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いつもブログに遊びに来てくださる
sana様より戴いた
樫原さんのBirthdayお話です♪

( ゚Å゚)Birthdayといっても!

誕生日絡みではあるけど
全然今の季節もいけてます(爆)

どんな説明やらwww

11月の樫原侑人誕生日企画の際に
作品参加予定だったお話で
あれこれと都合があり
この時期になってしまったのだけど・・・。
(あたしの手元には結構前に届いてたよww)


すごいです。
どんな一言感想やねん?と
自分でも想うんだけど
話の流れや観察やあれこれ。
すごいです。
その一言に尽きるよ、sanaさん!


以前戴いた幕末LOVERSの
土方のお話もそうだったんだけど
しっかりしたストーリーです。
1つのお話として
読んでいただけるんじゃないかな。


記事が長いので
携帯機種の関係で
1つの記事で読めない方は
分割にてどうぞ。
( その1 その2 その3 )


あと、注意として。
樫原さんが煙草吸ってますw
いや、その姿が
カッコいいのだけどw


以下、創作になります。
Authorはsana様です。
創作であることをご了承の上
ご理解いただけた方のみ
どうぞお読み下さい。
******* Smile in..... ***********

FROM SANA!!









私は樫原さんの笑顔が苦手だ。

まるで何もかも
お見通しですよ、と
言っているような笑顔。


今日戻ってきた
テストの点数が
あまり良くなかったことも、
この前のお茶会で
ほんの少しだけ
お茶をこぼしてしまったことも、
そのあとお屋敷に帰ったとき
樫原さんの反応を盗み見していることも、
来週の樫原さんの
お誕生日プレゼントを
こっそり用意していることも、
そのくせ知られたくないと
思っている私の気持ちでさえ、

