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桜舞い散る春の夜  12/01/2005  



******* 桜舞い散る春の夜に ********














あの時、俺に囁いた彼女の声は、
本当に彼女の声だったんだろうか。




あの時、俺が出逢った彼女は
本当に彼女だったんだろうか。








屋敷の庭園での夜のお花見。



夢のような出来事。




一年前の春の夜。






俺は、何度も何度も想い出す。










・・・・・・・・・・・・・・・






その夜は、庭園のはずれにある枝垂桜を
ライトアップして、夜の花見をした。


旦那様や奥様、お嬢様や
屋敷に滞在する客人が中心になり、
華やかな宴をしている最中。


執事である俺は、その準備と、
食べ物や飲み物などの給仕で、側に仕えていた。
宴の様子を観察しながら、足りないものを補充していく。
旦那様や奥様、そしてお嬢様に客人。
全てに気を配りながらも・・・・。



俺の意識は、常に、****お嬢様のほうへ向いていた。



先日、旦那様と結婚なされた奥様の実の妹。



特に美しいわけではないはずだが、
どうしても、俺の目を惹いてしまう。
ひきつけられる魅力がある。
気がつくと、彼女を見つめている自分がいる。


彼女の隣には、彼女専属の執事、中岡がいる。
屋敷にきたばかりの彼女をサポートするため
樫原さんが中岡を指名した。

俺ではなく。


最初、その決定に関して、俺は何も想っていなかった。
ただ、「執事」としての職務を全うする。
それが俺の生きがいだったから。

それが、日々過ごす中・・・・。


彼女が屋敷にいるだけで、
花が咲いたようなそんな明るい雰囲気が
かもし出されるようになった。
専属でついている中岡のお陰か、
彼女もだいぶお嬢様らしくなった。


そんな彼女と俺が関わることは、まず、ない。
なぜなら、彼女の用は全て中岡がしてしまうから。



俺は彼女に近づけなかった。



いいや、近づけたとしても、
屋敷のお嬢様である彼女に、
俺はどんな関係を望むだろうか。

主人と僕、そこからはみ出すことは
俺の執事としてのあるまじき姿から遠かった。


今も、お嬢様の隣で中岡が世話を焼いている。
飲み物や食べ物、そして話し相手になりながら。
その仲が良い様子を、横目で見ながら、
俺は自分の心が少しだけ痛むのを感じる。

しかし、この痛みは、
見て見ぬフリができるものだ。



執事としての仮面を被っているのなら、
俺はどんな気持ちでも隠せる。






そう想っていた。
















「あ・・・・・・」



声がした先を見ると
1本の線がひらひらと流れていく。


ふと、いきなりの春の風で吹かれて、
****お嬢様の髪の毛を結んでいた
リボンが風で流された。
先に立とうとする中岡を制して
それを追いかけた俺。






朱鷺色のリボンだった。















突風のような風に乗って飛んでいく。











だいぶ行ったところで追いついた。


桜吹雪の花びらに巻かれて
朱鷺色のリボンが舞う姿を
綺麗だとは思いつつ、手を伸ばした。


宴のところへ戻ろう。
そう想ってた矢先。





後ろから誰かが歩いてくる気配があって
振り向けば、彼女だった。


夜の闇にまぎれて、
月の光りで照らされるは
髪の毛を風のままに流し、1人。
こちらへ歩いてくる、****お嬢様。
光の加減で、表情が見えない。


俺が・・・・心の奥底で切望している女性。
その姿に、胸が不自然に高鳴る。






髪の毛がはらはらと風で吹かれる中、
桜吹雪も同じようにはらはらと散る。






その美しさに、俺は息を呑んだ。




こうやって・・・・
誰もいないところで、2人きりなど。
やめてくれ。
俺が俺でなくなってしまう。









「・・・リボンをお持ちいたしました。どうぞ」




動揺する声を悟られないように、
顔を伏せて、会釈をする。
風の中、拾った赤いリボンを彼女に差し出す。






すると、その手を・・・



一瞬だけ彼女がなぞった。
リボンではなく、俺の手を。





え?








