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素直になれなくて  11/05/2008  


****** 素直になれなくて ********












「中岡さん。今すぐ紅茶入れてきて」
「はい、お嬢様、少々お待ち下さい」
「ミルクティがいいな」

あずまやで、あたしは中岡さんに紅茶を頼む。
いつもの、昼下がりの時間。
春の天気の中、沢山の花々が色彩豊かに
この庭の中で輝いているのが見える。


「やっぱりいらないわ。美味しくない。」

前に置かれたカップを、少し遠ざける。
今、入れてもらったミルクティ。


「あたし、ストレートで飲みたいから、これ下げて。」
「・・・・わかりました」
「今すぐ作ってきて」
「少々お待ち下さい」


わざと中岡さんの顔を見ないでいう。
多分、中岡さんはあたしの我がままに
少し困った顔をしているはず。
そして、当惑しているはず。


追い討ちをかけるように、
また、あたしは言ってしまう。


「・・・・あたし、中岡さんが入れる紅茶、飽きちゃった」
「・・・・・・・・・」
「真壁さんが専属だったら、もっとおいしい紅茶を毎日飲めるのにね」
「・・・・申し訳ございません」


なんでもない振りして、
あずまやの前に広がる噴水に目をやる。
噴水の後ろは、満開の桜。
その色の優しさと反対に、
あたしの中のぐるぐると渦巻く灰色な気持ち。


中岡さんが黙ってしまった。
多分、その顔は少し傷ついているはず。
中岡さんが、ミルクティのポットを持って
あずまやから屋敷へ急ぎ足で行く。







あたしは、その背中をそっと見詰めた。








ため息が出てくる。


こんな形でしか、中岡さんに関われない自分。
主人のわがままを断れないことを知ってて、
中岡さんに無理をいう。


それを中岡さんが困った顔をしながら、
叶えてくれる。







(アナタノコトガスキ)

この9文字が言えたのなら、
どんなに楽だろう。


好きでしょうがなくて、
この気持ちに戸惑ってしまって、
そして、どうしようもないってこと。





あたしは、「お嬢様」で、中岡さんは、「執事」。

執事だから、あたしの傍にいる。
そして、ワガママを叶えてくれる。
好きで傍にいるわけじゃない。
ただ、仕事だから傍にいてくれる、それだけ。



その事実が、あたしはとても嫌い。






だから、こうやって意地悪をしたくなる。
憎まれ口を叩いてしまう。




大好きなのに、つい・・・・。


嫌われてもしょうがないことを言ってしまう。
そして、困った顔をした中岡さんを見て、
あたしは、とても自己嫌悪に陥る。





どうして、こうなってしまったんだろう。








中岡さんの背中が遠い。
その背中だけしか、
見詰めることは許されず。

自分の気持ちは言えないまま。







これまでだって、そう。


あたしはいつも彼の背中を見ていて。







嘘泣きしたり、
わざと無視したり
わがままを言ったり、
たまに離れてみたり。


まっすぐな中岡さんの視線が痛いから。
こっちを見ないで。

優しい中岡さんの仕草に心が痛むから。


素直になれなくて
彼が傍にいるだけで
息が苦しい。


素直になれるのは、
彼があたしを見ていないときだけ。


こうやって、背中を見詰めているときだけ、
あたしは、大好きな中岡さんの姿を
じっと見詰めることができる。

息を潜めて、全てを忘れないように、
あたしはじっと見つめる。


その時だけ、あたしは心の中で告げるの。
あなたのことが好き、って。


こんなに好きで。
好きだけど言えない、この気持ち。


だから、いつも中岡さんを試す。


嘘泣きして貴方の反応を見たり。
わざとわかるような嘘をついたり。


どうして一番大事な気持ちには、
素直になることができないんだろう。


どうでもいいことは、なんだって言えるのに。


いつも、堂々巡りで、
あたしは、中岡さんのことを考えてる。


ミルクティも、ストレートティもいらない。
ただ、一緒にあずまやですごしてくれる時間が、
それが好きなのに。

一緒にいると息が苦しくて、
つい、ああ言ってしまう。
あたしは、目を閉じて、
少し痛む胸を押さえながら、ため息をついた。







(アナタノコトガスキ)