きっと、お見通しなんじゃないかと思う。



だから私は、樫原さんの笑顔が苦手だ。













義兄さんの専属執事の樫原さんは、
普通の執事さんよりずっと顔が広い。


学校の友達の中にも、
パーティーやサロンで
たびたび見る樫原さんを
覚えている人がいて、

「穏やかで優しそうな方ね」

と言われたりして
結構人気者だ。


そのたびに、私はこっそりと思う。



いいえ、あの人はとても怖い人なの。
何食わぬ顔であらゆることを
見聞きして、記憶して、分析して、
いざというときのために
いつもいつも備えているのよ。



そして、他の女の子たちが知らない
樫原さんの顔を知っていることに
ひとり、優越感を感じる。













私が初めて
樫原さんの違う一面を知ったのは、
九条院家にきて
まだ間もないある日のこと。



中岡さんにビリヤードを
習い始めたけれどまだまだヘタで
人前で練習するのが
恥ずかしかった私は、
休日の夜遅く、
一人で遊戯室へ向かっていた。



何のためらいもなく、
いつも通りに扉を開けた瞬間、
目に飛び込んできた光景に
釘付けになった。





間接照明で照らされた
薄暗い部屋の奥、
使い込まれて鈍く光る
重厚なチークのカウンターに
寄りかかるようにして
樫原さんが立っていた。




いつもと違う、
ノータイのワイシャツの
胸元を開けたラフな格好で、
片手に挟んだタバコをくわえたまま、
どこか遠くを見るような目をして。




執事服じゃない姿を見たのが
初めてだったとか、
タバコを吸うのを知らなかったとか、
そういうことじゃなく。



目の前にたたずむ人が
「いつも優しい笑顔の樫原さん」じゃなく、
急に知らない大人の男性に
見えたことに動揺して、
そして何故か目が離せなかった。





扉の開く音で樫原さんが
こちらにゆっくりと視線を向けた。


まっすぐに見つめられて、
ますます動けなくなる。




しばらくして、
ようやくわかったというように
「お嬢様」と私を呼び、
カウンターから体を起こした。




「暗くてお顔が良く見えず、失礼いたしました」




言いながらさりげなく
タバコを灰皿に押し付ける。
白く細い煙が手元から一筋
立ちのぼって消えていく。



「何かおやりになるのですか?」




ああ、やっぱりこの人は
樫原さんなんだ。


いつもの笑顔と口調に、
あらためてそう思う。
でも、なんだか落ち着かない。
樫原さんなのに、どうして。



「あ、あの・・・ビリヤードを練習しようと、思って」



さっきまであんなに
目が離せなかったのに、
今度はまっすぐに見られない。


意識的に
ビリヤード台の方を向きながら
しどろもどろに答える。



「よろしかったらお相手いたしましょうか?」



樫原さんがゆっくりと
近づいてくるにつれて、
タバコの匂いが私を包む。


苦くて、大人の香り。



タバコの匂いなんて
街中だったらどこでもするのに、
なんだか今はそれがすごく特別に感じる。




「樫原さんて、タバコ、吸うんですね」



少し驚いたように
私と数歩離れた場所で立ち止まった
樫原さんは、気まずそうに顔を俯けた。



「申し訳ございません。匂いは付くし体には悪いしで
良いことはないとわかっているのですが・・・どうしても
やめられないのです」


今までに見たことのない
自嘲するような笑みが、
ますます樫原さんを
知らない男の人に見せていた。


それに比例するように
どんどん落ち着かなくなってきた私は、



「あ、あの、やっぱり・・・今日はやめておきます」



とだけ言って、一目散に逃げ帰ってしまった。










それから私はなんとなく
樫原さんを観察するようになった。


誰が見ても
“義兄さんの傍らでいつも微笑んでいる有能な執事さん”
の、それ以外の顔を知っていることが
なんだかとても特別な気がして。



もっともっと見てみたい。



怖いもの見たさのような、
そうじゃないような、
抑えられない好奇心を
自分で不思議に思いながらも、
毎日少しずつ、樫原さんを見つめ続けた。










数ヶ月も経つと、結構色々な収穫があった。



九条院家のことに関しては
義兄さんよりも詳しいこと。

他の執事さんたちや
使用人たちに怒るときは
ちょっと冷たくて怖く見えること。


疲れているときはふとした瞬間に
遠くを見るような目をすること。


お酒はラフロイグ、
タバコはマルボロの赤が好きなこと。


打ち解けると冗談を言ったりもすること。

仕事の笑顔とほんとの笑顔が違うこと。




・・・意外と、それが可愛く見えること。





ひとまわりも年上の男の人を
「可愛い」と思うようになるなんて
樫原さんに出会うまでは
考えたこともなかった。












あの、遊戯室から
逃げ帰ってしまった日から
しばらくして、樫原さんとも
時々ビリヤードをするようになった。


はじめは中岡さんと
練習しているときに
たまたま居合わせた樫原さんが
私もまぜてくださいませんか、と
申し出たのがきっかけ。


中岡さんと一緒だったおかげで、
前よりもずっと落ち着いていられた。

そして、ごくたまにだけれど
樫原さんと二人でもやるようになって。



二人きりでも
自然に話ができるようになって。

樫原さんがお酒を飲んだり、
冗談を言ったり、
笑顔になったりするのを見るようになって。



あるときふいに、
あ、可愛い、と思ったのと同時に、
好きになってしまったって、わかった。



12も年が上で、
年齢以上にもっともっと、
誰よりも大人な人。


年齢以下に
いろいろできない私なんて、
妹どころか、娘くらいに
思われてるかもしれない。
それでも惹かれてしまう気持ちは
どうしても消えてくれなくて。



あのときのタバコの火みたいに、
樫原さんが消してくれたらいい。
一筋の煙になって、少しずつ少しずつ、
消えていけたらいいのに。

そんなことを考えていた。












いつか遊戯室で、
おしゃべりに紛れて
聞いてみたことがある。



「樫原さんて、彼女はいるんですか?」


どきどきを必死で隠そうとしていたのも、
お見通しだったかもしれない。


どうしても顔をあげられなかったから、
樫原さんがどんな表情を
していたのかわからない
けれど、答える声は笑みを含んでいた。



「いませんよ。私は性格悪いですからね。
それに執事という仕事柄、なかなかプライベートに
割ける時間もありませんし」



カツン、と勢い良く
玉を撞いた中岡さんが、
体を起こして嘆息した。



「出会いの少ない職場ですからね・・・職務上、どこかの
お屋敷のメイドと合コン、なんていうのもあり得ないですし」



合コン、なんて
庶民的な言葉を久しぶりに聞いて、
私は思わず笑ってしまった。



「ここの執事さんはみんなかっこいいから、
合コンなんてしたらきっと大変ね」



カウンターに琥珀色のブランデーが入った
分厚いグラスを置いて、
キューを手に台へ向かいながら
樫原さんも笑った。



「中岡や真壁は引く手あまたでしょうね。
まあ、真壁は見向きもしなそうですが」
「執事たるもの、そのような場に出るのは言語道断だ!
とか言われそうです」



眉間にしわを寄せて
真壁さんのマネをする
中岡さんがおかしくて、
笑い転げてしまった私は、
次に始まった
二人の会話に対する心の準備が
全然できていなかった。




「でも、樫原さんこそ引く手あまたでしょう?
仕事はできるしスマートだし、私が女だったら
惚れそうですけど」


「・・・気持ち悪いこと言うな。残念ながらこんな
おじさんがいいって言う奇特な女性はなかなかいないよ」


「そんなこと言って、きっと樫原さんのことだから
果てしなく理想が高いんでしょう?どんな人ならいいんです?」




笑いすぎて滲んだ涙を拭いていた私は、一気に凍りついた。




樫原さんの好み・・・。




正直に言って、とっさに
(聞きたくない)と思ってしまった。
誰よりも私自身が、
樫原さんに似合うのは綺麗で、
頭が良くて、
落ち着いた大人の女性だと、
思っているから。



耳をふさぎたいような、
聞きたいような、
混乱した気持ちのまま
目を向けると、樫原さんは
キューを構えた目線はそのままで
口元だけをにやりと微笑ませた。





「*****お嬢様かな」


「―――――えっ?」



私は思わず間の抜けた声をあげて、
そのまま真っ白になった。



一瞬何を言われたのかわからなくて、
からかわれたんだってわかってからも
どう反応したらいいかわからなくて、
樫原さんが玉を撞くのを見つめたまま
馬鹿みたいに突っ立っていた。



玉はすべるように台を転がったけれど
ポケットには入らなかった。



樫原さんは息をついて
台から体を起こすと
固まっている私を見て
いつものようににっこりと笑った。



(あ・・・)