いきなりのことで
一瞬びくっとした俺の手を
今度は柔らかく触る。




そして、急に手を引っ込めた。



リボンを持ったまま、
俺の手は差し出されたままだ。
手が震えそうになるのを必死で押しとどめた。






彼女から漂う、いつもとは違う雰囲気。
誘惑の気配に、俺は息を殺した。



執事の仮面が壊れてしまいそうになる
衝動を抑え、俺は動揺を隠すため、
ひたすら地面を見つめる。
今、顔を上げ、彼女の顔を見る自信がない。









・・・なんだか、
緊迫感のある沈黙の中、
彼女が口を開いた。






その言葉は、普段彼女の口から
聞けないような・・・そんな言葉だった。











あたし、桜の花は本当は嫌いなの。
綺麗だから哀しくなる。

だって、桜って散ってしまうじゃない?
散ってしまうのが、
終わってしまうのが綺麗だなんて、
あたしは認めたくないから。

桜が散れば、別れの季節。
そして、出会いの季節。
別れがなければ、出会いがない。


そうわかっているのに、
別れを拒むあたしにも、
“出会い”はやってきて、
“別れ”を奪っていく。

だから、桜の花は嫌いなの。

この花をみると、
これまであたしの前から去っていった人や、
これからあたしの前を去る人を
想ってしまうから。



でも・・・・。



桜をみると、綺麗だと想ってしまう。



とても美しくて心が揺さぶられるの。

どうしてなんだろう。















誰に話しているわけではない言葉たち。



ぽつりぽつりと語る****。




どこか遠くを眺めるように、
凛とした表情。


今、君の胸にいる人は誰なんだ?




俺は、その人間に猛烈に嫉妬している
自分に気がついた。



馬鹿な。




彼女は語りながらも、
この場にいる俺ではなくて、
1人でいるように思える。

手に入らないその横顔を
俺は顔を上げて、じっと見つめた。
この角度で見つめることは・・・・
今までだって、何度もあったことだ。

でも、今夜は何かが違う。



とても・・・魅惑的で、
俺はその横顔に、もう少しで手を伸ばして
自分の胸に押し付けてしまいたい衝動に駆られた。



ふと、風に乗って、
薄紅の花びらが
はらはらと落ちてくる。


風に遊ばれるかのように。



その一枚が彼女の髪の毛に触る。
撫でるようにそれをつまんだ俺の指。

散りゆく桜の花びらでさえ、
彼女に触れていることに嫉妬する。

俺も桜の花びらになれるのならば。

こうやって彼女に降り注いで、
彼女に触れることができるのに・・・・。






指でつまんだ桜の花びらをじっと見つめた。



不意に、俺のその指を掴んだ彼女が、
その指にある、花びらを唇で噛んだ。




「あ・・・・」




噛まれた花びらが縁から
色が濃くなっていくのが見える。


気がつくと、花びらだけではなくて、
俺の指先も彼女が甘噛していた---。





「っ・・・・・!」


なぜ、こんな?




