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夏の夜の約束  11/03/2008  
********* 夏の夜の約束 *********













風が・・・・気持ちいい。


少しだけひんやりとした風が
あたしの髪の毛をなびかせる。


「ゆいこちゃん」

あたしの手を引いて
前を歩いていた中岡さんが
ゆっくりと足を止めた。


「風が気持ちいいね」

「うん」

こんなに空が近いのは久しぶりだ。

空が晴れ渡っているけれど
でも夏のピーカン照りや
むくむくと大きい入道雲じゃなくて
もっと柔らかいパステルカラーの
ブルーを広げたような空。

森の木々の間を風が通り過ぎていく。
あたしたちが歩く畦道の傍に生えている
雑草でさえ、風に身を任せて
さわさわと揺れている。









あたしと中岡さんは
九条院家の別荘に来ている。


ゴールデンウィークに来た別荘じゃなくて。


今回遊びに来たのは
もっともっと森の中。
コテージみたいな
そんな山小屋に近い別荘。

中岡さんが夏休みを取ったから。









連れてきてもらったの。









・・・・・・・・・・







つい先日
義兄さんが姉さんと
スイスに行くからと
お屋敷全体が
数日間休暇を
取っていたんだけど
その間もあたしの専属執事で
そして恋人の中岡さんだけは
きちんとお仕事していた。


といっても
中岡さんを誘って
2人で釣りに行ったり
クルーザーに乗ったりした。








そうやって2人だけで過ごした
お屋敷全体の夏休みが終わったあと
中岡さんは数日お休みをもらえた。


そのお休みに。

中岡さんが

「2人だけで泊りがけでどこかに行かない?」
オレの誕生日もあるし・・・。

そう誘ってくれた。
勿論、あたしの返事は。









嬉しすぎて
中岡さんに抱きついたら
びっくりしながらも
中岡さんは優しく抱き返してくれた。








一緒にいたいと想ってたの。
中岡さんの誕生日は
ずっと一緒にいたいから。

仕事中ではない日に
恋人として誘うんだ。
だからずっと恋人同士の時間。


クルーザーで海に出たときも。

このまま2人でどこかへ
行ってしまおうかといってくれた。
このまま海にいれば
ずっと2人っきりだから、と。


(中岡さんにだったら、どこにだって連れ去られてもいいよ)








あたしと中岡さんが
2人きりで入れる時間は
本当はとても少ない。


夜、中岡さんが仕事終りの挨拶をして
それからの一時だけ。
その短い間の逢瀬があたしと中岡さんを繋いでる。
ずっと一緒にいるんだけどね・・・。

ずっと一緒にいれて幸せなんだけど・・・
でも一緒にいれても「恋人」じゃない「恋人」と
一緒にいてお嬢様のフリをするのは
なんだかたまに辛いんだよ。








だから。


誘ってくれた夏休みの計画。

2人っきりで。
恋人同士の時間が過ごせるなら。
中岡さんが「執事」から
解放されるなら。


あたし、どこへでも
一緒に行こうと思ったんだ。










・・・・・・・・・・・








中岡さんと一緒に
泊りがけで遊びに行くね。


その一言でまず義兄さんがびっくりした。

「え?中岡と2人っきりで?」

「うん」


「うん、って・・・・ゆいこちゃん!」

義兄さんが少し難しい顔をしてる。
あたしと中岡さんが
恋人同士なことは知っている。


「まだ高校生だから泊りがけで遊びにいくなんて・・・・」


渋い顔をして多分・・・
ダメって言いそうな雰囲気。


(あたし、義兄さんが反対しても今回は中岡さんと一緒に行くよ?)


ここであたしが折れたら
きっと執事の中岡さんが
あたしと一緒に出かけたいなんて
言えるわけないもの。


「それに中岡も・・・」


義兄さんがあたしの傍で
控えている中岡さんを少し睨んで
なにか言いそうになるのを先に牽制する。

中岡さんが目を伏せているのがわかる。


「大丈夫。中岡さんだもの」


中岡さんはあたしの専属執事よ?
2人っきり泊りがけで出かけても
別に何もないじゃない。


「でもゆいこちゃん、2人きりで泊りがけなんて感心しないよ」


「中岡さんはあたしの専属執事だから、2人きりで出かけることだって普通にこれからあるよ」


粘ってみる。


中岡さんは何も言わない。
多分・・・中岡さんは「執事」だから
そんなことは言わない。
だからあたしが頑張らなくちゃ。


「あたしを信頼してよ、義兄さん」


「・・・ゆいこちゃん」


「せっかくの夏休みなんだもん。あたし、どこか中岡さんと遊びに行きたいの」


そう言ってもなぁ
専属だとは言えども
中岡は男だし大事なゆいこちゃんと
泊りがけで2人でなんて僕としては・・・・。


義兄さんが渋い顔をして考え事をしている。
そんな義兄さんに・・・






「中岡さんとなら大丈夫よ」


「え、夏実?」


思わず義兄さんの隣にいた
姉さんからの応援がきた。

「姉さん!」


思わず嬉しくなってしまう。
姉さんが義兄さんを説得してくれたら・・・。

そんなあたしの嬉しそうな顔を見て
姉さんがくすっと笑う。



「中岡さんとゆいこは付き合っているとはいえ、8歳も年の差があるのよ?」


ゆいこが高校生なことは
中岡さんだって重々承知なんだから
そんな慎一郎さんが思っているようなことはしないわ
ね、中岡さん?