私の苦手な笑顔だ。


樫原さんが、
ほんとの樫原さんじゃないときの。



「****お嬢様のような方が理想だと思います」




私は、なんだか腹が立ってきた。


どうして、そんな笑顔で。
そんな見え透いたお世辞で。
喜ぶとでも思ってるの?
本気じゃないってわからないほど
子供じゃないのに。




「・・・冗談はやめてください」




私の声色に、樫原さんだけじゃなく
中岡さんも驚いたような顔になる。



しまった、と思ったときには
もう遅かった。
一気に気まずい空気が流れる。



ううん、子供なんだ。
こんなことで取り乱す私は、
誰が見たって小さな子供だ。


「あ、やだ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって」



あわてて取り繕うように
笑って手を振る。
心臓が、ズキズキと
痛いくらいに鳴っている。


「いえ、私もびっくりしましたよ。
樫原さん、告白するのは二人っきりのときにしてくださいね」


中岡さんがいたずらっぽく笑って
キューを構えつつ、
話題をビリヤードに切り替えてくれて、
そのフォローでようやく
息苦しいような空気が薄らいだ。



すごくほっとしたのに、
なぜか私の胸の中はどんどん
息苦しくなっていく。


こんな会話も、
最初から最後まで
いつもの笑顔だった樫原さん。





それがとても、苦しかった。










伝えてしまおう、と
覚悟が決まるまで、
その出来事から
少し時間がかかった。



最終的に覚悟が決まった理由は
もうすぐ樫原さんのお誕生日だから。
でも決めてしまったら、
なんだかすっきりしたような気もした。


プレゼントと一緒に気持ちを伝えて、
それで終わりにしよう。


なんのために、って、
自分に区切りをつけたいだけで、
樫原さんにとっては
せっかくのお誕生日に
迷惑なだけかもしれないけれど。


でも皮肉なことに、
樫原さんならいつもの笑顔のまま
終わらせてくれるはず、っていう
妙な安心感があった。



苦手な笑顔に
助けられるときが来るなんて。


なんだか笑いたいような、
泣きたいような気分だけれど、
行き場のない想いが
行きつく先が
あの笑顔だというのなら、
今までの苦手な気持ちが
妙に納得いくような気もした。












明日、少しだけお時間をいただけませんか?


と聞いたとき、
しばらく答えが返ってこなかったので
不安になって見上げると
樫原さんは黙ったまま
私をじっと見ていた。



どうして、とか、
何の御用ですか、とか
聞かれたらどうしよう。


そこで初めて
何も考えていなかったことに
気がついて、更に
じっと見つめられている恥ずかしさで
かあっと顔に血が上るのがわかった。



わずかに残った思考能力で
必死に言い訳を探しているとき、
頭の上から樫原さんの声が降ってきた。




「夜でしたら時間がとれますので、
お話なら庭のあずまやでいかがですか?」



見上げた樫原さんの表情は、
やさしいけれど笑顔じゃなかった。


理由を聞かれなかったことに
ほっとしていた私は
それを気にする余裕もなく、
提示された場所と時間に
うなずくだけで精一杯だった。












樫原さんへのプレゼントは、
色々考えた結果、
あまりプレゼントに
ふさわしくないものになった。



ガラス細工の小さな灰皿。



きっとタバコを吸う
男の人へのプレゼントなら
本当は眺めても嬉しいような
きれいなライターとか、
タバコ入れとかになるんだと思う。


灰皿なんて実用的すぎて、
お父さんにあげるものみたい。
自分でも少し笑ってしまう。


でも灰皿なら
常に持ち歩くこともないし、
人に見られることもない。
たとえ使わなくたって、
捨ててしまったって、
私にはわからない。


樫原さんを困らせたくない、
というのはきっとタテマエで。

私は、樫原さんが
私に気を遣うのを見たくないんだ。



いつもの笑顔で心を覆って
優しい嘘をつかれるのが
何よりも嫌だった。


でも私が
この九条院家のお嬢様である限り、
樫原さんは笑顔を見せるだろうから。
だったら、その必要が
なるべくないモノがいい。



そうして選んだ、
精一杯のプレゼント。
それくらいの気遣いは
できるんだって、精一杯の背伸び。



告白するときくらい、
私のことを対等に見てほしい。
子供としてじゃなく、
一人の女性として答えてほしい。



それだけが、私の願いだった。











次の日の夜、
約束の時間より少し前。
私はあずまやに座って
樫原さんを待っていた。



10月もおわりになると
夜はかなり寒い。
コートを着て
暖かくしていたけれど、
しばらく座っていると
徐々に体が冷えてくる。


自分の体が少し震えているのが
寒さなのか緊張なのか、
良くわからなかった。



そういえば、
どうしてこんな寒い季節に、
夜あずまやで、なんて
言ったんだろう。
なんでもカンペキな樫原さんだから、
何か考えがあるのかな。




そのとき、屋敷の方から
物音がして、振り向くと
樫原さんがワゴンを押しながら
やってくるところだった。



「お待たせしてしまって申し訳ございません。
冷えてしまわれたでしょう」



ワゴンの上にはティーセットと
魔法瓶が置かれていた。
樫原さんがティーカップに
入っていたお湯を別の器に移して、
魔法瓶から紅茶を注いだ。


ふわっと白い湯気が広がる。



「ウバです。ミルクとの相性が良いので、よろしければ」

「うん、じゃあお願いします」



そう言ってから、
私ははっと気づいた。


今日は樫原さんのお誕生日なのに。
こんな時間まで
お仕事をさせてしまっている。

お仕事させるつもりじゃなかったけど・・・
でもやっぱり、そうなっちゃうよね。


うつむいた私の目の前に、
ふいにオレンジの
鮮やかな色が飛び込んできた。



「あ・・・ジャック・オー・ランタン!」


ハロウィンの、
かぼちゃをくりぬいて作るランタン。


学校でも10月に入ってから
たくさん飾られてとても賑やかだ。
それが私の前にひとつ、
でん、と置かれていた。
暖かく火が灯っている。


「うわあ、かわいい・・・」

「そう言っていただけると、作った甲斐がございます」

「・・・樫原さんが!?」


びっくりした。


いくらスーパー執事さんだからって、
そんな工作みたいなことまで。


「すごい。本当に樫原さんて何でもできるのね・・・」

「とんでもございません」


樫原さんはやわらかく
微笑んで言った。


「私にだって、できないことはたくさんございます」


私はミルクティーを一口飲む。


甘さと苦さと熱さが
とても心地いい。
寒さでこわばった体が
ほぐれるように温かくなる。


「だって、こんなにおいしい紅茶も飲んだことないし」


カップを少し持ち上げて、
微笑み返す。
なんだかすごく幸せな時間だ、と思った。



樫原さんが作ってくれた
ジャック・オー・ランタンと紅茶。
樫原さんと二人だけの、
あったかくて静かな時間。
今ならすごく自然に、
穏やかな気持ちで、
伝えられそうな気がした。



