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夜の遊園地  11/04/2008  


******* 夜の遊園地 *******



5月12日火曜日。
この日はあたしの恋人であり
専属執事である隆也君のお誕生日。    

もちろんあたしは、その日に向けて着々と準備中。
今度のお誕生日は・・・・あたしと隆也君が付き合って、
初めての誕生日だから。

(隆也君がとても喜んでくれることをしたいな)

隆也君はあたしの専属執事だから、常にあたしが快適なように
お仕事してくれてる。言ってみればいつもあたしは、
隆也君にしてもらっているばかり。

(あたしだって、隆也君に何かしてあげたい!)

今度の誕生日がちょうどいいチャンスだと思う。
日ごろのお礼も込めて。大好きだよって思いも込めて。
恋人として毎日傍にいる隆也君の最高の笑顔をみたい。

(誕生日はスペシャルにするんだ!)

はりきったあたしの「隆也君の最高な誕生日」
秘密大作戦はまず、プレゼント選びからはじまった。



・・・・・・・・・


―――-しかし、作戦実行はなかなか困難だ。
だって、隆也君は始終あたしのそばにいるから。

朝は部屋に起こしに来るし食事時間は配膳や待機、
学校の送り迎え、帰宅後のティータイム。
そして、夕食後は執事としての仕事を終えて
あたしの部屋か2人で散歩しながら恋人の時間。
寝る前のキスでお別れしたら、おはようのキスでまた会う。

(隆也君とびっしり一緒だから・・・秘密裏に動けない・・・・)

あたしは、唯一隆也君と一緒にいない学校での時間、
授業中に一人頭を抱えていた。

(12日、もうすぐなのに・・・・)

まず、あたしが立てた計画は、隆也君のプレゼントを
どうするかが最初の鍵。
この間のバレンタインみたいな欲しがっていた靴、
とかじゃなくて。
もっともっと、隆也君が意外に思うもの。

あたしは、できれば今年のプレゼントは
植物にしようと思ってた。

隆也君はあたしの専属になる前は庭師だった。
今でも庭の手入れを手伝ったりもするし、植物にすごく詳しい。
植物のことをあたしに教えてくれる時の隆也君は、
執事の隆也君より、ほんのちょっぴり・・・生き生きしてる。
あたしは、それを見ると、
(やっぱり庭師の仕事の方がいいのかな?)って思ったりもするけど、
でも、隆也君は執事としてあたしの傍にいることを望んでいるし、
あたしだって、隆也君に傍にいて欲しい。

隆也君が庭の仕事を手伝いに行ったりするのも、
少しだけ複雑な思いをしたりすることもある・・・・。

でも、あたしは思うんだ。

好きな人の好きなものを好きになりたい。

だから、あたしは隆也君が大好きな植物とかも好きになりたい。
隆也君がどんなお花が好きで、どんな樹木が好きか知りたい。

そして・・・・。
あと1つ思いついていたのは。
隆也君はあたしの執事になるために、言ってみれば、
これまでの自分の仕事だった庭師を離れて、執事になってくれた。

あたしはそれに感謝してる。

あたしの傍に寄り添ってくれたことが。
あたしの側に来てくれたことが。
だから今回の誕生日では・・・あたしが隆也君の傍に寄り添いたいと思う。

つまり隆也君の趣味とかその世界に、あたしが近付きたいってこと。

隆也君が大好きな花をあたしが植えて、それを育てて隆也君にあげよう。
きっと隆也君はそんな素朴なプレゼントでも喜んでくれる。
あたしの気持ちが入ってるって言ってくれる。

お金で買えるものは何でも買えるけど、でも隆也君は
そんなのを望むような人には思えないんだ。
もちろん欲しかったものをもらったら嬉しいっていうはずだけど。

当たり前のプレゼントじゃなくて、あたししかできないような、
そんな特別なプレゼントをあげたい。

きっと、植物とか成長していくイノチみたいな自然が好きだと思うから。
そういう見えないものを形にして隆也君にあげたいと思うの。


(まずはリサーチ!)



あげたいものの目星はついたとはいえ、隆也君に見つからないように
秘密作戦を実行するには、なかなか困難だ。

ばれたら面白くない。
スペシャルにしたいんだもん。
隆也君にばれないように準備して、当日びっくりさせて余計に喜ばせるの。

隆也君が驚いたあとに満面の笑みで喜んでくれることを
あたしは予想してにんまり笑った。

隆也君が好きなお花を知っている人、と考えたときに、
真っ先に浮かんだ人は瞬君だ。
バレンタインの時に、瞬くんから隆也君が欲しいものを
おしえてもらったから。
今回も、まずは訊いてみよう。





・・・・・・・・




「ねえ、瞬君?」
「はい、お嬢様!」

にこにこ笑顔でこっちを振り向く瞬君を玄関先で捕まえた。

隆也君は今、あたしのお茶を入れに厨房へ行っているはず。

「あのね、隆也君のことなんだけど・・・・」
「ええ?」

ごにょごにょごにょ。

(隆也君が大好きな花、とか何か知らない?
他の植物、木でもいいんだけど・・・)

あたしの意外な質問に少し目を丸くした瞬君だったけど、
すぐさま笑顔で答えてくれた。

「隆也さんはどんな植物でも好きです」

・・・答えになってないよ、瞬君。

「そうじゃなくて、なんか・・・気に入ってる、とか、
好きそうな花とか、・・・・」
「お嬢さん?」

そこまで聞いたときに不意に階段上から声が降ってきた。
振り向くとティーセットを載せた台車を押す隆也君だった。

(意外と早くお茶入れれたんだ・・・・)

「しゅ、瞬君!今のはナイショで」

小さな声で急いで言ったあと、あたしは隆也君のところへ走った。

「あ、隆也君、どうしたの?」
「いや、お嬢さんこそ。今、すごい勢いで階段昇ってきたっすけど?」
「あ・・・ううん、なんでもないの」
「瞬となにか話されてたんじゃないんですか?」

あまり疑うことをしらない隆也君だから、とりあえず
瞬君から話題を逸らせば大丈夫!

「う、うううん、なんでもないよ。」
「え?でも瞬のヤツ、こっちを見てますけど?」

あ・・・・。
下を見ると、瞬君がこっちを見て会釈してくれてる。
その笑顔が・・・。
ばれたらこまる。さっきのあたしの質問なんて!

「だ、大丈夫だよ。早く行かないとお茶が冷めるから、部屋に行こ?」

あたしは、いぶかしげな隆也君の背中を押して部屋まで行った。



・・・・・・・

瞬くんは隆也君好きなお花や植物がわからなかった。
第一候補、消え。
第二候補は・・・・やっぱり。
一緒に庭仕事をしていた誠吾君だ。
誠吾君は・・・瞬君より、捕まえにくい。

瞬くんはフットマンで、だいたいは玄関先とかにいるから
隆也君の目を盗んで(!)聞きにいけたけど・・・・。
誠吾君は、さて、今日はどこで庭仕事をしてるんだろう?
あたしは、自室で隆也君が入れてくれたお茶を飲みながら、
窓の外の九条院家の庭園をじっと見つめていた。

(どっかでお花とか植えてるのかな?)

見える範囲に誠吾君の姿はない。

・・・むやみやたらに誠吾君を探して庭を歩き回るのは
さすがに隆也君に見つかる恐れがある。

(庭にいる誠吾君を探すには・・・・)
「隆也君。今日のアフターヌーンティーはあずまやでやりましょう」

この方法が一番だ。



・・・・・・・・・・・・



「今日は、キャラメルチャイですよ、お嬢さん」

いきなり、あずまやでお茶をしようと言い出して
さっきのティーセットを持って、隆也君と2人で庭に出た。
チャイが冷めるから、もう一度入れてくると厨房へ行った
隆也君の背中を送った後、あたしは、目を凝らして
庭仕事をしているであろう、誠吾君を探した。

よーくよーくみてみれば庭の片隅の作業小屋の近くに
誠吾君がいる。


「誠吾君~!」

少し遠くから声をかけたら、その声に気づいたのか、
誠吾君が振り返った。
なにか、花の植え替えをしているのかスコップを持ってる。
おおい、と手を振りながら近付くのを、
誠吾君が怪訝そうな顔で見ている。


「誠吾君!」
「・・・・・なんすか?」

誠吾君はシャイだから、口数が少なくて、そっけない。
それも、もうわかっていることだから、そのまま続ける。

「いきなりなんだけどね、隆也君のことで・・・・・」

隆也君の名前を出すと、少しだけ誠吾君の表情が変わる。
誠吾君は隆也君にすごく懐いてる。隆也君のことを話すときの
誠吾君の顔が、少しだけ嬉しそうなのは内緒。
だってそんなことを言ったら、誠吾君、絶対照れて、
どっかに行っちゃうもん。

「隆也君の好きな・・・お花とか、わかるかな、誠吾君?」

少し周りをはばかりながら、小声で訊く。
そんなあたしに誠吾君は目を丸くした。けれど無表情のまま言った。

「隆也さんは何でも好きっすよ、花も木も」

・・・・・こっちでも同じ回答か。
ああ、ふたりともだめじゃん。
どうしよう。
二人から聞けないとなると・・・・。
少し頭を悩ませて、うーん、って唸ったあたしを
誠吾君が、不意に笑った。

「隆也さんは庭仕事長いっすから」

長いといってもさ。やっぱ、好きな花ぐらいはあるんじゃないかな?

「・・・隆也さんに訊いてみたら?」

・・・それができたら、こうやってコソコソ訊いてまわりません。
どうしようって、への字になったあたしを誠吾君がくすっと笑う。
隆也君とあたしが恋人同士になってから
少しづつ誠吾君と関わる時間も増えた。

シャイで照れ屋、警戒心の強い誠吾君は最初の頃、
あたしとあまり関わらないようにしてた。
でもだんだんと、あたしと隆也君が恋人同士で
よく話題にでるようになったからか
あたしとも喋ってくれるようになった。
誠吾君は隆也君のこと、だいたい知ってると思ったんだけどな。

誠吾君は照れ屋でシャイだけど、その分だけ人の気持ちには
意外と気づく方だと思う。鋭いところがあるっていうのかな。
隆也君はどちらかというと性格がマイペースで兄貴肌。
のほほんとしているわけじゃないけど、すごく心が大きくて、
それでどしっと構えてる。

・・・・・隆也君が特に好きな花や植物とかに
こだわりがないっていうのは、実は少し予想していた。

だって、隆也君って、こだわって大事にするタイプっていうよりは、
どちらかというと全体を愛してる、博愛主義っていうか、
平等主義っていうか・・・・。

そこまで考えて、うーんって唸っていたあたしを誠吾君が目で促す。

「・・・・隆也さん、あっちいますけど」

あ・・・・。

誠吾君の答えで少し落胆して、考え込んでいるうちに、
あずまやでお茶をすると、隆也君を厨房に行かせたことを忘れてた!
はっと振り向くと、隆也君が厨房からあずまやへ歩いていくのが見える。

「せ、誠吾君ありがとう!」
(さっきのこと、隆也君に言わないでね!)