「え?は、はい!」

いきなり姉さんから話が振られて
中岡さんがちょっと
びっくりした顔をしながらも
しっかりと頷いてくれた。


あたしはそれを聞いて。

嬉しいんだけど
ちょっとだけ心にチクっとなにかが刺さる。



気づかないフリをした。


「そうはいっても、夏実」

義兄さんが姉さんにそれでも
だめだといいそうな雰囲気だったけれども
姉さんが中岡さんは信頼が置けるから
妹と一緒に行かせても大丈夫よ、と
説得してくれる。


あたしは話の展開を見守ることにした。


「侑人はどう思う?」


姉さんがあたしと中岡さんを
応援してくれてるのをみて
義兄さんが困り果てて
樫原さんに話を振った。


「そうですね。中岡なら、大丈夫でしょう」


樫原さんの答えは即答だった。


「え・・・?!」


思わずその答えの速さに
あたしも義兄さんもびっくりして
樫原さんを見ると、
樫原さんはちょっと苦笑しながら
あたしを見つめた。



「いくらお嬢様と中岡が執事と令嬢の関係以上の関係だとはいいましても、中岡はお嬢様より年上の大人です」


分別がある付き合いをしていると
私は思っておりますので問題はないでしょう。
中岡のことは保証いたします。


そうにっこり笑いながら
樫原さんが義兄さんに請け負う。



あたしは思わぬ力強い応援に
とても嬉しくなったけど
でも少しだけ樫原さんの言葉が
気になってしまった。






(8歳年上の大人・・・・)






うん・・・・・
あたしと中岡さんの間には
8年の日々が、年の差がある。


それはわかっていたけど・・・・
こういうところで
保証されるときに
このことが使われるなんて。

少し胸がちくりと痛む。

でも、今はそれを
気にしている場合じゃなくて。

気づかないフリをした。









・・・・樫原さんの言葉に
義兄さんは渋々ながら
折れてくれた。









でも。







義兄さんから出された条件は2つ。









九条院家の別荘を使うこと。


知らない土地に2人だけで行かせるなんてダメだと
義兄さんが樫原さんにあちらこちらにある
九条院家の別荘をリストアップして
あたしと中岡さんに渡すことを言いつけていた。






そしてもう1つの条件は。







「ゆいこちゃん」


「なあに、義兄さん?」


「・・・・何かあったらすぐに帰って来るんだよ?」


「え?」


帰ってきたいと思ったら
すぐさま連絡して。
すぐ迎えに行くから。


「何かあったらすぐ僕の携帯か侑人の携帯に連絡するように」


「え・・・・、あ、うん、わかった」


・・・いつでも帰って来たい時は
すぐに帰れるようにしておくという
義兄さんの優しさと気遣いだった。







(中岡さんと2人きりでいて、何かあって帰りたくなることって早々ないと思うよ?)







そう思いながらも義兄さんがすごく心配そうな顔で
約束させるものだから、あたしはにっこり笑って
義兄さんに大丈夫だよ、ってサインを送った。


義兄さんは少し目が潤んでいる。






渋々ながら許したけど・・・


きっと心の中では
あたしが中岡さんと2人で
泊りがけに遊びに行くことを
嫌がっていたり寂しがってるんだろうな。


本当に義兄さんったら・・・・。


思わず苦笑してしまう。
目に入れても痛くないほど
可愛がってるってこのことかしら。


どうにか了解が取れて
ほっとしたあたしは
すぐ傍に付き従っている
中岡さんをちらりとみた。


(あれ・・・・?)


なんだか中岡さんは
目を伏せて横向いちゃって
何か考え事してる。


どうしたのかな?
嬉しい・・・はずだよね?







「中岡さん・・・・?」






小声で呼んだら
すぐに気がついてくれて
いつもの笑顔に戻ってくれた。
















中岡さんと2人で
樫原さんから渡された
別荘のリストを見ながら
どこへ行こうかと相談した。







この間は海へ行ったから
今度は山に行ってみようか。


意外とアウトドア派な中岡さんが
山の中にあるコテージを
選んでくれた。








・・・・・・・・・・








中岡さんに手を引かれて
コテージ近くをお散歩する。


昼過ぎに着いて荷物を整理して
ちょっと一休みしてからのお散歩。







まだ夕方じゃないけど
少しづつひんやりしてきてる。
山の空気は澄み渡ってて
どこまでも緑が広がっていて。








海もいいけど山もいいね。


そう呟いたら
中岡さんが振り返って
にっこり笑った。






君とだったらオレはどこだっていいよ。



そう言ってくれた。


中岡さんの髪の毛も
ふわふわと風で揺れている。
あたしの髪の毛は風で遊ばれて
毛先がふんわりと浮くのがわかる。




髪の毛が乱れちゃうな。
でも気持ちいいからいっか。









広がる髪の毛を
あたしは耳にかけた。


こっちを振り返った中岡さんが
やさしく笑いながら風になびいた髪の毛を
耳元で抑えていたあたしの手に触れた。



「風が悪戯してる」

「うん」



中岡さんがポケットから
蝶の形をした小さなピンを出した。

散歩に出かける前に
そんなものを準備していたなんて。
それもこの蝶のピンはみたことがない。


きっと彼があたしが知らない間に
買ってくれたものだと思う。


相変わらず用意周到で
いつもあたしのことを考えてくれてる
優しい恋人に思わずにっこりした。

その笑顔を見て中岡さんもにっこり笑う。

そして、ゆっくりと
あたしの耳の上に蝶のピンを留めてくれた。



「中岡さん、本当に準備が良いね」

「多分必要だと思ったんだ」



中岡さんがゆっくりと顔を近づけて
さっき蝶のピンで留めた髪の毛に
優しくキスをした。

「この蝶がすごく可愛いから」

きっと君に似合うと思って。
うん、すごく似合ってる。


「可愛いよ、ゆいこちゃん」


少し頬を赤らめてじっと見つめられて。
あたしも少し恥ずかしくなってしまう。









中岡さんって・・・・。








なんだかとてもロマンチックだったり
すごくあたしに甘かったり・・・・。


こんな風に甘やかされて可愛いって言われると
あたし、なんだか幸せな気持ちで
心が満たされちゃうよ。






「可愛いのはあたし?それとも蝶?」



答えなんてわかってるのに
もっと中岡さんから
甘い言葉が聴きたくて。


甘い言葉を囁いて欲しいから。


中岡さんはそんなあたしの
思惑に気がついたのか
しょうがないなって笑いながら
繋いでないほうの手で
あたしを引き寄せた。







「勿論、俺のゆいこちゃんだよ」








もう一度髪の毛に
キスしてくれる。


その片手であたしの頭を
自分の胸にくっつけるようにして。


中岡さんに軽く抱きしめられて
胸に耳を当てると
中岡さんの心臓の音が聞こえるよ。


ちょっとだけ早い。



ドキドキしてるの、中岡さん?


そう訊いたら


「こら。大人をからかうもんじゃありません」


そう言って
もっとぎゅっと抱きしめてくれた。



甘い言い回しが大好き。


あたしは繋いでいた手を解いて
中岡さんの腕に自分の腕を絡めた。


「ねえ中岡さん」

「なんだい?」


「・・・・今日一緒にここに来れてよかった」


「俺も君と一緒にこれてよかった」



・・・・誘って断られたらどうしようかって
本当は思っていたんだ。



え?


