
私はがっくりとうなだれた。


もうダメだ。
告白もなしにしよう。


それについてハズレなのは
もともと覚悟しているけれど、
どう考えてもタイミングが悪すぎる。
涙までにじんできた。


「****お嬢様?」


うなだれたままの私を
伺うように樫原さんがまた一歩、近づく。
そしてふと、動きを止めた。


「・・・その袋は?」

「あっ・・・!」


樫原さんが私の足元が
見える位置まで来ていることに
気づかなかった私は、
焦って袋を隠すように姿勢を変える。


「え、えーと、これは・・・」


どうしようどうしようどうしよう。



頭の中で言い訳が
次々現れては消えていく。



ハロウィンのお菓子を
義兄さんからもらった?
―――そんなの樫原さんが知らないわけない。
学校の友達に本を借りた?
―――樫原さんなら友達を調べて御礼を用意しちゃう。
隆也くんに庭の飾りをもらった?
―――どの飾りつけが良かったのか、後で隆也くんが聞かれて
来年に活かされるに決まってる。



このお屋敷で樫原さんに
言い訳なんて、不可能だ。
今更ながら、そしてこんな時に、
あらためて樫原さんは
すごいとしみじみ思う。
あの真壁さんだって
従っているくらいだもの・・・。
カンペキじゃないはずがない。



(・・・あ)


ひとつだけ、思いついた。
お嬢様だからできる反則技だけど。
この際かまっていられない。


私は思い切って顔を上げ、
にっこりと笑顔を作って、
きっぱりと言い切った。




「ナイショ」



樫原さんは少しだけ
目を見開いて私を見ていたけれど、
それ以上何も言わないとわかると、
ふっとため息をついて
目をそらした。


「そうですか・・・」


ああよかった、切り抜けた。


そう思って
全身の力を抜いた瞬間。



「今年こそは慎一郎様以外からも誕生日を祝っていただける
のかと期待していたのですが」


・・・・・・え?


ほっとしてジャック・オー・ランタンと
向かい合っていた
自分の目が点になるのがわかる。


「今日この日にお嬢様にお呼びいただけたのを
勝手に勘違いしていた私が自惚れていたのですね」

「ち・・・ちがっ・・・」



慌てて思わず顔を上げると、
樫原さんとまっすぐに目が合った。
沈んだ声色から
落胆しているかと思えば、
満面の笑み。


目だけがとてもいじわるそうに
輝いている。


「・・・っ!」



はめられた。


と思った瞬間、
みるみる顔が熱くなっていく。
それを見ている樫原さんの目が、
ふっと和らいだ。



「・・・いただいても、よろしいですか?」


ずるい。
こんな風に言われたら、断れない。



やっぱり、樫原さんは
何でもお見通し。
きっと昨日声をかけたときから
全部わかってたんだ。


悔しいような、恥ずかしいような、
かえって安心してしまったような、
複雑な気持ちで
傍らの樫原さんと、
その後ろに見える夜空を見上げる。



私は今どんな顔をしてるんだろう。
きっと情けない顔に違いない、と思った。
私を見る樫原さんの顔は、すごく優しい。



夜風が吹いて、
落ち葉の舞う乾いた音があたりを包む。



「・・・あげられないの」



足元にある
小さな紙袋を取り上げながら、
ぽつんと、言葉が落ちた。


「なぜですか?」
「樫原さんが、“できないこと”を克服できたから」



少し首をかしげた
樫原さんを見て、私はふふっと笑った。


「これ、灰皿なの。ほんと、タイミング最悪でしょ」

「え・・・」

「私ね」


まっすぐに樫原さんの
薄茶色の瞳を見つめる。
不思議と気持ちは静かになっていた。



「樫原さんが気を遣わなくてもいいものを、一生懸命考えたの。
“お嬢様”からもらっても負担にならないものを、って。
・・・それなのに、結局一番邪魔になるものを選んじゃった」


ダメだなぁ、と笑う。
樫原さんには何も隠せない。だけど。
今の私はできるだけ
大丈夫に見えてるといい。
心の中でそう祈った。


「えっと、それでね」

「お嬢様」


本題に入ろうとしたところで
急にさえぎられて、
私は声を失った。


「そちらのランタンを、開けていただけますか?」
「え・・・?」

樫原さんの手が、
私の目の前で灯る
ジャック・オー・ランタンを指している。


開ける・・・?