いっそ、素直にそう告げられたら
どんなに楽だろう。


中岡さんは、なんて答えるだろうか。

お嬢様に対しての返事じゃなくて
1人の女の子として、
返事をしてくれるだろうか。








ちゃんと向き合って欲しいと願いながら、
ちゃんと向き合わずに逃げているのは――-。










あたしだ。




俺は全て知ってる。





いつも君が俺のことを、
後ろから見つめてるのがわかるよ。
俺の背中を一生懸命見つめている。
そう、少し泣きそうな顔で。





どうしてそんな顔を、
俺が見ていないと思ってるんだろう。


君のわがままは全てわかってるよ。


わかりやすい嘘や、
わざと無視するような態度、嘘なきや、
八つ当たりのようなわがままや。



わかってて許すのは、
君が俺の背中を見つめて、
そんな切なくて淋しい顔をしているのを
知っているからだ。



いつも、君はそうだ。



俺をわざと困らせたあとに。
俺に八つ当たりをしたときに。
そして、1人で何かを諦めてしまうときに。


君は、俺が見ていないと思って
俺の背中をじっと見つめる。






その視線が痛くて。
そして、心地いいことを知ってる。






妙に俺を安心させることも。

だから振り返らない。








こうやってわがままを言っているうちは
君は俺から離れていかない。
嘘泣きをしているのは、
俺の気を惹きたいからだ。



我がままをいうのは、
それを俺が許すからだ。
俺の優しさに触れたくて、
そうやって、無理なことを
いうことぐらいわかってる。



俺は君の我がままを許すたびに、
俺の中の君への気持ちを確認するよ。








全てわかってる。







だから、こっちをみて。






俺が「執事」だから、
君の傍にいると思っているのかい。




それは違う。


最初の出会いはそうでも・・・今は違う。








今日は素直に、
君に俺の気持ちを伝えよう。


もう、試すことなんか、全然ないってことを。
傷つくことを怖がることはないってことを。


いつも俺の背中を見つめて
君からの無言の呟き、
ずっと聴こえてた。


俺の背中じゃなくて、
俺の顔をみて、
その口から、言葉で
君の気持ちをおしえて欲しい。



君が俺のことを好きだってことぐらい
もう、わかってる。







君のことが、俺も大好きだ。







君が俺のことを好きな以上に
俺は君のことが好きだ。



いつも、向き合おうとするたびに
するりと逃げてしまう彼女。
その彼女を逃がしたまま、
ずっと見つめていたのは、俺だ。


この関係が心地よくて、
そして、苦しいから。







「お嬢様、ストレートティです」

「ありがと」


少し不機嫌そうで、そして沈んでる彼女。
なにか面白くないことがあった
子どものような返事に、
俺は心の中でくすっと笑う。


カップを握る小さな指。
少し拗ねた表情。
わざとあっちの方向を見詰めている視線。


俺のことを気にしていないフリをしながらも、
しっかりと俺を観察している気配。



どれもこれも、可愛くて。
好きでしょうがない。






(キミノコトガスキダ)


飲み終わったカップに
またティを注ぐ。

この紅茶に、俺への恋心に
素直になる薬を入れてしまった。


もう、こんな、
わかりきった茶番はもう終わりにしよう。







そう。
今日こそ、逃がさない。



「・・・・・・お嬢様、少し私からお話があります」


思い切って、いきなり
そう切り出した俺の声に
振り向いた彼女の髪の毛が
ふわっと風になびいた。


後ろは桜吹雪。
吹雪のように花びらが散っている。
その花が全て、俺が君に捧げる愛だ。
花びら1枚1枚に、俺が君に沢山告げたい
愛の言葉が込められてる。



彼女の表情が、少し不安で揺れている。
目を伏せて、その顔を見せないようにする。

その仕草が妙に俺をほっとさせる。



そんな顔をしなくても、
俺は君から離れない。
君が心配しているような言葉を
俺が言うわけはない。


だって、ずっと君の傍にいたいのは
俺のほう。


どんなにワガママな彼女でも―――。














きっと、この恋は叶うはず。













俺が君のことをずっと好きなように
君も俺のことが好きだ。








その気持ちが、
今日1つになるのだから。


素直になりたくて、
素直になれなかった。


君がそうだったように、
俺もそうだよ。
傷つくのが怖くて。
この関係を壊してしまった後を
何度も考えて。



でも、そんな心配をするより、
君を抱きしめたいんだ。



だから、顔を上げて。

世界で一番優しいキスをしよう。









素直になることが怖くないって、
そう思えるようになるまで。
ずっとずっと傍にいて、
抱きしめてあげる。

俺の隣が一番安心すると、
君がわかるまで。



俺は、ふわっと彼女を抱きしめて、
驚く彼女のその耳元で愛を囁いた。










君のことが好きだ。
君の気持ちをおしえて欲しい。













・・・そして、彼女の返事が
春風に乗って、俺の耳元に届いた。








(中岡さんのことが好きだよ)










素直になりたかった。
でもなれなかった。

もう、そういう日々は終わり。

俺は君のことが好きだよ。
何度言っても足りないくらい好きだ。

これまでずっと素直に言えなかった分、
これからは、毎日
君に好きだって言い続ける。








ずっと傍にいるよ。









俺は、彼女を抱きしめた腕を
少し緩めて、少し震えている彼女に
優しくキスをした。
















***** 素直になれなくて Fin.*******
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