「断るわけないよ」



だって大好きな中岡さんと
2人っきりの休暇だよ?
中岡さんの誕生日もあるし。
あたしが断る訳ない。


「それに・・・・旦那様も反対していらっしゃったから」


少しだけ中岡さんの顔が曇る。


「うん・・・・そうだね」


「でも、姉さんも樫原さんも中岡さんとだったら大丈夫って言ってくれたから」


あたし達、応援されてるよ。

だから大丈夫!と
笑顔で中岡さんを見たら
中岡さんもようやく
ほっとした顔で笑ってくれた。



絡めた腕をそのままに
周りに広がる森の木々に目をやる。



少しだけ心に浮かんだ。
あの時、心をチクッと刺した棘の痛み。



8歳の年の差。


その年の差が一緒にいるときに
感じてしまうこと。

中岡さんに比べてとても子どもな自分。

こんな中岡さんだったらあたしみたいな
子どもじゃなくてもいつかもっと年相応な
素敵な女の人と恋に落ちても不思議じゃないと
思っている不安。



子ども過ぎる自分に対する不満。


2人きりで出かけるといって応援されると
あたしが子どもだから何もないと
思われてるんだという不思議な失望感。


恋人同士なのにキス以上進まない
あたしと中岡さんの関係。


(もしかしたら2人で出かけるなんて危ないって皆が言ってくれたほうが、少し嬉しかったかも)


そういう「危険性」さえ感じさせないほど
あたしは中岡さんにとって「子ども」なのかな?


そんな雰囲気にはまだならない
恋人同士として周りの目には映ってるのかしら?



墨の一滴のように一度心の中に
ぽつりと落とされたら水面にじわじわと
黒い円が広がるように。

あたしの心の中に
不安が広がっていく。



顔が曇っていく自分に気がつく。








でもあたしは
なんでもない振りして笑った。


「大丈夫よ、中岡さん」



抱きついている中岡さんの胸に
自分の顔を埋める。
多分、今のあたしは大丈夫って言葉の裏腹に
少し不安そうな顔をしているはずだから。







そんな顔、みられたくない。






「連れてきてくれて、ありがとう」


ぎゅっと抱きついたあたしを
あやすように中岡さんが
ぎゅっと抱きしめながら
背中を抱きしめてくれる。



そしてあたしの名前を呟いて
髪の毛に何度もキスしてくれた。



柔らかい風と
柔らかい光。

誰もいなくて・・・・
静かなんだけど
風の音と共に大好きな人が
あたしの名前を呼んでくれる。







こんな幸せな一瞬なのに。







きっと・・・・


名前を呟いたのは
あたしに顔を上げるように
促していたんだろうけど
泣きそうな顔をしているのを
見られたくなかったから。


ぎゅっと抱きついたままでいた。


「中岡さん、大好きだよ」


思わず呟いてしまう。

自分の中の気持ちに負けたくなくて。

その言葉は泣きそうなくらい
あたしの中の本気の気持ちだった。








・・・・・・・・・








夕ご飯はコテージでバーベキューをした。
中岡さんが美味しそうなお肉を焼いてくれた。


中岡さんがほとんど身の回りの世話できるし
ご飯も作れるから、って別荘には誰も来ていない。







せっかくだから
2人で過ごしたいね。



その言葉どおり
2人っきりの夜。



森の中にあるコテージはとても静か。
テレビも置いているけど
2人の時間に必要なのは
お互いの存在と楽しいお喋りと優しい音楽だけ。









散歩の時に感じた気持ちの重さは
まだ少し心の中にしこりのように
残っていたけど・・・・。

でも中岡さんがあたしに注ぐ優しい視線や言葉や
一緒にいられるこの時間があたしの心を満たしてくれる。


いつもは一緒のテーブルで食事をすることはないけど
こうやって2人きりのコテージで
同じテーブルに席ついて向かい合って
ご飯を食べるというのが、とても嬉しかった。


ほんのちょっとだけ
中岡さんと一緒に暮らしている
あたしと中岡さんの家って気がする。


(まるで新婚さんみたいだな)


そう感じて、思わず恥ずかしくて
ドキドキして、食べている肉を
喉に詰まらせそうになる。



「ごほっ!!!」


「だ、大丈夫?ゆいこちゃん?」


すぐさま中岡さんが
あたしの背中を叩いてくれる。


「だ、大丈夫。ちょっとむせただけ」



差し出されたコップを受け取って
ちょっとだけ水を飲む。
咳が落ち着くまで中岡さんが背中を撫でててくれる。

心配そうな顔。
もう中岡さんったら心配性なんだから。


(心配させてるのはあたしだけど)