「いつか、私がタバコを吸っているところを
ご覧になったでしょう?」

「え?」



ふいに問いかけられて
顔をあげると、樫原さんは
妙にマジメな顔をしていた。


「私が休憩しているところに、お嬢様が
ビリヤードの練習にいらしたときです」
「あ・・・はい」



そういえば、あのときに
樫原さんのこと
すごく意識しちゃったんだよな・・・。
思い出して顔が熱くなる。


「あのとき申し上げましたでしょう?
どうしてもタバコがやめられない、と」


少し翳った笑みを
浮かべていた樫原さんを思い出す。
あの瞬間。
“いつもの笑顔”じゃない笑顔を見て、
急に樫原さんが近くなった気がした。


「あれが、私の数ある“できないこと”のひとつでした」


あのときの話をしているからか、
樫原さんの感じが
少しだけ執事さんじゃない・・・気がする。


「でもね」


急にいたずらっぽく目を輝かせて、
樫原さんは一歩、私との距離を縮めた。


「それが、できるようになったんです」
「え・・・」



できるようになった。

ということは。

もしかして。


「タバコ・・・やめたんですか?」

「ええ」

「・・・・・」



にこやかな樫原さんとは逆に、
私は目の前が真っ暗になった。


今までできなかった禁煙を
やっと成功させた人に、
よりによって灰皿をプレゼントするなんて・・・。


なんてタイミングが悪いんだろう。
あまりのショックで涙が出そうだった。


さっきまでの勢いが
胸の中ではじけて跡形もなく
消えてしまっているのを感じながら、
私はただ樫原さんの
次の言葉を待っていた。



「大学時代からもう10年以上、これだけはどうしても
ないとダメだったのが、不思議にすっぱりとやめられたんです。
―――どうしてだと思われますか?」

「・・・・・・え?」



まだショックから
抜け切れていなかったのと、
まさか質問されると
思っていなかったのとで、
私の反応はだいぶ遅れた。


樫原さんは気を悪くした様子もなく、
じっと私を見ている。


「え、ええと・・・」



やめられた理由、やめられた理由・・・。



考えながら下を向くと、
足元にこっそりと置いた
プレゼントが目に入って
余計に頭が回らなくなる。


ああもう、どうしてこうなっちゃうんだろう。



「お、お医者さまに相談したとか・・・」


苦し紛れにしぼり出した答えに、
樫原さんがにっこり笑う。


「ハズレです」

「あ、そ、そうですか・・・」


なんだか何もかもがハズレている。
私はがっくりとうなだれた。


もうダメだ。
告白もなしにしよう。


それについてハズレなのは
もともと覚悟しているけれど、
どう考えてもタイミングが悪すぎる。
涙までにじんできた。


「****お嬢様?」


うなだれたままの私を
伺うように樫原さんがまた一歩、近づく。
そしてふと、動きを止めた。


「・・・その袋は?」

「あっ・・・!」


樫原さんが私の足元が
見える位置まで来ていることに
気づかなかった私は、
焦って袋を隠すように姿勢を変える。


「え、えーと、これは・・・」


どうしようどうしようどうしよう。



頭の中で言い訳が
次々現れては消えていく。



ハロウィンのお菓子を
義兄さんからもらった?
―――そんなの樫原さんが知らないわけない。
学校の友達に本を借りた?
―――樫原さんなら友達を調べて御礼を用意しちゃう。
隆也くんに庭の飾りをもらった?
―――どの飾りつけが良かったのか、後で隆也くんが聞かれて
来年に活かされるに決まってる。



このお屋敷で樫原さんに
言い訳なんて、不可能だ。
今更ながら、そしてこんな時に、
あらためて樫原さんは
すごいとしみじみ思う。
あの真壁さんだって
従っているくらいだもの・・・。
カンペキじゃないはずがない。



(・・・あ)


ひとつだけ、思いついた。
お嬢様だからできる反則技だけど。
この際かまっていられない。


私は思い切って顔を上げ、
にっこりと笑顔を作って、
きっぱりと言い切った。




「ナイショ」



樫原さんは少しだけ
目を見開いて私を見ていたけれど、
それ以上何も言わないとわかると、
ふっとため息をついて
目をそらした。


「そうですか・・・」


ああよかった、切り抜けた。


そう思って
全身の力を抜いた瞬間。



「今年こそは慎一郎様以外からも誕生日を祝っていただける
のかと期待していたのですが」


・・・・・・え?