小声で付け加えたあたしを誠吾君がくすっと笑って、軽く手を上げた。

隆也君があずまやに近付くのをみて、あたしは、少しわざと
ゆっくり歩きながら、いかにもそこら辺を散歩してました風で
歩いてみた。
その姿に隆也君が気づいて声をかける。

「お嬢さん、どうかしました?」
「ううん、ちょっと花壇の花が綺麗だから見てたの」

いつもだったら、あずまやの椅子に座って
隆也君がお茶を持って来るのを待ってるのに
こうやって辺りを「散歩」してるってあんまりあたしらしくない。
そうわかりながらも、とりあえず誤魔化した。

少し隆也君がまた怪訝そうな顔をしていたけど、
でも、チャイおいしいね、って盛大にその味を褒めながら
なんとか、ごまかした。



第一候補と第二候補が潰れた。

・・・隆也君の好きな花に別にこだわらなくてもいいかな。
とりあえず、季節の花でも植えてプレゼントしようか。

ああ、でもなあ。

悩みながら、あたしは、隆也君とお茶の時間を過ごす。
ちらっと隣を見ると、隆也君があたしのことを見つめてる。

「なんか考え事っすか?」

(あ・・・あたし今、考え事して心ここにあらずだったな)

いつもだったら、隆也君と2人で弾んでお喋りしてるはずなのに。
隆也君の誕生日を1ヶ月前に控え、あたしは、どうやって隆也君に
喜んでもらえる誕生日にするかってことで頭がいっぱいだった。


「お嬢さん、最近悩み事でもあるんですか?」
様子、なんだかおかしいっすよ?

隆也君に訊かれても答えられない。

なんでもないよ。ただ、ちょっと春だしね。
先日のお花見疲れたし、新学期でクラスメートも変わったから、
ただ、すこし疲れてるだけだよ。

なんて誤魔化すと隆也君はその言い訳でさえ真剣に受け止めてくれて、
疲れが取れる手のツボを押すって、手のマッサージをしてくれる。
これで少しお嬢さんが楽になれば、って
にっこり笑顔で、あたしの手をにぎにぎする隆也君。

あたしは、少し罪悪感を覚えながら・・・・。

(ごめんね、今は隠し事だけど、誕生日の日は・・・
とっても喜ばせるからね!)



それにしても。

なんで、あたしは恋人なのに隆也君の好きな花もわからないんだろう。

そう考え始めると、すごく不思議。
隆也君はあたしの好みとかを全部覚えるために、
ひそかにメモ帳に毎日あれこれと書いている。
隆也君はあたしのことをよく知ってるのに
あたしは、隆也君のこと、本当に知ってるっていえるのかな・・・?

そう思うと、なぜか不安になる。

ただそこにいる隆也君の笑顔や隆也君自身が彼であるって
わかっているのに。
彼のことをあんまり知らないって・・・・なんか悔しいっていうか、
悪いなぁって思う。

(あたし、お嬢様って立場に甘えて、隆也君に頑張ってもらってるだけなのかもしれない)


そんなことを考えちゃう。

あたしも、もっと隆也君のことを知りたい。
恋人として、隆也君のことを。
もちろん、今の隆也君自身が、彼だってことはわかってる。
でも、もっと隆也君を今の隆也君を作ってきた、
色んなものを知りたいと思う。

どんなことが好きなのか。
どんなことが得意なのか。
どんなことに興味があるのか。
どんな家族環境か。
どんな思い出とかがあるのか。
どんな子ども時代を過ごして今にいたるの、とか。

そんな、基本的なこと。
どんな道を歩いてきたかってことね。
少しでもいいから、隆也君のことを、もっともっと知りたいと思う。

そんなことを考えていたら、不意にあたしの頭に
あるアイディアが浮かんだ。



・・・・・・・・・・・・



「大木さん、ごめんなさいね」


あたしはにっこりと笑った。
あたしが今いるのは、隆也君のお父さんとお母さんの住んでいる家。
九条院家の敷地の外れに使用人の人たちが住む建物がある。
住み込み・・・っていうのかな。
隆也君は祖父の代から庭師として九条院家に仕えてきたと聞いてた。
それで樫原さんに尋ねたら、隆也君の家族が住んでいるお家を
教えてくれた。

「お嬢様、それで、隆也の何を・・・・?」

少しいぶかしげに心配そうに訊いてくる隆也君のお母さん。

「あ、心配するようなことじゃないないです」

あたしは、素直に話すことにした。


来月、5月の12日って、隆也君の誕生日じゃないですか?
あたし、隆也君にサプライズでなにかプレゼントをしたいと思って。
彼だったら・・・・植物が好きだから、彼が好きな花とか木でも、
なにか、あげたいな、って思って。
その・・・・隆也君の好きな植物とか親しい友達にも聞いたんですが
特にないって言ってて。
あ、それはそれでいいと思うんです。隆也君らしいし。
ただなにか、ちょっとでも気に入ってるのとかを知っていたら、
教えていただきたいなって思って。それか、これまでの隆也君の中で、
なにか思い出に残るような花とかあれば・・・。


「おしえていただきたいです」


・・・多分、屋敷の「お嬢様」が自分の「執事」について
こうやって誕生日だからといって、あれこれと訊いてくるのは、
びっくりだったみたい。
目を丸くしている隆也君のお母さんに、あたしは慌てて付け加えた。

「た、隆也君はあたしの専属で毎日良くしてくれます。一番傍にいる、執事・・・だからこそ、隆也君のことを知りたいっていうか・・・・」


なんだか、すごく言い訳がましく感じてあたしは、
最後まで言い切れなかった。
でも、気持ちは伝わったみたいで、隆也君のお母さんは、
にっこりと笑ってくれた。
その笑顔が、隆也君の笑顔に似てると思う。
親子なんだ・・・。そんなところにもあたしは目がいっちゃう。

「お嬢様がそのように、うちの隆也を思ってくださっているのは、母親としてとても嬉しいことです」

思わぬ感謝に、あたしは少し気が引けた。
恋人・・・だから、こうやって隆也君のことが知りたいんだけど・・・・。
でも、ここでそれを言う訳にはいかない。

「大木さん・・・。あたしは・・・」

「お嬢様。隆也は確かに植物に関しては、どれも好きです」

でも特に好きだ、という花もなかった気が・・・。
庭仕事にしても、隆也はどの花も贔屓目に他より多く植えたり、
というのは、なかったですね



・・・・ここでもやはり。やっぱり隆也君の好きな花は訊き出せなかった。
ううん、特に好きな花っていうのは本当にないのかもしれない。

(んー、作戦変更かな)

そう思って、いつも考えるときの隆也君みたいに、
あたしは斜め上を見て少し口を曲げながら、考えた。

その表情を見て、隆也君のお母さんがくすっと笑う。

え・・・?

「どうかされました?」
「いえ。今の表情が少し・・・・隆也に似ていたもので。失礼しました、お嬢様」

あ・・・・。
あたし、隆也君と一緒にいるうちに彼のクセが移ってしまってるんだ。
少し恥ずかしくなって頬が赤くなっていくのがわかる。

それで。うつむいたら。

「隆也の思い出の花・・・・・そうですねえ」
もしかしたら、あの花かしら・・・・?

隆也君のお母さんの口から出た
花の名前は意外だった。


隆也君の思い出の花、ってことでお母さんが思いついたもの。

ちょっと待っててくださいね、って出て行った後、
しばらくして持ってきたのが整理されていない写真束だった。

忙しくてなかなか写真の整理ができないものだから、溜めてるんですよ。

そう苦笑しながら隆也君のお母さんがあたしに箱から出した
写真束を見せる。
あと、どこにいったかしら、とアルバムも持ってくる。

(隆也君・・・・結構写真が多いんだ)

やっぱり一人息子だからかな?

見せてくれるアルバムをめくっていく。


どれも子どもの頃の隆也君が、今みたいに明るくて陽気で
しっかりした笑顔を向けている。

(やんちゃ坊主って感じ)

沢山泥まみれな隆也君や自転車で遊ぶ隆也君とか。
とても可愛い写真が多い。

(こんなの、見てていいのかな?)

ふと、隆也君に内緒で彼の小さい頃の写真を
見せてもらってることでドキドキしてしまう。
可愛い子ども時代のことを知ることが出来た嬉しさのドキドキ。
でも、内緒で見てしまってるドキドキ。
隆也君の過去をなんだか覗き見したようなドキドキ。
可愛い隆也君の姿にドキドキ。

でも、ぱらぱらめくっていくうちに気づく。

隆也君の写真のほとんど、その背景は九条院家の庭だ。

木登りしている写真。
おうちの前の玄関先に座ってる写真。
花壇の横をお母さんに手を引かれてる隆也君。

(本当に九条院家で育ったって言ってもいいね)

さすがに住み込みで3代だなと感心していたら、
1枚だけ、ちょっと違った写真があった。


「この写真・・・・?」

他の写真は、日中の庭での写真やそれか部屋の中での写真なのに、
その1枚は、なぜか夜の写真、それも野外での写真だった。

「これは、隆也が9歳の誕生日の時の写真です」

え?