「大丈夫だよ、ありがとう中岡さん」

息を吐きながら
中岡さんに微笑むと
ほっとした顔をしてくれる。

あたしが食べやすいようにお肉も切ってくれる。

「ほら、あーんして」


「え?」



思わず中岡さんからそんな風にされて
あたしは顔が赤くなってしまった。

中岡さんも顔が赤くなってる。


「あーん、って・・・・中岡さん」



思わず笑ってしまう。
こんな風にしてくれる中岡さんが嬉しくて。
そして恥ずかしくて。

「いつもゆいこちゃんがオレにするじゃないか」

だから今日はオレがゆいこちゃんに
こうやって食べさせてあげるよ。


・・・・あたしがいつもあずまやで
ケーキを食べるときに中岡さんに
「あーんして」って困らせることを言ってるんだわ。

ちょっと恥ずかしがる中岡さんが可愛くて。
恋人同士の甘い時間が欲しくて。
あんな風にしてしまうあたし。


そんな困ったお嬢様のあたしに
執事の職務中の中岡さんは
これまた困った顔をしながら
でも赤い顔をしてても
ちゃんと「あーん」って食べてくれるの。



「ほら、あーんして」


もう一度促されて
あたしは仕方なさそうに口を開ける。


くすくす笑った中岡さんが
あたしの口の中にお肉を一切れ入れてくれた。


美味しい。


「ありがと」

もぐもぐしながら中岡さんを見たら
こっちを見て優しそうに微笑んでいた。


「ほら、口元にソースが」

そう言って
あたしの口元についた
ソースを親指で拭った後
それをぺろって舐めてしまった。


「あ・・・」

「ん?」


思わず顔が赤くなる。
でもそんなあたしに
お構い無しに中岡さんがくすっと笑った。


「まだついてる」


「!!」


え?と思った瞬間には
中岡さんが口元へ。
ぺろり、って中岡さんが
あたしの頬を舐めた。

ぼっと自分の顔が
赤くなるのがわかる。


「な、中岡さん!!」


思わずびっくりしたけど
中岡さんは全然気にしないように


「このタレ、美味しいね」


とちょっと赤い顔して笑った。









・・・・中岡さんって
今すごく大胆なことを
したけど、でもきっと中岡さん
平気なんだわ・・・。


あたしはこうやって
不意打ちにキス・・・みたいにされると
すごくドキドキするのに。

一人ドギマギしてフォークとナイフを
持つ手がぎこちない。


「だめだった?」


そんな風に訊いてくるものだから。

「だ、だ、だめじゃないけど」


うろたえてしまう。
思わず中岡さんを
赤い顔をして睨んでしまった。


「中岡さん、不意打ちなんてズルい」

「え?」

「びっくりするよ」



大好きな人がいきなり
あたしの口元を舐めたら。



あたしが赤い顔をして
少し睨んだから中岡さんも
同じように赤い顔をして
優しく言ってくれた。


「だって、ゆいこちゃんが可愛いから」

「っ・・・・!」

「それもここはオレとゆいこちゃんしかいないし」


可愛いからって
誰も見ていないからって・・・!!


ドキドキしすぎて胸が詰まるから
そっと息を吐いたら
中岡さんがにっこり笑ってた。


中岡さんってたまにすごく大胆。


「ほら、もっとお肉食べる?」


あたしのお皿にお肉を取り分けてくれる。



なんか・・・・
中岡さんってやっぱり大人なんだと思う。


さっき、あんなことしてても
次の瞬間には普通になってるから。


あたしなんか・・・・
まだドキドキしすぎてお肉が喉に通らないとか
そんなことより中岡さんのことを意識しちゃって
上手く食べれないよ。

中岡さんが余裕あるのがちょっと悔しい。


あたしは・・・・ちょっとだけ
中岡さんにされちゃうだけで舞い上がって
ドキドキしちゃってぼーっとしちゃうのに。








(やっぱり中岡さんって、あたしより年上なんだ)








一緒にいる恋人同士の時間。



中岡さんもそりゃあ心臓ドキドキ
させているだろうけど
でも、とても上手に振舞う。








あたしに甘い言葉をかけたり
キスしたり、ハグしたり。



でも一線は越えない。


あたしにとっては、そうやって男の人とするのは
初めてだから、慣れないまま
いつも中岡さんの1つ1つの動作やすることに
翻弄されてる気がするよ。









・・・やっぱりあたしと中岡さんの間にある
年の差って大きいのかな?

でもこれって年の差?


あたしが中岡さんのことを
中岡さんがあたしのことを好きより
もっと好きだったりするからかな?








中岡さんがあたしに
注いでくれる愛は
すごく優しくて包んでくれるような愛。


あたしは優しい中岡さんも大好きだけど
2人きりの時はたまに見せる大胆な中岡さんに
なって欲しいと思ってるよ。





たまには、あたしのことで
動揺して欲しいんだ。


あたしのことでうろたえて欲しい。
あたしのことでドキドキして、
何もできなくなってしまえばいい。
大人の余裕なんてなくなってしまえばいい。


それくらい、あたしに
ドキドキしている中岡さんを見てみたいと思うの。


こんな願いを持つのは贅沢だってわかってる。


中岡さんはあたしにとってすごく最高な恋人。
これ以上の人はいないって
思っているのに・・・。







でも・・・・たまに・・・。








寂しくなるの。






大人な中岡さんに。
そんな大人な中岡さんに
翻弄されているような
「子ども」でしかないあたしに。


(こんなこと、上手く伝えられないな)


思わず気持ちがぐしゅぐしゅに
なってしまったあたしは
ちょっと無言でご飯を食べた。








・・・・・・・・・











食後のデザートは無しで。








だって日付が変われば。
零時になれば中岡さんの誕生日。

ケーキも準備してきた。

せっかくだから手作りのケーキを
作りたかったけど、なかなか上手く焼けなくって。


見かねて、パティシエさんに相談したら
ケーキの土台を焼くから、お嬢様はデコレーションをと
提案してくれた。
それであたしが一番最後のデコレーションをした。







勿論。





『HAPPY BIRTHDAY!! HISASHI』





チョコレートペンで書いた。
少しゆがんだけど、でもきっと味は美味しいはず。

I love you なんて言葉は
さすがにパティシエさんの前では
書けなかったから・・・・控えめにした。
可愛い砂糖菓子も載せた。ハートも沢山書いた。
別荘で2人で食べるから、とちょっと小さめのサイズ。


沢山ドライアイスを箱に入れて
クーラーボックスで運んできた。







あとプレゼントは・・・・


中岡さんが欲しがっていた懐中時計にした。
シンプルだけど丸い形が洒落てて
執事服に似合うと思って選んだ。







サプライズのパーティにはならないけど。






でもきちんと零時になったら
中岡さんの誕生日を祝うために準備して。





あたしと中岡さんは
星を見るためにベランダに出た。








・・・・・











頭上に星が沢山輝く。
キラキラしている星が空一面に広がる。
薄雲が空を左右に走るけど
でもそれで隠すことができないほどの星。

少し大きめのお月様。
秋に近いから余計に大きくなっている気がする。
柔らかい黄色がとても素敵。


星の数も月の大きさも
いつもお屋敷で見ているより、すごい気がするよ。

思わずベランダの手すりにもたれて
星空に魅入ってしまった。








「星の数すごいね、中岡さん」


「ああ、そうだね」


「すごく綺麗・・・・」



うっとりと空を見つめ続けるあたしに
中岡さんがくすっと笑うのがわかる。

すごくロマンチック。
こんな星空の下を中岡さんと過ごせるなんて。
今日の夜は・・・・中岡さんと2人きりで過ごせる。
零時を過ぎたら中岡さんのお誕生日だ。


「寒くない?」



答えるより先に中岡さんがあたしを後ろから
優しく抱かかえるようにして包んでくれる。

自然にそんなことをしてくれる。

中岡さんの温かさが背中から伝わってきて。
ドキドキするけどでも気持ちいい。


中岡さんの両腕が後ろからあたしを抱きしめる。


ちょっと背の高い彼の首元あたりに
あたしの頭がおさまって全身包まれてしまう。


静まり返った森からする木々の匂いと共に
中岡さんの香水の匂い。
こうやって包まれているのが
すごく安心するんだ。


暖かいブランケットのように。


あたしは中岡さんの腕の中で
少しもたれるようにして
一緒に星空を見上げていた。








「いちお望遠鏡も準備してきたけど、これだと望遠鏡も要らないね」



確かにこんなに綺麗にはっきりと星が見えるのなら
望遠鏡で星を探す必要はない。
沢山の輝く星空を見ていると、たまに流れ星がある。








流星群の時期?