ほっとしてジャック・オー・ランタンと
向かい合っていた
自分の目が点になるのがわかる。


「今日この日にお嬢様にお呼びいただけたのを
勝手に勘違いしていた私が自惚れていたのですね」

「ち・・・ちがっ・・・」



慌てて思わず顔を上げると、
樫原さんとまっすぐに目が合った。
沈んだ声色から
落胆しているかと思えば、
満面の笑み。


目だけがとてもいじわるそうに
輝いている。


「・・・っ!」



はめられた。


と思った瞬間、
みるみる顔が熱くなっていく。
それを見ている樫原さんの目が、
ふっと和らいだ。



「・・・いただいても、よろしいですか?」


ずるい。
こんな風に言われたら、断れない。



やっぱり、樫原さんは
何でもお見通し。
きっと昨日声をかけたときから
全部わかってたんだ。


悔しいような、恥ずかしいような、
かえって安心してしまったような、
複雑な気持ちで
傍らの樫原さんと、
その後ろに見える夜空を見上げる。



私は今どんな顔をしてるんだろう。
きっと情けない顔に違いない、と思った。
私を見る樫原さんの顔は、すごく優しい。



夜風が吹いて、
落ち葉の舞う乾いた音があたりを包む。



「・・・あげられないの」



足元にある
小さな紙袋を取り上げながら、
ぽつんと、言葉が落ちた。


「なぜですか?」
「樫原さんが、“できないこと”を克服できたから」



少し首をかしげた
樫原さんを見て、私はふふっと笑った。


「これ、灰皿なの。ほんと、タイミング最悪でしょ」

「え・・・」

「私ね」


まっすぐに樫原さんの
薄茶色の瞳を見つめる。
不思議と気持ちは静かになっていた。



「樫原さんが気を遣わなくてもいいものを、一生懸命考えたの。
“お嬢様”からもらっても負担にならないものを、って。
・・・それなのに、結局一番邪魔になるものを選んじゃった」


ダメだなぁ、と笑う。
樫原さんには何も隠せない。だけど。
今の私はできるだけ
大丈夫に見えてるといい。
心の中でそう祈った。


「えっと、それでね」

「お嬢様」


本題に入ろうとしたところで
急にさえぎられて、
私は声を失った。


「そちらのランタンを、開けていただけますか?」
「え・・・?」

樫原さんの手が、
私の目の前で灯る
ジャック・オー・ランタンを指している。


開ける・・・?



よくよく見ると、
カボチャの顔の額部分に
切れ目があるのがわかった。
なんだろう・・・。
てっぺんの蔦を持って
ゆっくりと持ち上げる。


ふいに近くに気配を感じて振り向くと
髪が触れるほど近くに
樫原さんの顔があった。



「・・・!!」



思わずびくっとして
座ったまま後ずさる。
樫原さんはランタンの上に
かがみこんでいた。

後ずさった私の姿を見て、
ちらりと微笑む。


ランタンの光に照らされた
その表情に、
私は思わず見惚れてしまった。


「失礼いたしました。火を消したかったものですから」
「え?消しちゃうの?」


ふっ、と中のろうそくに息を吹きかけて、
樫原さんの顔が暗がりに沈む。


庭の灯りはあるけれど、
今までのあたたかな
オレンジの光がなくなって、
私たちの周りだけ
急に暗さを増したように感じる。


樫原さんはそのままひざをついて、
テーブルからランタンをとりあげると
私の前に差し出した。



座っている私とちょうど
目線の高さが同じになって、
樫原さんの瞳が
今までに見たことのない距離で
月明かりを映してかすかに光っている。



「中を、ご覧くださいますか」



樫原さんの声に、はっと我に返る。


真正面から
見つめてしまっていたことに
気がついて、
恥ずかしさで体中が熱くなる。


「ご、ごめんなさい」


真っ赤な顔を見られたくなくて、
あわてて樫原さんの
手の中にあるカボチャの頭を
上から覗き込む。



丸くくりぬかれた空洞の中に、
ガラスの容器に入った
オレンジのキャンドルと・・・



「・・・なんですか、これ」




あまりにそこにそぐわない物を見て
あっけにとられた私の反応に
樫原さんはくすくすと笑いながら
“それ”をつまみだした。


「タバコの吸いがらです」

「わかります・・・けど、どうしてそれがこの中に?」

「私にとっての大事な記念品だからです」

「記念品?」



ランタンをテーブルに戻して
胸ポケットからライターを取り出し
キャンドルにもう一度火をつける。


オレンジの香りがふんわりと広がった。


そうして樫原さんは
もう一度私の方に向き直ると、
つまんだ吸いがらを
そっともう片方の手のひらにのせた。


「いつか、遊戯室でお嬢様に吸っているところを見られましたね」

「え・・・」

「これは、あのときの吸いがらです」



私に気づいた樫原さんが
灰皿に押し付けたタバコ。


細い煙が一筋たちのぼって、
消えていくのをきれいだと、思った。

そして、あんな風に
私の想いも消してほしいとも思った。


その消された残りが、
こんなところに現れるなんて。

なんだか皮肉な思いにとらわれて、ぎゅっと胸が苦しくなる。




「あのとき、あなたはこの匂いを気にされて、
遊戯室を出て行かれてしまった。
それで私は、タバコをやめようと思ったんです」



それは、予想もしない言葉だった。

私が・・・“お嬢様”が
タバコの匂いを気にしたから?
そもそも出て行ったのは
それが原因じゃないけれど。
でも、私のせいで、
ずっとやめたくてもやめられないくらい
好きだったタバコをやめたってこと・・・?



確かにあの流れでは
そう誤解されても
仕方なかったかもしれない。
あのときの会話と行動とを
思い出して私は
ものすごく悪いことをしてしまったんだと
はじめて気づいた。



「・・・ごめんなさい!」



思わず立ち上がって、頭を下げる。


自分のせいで気を遣わせて、
自分のせいでプレゼントも台無しにした。


何もかもがうまくまわらない私。
やっぱり私には、
大人の女性なんて無理だった。
悲しくて、情けなくて、
涙が溢れそうになるのを必死でこらえる。



「私・・・私、あのときタバコの匂いが嫌で
出て行ったんじゃなかったの。
でもそう思われても仕方ないことをして・・・
樫原さんの好きなものをやめさせてしまってほんとに・・・」