「ここは・・・・遊園地?」

隆也君の後ろに写ってるのは観覧車。
立っているところは、遊園地の入り口かな?
なんか電気消えてて営業終了って感じだよ?
切符売り場の前で隆也君が一人立っていて
そして、手になにか握ってて、カメラを見て笑ってる。

「これって、遊園地、閉まってませんか?」

あたしが指したのを見て、隆也君のお母さんが苦笑した。

「この写真、本当はその日遊園地に行こうって言ってたのに、なかなか仕事が終わらなくて」

住み込みで働いている隆也君のお父さんとお母さん。
たまたまその年は隆也君の誕生日の5月12日が日曜日だった。
いつも住み込みで働いてて家族みんなで休みになるってことも
なかったけど、その日は・・・・誕生日だったから、
すごく隆也君は楽しみにしていた。
それで隆也君が行きたがっていた遊園地に、誕生日の日、
家族で行く予定だったとのこと。


それが、当日。


屋敷に急な客人が泊まりに来て、お父さんとお母さんが
屋敷での仕事に借り出され。結局、隆也君のその年の誕生日は
家族で遊園地に行くことは出来なかった。
でも、ずっと楽しみにしていた隆也君が、別に不満をいうこともなかった。
それが余計に可哀想に想えて、その日の夜、もう深夜になっていたけど、
隆也君を連れて、夜の遊園地に来た。
閉園後だったから、中には入れなかったけど記念にって入り口の前で
写した。



とのことだった。



「あの子は、そういう子なんです。昔から」


そうにっこり笑った隆也君のお母さんの笑顔は隆也君にやっぱり似てる。

「心が大きい子なんで、めったに怒ったりすることがないんですよ。マイペースで、駄々をこねたりせず、一生懸命で、一途ですごく気も長いし。」

確かに。それは、あたしがよくわかる。
だって、あたしのすごいワガママも隆也君は怒ることもなく
呆れることもなく、諌めたり、無視することなく、全て受け入れてくれて、
それを叶えてくれる。
隆也君は本当に心が広くて。そして、自分のペースがあって
イライラで乱れたあたしにひきずられることはあんまりない。

たまにそのマイペースさが嫌になることもあるけど
でも、本当に包んでくれる心の広さがある。


「この写真のときも、隆也は別に遊園地は来年でも、次にでも行けばいいって笑ってたんです」

写真の中の小さな隆也君は、にっこりとこっちに向かって笑ってる。

隆也君のお母さんは、そのときのことを思い出しているのか、
懐かしそうな顔をしてる。
多分・・・・隆也君のお母さんは、隆也君がそう言った気持ちを
わかっていたんだろうな。


あたしは、もう一度写真を見る。


こっちを見て笑ってる隆也君。でも、その笑顔は・・・・。
たまに隆也君が頑張りすぎてちょっと一生懸命すぎるときに
見せる笑顔に似てる気がした。

(きっと・・・遊園地に遊びたかったんだよね、家族で)

隆也君のことだから、お父さんとお母さんの仕事を理解してて、
ちゃんとお留守番できるコだったと想う。
誕生日の約束を破られて多分悲しかったはずなのに。
こうやって笑顔で笑って写真に写ってる

隆也君が、小さいながらも、今の隆也君と同じような
強さを持ってる気がしてあたしは、ちょっと微笑んだ。


そうだよね。
隆也君はこんな人だ。


隆也君は、自分の中の弱さとか寂しさを見せないだけの
強さを持っている人。
だからこそ、あたしは好きになった・・・・。


思わず胸が熱くなった。

あたしが微笑んだのを見て隆也君のお母さんが、付け加えた。

「隆也は、実はこの日、私にプレゼントを準備してて・・・」

え?

「5月12日。そして日曜日、となれば、お分かりになられますか?」

え・・・・?
えっと・・・。
5月の日曜日・・・・って。
お母さんにプレゼント準備・・・・?



あ!

「もしかして、母の日ですか?」

その言葉に隆也君のお母さんがにっこりと微笑んだ。

「その年の誕生日は、母の日と重なってて」

それでその時に、隆也が私にこの花をくれたんです。
カーネーションの花。赤い花だ。
写真の中の隆也君は、2輪ぐらい手に握っている。
なんかリボンみたいなのが茎で結ばれてるけど、
セロファンなどはなくて、剥き出しだ。



これは隆也が初めて自分が育てた花でした。
私たちの目を隠れて、隆也はこの花を育ててて、
誕生日の日に、私にプレゼントして
驚かせようと想っていたみたいです。


庭師の家に生まれて、隆也には、小さい頃から
屋敷の仕事を見せてきました。
でも隆也は木を植えたりするのは好きだったけど、
なかなか花は自分から興味を示すことはありませんでした。
まあ、それよりもわんぱくで木登りばかりして、
木を折っているような子でしたから。


そういって隆也君のお母さんはくすっと笑った。


そのわんぱく坊主の隆也が、初めて花を自分で植えて、
そして、その花を切って、私へ母の日のプレゼントにしてくれたんです。このことは、大事な思い出です。


そういって、隆也君のお母さんは
とても愛しそうな瞳で、アルバムの写真を指でなぞった。

写真の中の隆也君が握っているカーネーションの花。
あんまり大きいわけじゃないし、剥き出しで握っているので、
ちょっと茎が折れたようにも見えるけど・・・・。

(きっと、隆也君、お母さんに喜んでもらいたかったんだな)

隠れてプレゼントを準備していたってあたしと同じコトを
考えちゃうんだ、隆也君。
思わず、そのことであたしは、ひとり笑った。
こういう思考回路が似てるって、悪くない。
むしろ、・・・・とても嬉しい。

(ちょっと、最近あたしの行動を疑ってるけど・・・)

あたしがサプライズで誕生日祝いをする気持ちも
きっとわかってくれるはず。

「もしよかったら、この写真を貸してくれませんか?」



ちょっといいアイディアが浮かんだ。






・・・・・・・・・・・・・・・



あたしは、隆也君のお家を出て九条院家の母屋へ歩いていた。
ポケットの中には、さっき、隆也君のお母さんから
貸してもらった写真が1枚。
部屋を出る前に、あたしは、ちょっと昼寝をするから、って
隆也君を休憩にさせた。
多分、遊戯室でくつろいでるか自室で隆也君も昼寝してるはず。

あたしは、ちょっと考えたいことがあって
それで、庭の木が沢山植えられてる一角に来て、そこにちょこんと座った。

ここは、月桂樹の木下でかなり香りがいい。
昼間より夜のほうがよく香るんだけどね。
誠吾君のお気に入りの場所と教えてもらったことがある。
彼がいつも座っているように、少し座りこなれた場所があるから、
あたしは、屋敷に背を向けてそこに座った。


そして、ポケットから写真を取り出す。


その写真は、まだ小さい隆也君の写真。
夜の遊園地の前で手にお花を握ってこっちを見て笑ってる写真。


隆也君のお母さんに話を聞いて。
写真を見ていて。


自然と心の中でプレゼントは決まった。

隆也君がお母さんにあげたカーネーションにしよう。
それも真っ赤なの。
で、プレゼントする場所はもちろん、遊園地で。

この写真の年のリベンジじゃないけど。

多分、誕生日の日に遊園地に行きたかったって想いは、
隆也君の中で残っていると思う。
それを叶えてあげたいっていうか。

・・・・・すごく想像の中の世界なんだけど。

隆也君の誕生日を2人、遊園地で過ごす。
プレゼントは、あたしが育てたカーネーション。


うん、悪くない。



想い出の上書き、っていうか。なんていうんだろう。


あたしが思うに、隆也君はあの日、すごく悲しかったってより、
多分「こんなものかな」って諦めたんだと想う。
あの隆也君のことだから、ものすごく泣いたりとか
そんなことはしなかったはず。
「まあ、こういうこともあるさ」と。
でも、手に握り締めたカーネーションはその日、
家族で遊園地にいけなかった悔しさや寂しさを表していると想うの。

だから・・・・。
5月12日をどう過ごすか。


あたしが隆也君に何かとても喜んでもらえそうなこと。
隆也君にしてあげたいってことが決まった。


誕生日の日に遊園地で笑って想い出を作る。

それだけ。




「よし。」

人知れず、呟いた。





・・・・・・・・・・・



5月12日までタイムリミットは2週間ほど。
(2週間でカーネーションを種から育てられるかな?)
それはちょっと不安。

とりあえず、専属でついている隆也君の目を盗んで
あたしが、こうやってプレゼントを準備するなら、
これは、協力してもらう人がいないと出来ない!


そう想ったあたしは、あの人に相談することにした。










「―---2週間で育てられるかな、ね、樫原さん?」
「そうですね。育てられるといえば育てられますが、種子からですと、少しお時間が心配ですね」

あたしは執事長の樫原さんに相談した。
なんで樫原さんにしたかっていうと、隆也君のお家のことを聞くときに、
樫原さんに頼んだし。

それに、隆也君が専属執事だとはいえども、さすがに樫原さんだったら、
その執事の仕事をどっかに振り分けて、敢えて、あたしが
動きやすいようにしてもらえるじゃないかなって想ったから。
案の定相談したら樫原さんはいつもの柔和な笑顔で笑った。

「ゆいこお嬢様、種子からではなく、苗から育てられたらどうでしょうか?」

それなら2週間ありますし、苗の大きささえ選べば大丈夫です。


樫原さんは、確かに有能だ。

あたしが、隆也君の誕生日に自分の育てたカーネーションをあげたいって
相談をしたら、あと2週間の間でどうやったらいいのか、など
すぐさま、カーネーションの苗を手配してくれた。
そして、届いた苗の世話を九条院家の庭の一角にある花壇近くで
出来るようにしてくれた。

ついでに、毎日隆也君に仕事を言いつけて、
あたしが自由に動ける時間を作ってくれた。


その間の時間、あたしは、こっそり苗の世話をする。
そして、隆也君は樫原さんに言いつけられて、仕事をする。
真壁さんと一緒に銀食器を磨いたり。
真壁さんから紅茶のおいしい入れ方を教わったり。
真壁さんから革製品の正しい手入れの仕方を習ったり・・・・。

ようするに、隆也君は、樫原さんから言いつけられて、
あたしから離れる時間は、執事としての職務の基本を
真壁さんから仕込まれていた。

執事としての仕事に関しては完璧主義者の真壁さんを先生に、
隆也君は毎日苦戦しているよう・・・。

毎日一定時間、専属の仕事から解かれて真壁さんに執事の仕事を教わる。
そうすることが、一人前の執事に早く近付く方法だから。
教育という名目で、樫原さんが隆也君に話をしたらしい。