疑問よりも俺は、
その色気に、魅力に、言葉が出ず、
じっと見つめているだけだ。


甘噛みされた指先が震える。



彼女の口の中の温かさや、
濡れた感触が一気に
俺の身体の血を逆流させる。



いきなりのことで、
俺は自分が赤くなるのを感じた。



甘噛みしている彼女の唇と、
その唇にくわえられた
自分の指を凝視してしまう。





こんな風に・・・・
俺を誘惑しないでくれ。



俺は自分の中の衝動と戦っていた。



固まってしまった俺の指先から
そっと唇を離した彼女。
俺がつまんでいた薄紅の花びらは、
ぱら、っと下に落ちた。


紅色に染まった唇で、彼女は俺に呟く。
俺は彼女の赤く染まった唇に
目が吸い寄せられる。


そっと唇が開かれて、紡がれる言葉。

その1つ1つを耳に焼き付けようと
俺は、どんな音でも聞き逃さぬよう、
彼女を見つめた。


食い入るように見つめていた
俺の視線に気がついたのか、
彼女がふっと笑う。











あたしとあなたが終わる瞬間も
こんなに綺麗だったら・・・・




じっと俺を見ながら、そう呟く彼女。



その呟きが、やけに哀しくて、
切なくて、幻想的で。



彼女の瞳には、俺と、
俺の横で舞い散る桜吹雪が写っている。
その視線の痛さに、俺は彼女の瞳から目が離せない。




―――始まらなければ、
結局、終わりは来ないわね。

だから、あたしは・・・・






続きが、風の音で流れていった。
夜の向こう側に吸い込まれるかのように。


ため息と一緒にそっともれた呟きが
どうしようもなく切なくて、俺は
我を忘れて、彼女を抱きしめた。





なぜ、こうなったのか、わからない。
夢をみているかのようだった。
現実にはありえない―――。
いつものお嬢様じゃない様子だけど
抱きしめてわかる、その身体の温かさ。






(――――あなたとは、「はじめない」って決めてるの)





続きが、本当はちゃんと聞こえてた。


声にならない声も。
痛いほどの想いも。



本当は・・・・今までだって、ずっと。




俺は唐突に、彼女がなにを
俺に伝えたいか、わかった。



屋敷の中ですれ違うたびに。
階段を上がっていく俺を、
ずっと見つめていたことも知ってる。
廊下で後ろから、じっと見つめていたことも。





応えられなかった。





だって、何も始まってないのだから。
なにも、俺と彼女の間に接点はないのだから。
ただ、屋敷のお嬢様とその屋敷に仕えるものという関係以外は。
自分が仕える屋敷のお嬢様に恋心を抱くなど
そして、彼女も俺のことを好いてくれているなど、
自分でも認めたくなかった。

彼女には彼女専属の執事がいて、それは俺ではない。
俺はただ、屋敷に勤める一使用人でしかない。


そんな俺が・・・・。


お嬢様とかかわりがない俺が
どうしてそれ以上の関係を望めよう。
そう想って、ただ胸の中に気持ちを収め、
時折眺めるだけで満足しようと言い聞かせてきた。



言い聞かせるうちに、それが
本当になっているかのように・・・想っていた。






でも、今わかった。




俺は・・・・ずっとこの瞬間を待っていた。
気持ちを抑えるのではなく、
気持ちを解放していいという赦しがくるのを。








「来年は・・・・、俺の隣で夜桜を観てくれ」





誰かが彼女の隣にいるなんて、
本当は、嫌なんだ。
彼女の傍にいていいのが、「執事」であるなら、
どうして、「俺じゃない執事」が傍にいるんだ?