堰きこむように言い募る
私の両肩がふいにつかまれた。
驚いて、きつく閉じていた目を開くと、
ひざまづいたままの姿勢で
樫原さんが私を見上げていた。



息のかかりそうな距離で
見つめられて、言葉を失う。
急に樫原さんの体温を感じて、
心拍数が上がる。



「あ、あの・・・」

「私は“記念品”と申し上げたのですよ。
これは私にとってとても大切で、幸せなものなのです」

「でも・・・」

「もしかして、“お嬢様”のお気に召さないから、
執事としてやめた・・・とか、お思いになっていますか?」

「・・・え?」


言われている意味がわからず、
私は目を瞬いた。
今まで・・・
そういう話じゃなかったんだろうか。


「それは、違います」


両肩にかかる手に、
心なしか力がこもったように感じる。

ランタンの光を映した
強い瞳にとらえられて
身動きがとれない。
そしてゆっくりと、
囁くように、告げられた言葉。






「私が執事でないときも、あなたにそばにいてもらいたくて、
やめたんです」



・・・・・・今、なんて。


また、こないだみたいに
からかってるの・・・?


私を見つめる樫原さんの表情が
少しはりつめて、
ランタンの光よりも
うっすら朱が差しているように見える。


まさかね・・・樫原さんだもの。



心拍数が上がりすぎて
霞がかかったような頭のせいか、
考えたことが無意識に
声になってこぼれおちた。



「顔・・・赤い・・・?」



そのとたん、樫原さんは
ぱっと片方の手で顔を覆った。
今度こそはっきりとわかるくらいに、赤い。



「・・・ひとまわりも歳の離れた若い女性に告白するのは
ものすごく勇気がいるんです」


少し顔をそむけて怒ったような顔で
ぼそっとつぶやく樫原さんは
いつもの冷静沈着さのカケラもなくて。



私は、それどころじゃないのに
思わずあっけにとられ、
それからくすっと笑ってしまった。


樫原さんの
そんな表情が見られたことが、
すごくすごくすごく、
嬉しくて、くすぐったくて。



「私の気持ち、わかってるのに」

「わかってませんよ」


即座に言い返されて、
私は固まった。



え?だって、さっきのプレゼントだって・・・え?



樫原さんは自分の顔を
覆っていた手を
私の方に伸ばして、
そっと頬に触れた。



「私がわかったのは、あなたが私の誕生日を
祝ってくださろうとしていることだけです。
それ以上は・・・期待しなかったと言えば、嘘になりますが」



そう言って、苦笑いのような
表情を浮かべる。



「中岡とのビリヤードに大人気なく割り込んだり、
慣れない冗談であなたの反応を探ったり・・・
正直言って、自分がこんなに余裕のない人間だとは
思いませんでした」



樫原さんの言葉が、
少しずつ少しずつ
心に沁みこんで甘く広がっていく。
頬にあたたかくて
大きな手のひらを感じる。



夢じゃ・・・ないのかな。
こんな幸せな感覚、夢でも嬉しい。



「****」


ふいに低い声で
名前を呼ばれて、息が止まる。
樫原さんの声で
初めて聞く、私の名前。



「君の気持ちだけは僕にもわからない。だから・・・教えて」




見つめられる瞳も、
触れている手も、
溶けてしまいそうに熱くて。
その熱にうかされるように、
樫原さんの手に、自分の手を重ねた。




「樫原さんのことが・・・好き、です・・・」



次の瞬間、強く腕を引かれて、
私はひざまづく
樫原さんの胸の中に
崩れるように抱きしめられた。



「****・・・」



耳元で名前を囁かれるだけで、
涙が溢れそうになる。
樫原さんの胸の中は、
大きくて、あたたかくて、
いい香りがした。


「フレグランス・・・?」



私の言葉に、
樫原さんの体が
びくんと反応する。
驚いて顔を上げると、
ものすごくマジメな顔と向かい合った。



「もしかして・・・この匂いも、嫌い?」



数秒後、吹き出してしまった私を見て
樫原さんはまた赤くなったけれど、
次の瞬間には気を取り直して、
笑う私を強引におとなしくさせた。


・・・はじめての、キスで。












結局、プレゼントの灰皿は、
記念の吸いがらを
入れるという役割をしっかり果たした。


それを樫原さんの部屋に飾った時、
ふと思い出したように私に尋ねた。


「そういえば、どうしてあのとき遊戯室から出て行ったんだ?」

「え?ええと・・・その・・・な、なんでだったかな」



樫原さんがかっこよくて
意識しちゃって、なんて
あらためて説明するのが
ものすごく恥ずかしい。
必死でごまかそうとしている
私を見る目が鋭く細められる。



(こ、こわいんだけど・・・)



恋人同士になって、
あらためてわかったこと。


プライベートでも、
樫原さんに嘘やごまかしは
絶対通用しない。

私は観念してぼそぼそとつぶやいた。


「・・・なんだか、意識しちゃって・・・」

「そんな小さな声じゃ聞こえないよ」



俯いた私の顔を
横から覗き込むようにして、
わざと聞きなおしてくる声は、
低くて甘くて
ますますドキドキが止まらなくなる。


「・・・っもう!聞こえてる!」

「聞こえてないよ。あのあとずっと気になって僕のことを
こっそり見てた―――とか、まだ言ってくれてないし」

「――――――――!!!」



樫原さんなら
何を知っててもおかしくないって
わかってはいた。
いたけれど。



あまりの恥ずかしさに、
もう声にもならなくて、
顔から火が出るんじゃないかと
思うほど真っ赤になった私は、
そのまま部屋から
逃げ出そうと試みて、
後ろから樫原さんの腕の中につかまえられた。