もちろん、一人前の執事に早くなりたくて自分でも努力している
隆也君のこと。

その話を断るわけはない。



「もう真壁さんったら、こんな顔でみるんですよ、俺のこと」

失敗したときの隆也君を見る真壁さんの冷静かつ沈着で
眉に皺がよった顔を真似しながら、隆也君が話してくれる。
その顔がおかしくて、あたしは思わず笑ってしまう。

(真壁さんにしごかれてるんだ)

ちょっと悪いかなって想ったけど、でも隆也君はこのことには、
結構前向きで「頑張ります!」と言う。
本人が前向きだからこそちょっとだけ原因を作ったあたしは
少し罪悪感。
でも多分いいよね。これも執事の勉強の機会として。

まさか・・・・あたしが隠れてカーネーションを育ててるって
想わないだろうな・・・・。

隆也君が真壁さんにたっぷりとしごかれている間、
あたしは、部屋でのんびりしてることになってる。
毎日、決まった時間に隆也君が真壁さんのところへ行く。
たまには樫原さんのところにも行くみたいだけど。

「それじゃあお嬢さん、時間ですから」

そう断って出て行く隆也君を見送ったあと、
あたしは、こっそりと庭の隅にある苗を置いてるところへ。
水遣りしたり、たまに肥料を入れたり。日当たりを調整したりする。

とりあえず、毎日様子を見に行く。





・・・・・・・・・・・・



5月に入って。
あんまり沢山苗を置いているとばれるから、10苗だけ。
1苗から1本ずつでもカーネーションが咲いたら10本に出来るし。
10個の苗のうち、5苗ほどに蕾がついた。

(咲いてくれたらいいな。12日ごろ・・・・)

毎日世話をしに来るうち、愛着がわいてきた。
綺麗に咲いたらいいな。

これをプレゼントするときの隆也君の嬉しそうな笑顔が
今から目に浮かぶ。

プレゼントは大丈夫そう。


と。


あとは、会場の遊園地だ。

遊園地の手配も、樫原さんにお願いした。
写真に写っていた遊園地は、九条院家からまぁ近いところにある。
一日貸切でもいいと思ったんだけど、でもよくよく考えてみたら・・・・。

隆也君はあたしの「専属執事」って立場で、それも両親ともに
九条院家で働いている。
その・・・・他の人からみたら、“使用人”である隆也君の誕生日を
ご主人様であるあたしが九条院家の力を使って、遊園地全体を貸切にして、
派手に誕生日パーティを開いたとしたら・・・。
多分・・・・隆也君はどう思うかなって思ったんだ。

他の人の手前、仕事や屋敷での立場がやりにくくなったら、
こうやって誕生日パーティを開く意味がない。

そりゃぁ恋人としては、隆也君に最高の誕生日を過ごさせたいから
本当は、2人っきりの遊園地にしてしまいたい。
夜の遊園地を2人で気兼ねなくデートするって、とても素敵だと思う。
樫原さんに頼めば、すぐさま1日ぐらい遊園地を
貸しきりにしてもらえるってわかってる。


でもそうじゃなくて・・・・。


今回は。

この誕生日は、できるだけあたしの力で隆也君を楽しませてあげたい。
そう、あまり派手じゃなくて。


だから、樫原さんにお願いしたのは、夜中0時の誕生日の時間。
遊園地の観覧車だけを貸切させてもらうことだった。

ちょっとだけだったらいいよね。

そして遊園地を、隆也君のお誕生日の日の0時あたりに
数時間開園してもらうこと。

(あまりハデにしてばれないように)

ちょっとだけ、貸切の時間は。


樫原さんにお願いしたら、すぐさま了解してくれた。





・・・・・・・・・・


準備は完了。




あたしの作戦はこうだ。


まず、隆也君の誕生日前日の11日の過ごし方。

普通どおり学校に行く。
もちろん、「明日は誕生日ね」なんて言わず、忘れているふりで。
(だって、サプライズだから)
そして、学校が終わったあと、普通どおりにディナーの時に。
「藤の花がライトアップされて綺麗なところがあるんだって。行きたいな」
と夜のドライブに行きたいと仄めかす。
つかさず樫原さんのバックアップ。

(もちろん樫原さんはOKでGOサインをだす)

あたしと隆也君がほかの車で夜の藤のライトアップを見ている間、
樫原さんは、遊園地に行って準備をしてくれる。
樫原さんの車には、あらかじめ準備した隆也君へのプレゼント
カーネーションの花束を積んである。

準備ができたあと、あたしは連絡を受けて、
藤のライトアップを見た帰りに、遊園地前に車で寄ってもらう。

遊園地の入り口あたりにあらかじめ、樫原さんと相談して
ある場所に隠してあったプレゼントを持って、
0時になったら隆也君を出迎えて

「サプラーイズ!」

って叫びながら、プレゼントのお花を渡す。

ちょっと、夜に藤のライトアップを観にいくから、
夜のドライブなんて、苦しい言い訳だけど、
でもとりあえず、自然な流れで、0時には遊園地前にいること。

・・・・隆也君のお誕生日に他の誰よりも最初に
おめでとうをいうのは、あたしでいたいもん。


色々考えて、カーネーションの花束に、
お誕生日のメッセージカードを書いた。

メッセージカードを買いに行くのも大変で、
ファンシーな文具を買いたいと学校帰り街に出たときに、
隆也君の目を盗んでこっそり買った。
お買い物のお代は全て執事の隆也君が払ってくれるんだけど、
そのときは女子高生しか入らないようなお店で、恥ずかしがる隆也君を
入り口に待たせて、任務を完了した。


隆也君におやすみなさいをした後、そのメッセージカードに
日ごろからのお礼と、あたしの気持ちを書く。

(いつも傍にいるけど、カードを書くって照れるね)

カードでちょっとだけの文章にしようって思ったのに
書き始めたら、あれこれと書きたくて。
考えに考えて、ちょっとした手紙になってしまった。


「ゆいこより」

(よし。カードの準備は完了!)


あとは無事に当日を迎えるだけだった・・・・。

そう、迎えるだけなはずだったのに。



前々日の夜。



ディナーも食べ終わって、隆也君と2人、
お茶をいれてもらって部屋でのんびりしていた。
もちろん、あたしの関心はいつも隆也君だけど、
この日の一番の関心は明後日のサプライズな誕生日祝い。

(明日の夜は、どうにか理由つけて藤のライトアップにいかなくちゃ・・)

樫原さんがいてくれるから、どうにか大丈夫かなぁ・・・・。

自室だから、隆也君があたしの傍に座ってくれて、
お茶を飲むあたしの話し相手をしてくれてる。
誰も見ていないあたしの部屋だから恋人同士・・・なことをしてもいい。
あたしは、隆也君の肩にもたれかかって甘えながら、隆也君とお喋りする。


・・・・いつもだったら、この時間が一番楽しいのに
あたしの心は上の空だった。

だって、明日の準備で樫原さんに隆也君へのメッセージカードを
預けなくてはいけない。

それに・・・・。

話が弾んで、隆也君が明後日は俺の誕生日~、なんて言い出したら・・・・。

もちろん話の流れ的に「おめでとう」っていうはずなんだけど、
サプライズなお祝いを準備している身としてはそのようなことは!!



断じて避けるべき。



そのサプライズを明かす時間までは
「お誕生日?ん?誰の?」ぐらいの勢いでとぼけておかなくては、
驚かせる楽しみがない!



ちらっと隆也君を見る。


いつもだったら、お喋りなあたしが沢山喋っているのに、
今日は口数が少ない。

だから、隆也君がにこにこしながら、自分の話をしてくれてる。
でも、自分の誕生日の話は一切なし。


それが不思議。


(隆也君、あたしが気づかなかったら誕生日のこと、自分から言わないつもりかな?)

もうそろそろ誕生日だから、って自分から言ってくれてもいいのに。
遠慮、とか、恋人同士にはいらないよね。


やっぱり、あたしが“ご主人様”だから、それで言えないのかな?


そんなことをぼんやり考えていたら、不意に、片方の頬をつままれた。


「いたー!」
「何考えてんだよ?」
「ん?あ、な、なんでもないよ?」

笑ってごまかす。
そのあたしの様子をじーっと見ている隆也君。

(う・・・疑われてるかな?)

最近、ちょっと隠れてお花を育てたり樫原さんと打ち合わせしたりで、
実は、なかなか隆也君と2人っきりの時間っていうのが少なかったりする。

(それはそれで・・・寂しいだけどね)

でも、全てはサプライズな誕生日のため!
顔では笑って、心は鬼に!!

作り笑いで、にっこりしたあたしの頬を
隆也君がまた、いーって横にひっぱる。

「い、いたいよ、隆也君」
「・・・・だって、なんか、その笑顔怪しい」
「え・・・・?」
「お嬢さん、なんかオレに・・・・」
「っ・・・・・!!」

そ、それ以上言わせたらだめだ!
思わず、それを遮るために
あたしは嘘の咳払いをした。

「ご、ごほごほごほっ!!!」

真似だけのはずだったけど、思わず一気に咳払いをしたものだから、
むせてしまった。大丈夫?って隆也君が背中を撫でてくれる。
とりあえず、誤魔化されてくれたかしら、今ので。

ごほごほと、涙目になるように(嘘だけど)
ちらりと、隆也君を見ると、すごく真剣そうな顔をして、
あたしの心配をしてくれてる。

(・・・・・・)

風邪?
お茶が不味かった?
気持ち悪い?

思わず隆也君の疑問を遮るための演技だったんだけど、
なんかすごく心配されてしまって。


・・・隆也君ったら。

だ、大丈夫だよ。ちょっと慌ててお茶を飲んだからむせたみたい。
そう言ってみせたら、隆也君が本当に慌てん坊なんだから、って
にこっと笑って背中を撫でてくれる。

・・・・そう簡単にあたしの言葉を信じちゃうんだね、隆也君。

その、絶大な「信頼」が、今のあたしにはちょっと
後ろめたいっていうか・・・。
ううん。
なんていうか、隆也君に隠し事してるのがちょっぴり苦しい。
申し訳なくて凹んだあたしを、不意に隆也君がぎゅっと抱きしめた。



え?