流れ星を見つけるたびに
あたしは心の中で願う。


今この時間がもっと長く続きますように。


この人とずっと一緒にいられますように。


この恋がもっと幸せになりますように。


この人があたしのことを
もっと好きになってくれますように。


この人にふさわしい自分になれますように。


こんなに優しくて
あたしのことを包んでくれるような
素敵な大人の中岡さんに
似合うような女の人になりたい。



今のあたしは、まだまだ、だから。
大人の彼の恋人らしくは振舞えてないから。


8年の年の差さえ大きく感じてしまう
あたしだから。

そんな年の差なんて恋人同士になったら関係ないでしょ、と
わかりながらも、でもこだわってしまうあたし。


こだわってしまうところが
「子ども」だってわかってる。


そんなあたしでも
中岡さんは好きでいてくれるかな?

あたしが大人になるまで
待っててくれるのかな?











「どうしたの、ゆいこちゃん?」

「え?」

星を見上げているはずが
気がついたら何も見ていなくて
考え事をしてた。


後ろから抱きしめてくれてる
中岡さんが少し心配そうに
あたしの顔を覗き込むのがわかる。



「なんだか気になることでもあった?」


「ううん」


なんでもないよ。
うん。なんでもない。


「そう?」


「うん」









ねえ中岡さん。

あたしたちの間にある8年の年の差を
とても大きく感じてるのはあたしだけかな?


あたしが生まれてくるまでの間
その8年を中岡さんはどう過ごしていたの?


あたしより8歳年上の中岡さんからみた
17歳のあたしは、いったいどんな風に映ってるの?


星の光たちがこの地球に届いて
あたし達に降り注ぐまでの時間より
あたしと中岡さんの間に
横たわる時間は、ほんの瞬きほどの一瞬。







なのに・・・・。







8年の歳月があたしには
とてもとても深い溝のように思えるんだ。


こんなことを感じてるのは
きっとあたしだけ。


この望遠鏡で遠くの空にある星を
近くで見ることができるように
あたしと中岡さんの心の距離も
もっと縮めてしまえればいい。







ちょっと切なくなった。








すぐ傍にいるのに
どうして距離を
感じることがあるんだろう?






明日が中岡さんの誕生日だから?



零時を過ぎたら、また1歳
あたしと中岡さんの間に
年の差が増えてしまう。
なんだかもっと置いてかれる気がしちゃうの。

中岡さんが誕生日を迎える。
あたしの誕生日が来る。
追いついたと思っても、すぐまた季節が巡って
中岡さんの誕生日が来る。








その8年の差は変わらない。
そう、ずっと。








後ろから抱きしめられていたのを
身を捩って正面から抱きついた。


「ゆいこちゃん・・・・?」







少し怪訝そうな声がする。


なんでもないんだよ、中岡さん。
あたしが一人で考えてるだけ。


大好きな中岡さんの誕生日が来るのを
心のどこかで嬉しく思わないなんて、
あたしは、ものすごく子どもなんだと思う。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・