「ぜ、ぜんぶお見通しのくせに、ずるいよ!」

「お見通しじゃないよ。今のは“カマをかける”っていうんだ」

「・・・・・っ」



悔しい。
悔しい悔しい。
私ばっかり樫原さんの
言葉のひとつひとつに翻弄されて、
まるでジェットコースターに
乗っているみたいに目が回りそう。



「****は本当に可愛いな」


後ろから抱きしめられたまま、
唇が触れるほど近くで
吐息まじりに囁かれると、
立っていられなくなりそうなほど
くらくらする。


こんな雰囲気を
どうしたらいいのかわからなくて
いっぱいいっぱいな私に
追い討ちをかけるように、
樫原さんは更に腕に力を込める。


「・・・我慢できなくなりそうだよ」


耳に直接熱い唇を感じて、
体がびくんと反応する。


「か、樫原さん・・・っ」

「名前で呼んで」

「・・・・・・っ」

「名前で呼んだらやめてあげる」


もうほとんど
足に力の入らない私の体を
強く抱きしめて支えながら、
ゆっくりと甘く噛むように
耳朶に口付けを這わせる。


「ゆ・・・ゆ、と・・・」

「もう一度・・・」

「んっ・・・侑、人・・・さんっ・・・」


耳元でふっと笑う気配がして
唇が離れる。
恥ずかしいくらいに
息があがっている私の体を
自分の方に向けさせて、
長い指で顎をすくうように上向かせ、
優しく唇を重ねてから、ゆったりと微笑む。



「よくできました」


少し潤んで揺れる
薄茶色の瞳が
すごく艶めいていて
私はただもううっとりと
見惚れるしかできなかった。



私ばっかりドキドキさせられて
ずるいとか悔しいとか、
そんなものも全部一瞬で
吹き飛ばされてしまう。
何もかもどうでもよくなって、
ただ樫原さんの腕の中で
愛されていたいと思ってしまう。


いつか、私ももっと大人になって、
樫原さんをドキドキさせてみたいけれど。
そんなささやかな野望も、
叶うのは当分先かな・・・。



そうして私は今日も、幸せなため息をつく。














= 終幕~樫原の見る景色 =



カツン、と小気味いい音とともに、
狙った玉がポケットに吸い込まれる。


「あーあ、絶好調ですね、樫原さん」



そう言って中岡が天井を仰いだ。
実際、ここのところ
負けなしが続いている。
軽く笑って次のショットに狙いをつけた時。


「まっすぐエプロンに向かって打っちゃう、
なんていうのはあの一回だけでしたねー。残念」


がつん、と鈍い音をたてて
キューがテーブルにぶつかる。
私の動揺を見透かしたように、
今度は中岡がにっこりと微笑んだ。


「せっかく私が水を向けたのに、樫原さんらしくもなく
お嬢様を怒らせてしまって、どうなることかと思いましたが」

「・・・・・・」

「まあでも、結果良ければすべて良し、ですね」



変な汗が出てくるのを感じながら、
平然とキューを構える中岡を睨む。


「・・・・・・なんでわかった」

「え、わかりますよそれは。お嬢様とビリヤードしてるときに
樫原さんが私に向ける笑顔、仕事でミスしたときの3倍くらい
怖かったですし」

「・・・・・・・・・・・3倍ってなんだ」


不覚にも顔が熱くなってくる。
感情を表に出さないことにかけては
誰にもひけはとらないつもりだったのに。



あの誕生日の前日、慎一郎様に



「今年のプレゼントは“好きな子を口説く時間”をあげるよ。
あずまやなら誰にも邪魔されないようにしておくから」


と、ものすごく悔しそうな顔で、
唐突に言われたときと
同じくらい恥ずかしい。


慎一郎様の場合は
夏実様の入れ知恵の可能性が大だが、
まさか中岡にまでバレているとは・・・。


執事長としての威厳を守り、
家令としての職務を
隙なく遂行するためにも、
常にいつもの笑顔を崩さず
心の中を読ませないようにしなくては。





決意もあらたに自分の部屋に戻ると
ほどなくして習い事を終えた
****がやってきた。



「おかえり」



ドアを開けて出迎えると、
****はその場に立ったまま
複雑な顔をして私の顔を見ている。


「どうした?」

「・・・・・・」


****は唇をかんで、少し俯いた。
拗ねたような表情に
さらさらと長い髪がかかる。
その可愛さに思わず手をのばして
髪を梳きやりながら頬に触れる。


すると急に
思い切ったように顔をあげて
私をまっすぐに見つめた。
柔らかい肌の感触を
味わうのに夢中で
会話の続きを忘れかけていた私は
内心その視線に焦りながら
あらためて聞き直した。


「何かあった?」

「・・・いつもの笑顔」

「え?」

「樫原さん、いつもの笑顔だ」

「いつもの、って・・・」


****が何を気にしているのか、
全くわからない。

会話の糸口が見つけられずに
言葉に詰まる。
次の言葉を乞うように
ひたすら見つめることしか
できない自分がもどかしい。


少しためらうように目を伏せて
****が小さくつぶやく。



「その顔で笑ってるときは、本当は笑ってないの」

「・・・!」


驚いた。


さっきのことで
決意を新たにしていたせいか
****に対しても
とっさに繕ってしまっていたらしい。




・・・それにしても。



いつから****は
私の笑顔を見分けていたのだろう。
中岡や真壁も、
私が笑顔の下で笑っているのか
怒っているのかくらいは
見分けられるだろう。



けれど、
“本当に笑っているかどうか”
まではわからないはずだ。




****は知らない。



本当の笑顔を
知っているからこそ、
“いつもの笑顔”を
見分けられていること。


冗談に紛らせて
****が理想だと伝えたときに
完全に見当違いの方向に
ショットをしたこと。


毎日ふとした瞬間に心を奪われて
返す言葉に詰まること。

****にとって当たり前の私の姿は、
****にしか見せていないということ。



(ひとまわりも年が上のくせに、
それを気づかせないのが精一杯なあたりが
逆に情けないといえば情けないが・・・)