よくよく見ると、
カボチャの顔の額部分に
切れ目があるのがわかった。
なんだろう・・・。
てっぺんの蔦を持って
ゆっくりと持ち上げる。


ふいに近くに気配を感じて振り向くと
髪が触れるほど近くに
樫原さんの顔があった。



「・・・!!」



思わずびくっとして
座ったまま後ずさる。
樫原さんはランタンの上に
かがみこんでいた。

後ずさった私の姿を見て、
ちらりと微笑む。


ランタンの光に照らされた
その表情に、
私は思わず見惚れてしまった。


「失礼いたしました。火を消したかったものですから」
「え?消しちゃうの?」


ふっ、と中のろうそくに息を吹きかけて、
樫原さんの顔が暗がりに沈む。


庭の灯りはあるけれど、
今までのあたたかな
オレンジの光がなくなって、
私たちの周りだけ
急に暗さを増したように感じる。


樫原さんはそのままひざをついて、
テーブルからランタンをとりあげると
私の前に差し出した。



座っている私とちょうど
目線の高さが同じになって、
樫原さんの瞳が
今までに見たことのない距離で
月明かりを映してかすかに光っている。



「中を、ご覧くださいますか」



樫原さんの声に、はっと我に返る。


真正面から
見つめてしまっていたことに
気がついて、
恥ずかしさで体中が熱くなる。


「ご、ごめんなさい」


真っ赤な顔を見られたくなくて、
あわてて樫原さんの
手の中にあるカボチャの頭を
上から覗き込む。



丸くくりぬかれた空洞の中に、
ガラスの容器に入った
オレンジのキャンドルと・・・



「・・・なんですか、これ」




あまりにそこにそぐわない物を見て
あっけにとられた私の反応に
樫原さんはくすくすと笑いながら
“それ”をつまみだした。


「タバコの吸いがらです」

「わかります・・・けど、どうしてそれがこの中に?」

「私にとっての大事な記念品だからです」

「記念品?」



ランタンをテーブルに戻して
胸ポケットからライターを取り出し
キャンドルにもう一度火をつける。


オレンジの香りがふんわりと広がった。


そうして樫原さんは
もう一度私の方に向き直ると、
つまんだ吸いがらを
そっともう片方の手のひらにのせた。


「いつか、遊戯室でお嬢様に吸っているところを見られましたね」

「え・・・」

「これは、あのときの吸いがらです」



私に気づいた樫原さんが
灰皿に押し付けたタバコ。


細い煙が一筋たちのぼって、
消えていくのをきれいだと、思った。

そして、あんな風に
私の想いも消してほしいとも思った。


その消された残りが、
こんなところに現れるなんて。

なんだか皮肉な思いにとらわれて、ぎゅっと胸が苦しくなる。




「あのとき、あなたはこの匂いを気にされて、
遊戯室を出て行かれてしまった。
それで私は、タバコをやめようと思ったんです」



それは、予想もしない言葉だった。

私が・・・“お嬢様”が
タバコの匂いを気にしたから?
そもそも出て行ったのは
それが原因じゃないけれど。
でも、私のせいで、
ずっとやめたくてもやめられないくらい
好きだったタバコをやめたってこと・・・?



確かにあの流れでは
そう誤解されても
仕方なかったかもしれない。
あのときの会話と行動とを
思い出して私は
ものすごく悪いことをしてしまったんだと
はじめて気づいた。



「・・・ごめんなさい!」



思わず立ち上がって、頭を下げる。


自分のせいで気を遣わせて、
自分のせいでプレゼントも台無しにした。


何もかもがうまくまわらない私。
やっぱり私には、
大人の女性なんて無理だった。
悲しくて、情けなくて、
涙が溢れそうになるのを必死でこらえる。



「私・・・私、あのときタバコの匂いが嫌で
出て行ったんじゃなかったの。
でもそう思われても仕方ないことをして・・・
樫原さんの好きなものをやめさせてしまってほんとに・・・」