8月10日零時ちょっと前。







部屋の電気を消した。


窓側に置いたテーブルには誕生日ケーキ。

夜が思ったより明るい。
森の中での夜はとても深いけど
今夜の月と星の明かりで
青白いような素敵な光が入ってくるから。


吹き抜けになった天井はガラス張りで
星空からの光が差し込んでくる。


零時になったら
ケーキに立てた蝋燭に火をつけて
中岡さんに吹き消してもらうの。


蝋燭は26本準備した。
小さめで可愛い蝋燭。




今日で1本増えるんだね。






誕生日ケーキに2人で飲む飲み物。
中岡さんにはシャンパン。
樫原さんが中岡さんの誕生日に、と
一本持たせてくれた。


あたしはまだお酒を飲めないから
スモモのサワーをコックさんが持たせてくれた。
季節のスモモを漬け込んだのを炭酸で割ってくれる。


紅い色が綺麗で
ちょっと酸っぱくて甘い。
見た目はとてもお洒落。







2人で準備して零時を迎える。


しーっと口に指を当てて
2人で時計の音を聴く。
勿論、あたしは中岡さんの傍に
ぴったりと寄り添って座ってる。


中岡さんの傍に座って、彼の膝に手を置く。
中岡さんがあたしを包むように
片手で抱きしめてる。


部屋の時計の針が
重なって0時になる。

別荘の時計はとても静かで
ゴーンって鳴ることもないけど
チクタクチクタクいっている時計が
きちんと零時を教えてくれた。








「誕生日おめでとう、中岡さん」

零時を確認して
あたしは中岡さんに微笑む。

すぐ傍にある中岡さんの顔。

薄暗がりだけど
でも少し目が慣れて
中岡さんがあたしをじっと
見つめてるのがわかる。


「ありがとう、ゆいこちゃん」

じっと見つめられるのが
嬉しいはずなのに切なくて。


思わず涙が出そうになった。







中岡さんの誕生日の
今大事な瞬間なのに。







おかしいよ、あたし。
2人きりの時間でとても幸せなはずだけど
こんなってずっと年の差のことばかり考えてる。


「ゆいこちゃん?」








誕生日迎えないで。







あたしとの年の差が
増えちゃうから。








そんなわがままで
どうしようもないことが言えないあたしは
ケーキに立てた蝋燭に火をつけようと
マッチを取り出した。

マッチをしゅっとすると
ぼわんっと明るくなる。


その柔らかい光の向こう側に
心配そうな顔をした中岡さんがいる。


ごめんね中岡さん。
誕生日祝いだっていうのに
なんだかちょっと悲しそうな顔をしちゃって。


気づいてるであろう中岡さんに
何も言わせないために
あたしはちょっとだけ
顔を見られないように
目を伏せながら
蝋燭に火をつけようとしたら。







その手を掴まれた。

そして指先で持っていた
マッチの火を吹き消される。


「え・・・・?」

火を消されたマッチ棒を
つまんだ指先から
中岡さんがマッチ棒を摘んだ。







そっとテーブルの上にあった
テー気の受け皿の横に置く。







「ゆいこちゃん」

真剣な中岡さんの声が聞こえる。







「帰りたい?」

「え?」

「さっきから浮かない顔をしてる」


「・・・・」


「それにオレの顔を見ない」

「オレが無理させてしまってる?」







困らせるつもりはないんだ。
呟くように苦しそうな声が聞こえた、気がした。


「ぜ・・・・全然そんなことないよ?」

「そう?」

「うん」

あたし中岡さんと一緒にいられるの嬉しいから
帰りたいなんて全然思ってないよ。


「でも帰りたいなら、樫原さんに電話して迎えに来てもらうから無理しないで」





辛そうな声。






「え、どうして?」


あたし、ここにいるよ?
中岡さんと一緒にいるもん。
だって2人っきりで過ごせるなんて
すごく楽しみにしてたんだから。







「・・・・・でもさっきからゆいこちゃんは考え事ばかりだ」


「それは・・・・・」


中岡さんがいつものように
にっこりと笑っていう。
多分あたしに気を使わせないように。


「無理しなくていいから。こうやって2人っきりで泊りがけって誘ったオレが悪かった」


・・・笑顔でこんな風に
無理して言わないで。








「そんな・・・・誤解だよ」








中岡さんの顔から
笑顔が消える。








もっと真面目で・・・・
真剣な顔でじっと見つめられる。


「でもゆいこちゃん、ちっとも楽しそうじゃないよ」



あたしの目を見つめながらも
中岡さんが目を伏せた。


「そ、それは・・・・・」


辛そうな中岡さんの顔を見ていたら
あたしは、自分がどんなに今
この人を傷つけてるのかがわかる。







「ごめんね、中岡さん」


でも帰りたいのを無理して
一緒にいるとかじゃないの。








そうじゃなくて・・・。


そうじゃなくて?










・・・中岡さんの誕生日を祝うのが
ちょっとだけ辛いの。








「え?」


「中岡さんがまた1歳年を取ってしまうのが」


「・・・・・・ゆいこちゃん?」


中岡さんがちょっとびっくりしてる。

・・・・当たり前だよね。
誕生日を祝うのが辛いって
恋人から言われちゃったら。


でも・・・・。
ここまで言ったのなら
ちゃんと話さないといけない。
なんであたしがこんな切ないのか。












あのね。あたし。

いつも中岡さんとの
年の差を考えちゃうの。

大人で素敵な中岡さんだから。
早くつりあうような大人になりたくて。
でも現実のあたしはとても子どもで。


8年って年の差が
とても切なくなるの。


こうやって誕生日が来て
大好きな中岡さんが生まれてきた日なのに・・・・。

あたしと中岡さんの年の差が縮まることが
無いっていうのをすごく実感するの。


こんなのわがままだってわかってる。
言っても仕方ないことだってわかってる。


中岡さんは今日で26歳になっちゃうのに
あたしはまだ17歳で。
全然子どもで。


・・・17歳の子どもだから
中岡さんもあたしに手を出さない。


大事にしてくれてるのはわかってる。
大人になったらきっと今以上に
中岡さんがしてくれるってわかってる。


わかってるけど・・・・。

でも、あたしそうやって
大人な中岡さんを感じるたびに
年の差を感じて寂しくなるの。








「ゆいこちゃん・・・・」


話しているうちになぜか
涙がぽろぽろと零れていくのがわかる。
あたし、切ないほどに
中岡さんのことが好きなの。

傍にいるからこそ
感じてしまう年の差。

その距離を縮めたくて。
大好きなこの人にもっと近付きたくて。













「ごめんね、気がついてあげられなくて」


そんなに年の差を気にしてるって
思ってなかったよ、ゆいこちゃん。

そう言って中岡さんが
あたしの頬に両手をあてて
自分のほうを向かせる。


仕方ないなぁって
そんな笑顔に見えるけど
でも、その笑顔はとても優しい。

あたしのことを
とても大事に思っているのが伝わってくる。






summerdream



「それなら・・・・」

ねえ、ゆいこちゃん。
オレに考えがあるんだけれど。









・・・・・なあに?



涙目で鼻声になってしまってる
あたしを、中岡さんの手が
あったかく包んでくれる。

視線を絡ませて。
中岡さんが優しく
あたしが大好きな笑顔で笑ってくれた。














年の差が気になるなら・・・・



「君がオレとの年の差を感じてるのなら、君が追いつくまで、歳をとらないでおくよ」

「え?」

「そんな風に感じているのなら」


にっこりと中岡さんが笑う。
あたしの顔に当てた手が離れて
そしてケーキに立てられた
蝋燭を1本抜いた。


ケーキには25本のろうそく。

抜いた小さな蝋燭を中岡さんが
大事そうにケーキ皿の上に置いた。


「オレの誕生日をしなければいい」


君がこの25歳になるまで。


「え・・・・?」


8年なんてあっという間だよ。


中岡さんの顔が近付いてきて
あたしの額に自分の額を
くっつける。

すぐ至近距離で見つめてくる優しい瞳。







君が8年後、25歳になった時。
オレが君が出逢った歳になった時。


その時から誕生日をしよう。


それまでオレはずっと「25歳」で
君のこと待ち続けるから。



きっとその頃には8年の月日が
2人の間にあるから
先に生まれた「8年」なんて
感じなくなっているよ、ゆいこちゃん。






「8年後まで・・・・?」

「そうだよ」

「中岡さん・・・・」


毎年君の誕生日を数えて
8回目になったら・・・・
そのときお祝いしよう。







それまでの間ゆっくり
2人で過ごそう。


追いつくまで待ってるから
急いで大人になることないよ。
今の君が好きなんだ。







きっと8年後には
君がこんなに8年の差を
切なく思うことはない。


約束しようっか。












そういって中岡さんが
優しくあたしの額に
キスしてくれた。









たまらなくなって
ぎゅっと抱きついた。








「中岡さん・・・・・」



とても嬉しい気持ちで一杯になる。
優しい、優しい中岡さん。
すごく愛されてる、って感じる。









年の差を気にするあたしに
誕生日を祝わないで
待っててくれると言ってくれた。








8年後・・・・。


あたしが中岡さんの歳になる。
中岡さんがあたしに出会った歳に。



そんな8年後も一緒にいてくれるの?