「実はね、私・・・その笑顔がずっと、苦手だったの」



さっきまでの決意が
既に端からボロボロと
崩れていくのを感じながら
私はドアを閉めて
****を腕の中に誘い込み、
会えない間ずっと焦がれていた
柔らかい体を抱きしめる。



まだ少し緊張気味に
私を見上げてくる愛らしい顔を見て、
自然とこぼれてくる笑顔を止められず、
今日は彼女が苦手だという
笑顔との違いについて
じっくりと教えてあげよう、と心に決めた。



しかし・・・。



(理解するまでお互いマトモに会話ができる状態でいられるかな)




そうして私は今日も、幸せなため息をつく。












了。















◆ つぐみの感想◆

sana様の『Smile in….』でした。
樫原侑人誕生日企画の
作品参加予定だったのを
ちょっと遅れましたが
ご紹介できて
なによりです。
いかがだったでしょうか?


タイトルの『Smile in…』は
煙草を燻らせる中で微笑む
樫原さんのイメージとのことを
sana様から伺いました。


あたしはこれを読んで
正直(本当にすごいな)と
びっくりしました。
前回戴いた幕末LOVERSの
土方のお話「恋歌」も
1つのシナリオとして
充分に読むに値するだけ
きちんとした構成に
しっかりとした文章表現で
感心していたのですが
今回、執恋でこのお話を戴き、
あらためて感動しました。


しっかり1つの世界があって
人物がよく描かれていて
お話として読めるところが
あたしはとても好きです。
酸いも甘いも苦いも
色んな味があって・・・
深みを感じることができると想います。


樫原さんの「いつも」の笑顔。
これが「いつも」だとわかるのは
「本当」の笑顔を知っているから。
取り繕っている表面と
そこに隠された内面の2つが
この樫原さんの魅力と
言いましょうか。


最初の方でヒロインが
この樫原さんの
「いつも」の笑顔が
苦手だって言っているけど
でもそれを知らない
他の女の子に対して感じる優越感。


苦手なのは
嫌いだから苦手なんじゃなくて
意識してしまうから「苦手」。


好きな人って
本当にその人の表面じゃなくて
中身に惹かれていくと
なぜか恥ずかしくなって
躊躇したり
自己卑下ではないけれども
つりあわないのではないかとか
どぎまぎさせるから苦手だとか。

好きだから幸せ、という
一直線とはまた違った感情も
沢山くれると想います。

好きだという気持ちを
そのまま見せてしまうには
あまりにも好きすぎて
だから怖くなる、
だから躊躇ってしまう、
だから苦手だと感じてしまう。

気づいて欲しいけれど
気づかれたくなくて。
なんでもないように取り繕うけど
でもそれもうまくいかない。
気持ちを伝えたいのに
気持ちを伝えるのは怖い。
でもこの状態を何とかしたい。


そういう矛盾や葛藤が
すごくこのお話の中で見られて
そこで共感したあたしでした。

リアルな恋って
どこか不器用で
どこかかっこ悪くて
どこか気恥ずかしくて。

でも相手のそういうところが
たまらなく可愛く想えて。。。。




『好きならば
素直に好きといえばいい。
好きだという気持ちを隠さずに
ただ一直線にその人だけを
見つめているというのを
伝えればいい。』


そういうシンプルな恋愛を
お話の中で書いている
あたしですが、実際は
きっとそんなに
シンプルな感情だけで
人間は生きてるんじゃなくて
もっと色んなことを感じて
大事にしたい気持ちと
それに拮抗するような気持ちも
同時に抱えてると想います。


好きだから嫌い。
心惹かれるから苦手。


相対的なところにあるものも
全てひっくるめて。
色んな感情があってもいいし
恋愛においても
色んな味を含んでいる方が
きっときっと
とても美味しい恋愛だと想います。


大人の余裕で甘やかして
ドキドキさせてくれる
樫原さんにうっとりするヒロイン。
恥ずかしかったり
悔しかったりするけど
でもそれがたまらなく
居心地良かったり。


樫原さんのほうも
ヒロインの恋で年甲斐もなく
中岡さんとのビリヤードに
割り込んでみたり
駆け引きをしたり(そして失敗)
自分では悟られてないつもりが
慎一郎(&夏実さん)にも
中岡さんにもばれていたり。

大人の余裕を取り繕ってるのを
隠すのが必死だというのも。
きっときっと好きだから。


ヒロインしかわからない
樫原さんがいて、
でもそれを知ってるのは
自分だけっていうのを
ヒロインは気づいてない。
それはとてもすごいことだけど
でもそれを知らないからこそ
このヒロインをとても
愛しく想うのだろうな。


♪♪

I feel wonderful because
I see the love light in your eyes.
And the wonder of it all
Is that you just don't realize
how much I love you.

♪♪

クラプトンの80’名曲、
『Wonderful Tonight』より。

ホントにすばらしい。
だって君の瞳に
愛の光が見えるから。
なのに、ホントに不思議だよ。
だって、僕がどれだけ
君のことを愛してるか
君は全然わかってないんだから。



思わず読みながら
この歌を口ずさんでいました。
両想いになったところの
樫原さんの気持ちかしら。

読んだあとの余韻が素敵です。
幸せな溜息。
そんな溜息が出るほどの
素敵な恋をしたいな。
そういう気持ちに
させてくれるお話でした。


sana様、とても素敵なお話を
ありがとうございました。
読ませてくださって
とても幸せです♪

19.December.2009 つぐみ
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