ずっとそう想っていた。



決められてしまったことで、
今更俺が彼女の執事になりたいなどと
申し出ることなど、無理なことだと想っていたから。

だから、ずっと見ないふりをしていた。






専属執事の中岡の隣で笑う彼女を見かけるたびに、
俺の心は、その微笑と笑い声で切り刻まれる。
感じないフリをしていた、今まで。
この想いを。

感じてしまったら、それが「始まって」しまうから。




それなのに。




****はどうしてここで、俺の気持ちを、
こうやって乱暴に引きずり出してしまうのか?

****の「はじめない」という決意の言葉さえ
俺にとっては「はじめて欲しい」にしか聞こえない。








諦めていた。
今夜までは。







「約束?」





「ああ、約束する」







その言葉だけが、
桜吹雪の薄紅色の風に乗って俺の耳元に届いた。

夜の闇にまぎれて、彼女がそっと俺から離れていく。



何も言わない。



そっと、少しだけ微笑んでいるのがわかる。
その姿は・・・・嬉しそうだった。


いいや、嬉しそうに感じるのは、
俺が自分の気持ちを解放することを
今、ここで決めたからかもしれない。


最後まで掴んでいた腕を、
彼女が無言で優しく振り払う。




彼女が歩いていきながら、
足元で泡立つ、散った花びら達の渦。



歩いていったときにできた
桜の道を俺は見送った。





桜鬼のようだ・・・・。



ふと心にそんなことが思い浮かぶ。
今の出来事は、本当に・・・あったことだろうか。
美しい桜が見せた夢ではないか。



俺は、少しだけ俺の体に残っている
彼女の温かさを思い出した。





いや、違う。
あれは、ちゃんと彼女だった。






俺は、今起こった出来事を・・・・
反芻する。









彼女が「始め」たくなくても、
俺の中では「始まって」しまった。






この瞬間から。









――――― あれから、一年。





また春が来た。






俺は、お嬢様の専属執事になった。



まず、いつも傍でお仕えすること。
彼女の傍にいないことには、何も始まらない。
彼女への恋心を自覚した日から、俺は決心していた。



彼女の専属執事だった中岡に専属を辞任させた。
お嬢様を気に入り、専属の役目を降りたくない中岡を、
もっぱら、1年かけて根気よく説得した。

執事長の樫原さんには、自分から願い出た。
どうしてここまで彼女の専属になりたいのか、
そう聞かれたときに答えた言葉は
「約束だからです」の一言。


深くは訊かれなかった。

無理を通してでも、俺は彼女の傍にいなくては
いけないと思った。
あの日の約束を果たすためにも・・・・。



最後は強く望んだものに、結果は訪れる。




しかし・・・・。


専属執事になって初日、****に挨拶に出向いたとき。
彼女は、この“約束”を覚えていなかった。
何度か仄めかしても、彼女の反応はなかった。





俺はあっけに取られた。


しかし、それも諦めた。
春の夜の夢のような出来事だったのだから。



まあいいさ。
彼女が忘れていたとしても。


約束などなくても、俺は彼女の傍にいたいと
強く願っていたのだから。
彼女への恋心が抑えられるわけはなかったのだから。
いずれにせよ、この形に収まったであろう。


俺は専属となり、彼女の傍にいる。
そして、俺たちはお互いの気持ちを確認しあう。
ずっとお互いに抑えていた気持ちが
通じ合ったとき、俺は心の底から歓喜した。



それでいい。


大事なことは、俺たちが愛し合っていることを
お互いに認めて、傍にいることだから。






あの日の約束を、俺は誰としたのか。
今となっては、それはわからない。
ただ、あの時おれの前に現れた彼女は、
まぎれもなく、彼女であったということ。
春の夜の桜が、俺にみせてくれた幻想だとしても、
彼女のことを想う俺の心に変わりはない。


そして、俺のことを想っている****の心にも。


俺の中に灯された、
この恋心はいつまでも燻るばかりだ。
傍にいて、彼女を見つめ、彼女を愛すること。
それが俺の望みだ。


















「---------真壁さん、夜桜が庭で見れるって本当に素敵ね」



ある月が綺麗な春の夜。



俺は執事の仕事を終えて、
ショールを羽織らせた彼女を連れて、
そっと手をひき、庭に出た。



春の生暖かい匂いがするなか、
まだ少し肌寒い風が感じられる。
夜空には星と、月が煌々と輝く。
月の光の青白い光に照らされた小道。
その中をひっそりと2人で歩く。
繋いでいる手から伝わるぬくもり。
彼女の気配。