抱きしめられながら、隆也君があたしに呟く。


最近様子がおかしいけど、どうかしたって。
・・・・どうかしたことあるけど、それが
隆也君の誕生日のためだっていうのは、言えないよ、まだ。


ごめんね。言える時になったら隆也君にちゃんと言うから。


なんか、微妙な濁し方で答えた。

(明日になったら・・・・明日の誕生日祝いさえ終われば!)

問い詰められてへの字口になって黙ったあたしをみて、
隆也君が少し溜息をつく。


最近、本当に様子がおかしいぜ?

(ごめんね、まだ言えないの・・・・)

それならいいけど。そう言って、あたしのお茶のお代わりを
入れようと後ろを向いた隆也君の背中にあたしは
テレパシーを送る。



明日になれば!
最近あたしが変だった理由はわかるはず!
(ついでに真壁さんにしごかれてる理由も!)
あたしの不審な動きも!



あたしのへの字口が伝染した隆也君に
あたしは、ぎゅーって後ろから抱きついた。


20090511172510.jpg



心配することなんて、なんにもないよ。
今はまだ内緒だけど、明日はきっときっと特別になって、
そして、全て疑いが解けるから!


そう心の中で呟いた。

隆也君は、なんか勘づいてるっていうか、
ちょっとあたしの様子が最近おかしいのを気づいてるみたいで・・・・。
誤魔化されないっていうか、納得していない顔をしていたけど。

でも、あたしがぎゅっと抱きついて

「なんでもないよ」

って言ったら、ちゃんといつもの笑顔を返してくれた。


隆也君におやすみなさいをした後。





あたしは、こっそりと部屋を抜け出した。

(樫原さんにカーネーションの花束に入れてもらうカードを届けなくちゃ)

こっそりと自室のドアを開けて確認する。



カチャ。

鍵の音さえ響かないで!って思う。隣の部屋には隆也君がいるから。

(・・・いつもだったら仕事終わったらすぐにシャワー浴びるはずだから)

そう計算して、あたしは、物音を立てないようにそっと自室を出た。
こっそりと廊下を歩きながら、あたしは隆也君の部屋の前で
ちょっとだけ忍び足になる。
絨毯が厚いから別に忍び足にならなくても、
足音が聞こえるとは思わないけど。

気持ちだけ。

ドアの下からは、部屋の光が見える。
(隆也君・・・ごめんね)
でも、明日までの辛抱だから!

目指すのは、執事長の樫原さんのところ。
多分、まだ執事室にいると思う。
いつも、樫原さんがお仕事をする部屋。




部屋の前まで来たときに。



ドアがいきなり開いた。


真壁さんが、するっとドアから出てくる。
ぶつかりそうになったけど、直前で真壁さんが避けてくれた。

「お嬢様、いかがなさいましたか?」

顔色ひとつ変えずに尋ねられる。
しっかりと目を見据えて訊いてくるから。
(こ、これが隆也君の言っていた無表情ね・・・・)
思わずどぎまぎしてしまう。

「あ・・・いえ、たいした用はないんだけど」
「そうですか」

(・・・み、見つめられてる・・・!)

「お嬢様のお部屋まで、お送りいたします」
「っ・・・!」

連行されちゃう!

思わず、慌てたあたしは、
「あ、え、えっと、大丈夫です!樫原さんに用があって」

そこまで言ったときに、執事室のドアが開いた。
樫原さんが顔を出す。

「ゆいこお嬢様」
「あ、樫原さん」

その間で真壁さんが、あたしたち2人をじっと見つめている。

「お嬢様、お待ちしておりました。どうぞ」

そう言って執事室へ手招きしてくれる樫原さん。

「真壁は下がってよろしいですよ」

にっこりと笑う樫原さん。それをじっと見ていた真壁さんは

「それでは、私はこれにて失礼いたします」

丁寧に腰を折って挨拶した後、行ってしまった。

(・・・なんか、今の誤解されたっぽくないかしら?)

背筋がしゃんと伸びた真壁さんの後姿を見ながら、
あたしは、ちょっとだけ不安になった。
なんだか、ちょっとだけ驚いた顔をして、
樫原さんとあたしを見比べていたよね。


「さあ、お嬢様」

そう促されて、あたしは部屋に入った。







・・・・・・・・・・・





「お嬢様、どうされました?」
「樫原さん、これ、お願いしたくて」

カードを差し出す。
ちょっと可愛い模様の入ったカード。

プレゼントの花束は、前もって入り口付近の花壇に
隠してもらうことにしているから。
ちょっと隆也君が目を話した隙に
あたしがそれをとって、0時になったら、お祝いを言う。

その間、カードを花束に入れたりって時間はないはずだから、
先にカードを預けておくのが一番だろうと思った。
あたしの手元のカードを見て樫原さんがやさしく笑う。

「大木は幸せ者ですね」

その言葉で、かーっと恥ずかしくなってしまう。

「あ・・・いえ、その・・・・」

樫原さんにあたしと隆也君が付き合ってることはばれているのに、
こうやって言われると、すごく恥ずかしい。

「お預かりして、花束の中にお入れしますね」
にっこりと笑う樫原さん。
「きっと、大木はとても喜ぶと思いますよ」

さあ、もう遅い時間ですので、お部屋までお送りしましょう。


カードを受け取った樫原さんが、
あたしを部屋まで連れて行ってくれる。


(これで、明日の準備はよし!)


明日の夜中、遊園地でサプライズに驚かせた時の
隆也君の笑顔が今から眼に浮かぶよう。
廊下を歩きながらも、にんまり顔のあたしに、樫原さんが微笑む。

「お嬢様、明日は楽しみですね」
「うん!」

なんか、カーネーションの苗やら遊園地の手配やらで色々と
樫原さんには手間をかけさせてしまった。

「樫原さんがいてくれるから・・・・」

できるだけ一人で準備したかったけど、なかなか、お嬢様、って立場では
自由が利かなくて。樫原さんがいてくれて本当に助かった。

「ありがとう、樫原さん」

部屋の前でお礼を告げると、樫原さんがゆっくりとドアを開けながら、

「ゆいこお嬢様のためでしたら、私は何でもいたしますよ」

にっこり笑ってそう言ってくれる。

(樫原さんって・・・・本当に人の心を掴むのが上手だよね)

その優しい言葉に、あたしもにっこりと笑った。

「じゃあ、明日」
「ええ、明日ですね。」

あたしと樫原さんは暗黙の了解で、にっこり笑った。


そう、明日は秘密作戦決行の日なのだから。

「樫原さん、ありがとうございます。おやすみなさい」
「おやすみなさいませ、ゆいこお嬢様」

ぱたっと、ドアが閉められた。

ふう、と息をつく。


明日の準備はこれで終わり。あとは、うまく・・・・その時間まで
隆也君にサプライズパーティなのを知られないようにするだけ、かな。
ちょっと後ろめたい気持ちを抱えながらも明日の悪戯と
サプライズパーティのことを思って、あたしは、わくわく気分で寝た。









11日、誕生日の前日。
あたしは、白凛の制服を着て、鏡の前でしかめっ面をしていた。

(・・・・・隆也君に明日のこと、気づかれないようにしなくちゃ)

だから、わざとそっけなくすることにした。
朝ごはんの時間だと部屋に呼びにきた隆也君に
いつもはおはようのキスをするけど、今日はちょっとだけ軽めに。
挨拶程度。

本当は、いつも通り首に抱きついて
キスしたいくらいだけど、我慢我慢。
いつも、抱きついて頭を撫でてもらったり
優しくキスしてもらう時間がなくて寂しいけど・・・・。

でも、今日は少し距離を置いて隆也君の口から
自分の誕生日の話題が出ないようにするの!

だからいつもは、朝のキスで甘えてご飯の時間ぎりぎりまで、
隆也君といちゃついてるけど今日はわざとそれもスルー。


あれ?って顔を隆也君がしている。

それはわかってるけど、わざと見ないふり。

ご飯を食べたあと、学校までの道。
鞄を持って一緒に歩いてくれる隆也君と
いつもだったら歩調を揃えて
一緒に歩きながら、それもゆっくり歩きながら、
別れるまでの時間を惜しむ。
でも今日はすたこら歩いて、隆也君とあまり話しもせず。

(あんまり話をすると、ボロが出ちゃうかもしれないからね!)

あれれ?って顔で、また隆也君があたしの背中を
見つめているのがわかる。

(ちょっとその視線が痛い・・・・)

でもわかって。


今日はあとで喜ばせるためにここで、すこし
距離を置いてるだけだよ。


あたしの、多分そういう目論見は全く通じてないと思うけど。

教室前で鞄を奪い取るようにして、
隆也君にさよならをいう。

隆也君は一瞬なにか言いたげな顔をしてたけど、
もう授業始まるから、と、自分から先に切ってしまった。



隆也君を見送って。

あたしは、自分の席に鞄をおいた後
そっと窓際に行き、校庭を歩く隆也君を探す。


いつも隆也君とやっている合図。


今日は、それさえもスルーしようかと
思っていたんだけど・・・・。


でもこれはあたしの大好きな毎日の日課だから。







大好きな人はすぐにわかる。

目印が上がってるかのように。


カメラのピントが合うように。




隆也君の後姿。




あたし、隆也君の執事姿すごく好き。
なんていうか、たくましいし、背も高いし。
そしてなによりも雰囲気がいいと思う。

隆也君は、あたしのクラスメートからも意外と人気がある。

専属執事として教室まで鞄を持ってくれて
帰りも迎えてくれるんだけど
その時にちょっとだけ他の女の子から視線を感じる。
隆也君はすごくマイペースな人だから
そんなことに気づいてないだろうケド。


(あたしの恋人なんだよ、このかっこいい人)

堂々と言えたらいいのに。
いつもそう思う。

隆也君が校庭を横切りながら、振り向いて、
あたしの教室の方向を見た。


いつも2人だけの内緒の合図。



教室まで送られた後、あたしは隆也君が車に戻るのを
窓から見送って手を振るの。
もちろん隆也君も手を振ってくれる。


2人だけの合図。


普通の「お嬢様・執事」の関係だけじゃなくて、
あたしたちは恋人同士だから。


いつものことながらあたしは隆也君が
振り返るのをドキドキしながら背中を見詰める。
そして、振り返ったらその姿にドキッとする。
まっすぐに隆也君の視線があたしの姿を探しているのがわかる。

こんなに遠くにいるのに。
あたしを見つけてすぐさま笑顔になる隆也君。

あたしは、いつも通り、隆也君にだけわかるように
ちょっとだけ手を振った。
それを見て、隆也君が笑顔で手を振るのが見えた。

その姿に、あたしは胸がドキドキしてくる。

本当だったら、今すぐ隆也君のところに走っていきたい。
そして、抱きつきたい。


今日は・・・・ちょっと隆也君にあまり触れてなくて寂しいな。



でも、夜中の0時を過ぎたら。2人でデート。
それも、遊園地で!