「中岡さん・・・・ずっと一緒にいて」
ずっとあたしの傍にいて欲しい。








大好きだから。
8年後、を過ぎても。
ずっと傍にいて欲しい。

いつでも好きだって何年経っても
あなたのことが好きだって確信してるから。

「いつだってオレは君の傍にいるよ」

それがオレの望みなんだから。
君だけの執事だし、なによりも君の恋人だから。

おれが大事なのは君なんだ。
だから・・・・。






「・・・・・大好きだ」


・・・胸が締め付けられるほど切なくなって。
中岡さんを見上げた。

切ないほど幸せで目を閉じると
中岡さんが優しくキスしてくれた。









「すき」が流れ込む。










中岡さんの沢山の「すき」があたしの中に。








暖かくて少し潤った唇が
あたしの唇を開かせて
優しく教えてくれる。
彼の気持ちを。
大好き、の伝え方を。
愛してるって言葉を。


言葉にならない気持ちが
溢れてくるような優しいキスで
あたしは自分の中にあった
悲しさ、苦しさ焦りや不安が
ゆっくりと溶け出していくのがわかる。






中岡さんの優しさが
中岡さんの気持ちが
あたしを溶かしてくれるの。







目を閉じても
中岡さんの暖かさがここにある。

暗闇の中でも中岡さんがいてくれて
全然怖くないの。
中岡さんに抱きしめられているから。
身体も心も。

あたしと中岡さんは長らくキスしていた。
気持ちが満たされて
うっとりとしてしまうほどの時間。


















不意に唇が離れる。


「中岡さん・・・・?」

離れ方がいきなりだったから
思わず名前を呼んでしまった。








ゆっくりと開けた目に映るのは
ちょっと赤い顔をして
恥ずかしがっている中岡さん。







え・・・?







「・・・・どうかした?」


「あ・・・・」



あたしの疑問に中岡さんが
少し戸惑った顔をしたり
目を伏せたり、どぎまぎしたり。

「・・・・・??」



思わず不思議なほど
ころころ変わる中岡さんの百面相を
ずっと見つめていたら。


中岡さんがあたしの腕を
ぎゅっと掴んで顔を覗き込んだ。


「中岡さん・・・?」
どうしたの?


「ごめん。ゆいこちゃん」

「え?」




・・・・何を謝られてるのかわからない。
さっきの続き?


「ごめん。オレ・・・・君のことが好きすぎて、間違い犯したくなる」

「っ・・・・!!」

「樫原さんには・・・・・分別ある付き合いをするように、と遠まわしに言われてるのに」







ごめん。君を目の前にして
こんなキスをしてたら
理性が保てないよ、オレでも。







そう言って、あたしをじっと見つめる
中岡さんの瞳にはさっきの優しい様子より
もっと熱情的な色が浮かんでるのがわかる。


そんな中岡さんに
どきっとしながら。






「・・・い、いいんだよ、あたしは」







中岡さんと今以上の関係になっても。


そんなあたしの言葉を
遮るように中岡さんが言う。


「いや、オレがだめなんだ」


ゆいこちゃんはまだ高校生で
オレは25歳の大人で
ゆいこちゃんが大人になるまで
待つつもりなんだ。


君のことを大事に思ってるから。
大事にしたいから。



手を出したくないわけじゃない。
そうじゃないんだ。







こうやって
キスしたりハグしたり
ただ傍にいるだけで
・・・・・満足できるから。


満足できるうちは・・・・。







目を伏せて途切れ途切れで聞こえる
中岡さんの言葉。







・・・・中岡さん。
なんだかすごく迷ってる?



思わずそう思ったけど
でも中岡さんが目を伏せて
あれこれと考えてるのがわかる。



「・・・・ねえ、中岡さん」


「・・・・ゆいこちゃん」


「中岡さんは樫原さんが言っていたように・・・・間違いは冒さないの?」


「え・・・・・っ!!」


あたしの質問で
中岡さんがすごくドギマギして
顔が赤くなっていくのが
こんな暗い中でもわかるよ。



中岡さんがゆっくりと
深呼吸するのがわかる。


息を吐き出すのが
聞こえたと同時に。



「ごめん。優しくしたいのに」
乱暴にしてしまったらごめん。

中岡さんがあたしを
ぎゅっと抱きしめた。

力の入り方がさっきとは全然違う。
もうどこにも行かさないという位の力。









「君のことが好きなんだ」
オレだって男だから。

「だからあまり可愛いこと言わないで」

「えっ・・・・」


顔を上げて中岡さんを見ようとしたけど
抱きしめてる腕の力がとても強くて。

あたしはそのまま中岡さんの腕の中にいた。
中岡さん・・・・今、どんな顔してるんだろう?