一足先に夜桜を2人で観たかったから。


屋敷での恒例の夜のお花見の前に、
彼女と2人で、あの「約束」を
果たしたかった。
彼女が覚えてないにしろ、
俺にとっては大事な「約束」だった。




目の前に、美しい枝垂桜が立っている。
その幹の太さ、枝の上品な振り具合、
花びらの先からこぼれるような光。


大きなライトをつけると
家人に見られるかもしれない。


いちお、屋敷では、「彼女と俺」は
「お嬢様とその執事」なのだから。
こんな夜更けに2人で桜を見ているなんて、
誰にも言えないことだ、まだ・・・。





俺は遠慮がちに1つだけ、
桜の根元のライトをつけた。
小さな灯りだけでいい。
俺と彼女が桜の元にいるときだけ。


根元のライトと月光の光だけで照らされた枝垂桜。
薄紅色の花びらが、薄青色で白い光を放つ。



「本当に・・・・綺麗だね」



ため息をつくように、じっと桜に見惚れる君。

その横顔を見ながら、俺は想った。
1年前のあの日の出来事は、
多分・・・・俺だけが見た白昼夢だ。



そして、目の前に広がる桜吹雪と、
大きくしなる桜の枝で満開の花を眺める。
ほんのりと淡紅色の光が灯っているかのようだ。


ずっと桜に見惚れて
言葉が出なくなっていた彼女が、
そのとき、不意に語り始めた。




「あたし、夢を観たんだ」




「え?」



「こうやって、真壁さんと夜桜の中にいる夢」



「・・・・・」


その続きがどういうことなのか、
俺は思わず息を凝らして、続きを待った。



ゆっくりと彼女が語りだす。
桜を眺めたまま、彼女の口から
吐き出された言葉が、春風に乗って俺の耳の届く。



「真壁さんがいて、あたしに約束してくれたの」



「・・・・約束?」



もしかして・・・
これは・・・あの1年前の話なんだろうか?
俺の胸は急に高鳴ってきた。




「うん。来年は一緒に桜を見ようって」



「・・・それはいつ観た夢なんだ?」



「今日の朝。なんで来年なんだろう?って想ってた」



「・・・・・・・・・」


「そしたら、さっき、いきなり夜桜観にいこうって誘うでしょ?びっくりしちゃった」



そう言って、俺のほうをみて、
ふふっと笑う。



「この桜を見て、今日の夢が正夢なのかな?って想った」


首に両手をかけて、
下から抱きつくように
俺の顔をじっと見上げてくる。


「あたし、夢の中ですごく濃いピンク色のリボンをしていた」

「真壁さんがあたしの恋人になったときに、記念にって、最初にプレゼントしたくれたリボン」




これだよ?と、身体を俺から離し、
後ろの髪の毛を束ねた
朱鷺色のリボンを見せてにっこり笑う。
そして、リボンをしゅるりとはずして、
髪の毛を下ろした。
ふんわりと降りた髪の毛から、
彼女のシャンプーの匂いがする。