それを考えたら。
サプライズで驚かしたときの隆也君を想像したら。

とりあえず、今なんか、あたしたち
雰囲気悪いけど、でも大丈夫なはず。
隆也君のために。これまでで一番だ、っていうくらい
思い出に残る誕生日をあたしが作ってあげたいの。

(だって、大好きなんだもん)

大好きで大好きで。いつも傍にいて欲しいと思ってて。
これからもずっと一緒にいたくて。

いつもの2人の合図を終えて隆也君が校門を出て行くまで
あたしは、その後姿を見つめていた。





学校が終わって廊下に出たら、隆也君が迎えに来ていた。



いつも通り。



だけど、違うのは、なんだか、あたしが
朝と変わらず「よそよそしい」ことだけ。

隆也君がなにか、ちょこちょこ話題を見つけて
話しかけてくるけど、あたしは、とりあえず、
そっけない態度で流していた。

(やっぱり驚かすためには、それとない演技よね、演技)

しばらく話しかけてきていた隆也君だけど、
でも、あたしがあんまりにも無反応だから、だんだんと喋らなくなって。
校門を出るまでの間、あたしたちは気まずい雰囲気だった。



車に乗り込んで、すこしため息をつく。



(なんか・・・・隆也君が言いたそうだけど、でも・・・・)


考えたら、今日はまともに隆也君と話をしてないや。
いくらサプライズの誕生日パーティをばれないように
用心しているからといって、これはちょっとやりすぎかな。
こうやって学校の時間以外は、ほぼ一緒にいるって言うのに、
まともに話をしてないって、隆也君と喧嘩をしたときくらい。

今日はそんな日じゃないけど、でも、喧嘩のときと同じような
態度を取ってるっていうのに、ちょっとだけ気づいた。

(いくらなんだって、やりすぎかな・・・?)

ちょっとだけ心配になる。

せっかく明日は誕生日なのに、隆也君ったら、自分の誕生日、
なんて一言も言わない。(あたしが言わせてないだけ?)

考え事をしていたあたしに不意に隆也君が訊く。


「お嬢さん」
「え?なあに?」

振り返ったら、真剣な目をした隆也君がすぐ傍にいた。

「オレ、なんかお嬢さんの気の障ることでもしたっすか?」
「え・・・・」
「なんか変ですよ、今日」
「う、ううん。なんでもないよ」
「なんでもないって態度じゃないって思うんですが」

うっと詰まってしまう。
確かに今日のあたしの態度はさすがに変だよね。
いつもだったら甘えん坊で隆也君に抱きついて離れないぐらい
べたべたなあたしが、自分からそっけなくしてるもん。

そんなあたしに隆也君は戸惑ってる。

「・・・・ううん、本当になんでもないんだってば」
「・・・・それならいいんですけどね」

それ以後、会話無し。


とても気まずい。



あたしの回答が腑に落ちないのか、隆也君のほうも、
思案顔になって、少し口をへの字にして考え込んでる。


チラって隆也君の横顔を見る。




(絶対・・・・訳わかんねえって思ってる顔だわ)


いくらなんでも、不味かったかな。
ここまで、そっけなくするのは。

でも、こうやって距離を置いておかないと、
あたしは、夜中0時の楽しい計画で頬が緩んできそうだったから。
隆也君がきっと喜んでくれるって思うから、
それを想像して嬉しくてにやけてしまうの。



とはいえ。


少ししょんぼりとした顔の隆也君を見ていると、胸が痛んだ。

隆也君は何も悪くないんだよ。
悪いどころか・・・・。こうやって隆也君のことを
サプライズで驚かすためとはいえ、
そっけない演技をしているあたしは、ある意味、かなりの嘘つきだ。


(ん・・・・なんか、自分でやっておきながら後味悪いや)


早くサプライズ誕生日祝い、終われ!

隆也君のお誕生日になる、その日の0時0分には。
一番傍で。隆也君にごめんね、と、大好きだって告げよう。


ため息をつきながら、あたしは、今日の夜の楽しい
サプライズに想いを馳せた。



・・・でも、隆也君は。




あたしが思っていたよりも、ずっとずっと
あたしの態度を気にしていたみたい。




学校から帰って自室で制服を脱いだあと、
宿題をしようとしたら、不意に隆也君から抱きしめられた。





ゆいこ。
オレ、本当になんかした?


すこし苦しそうな声で訊かれてあたしは何も言えなかった。



なにかオレに隠してることはある?



恋人同士の口調で訊かれる。



さっきの車の中での質問とは違う。
あれは、執事としての口調だった。

でも、訊かれても何も答えられない。



だって、隆也君の誕生日パーティを計画して
サプライズするために隠してるんだよ、て
ここで言ってしまったらこれまで準備した意味がない!

特別な誕生日パーティにしたくて
プレゼントだって、吟味した。
カーネーションだって綺麗に咲いてきてる。
まだまだ蕾もあるけどでも、小さな花束にできるくらい
本数はできた。

樫原さんにだって、遊園地の手配を頼んだり。




「ゆいこ。ねえ、答えて」
「・・・・本当になんでもないよ」
「嘘。態度にすぐ出てるぜ」
「・・・・・」

・・・何もいえないあたしを隆也君がじれたのか、
そのまま沢山キスされて、白状するようにといわれたけど、
何も言わなかった。


ただ、言えるときが来たら言うから。


そうしか言えなかった。


(あと、数時間の我慢だから、ね、隆也君)


そう心の中で繰り返すあたしに、隆也君がびっくりすることを言う。


樫原さんの部屋に
昨日の夜、何しにいったの?

え?


硬い声と硬い表情。


思わずびっくりしてしまった。
でも、そう訊いた後の隆也君はすごく気まずそうな顔をして、
その言葉を取り消した。


・・・気づいてたんだ。
というより、見てたのかな?
あたしが樫原さんの部屋にカードを持っていくところを。

(あれは、隆也君への誕生日カードを預けただけだよ)

そう言ってしまえたら楽なのに。
それが言えなくて。
言ってしまったら、サプライズじゃなくなるから。
計画を全部話さないといけないから。



黙り込んだあたしを、隆也君がぎゅっと抱きしめた。



ゆいこ、好きだ。


耳元で囁かれる。
ちょっとだけ、その声がいつもより硬い。
いつもの隆也君らしくない。

「あたしも隆也君のこと、大好きだよ」

じっと目を見つめて言った。
それを見て、隆也君がじっと見返す。そして、ふっと笑った。

・・・でも、あたしにはわかってる。

その笑顔は、隆也君がちょっとだけ無理したときにする笑顔だってこと。
そして、口をへの字にして、納得はいってないけど、
でも、いいや、って顔をするのもわかる。

(さすがにマイペースな隆也君でも、あたしがちょっと変なそぶりを見せたら、すぐにわかるんだね)


変なところで、あたしは感心していた。





あともう少ししたら、あたしの計画がわかるから。
そして、最高の誕生日になるから。

あたしは、微笑みながら隆也君の胸に抱きついた。
ぎゅーっと抱き返される。

そしていつも通り膝に座らされて
あたしはだっこされて甘やかされた。

隆也君からしたら問題は解決してないだろうけど、
でもいつも通り、あたしのことを甘やかす。

それは、多分、あたしにとても甘いから、だと思う。



隆也君。

もうちょっとだけ騙されててね。
最高のお誕生日を
プレゼントしてあげるから。





あたしはそんな隆也君の優しさに頬ずりするようにして甘えた。




ディナー後、計画通り藤の花を観にいった。

もともと、藤の花のライトアップを
夜に観にいこうって計画を樫原さんが出してくれた。


誕生日の前日だってばれないように、
1週間ほど前から、予定に組み込んでくれて
それとなくわからないようにしてくれた。

だから、あたしがディナーの席で藤の花が見ごろなんだって、
って話題にだしたら、つかさず樫原さんが、
そろそろ見ごろが終わるから早めに、なんなら今日の夜でも、と
話題を繋いでくれた。




夜のドライブ。

平日の夜だから、そんなに遅くならないうちに
帰るんですよ、と玄関先で樫原さんが笑顔で見送ってくれる。

(樫原さん・・・めっちゃ演技派だね)

なんて感心する。車に乗り込みながら、樫原さんに軽く会釈をしつつ
(おねがいね)って口だけ動かして伝えた。

そしたら、樫原さんがにっこり笑いながら
(お任せ下さい)と声無しで伝えてくれた。








棚は見事だった。
もう花の盛りは終わったかな?と思っていたんだけど、
例年より遅咲きで、まだ花は大丈夫だった。

ライトアップされた藤の花たち。
ほんのりと香ってくる藤の花の甘い匂い。

「すごく綺麗・・・・」


藤の花って、普通の花よりもすごく色気がある気がする。
桜の花のライトアップは華やかですっきりした美しさがあるけど
藤の花のライトアップは、まさに艶やかって言葉が
ぴったりだと思う。

ライトアップされた藤の花を見ながら、
すぐ横を歩く隆也君をちらりと見る。


「ね、隆也君!いい匂いするね」

その言葉で、隆也君が鼻をくんくんさせながら、
にっこり笑う。

ほんとだ、いい匂い。

「お嬢さん、匂いのある花が好きなんですね」

さっき部屋で充分に隆也君に甘えていつも通りをしたせいか、
隆也君の態度が少しだけ柔らかい。
にっこり笑って、こっちを見つめてくれる。

「え?」
「いつも、お嬢さんは花を見ると、その匂いのことをいうから」
「あ・・・・そうだっけ?」

あたしは自分のことだからか
そんなこと気がついたこと無かった。

言われてみれば、確かに。
お花を差し出されたら、
その匂いを一番に嗅いでみるかな。

「そういえばそうだね」
「でしょ?」
「ふふ。隆也君、あたしが気がついていないところもよくわかってるんだね」
「当然です。だって専属執事だし、それに恋人ですから」