堰きこむように言い募る
私の両肩がふいにつかまれた。
驚いて、きつく閉じていた目を開くと、
ひざまづいたままの姿勢で
樫原さんが私を見上げていた。



息のかかりそうな距離で
見つめられて、言葉を失う。
急に樫原さんの体温を感じて、
心拍数が上がる。



「あ、あの・・・」

「私は“記念品”と申し上げたのですよ。
これは私にとってとても大切で、幸せなものなのです」

「でも・・・」

「もしかして、“お嬢様”のお気に召さないから、
執事としてやめた・・・とか、お思いになっていますか?」

「・・・え?」


言われている意味がわからず、
私は目を瞬いた。
今まで・・・
そういう話じゃなかったんだろうか。


「それは、違います」


両肩にかかる手に、
心なしか力がこもったように感じる。

ランタンの光を映した
強い瞳にとらえられて
身動きがとれない。
そしてゆっくりと、
囁くように、告げられた言葉。






「私が執事でないときも、あなたにそばにいてもらいたくて、
やめたんです」



・・・・・・今、なんて。


また、こないだみたいに
からかってるの・・・?


私を見つめる樫原さんの表情が
少しはりつめて、
ランタンの光よりも
うっすら朱が差しているように見える。


まさかね・・・樫原さんだもの。



心拍数が上がりすぎて
霞がかかったような頭のせいか、
考えたことが無意識に
声になってこぼれおちた。



「顔・・・赤い・・・?」



そのとたん、樫原さんは
ぱっと片方の手で顔を覆った。
今度こそはっきりとわかるくらいに、赤い。



「・・・ひとまわりも歳の離れた若い女性に告白するのは
ものすごく勇気がいるんです」


少し顔をそむけて怒ったような顔で
ぼそっとつぶやく樫原さんは
いつもの冷静沈着さのカケラもなくて。



私は、それどころじゃないのに
思わずあっけにとられ、
それからくすっと笑ってしまった。


樫原さんの
そんな表情が見られたことが、
すごくすごくすごく、
嬉しくて、くすぐったくて。



「私の気持ち、わかってるのに」

「わかってませんよ」


即座に言い返されて、
私は固まった。



え?だって、さっきのプレゼントだって・・・え?



樫原さんは自分の顔を
覆っていた手を
私の方に伸ばして、
そっと頬に触れた。



「私がわかったのは、あなたが私の誕生日を
祝ってくださろうとしていることだけです。
それ以上は・・・期待しなかったと言えば、嘘になりますが」



そう言って、苦笑いのような
表情を浮かべる。



「中岡とのビリヤードに大人気なく割り込んだり、
慣れない冗談であなたの反応を探ったり・・・
正直言って、自分がこんなに余裕のない人間だとは
思いませんでした」



樫原さんの言葉が、
少しずつ少しずつ
心に沁みこんで甘く広がっていく。
頬にあたたかくて
大きな手のひらを感じる。



夢じゃ・・・ないのかな。
こんな幸せな感覚、夢でも嬉しい。



「****」


ふいに低い声で
名前を呼ばれて、息が止まる。
樫原さんの声で
初めて聞く、私の名前。



「君の気持ちだけは僕にもわからない。だから・・・教えて」




見つめられる瞳も、
触れている手も、
溶けてしまいそうに熱くて。
その熱にうかされるように、
樫原さんの手に、自分の手を重ねた。




「樫原さんのことが・・・好き、です・・・」



次の瞬間、強く腕を引かれて、
私はひざまづく
樫原さんの胸の中に
崩れるように抱きしめられた。



「****・・・」



耳元で名前を囁かれるだけで、
涙が溢れそうになる。
樫原さんの胸の中は、
大きくて、あたたかくて、
いい香りがした。


「フレグランス・・・?」



私の言葉に、
樫原さんの体が
びくんと反応する。
驚いて顔を上げると、
ものすごくマジメな顔と向かい合った。



「もしかして・・・この匂いも、嫌い?」



数秒後、吹き出してしまった私を見て
樫原さんはまた赤くなったけれど、
次の瞬間には気を取り直して、
笑う私を強引におとなしくさせた。


・・・はじめての、キスで。











********************



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