「好きだ」







大好きだよ、ゆいこ。










中岡さんがあたしの名前を
呼び捨てにする。


たまにしかしないけど
でも、そういう時は中岡さんがあたしを
好きでしょうがなくてたまらなくなってる時。

好きすぎて余裕がなくなってる時。


それがわかるから。

中岡さんの中で激しい葛藤があるのが
伝わってくる。









「・・・・・久志さん・・・・」


あたしも中岡さんの名前を呼んだ。
めったに呼ばない下の名前。



「ゆいこ・・・・」


中岡さんが何度もあたしの名前を呟く。
切なそうに。でも、とても愛しそうに。









・・・・それだけで十分。
ちゃんと「すき」は伝わってくるよ。













だから・・・・








「ねえ、久志さん・・・・」

お願いがあるの。









あたしの声に
中岡さんの腕の力が緩む。



「今日お誕生日の久志さんにあたしがお願いするのもおかしいけど・・・」


迷っているなら
今、あたしとの関係をここで
無理に進めなくていいんだよ。


大事にしたいって気持ち
伝わってるから。


ありがとう中岡さん。







でも・・・・。
せっかく今日は
2人で過ごす夜だから。



「今日の夜は・・・・・朝が来るまであたしのこと抱きしめてキスしてて」


さっきみたいなキスをして欲しいの。







中岡さんの「すき」が
わかるような。

あんなキスで
今日は朝まで満たされてたい。









「ゆいこちゃん・・・・・」

揺れていた中岡さんの瞳が
だんだんいつもの優しい瞳に戻るのがわかる。

それと同じように。
少し眩しいものを見るように。
あたしのことをじっと見つめてくれる。


「その代わり、いつか中岡さんがあたしと今以上の関係になりたいと迷いがなくなった時には・・・」

言葉の続きは要らない。






中岡さんはわかってくれる。
あたしの言いたいこと全て。
あたしが今願ったこと全て。






だって中岡さんだもの。







あたしの顔をじっと見つめて
少し赤い顔をして

「わかった」

優しく微笑んでくれた。


男の顔をした中岡さんも好きだけど
でもあんなに葛藤した顔をするほど
迷うのなら・・・・。


「約束するよ」

ふんわりと笑顔になる。
あたしは、この笑顔が大好き。








中岡さんが躊躇せずに手を出してもいいと
自分に許せるほどにあたしが大人になったら。

その時にきっと
今日の想いも叶えられるはず。

それまでは無理しないでいい。
これからずっと・・・
一緒に過ごす時間があるのだから。
焦らなくても、きっと。


きっとさっき約束した
8年の間には・・・・






















その夜。

あたしと中岡さんは
初めて同じベッドで絡み合った。


薄いネグレジェに
着替えたあたしを
中岡さんがキスしてくれる。


唇だけじゃなくて。

額。
頬。
瞼。
鼻先。
髪の毛。
耳元。
首筋。

鎖骨にも。
胸も。
腕も。
指一本一本。
うなじも。
背中も。
腰も。
太ももを撫でられて。
足の指先が大事に包まれる。







吸われるように。
舌を這わせて。
あちこちに中岡さんがキスをする。


中岡さんの手が優しくあたしの服を
ゆっくりと脱がせながら
キスで身体全体を包んでくれた。






それ以上はしないけれど。
でもそれ以上より
もっともっと・・・・・。







中岡さんが
中岡さんの唇が
あたしに触れる。

触れたところが熱い。
触れ合っている肌が熱い。








中岡さんの体温が上がってる。
あたしの体温なのかわからない。

ただ熱いに近い暖かさ。



中岡さんのキスで包まれながら
あたしは中岡さんから
彼の「すき」が沢山
あたしの身体に流れ込むのがわかる。


触れるところから。


その気持ちが血流にのって
心臓に戻ってくる。
心臓をドキドキとさせて
あたしの心に伝える。








「ゆいこ」


中岡さんの口から漏れる
あたしの名前。


どれだけあたしのことを
この人が好きか。
どれだけこの人が
あたしを大事にしているか。

好きだよ、って言葉より
もっとあたしに伝えてくれる。



「久志さん・・・・大好き」
「ゆいこ・・・大好きだ」


何度も繰り返される
キスと愛の言葉。


熱に浮かされるように
中岡さんの気持ちで
あたしの身体と心が
満たされていく。


これからもずっと
この幸せは続いていく?
・・・うん。
きっとずっと続いていく。


続いていく中でもっとあたしは
彼のことが好きになるし
彼もあたしのことをもっと好きになる。


あたしと彼の間にある年の差や・・・・
それ以外の色んなものさえ
きっと全て・・・・なくなってしまうわ。











こんなにも「すき」だから。


こんなにも「すき」をくれる人だから。










その幸せに包まれて。

中岡さんが生まれた日。

あたしは中岡さんと
8年後の約束をした日。



彼と初めて一緒に朝を迎えた。

日が高く昇るまで。
中岡さんはずっと
あたしにキスしてくれてた。






溶けるような甘いキス。

一晩中のキスが
沢山あたしの身体に残った。
勿論、中岡さんの想いは
あたしの心の中に。











「おはよう、ゆいこちゃん」

「おはよう、中岡さん」








目が覚めたら
中岡さんは先に起きていた。

目をこすりながら
キッチンに行くと愛しい人がいる。

片手でティカップをもって
ティオレを作ってくれてた
中岡さんがあたしの前に
にっこりとカップを差し出す。

コテージに光が差し込んでくる。





気持のいい朝。



「ねえ中岡さん。今日はなにしよっか?」


「ゆいこちゃんは何したい?」


向かい側に座った中岡さんが
カップに注いだティを飲みながら
こっちを見て微笑む。


こうやって過ごす朝が嬉しくて。

あたしは中岡さんに
にっこりと笑いかえした。












昨日の余韻が残ってる。


ずっと1つのようにくっついていた身体は
離れたけど・・・・
でもなんだか離れた気がしないの。



すごく不思議。

昨日のことは夢みたいな出来事だけど
でも夢じゃなくて。


中岡さんがくれた暖かさや
「すき」ですごく心が満たされてて・・・







とても幸せなの。







「ねえ、中岡さん」


「ん?」


「まず、おはようのキス、しようよ」

あたしの言葉に中岡さんがくすっと笑って
テーブル越しじゃなくて隣の席に来てくれた。


「ゆいこちゃん、おはよう」

「中岡さん、おはよう」



昨日の夜みたいなキスじゃなくて
もっと軽く。
でも気持ちは伝わる。
啄ばむようなキス。


その幸せに顔が緩む。


昨日の続きの今日だけど。
でも何か変わった。


あたしが気持ちを伝えたから?
それとも中岡さんが
約束してくれたから?


どっちかわからないけど
多分両方なんだと思う。


一緒にいる間に、毎日毎日変わんない気がするけど
でもちょっとづつあたしと中岡さんの関係は
変わっていくと思う。


変わる、より深くなるのかも。



お互いを思っている気持ちが。

昨日より中岡さんが好き。
そして明日は今日より中岡さんのことが好きだわ。

中岡さんもきっとそうなはず。
だって昨日よりもっと優しくて甘いもの。


中岡さんがじっとあたしを見つめる。
すごく大事そうに。愛しそうに。



あたしは中岡さんの気持ちが
いっぱい詰まったティオレを
カップごと両手で包んで
その愛をゆっくりと飲み込む。


そして傍に座る中岡さんの肩に
自分の頭をもたれさせた。


中岡さんが何も言わずに
あたしの肩を抱いてくれる。
そして・・・・・
髪の毛にキスしてくれた。


(ゆいこちゃん、すきだ)


聴こえないはずなのに
聴こえてくるよ。












昨日の・・・・・










夏の夜の約束が
叶えられるのは
きっと遠からぬ未来。












******* FIN.*********
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