にっこりと笑って胸を叩きながら言う隆也君。

たくましいな~。
思わずその笑顔に釣られて笑ってしまう。
隆也君があたし自身も気づかなかったクセを
知っていたことがほんのちょっぴり嬉しかった。


「隆也君ってさ。あたしのこと、本当によく知ってるよね」


執事さんとして傍にいることもあるけど。
あたしが感心するくらい、隆也君は、“ゆいこメモ”を持っていて、
あたしの好き嫌いを、細かくメモしてる。
執事の仕事のうちだからといわれても
そんなの、恋人に言われると、あたしはくすぐったくて仕方ない。


「だって、俺はお嬢さんに関しては、もう世界一っていうほど知っていたいんですよ」

「え?」

「つまり、お嬢さんの隅から隅まで知りたいってことです」


にこっと笑った顔がほんの少し赤い隆也君。

あたしの隅から隅までって・・・。
その意味がなんだか、とても甘くて。あたしも、釣られて赤くなった。


「あたしは・・・・隆也君にそう言ってもらえると嬉しい」

「俺だって、お嬢さんのことを沢山知るたびに」
もっともっと好きになるから。だから
もっと知りたいっていつも思うんです。


なんか、すごく恥ずかしくて。
あたしは、その隆也君の言葉に顔を上げきれなくて。

だから、そのまま、すとんと、隆也君の胸に
あたしの頭を預けた。


今は・・・誰も周りにいない。お屋敷の人は誰も。
だから、こうやってもたれて甘えても。見咎められない。

(今日は・・・ずっと隆也君と距離を置いてたから)

こうやってしているだけですごく落ち着く。
隆也君はその大きな手であたしの背中を支えてくれて、
髪の毛を撫でててくれる。甘えっ子だな、と微笑みながら。

あたし、やっぱり隆也君と離れるとか
(そんなこと一度も考えたこと無いけど)
だめだな、って思う。

今日だって、目的があって隆也君と少し距離を置いただけで、
こんなに・・・欠乏気味だもん。



「ほら、あっちの方にも行ってみよう」

あたしがいつも通りに甘えてきたせいか
隆也君がさっきよりもっと柔らかく笑ってる気がする。

足元がぬかるんでいたりするので、気をつけてくださいね、って
手を出してくれる隆也君。


「手を繋いでくれる?」

あたしの言葉に、隆也君がにこっと笑う。
そしていつも通りにエスコートしてくれる。
あたしは、この優しい恋人に本当に大好きだ、って
伝えたくてしょうがなかった。

だから、人目につかないところへ
隆也君と歩いていった。


藤の香りが漂う。
夜の方が匂いがこもる気がする。

空を見上げると、満月に近いお月様。
夜遅くて、ライトアップを観に来てる人も少ない。


「お嬢さん、ちょっと上向いて」
「ん?」


人目を盗んで、隆也君があたしにキスをしてくれた。
啄ばむようなキス。

藤棚の下で。
垂れ下がる藤の花に隠れて。

ちょっとびっくりしたけど、でも、そのキスは優しい。
両頬を隆也君の大きな手で包まれる。
見つめられて微笑む。


誕生日前日のキス。


ねえ、隆也君。
今日の夜は特別だけどでも、特別なのは、
この藤棚だけじゃなくてもっともっと、あれこれあるからだよ。


意味深にふふっと笑ったあたしに
隆也君が目を丸くする。
そしてにこっと笑った。


それってオレの誕生日のことっすか?



単刀直入に訊いてくるものだから、

(誕生日の話題だしちゃったけど・・・・でも、ごまかせばいいか)

「ん?それっていつのこと?」

と訊き返した。

もちろんわかってるけど、でも、あと少しで
サプライズの時間なのにここでばらすわけにはいかない!


(それにしても、ここ数日、ばらさないように大変だな・・・・自分)

そう思いつつも、質問をするりと抜ける。
隆也君がすこし残念そうで、なにか言いたげなのがわかるけど。
それ以上何も言わせなかった。


(わかってるよ、隆也君!)


あたしは、心の中で呟いた。

それ以上の質問はだめ、とばかりに、あたしは自分から背伸びして
隆也君にキスをして、口を封じ込めた。





・・・・・・




藤のライトアップを2人で手を繋ぎながら歩いて。
途中何度も隆也君をキスで防ぐ。


こうやって2人でいちゃついていたいから
もう少しここにいようよって誘うと、
隆也君はもちろん嬉しそうな顔であたしにキスをしてくれる。

そうやってキスしている間に時間がどんどん過ぎて。





あたしは、こっそりと時計を見る。
時間は11:30.


そろそろかな。






「もうこんな時間だから、帰ろう?」

そう言うと、少し隆也君が目を丸くした。

「もう少し、ここにいない?」
「え・・・・?」
「ほら、もう少しで日付変わるし・・・・」


(あ!そっか。隆也君、もしかして、ここで誕生日の0時を迎えようと・・・)


思わずあたしも目を丸くする。
隆也君が少し赤い顔をして、少しだけ口をへの字にして、
どっかの方向を見て言う。

「俺、もう少しここにお嬢さんと一緒にいたいっす」

(それはあたしもだよ!)


で、でも!!

お誕生日の0時は、ここじゃなくて
別の場所で過ごすんだから。

隆也君、サプライズを気づいていないにしても、
とりあえず、ここを離れて・・・
移動して遊園地に行かなくちゃ!!


ここにいたいっていうのを断る理由もない・・・ないけど、
とりあえずここを出ないといけない。

焦ったあたしは思わず


「あ、あたしはもう疲れて眠いから早くお屋敷に帰りたいんだ」

なんて言ってしまった。
その言葉を聞いた途端に隆也君が、がっかりした顔をした。

(あ・・・・傷つけちゃった・・・?)

そりゃあそうだよね。
あと30分ぐらいで自分の誕生日だし。
その誕生日の0時に大好きな人といたいって、
それも2人だけのロマンチックな場所で、って思うのは
隆也君だけじゃない。


(もちろん、あたしも・・・でも)


少しがっかりした顔をした後に、隆也君は
すぐさままたにっこり笑ってくれた。


「お嬢さんがそう言うなら。帰りましょうか?」
「そ、そうしてくれると助かる」


思わず焦り気味に言うあたしを
隆也君が不思議そうな顔で見つめる。

「ごめんね、隆也君」

がっかりした顔を見たからか、思わず謝ってしまってた。

「そ、そんなお嬢さんが謝ることないっすよ」

そう言ってくれる隆也君はすごく優しい。

思わずどうしようもなくなってしまって
あたしは隆也君の顔をじっと見つめた。


「ほら。そんな顔をしていたら可愛すぎて、俺」
まだここに2人でいたいって思うから。


そういって、隆也君があたしの頬を包んで、
おでことおでこをくっつける。
至近距離で見つめる。
思わずその言い方にドキってしてしまう。

隆也君って、本当に・・・・
てらいもなく、ストレートに好きとか可愛いって言うから。
その度にドキドキしちゃう。
頬が赤くなるのがわかる。
隆也君の言葉が嬉しくて、そしてこそばゆいから。


(ちょっとずるいよね。あたし負けてばっかりだ)


思わず口をすぼめて、軽く睨んだ。
そんなあたしの顔を見て、隆也君がくすっと笑う。

そしておでことおでこをくっつけて
見つめた視線を外さないまま甘く囁く。


「疲れたんだったら、抱っこして車まで行く?」

だ!だ!だっこ!!

「疲れたんだったら、甘えていいよ」


その言葉で、あたしは余計に赤くなる。
そんな子どもじゃないんだから!


あたしが慌てるように、そう言うと、隆也君がまた笑う。


冗談だよ、って。

その少し頬を赤くして、
あたしのことをからかうなんて、隆也君のイジワル。

「だって、抱っこしてる時に俺に甘える姿がとても可愛いからさ」

な、な!!!なんて恥ずかしいことを
隆也君ってさらりというんだろう。

もう、ほんと。
隆也君のストレートさにはあたし、勝てないや。

・・・そりゃあたまに隆也君に甘えて
抱っこしてもらって喋ってるときにそのままもたれて
気がつくと寝てしまうこともあるけど。

隆也君ってあたしのこと、ヌイグルミみたいっていうか、
そういう小さい可愛いものみたいに扱うんだよね。
それはそれで嫌じゃない。
隆也君はすごく逞しくて。頼りになるし。すごく体つきもいいし。

だからあたしは余計に隆也君に触りたくなったり
もたれたり甘えたくなったりする。
でもそれは、あたしの部屋とか隆也君の部屋だけのこと!

こういう外でそれも車に来ててお屋敷の運転手さんもいるんだし。


「ねえ、抱っこして車まで行く?」

「隆也君!もう!」
行きません、絶対!!


恥ずかしすぎるよ、隆也君。



隆也君の手を振り切ってあたしは歩き出す。
その後ろを隆也君がついてくる。ちゃんと手を繋いでくれる。


もう。本当に。
ちょっと赤くなりながら、頬を膨らますあたしを
隆也君がくすくす笑う。




たまにこうやって、ちょっとイジワルだったり
からかったりするんだよなあ、隆也君って。

そういうところも嫌いじゃないけど。


あまりにもストレートな愛情表現であたしは負けちゃう。
いつも、いつも。

それに負けちゃうのが悔しい気持ちもあるけど、
でもこういう隆也君が好きだから。


そしてわかるの。

隆也君も、こうやってストレートに表現して
その愛情を恥ずかしがりながら受け止めているあたしのことを
好きだってこと。
あたしがストレートすぎる表現に
恥ずかしがりながらも嬉しがっていることをわかってるから、
隆也君は、こうやって愛情を告げることをやめない。



(どっちもどっち?)


そう思うと少し笑いたくなる。

あたしの愛情表現は、隆也君よりストレートじゃないけど。



でも。


あたしは、あたしなりに隆也君のことを大事に思ってる。
隆也君のストレートさには負けるかもしれないけど。
今日のあたしの隆也君への愛情表現は
結構すごいものじゃないかな、って思うよ。






時計の針は11:40.