その動作が・・・とても色っぽくて、
俺は心臓がどきっと高鳴るのがわかった。






―――約束を覚えてなかった彼女に、
俺は恋人になった暁にプレゼントした。

一番初めのプレゼントは、朱鷺色のリボンにしようと
専属につく前から決めていた。
あの時見た朱鷺色のリボンに似たリボンを探してプレゼントした。



覚えてなくてもいい。

ただ俺は、あの時の彼女を忘れたくなくて。
約束の「しるし」だったから。
そのリボンは・・・・、
俺といるときに彼女が好んで身につける。

その姿を見るたびに、俺は1年前の春の夜を思い出す。



「真壁さんが、風に吹かれたリボンを取ってくれて」




2人っきりになれて嬉しかった。




呟きのように、声が風で流れていく。
リボンをくるくる丸めながら、
彼女が俺のポケットにリボンを収める。



俺には、すぐわかった。
彼女が語ったことが。




心が震えてきた。





やっぱり彼女が俺に会いに来ていたのか。
あのときの約束が俺だけの夢ではなかったことが。





運命の恋―――。





そんなことをあまり考えない俺にも、
この偶然のような必然性のある出会いと
そして、彼女の言葉を聴いて・・・・
そうとしか思えなかった。



とても切なくなって、
胸をつく想いがこみ上げてくる。





「来年もまた、一緒に桜をみようね」



そういって、彼女はまた
目の前の枝垂桜に見惚れる。
にっこり笑う彼女の無邪気な横顔を見ていると、
俺は、無性に愛しくなって彼女を後ろから抱きしめた。



「お前のことを誰よりも愛してる」

「約束だ。来年もまた一緒に桜をみよう」




俺は彼女の髪の毛に自分の顔をうずめる。
彼女の匂いを嗅ぐ。
そして、彼女の気配を存分に味わう。
その温もりも、身体の震えも。
ぎゅっと強く抱きしめる。




あの時―――



彼女が語った言葉を思い出す。





はじまらなければ、終わりはない。
だから、はじめないのだ、と彼女は言った。




俺たちの出会いは始まってしまった。






でも、その終わりはない。

いや、終わらせない。


終わらせないために、
いいや、「出逢う」ために
俺たちは出逢ったんだ。


俺は一生お前を離さない。
どこへ行こうとも。


何度、春の夜が巡ってこようとも。



俺たちの出会いに終わりはない。




「来年だけじゃなくて、これからずーっとだよ」


可愛く呟く彼女の一言一言が、
俺の胸を打つ。



「ああ、そうだ。これからもずっと一緒にいよう」




捕まえた。ようやく。



彼女に出会えた。
1年かかった、ここまで。





夜桜が舞う中、
後ろから彼女を抱きしめ
愛の言葉を囁く夜。


月の光は2人を照らし
桜の花びらがはらはらと散るさまを
ぼんやりと眺めながら、
背中から抱きしめた彼女の鼓動に耳を澄ます。


湿った土の匂いと、ほのかに香る水仙の香り。
夜桜の、薄い紅色の風が俺と彼女を包む。


こんなに美しい光景があるのならば、
これは夢でしかないはず。
夢でしかみれないのなら、
もう、目が覚めてしまわなければいい。



夢の彼女が、俺に逢いに来てくれて。
俺の背中を押してくれた。



胸にこみ上げてくる想いがある。


1年前の桜吹雪のあの夜。


彼女に出逢ったこと、
巡り会ったことが、
全て、2人の「始まり」だった。




そして、これは「終わりがない」物語。




「俺に逢いに来てくれて、ありがとう」




そう、彼女にまた呟いた。


なにもかも説明する必要はない。
ただ、俺だけわかっていればいい。
何度、言葉を重ねても伝わらない。
この心からあふれる嬉しさは。
そして、幸せは。


俺は、少しだけ腕を緩めて、
彼女の顔を見る。
うっとりした表情の彼女。


どんなに愛しい気持ちで、
今、俺が君を抱いているのか
伝わってるだろうか。



月光に照らされ、後ろには大きな枝垂桜。
桜吹雪で、花びらがいくつか髪の毛につく彼女。

春風が舞い散る中、少し肌寒いけど、
抱き合っている肌で温かい。





「愛してる」



その言葉だけしか出てこない。
どれだけ言っても足りない。

たとえ、一生かかっても、
俺がどれだけ愛しているかは
彼女に伝えられないだろう。


でも、大丈夫。
俺たちには、これから先の時間が、
ずっとずっと終わることなく続いてる。
たゆみなく流れるときの中で、
俺はお前だけを見つめているよ。




「愛してる」



これからもずっと傍にいるという気持ちと
一生愛しぬくという誓いをこめて。

そうっと目を閉じた彼女の唇に
俺は深く口づけた。




―――夜の闇にまぎれて、
俺は彼女を自分の影で包み込む。
2つのシルエットが1つになるように。

どこにも、もう行かせないように。


1つになったシルエットを、
桜吹雪が、夜の風に乗って包む。

人目を忍ぶ恋をしている2人を
桜の花びらが隠してくれる。





そんな2人を
月の光だけが照らしていた。


<br><br><br>








桜舞い散る、ある春の夜。












<br><br><br>

******* 桜舞い散る春の夜に FIN.*******



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