あたしと隆也君は、それぞれほんわかした気持ちで
藤棚の下を歩いた。

車まですぐそこ。繋いだ手が温かい。







・・・・・・・・・・



車に乗り込む前に運転手さんと目が合う。

(あの目的地までよろしくお願いします)

そう会釈した。


いつもは助手席に座る隆也君に、
もう今日は仕事終わりの時間だから、一緒に後ろに座ろうよ、っていう。
そしたら一瞬戸惑った顔をしたけど、嬉しそうな顔で頷いてくれた。


2人で、後部座席のふかふかなソファに座る。
あたしは、隆也君の肩に頭をもたれさせる。

隆也君はさすがに車の中だから運転手さんが見てるわけないけど、
でもいつもみたいに髪の毛を撫でてくれはせず、
そっと、あたしの手を自分の手で包み込む。


その幸せにあたしは目を閉じた。





(もう少しで、0時だ)




藤棚から遊園地までは車で10分もかからない。
それに、今は夜中だから交通量も少ない。
ちゃんと0時少し前に遊園地前に着くようにって
お願いしていた。



早く着きすぎてもだめ。
0時を越してもだめ。




そうお願いしていたから、
あたしたちを乗せた車が、遊園地近くで、わざとぐるぐる
時間を潰しているのがわかる。


(0時前に、車がついたら、すぐさまプレゼントだね)



むふふ、ってあたしは自分の計画ににっこりする。


そんなあたしに隆也君は気がつかないで
握った手を愛しそうに撫でてくれてる。





乗ってからしばらくして。












車が停車した。





「え?」

隆也君が少し驚いた声を出す。




あたしは反射的に車の時計を見る。





23:58.



すごくちょうどいい時間。


「え?ここ、まだ屋敷じゃないのに」




驚いた隆也君が、運転手さんに話しかける。
それを制して、あたしは隆也君を後ろから掴んで、

「いいから!」

にっこり笑った。



え?


隆也君があたしの顔を唖然とした顔で見る。


「とにかく、降りよう」


ね、隆也君。




そういって、あたしはいつも開けてもらっている
車のドアを開ける。
開けたドアから、さっと初夏の夜の風が吹き込む。


少し肌寒い、けど、
ちょうどいいぐらいかな。

勝手に一人で先に車から降りたあたしを
隆也君がびっくりして、追いかけるように車から降りてきた。



車が停車したのは、遊園地の入り口。






遊園地の電気は消えてる。
ひっそりしてる。




計画通り。





よし、入り口までダッシュだわ。
0:00までに切符売り場の入場門に行かなくちゃ。

車を降りたあたしは、

「隆也君、行くよ!」

そう呼びかけた後、入り口に向かって一人走り始めた。
あたしが走ったら、絶対隆也君は追いかけてくるから。


それで切符売り場まで
隆也君を誘導しなくちゃ!








お嬢さん、ちょっと待って!





そう呼ぶ声が後ろから聞こえる。






夜の暗さで足元がよく見えないけど、
でも、目指す場所はわかってる。

あたしは、少し急いで走って、樫原さんと約束した入り口の
切符売り場の後ろに回ってあのプレゼントの花束を持つ。

そして、後ろ手に隠した。





息を整えて隆也君を待つ。






遊園地を後ろにして。入り口で。

あたしが預かった写真の小さい頃の隆也君の様に。
後ろ手にはカーネーションの花束。






あたしよりも、普段は足が速いのに
いきなりのことでびっくりした隆也君が急いで走ってきた。








ゆいこ!





走って近寄ってきた隆也君の顔が
すごく焦っているのがわかる。

そして、少し額に汗をかいて
ちょっと怖い顔をしている。

走ってきた隆也君は
あたしを逃がさないようにするためか、
両手で後ろに花束を持ったあたしの
その両手をがっと横から捕まえた。










ちょ、ちょっとなんで走るの?
そして、なんで、ここ・・・・?!






そう隆也君が言った瞬間。














オルゴールのような音が流れて、
暗かった遊園地の明かりがぱっとついた。

(間に合った!!)


オルゴールの音が
0時をおしえてくれる鐘の音。






ぐぉーんって響く音がして、0時とともに点灯された
観覧車がゆっくりと回り始める音がわかる。





「え?」



目を丸くして、あたしの後ろの遊園地を見つめる。


目をこれ以上ないくらいまん丸になっている隆也君に
あたしは。



「お誕生日おめでとう!!!」



少し大きな声で言って、後ろに隠していた
カーネーションの花束を隆也君に、はいって差し出した。



「隆也君、19歳だね」
おめでとう!!!

20090511172512.jpg


にっこり笑って花束を渡す。

隆也君が呆然とした顔で
あたしの顔をまじまじと見つめている。

押し付けられるように目の前に出された
花束を受け取るもののまだ、実感がわかないのか、
目をぱちぱちしている。

「サプラーイズ♪♪」

その様子がとても可愛くて。

「隆也君。今日5月12日はお誕生日でしょ?」

だから、サプライズに
誕生日祝いを、準備しましたー!!


「うふふ、やったね!」

思わず笑いがこみ上げてくる。
サプライズな誕生日祝いがどうにか成功して、
あたしは、すごく上機嫌だ。


にこにこ笑っているあたしの顔を
じっと見つめていた隆也君の頬が急に赤くなった。

「お嬢さん・・・オレっ・・・・!」

ようやく実感してきたのか、感極まってるような隆也君。

「ありがとうございます!!!!」

すごい角度で隆也君が頭を下げた。
やだ、こんな時まで執事の口調はやめてよ。

そうにっこり笑ったあたしの顔を
また隆也君はまじまじと見つめている。

今、この状況を把握できてないのは、ありあり。

でも、自分の誕生日祝いで、
こういう状況っていうのは、少しわかってきたみたい。
だって、だんだん・・・・
嬉しそうな顔になってきたから。





「今日は、隆也君の誕生日だから」



驚かせてごめんね。
サプライズにして驚かせたかったから。
隆也君の誕生日の0時に一番最初にお祝いを言いたかったんだ。
だから、これまで色々秘密裏に動いてきて、
隆也君を心配させたけど・・・・。
でも、隆也君の誕生日をすごくステキにしたかったの。


今日・・・・、
遊園地まるごと貸切、じゃないけど
観覧車だけ動かしてもらってるんだ。



あとで一緒に乗ろうね。



あたしの言葉に、隆也君は驚き顔で
口をぱくぱくさせながらも、うんうん、って頷いた。


その様子が可愛い。


このサプライズは・・・・隆也君にとってまったく
予想もしてなかったことですごくびっくりして、
そして多分・・・すごく感動してくれると思う。


そう、あたしには伝わってきた。



えへへ、って笑うあたし。



隆也君がようやく驚きが納まったのか、
遊園地をみたり、あたしをみたり、
ドキドキしている様子で落ち着かない様子。


隆也君は、目をキラキラさせながら、
少しその目を伏せるようにして
受け取ったカーネーションの花束に目をやる。


思わず得意げに告げる。

「そのカーネーションは、あたしが育てたんだよ?」
「え!!!???ど、どこで?」

あたしの言葉にびっくりした隆也君。

隆也君の目を盗んで、実はこれ、
九条院家の庭で育ててたんだ。
もう、これを育てるために隆也君の目を盗むのが
大変だったんだよ。

苦労話をするように、眉をひそめて、大変だった~って
告げるあたしに少し隆也君が慌ててる。


冗談だってば。
少しだけのことなのに、隆也君の反応が可愛い。


「こ、これ、お嬢さんが育てた花なんすかっ・・・!」

隆也君が顔を真っ赤にしてにこにこ笑っている。
すごく嬉しそう。


種明かしは、とても楽しい。
あたしは、こんなにも驚いてくれてるのが
ドキドキしながらも嬉しかった。



隆也君が真壁さんと執事修行している間にね。
こっそり育ててたの、今日のために。




にっこりと笑って告げたら。
その言葉で、また隆也君が目を丸くする。



樫原さんに協力してもらったんだよ?
お花を育てることも。今日のこの遊園地も。



その言葉で、隆也君が一瞬口を呆然と開けて
驚いていたのが。

いきなり大笑いし始めた。


「えー!!オレ、全然こんなこと知らなくて!!!」

なんだよー!それ!!って大笑いしている隆也君。


サプライズなんて知らなかったぜ!
それも、こんなに見事に騙された~!

もうずっと様子が変で!!



あたしも、その笑いに釣られて笑う。



オレ、ものすごく心配したじゃん!



そう言いながら、隆也君が大笑いしながら、
花束と一緒に、あたしのことをぎゅっとして一気に抱き上げた。


「きゃ!!」

いきなり抱き上げられてびっくりした。

「もう!ほんと、なんでこんな嬉しいことしてくれるの?」

ものすごく嬉しそうな口調で、隆也君が抱き上げたあたしを、
ぐるぐると回す。

「た、隆也君!あ、危ないよ~!!」

そういいながらも、隆也君はめちゃくちゃ
大笑いしてて、下ろしてくれない。
しばらく、ぐるぐるとされた後、隆也君が下ろしてくれた。


でも、抱きしめるのはやめない。


「ああ、もう本当にゆいこ、大好きだ!」


そう言いながら、隆也君があたしをぎゅっと抱きしめる。
ぎゅっと抱きしめて、しばらくそのまま。

さっきまでの大笑いした嬉しさとは違って、
しみじみと嬉しさがこみ上げてくる。




あたしは、隆也君の少し強い抱擁で
つぶれそうな花束をちょっと体を離して、
すぐ傍の遊園地の切符売り場のところへ置いた。



そして、隆也君の背中に手を回す。


あたしからもぎゅっとする。



「隆也君。お誕生日おめでとう」


さっきも言ったけど、何回だって言わせて。
だって今日この日に一緒にいれること、
それがすごく嬉しいから。

誕生日おめでとう、って言葉を何度も言いたい。


「大好きだよ、隆也君」

隆也君が少し腕の力を緩めて
あたしの顔を覗き込む。

「ゆいこ、ありがとう、こんな誕生日祝い・・・」
オレ、本当に嬉しすぎて、なんていったらいいか。

こうやって祝ってもらえるなんて思ってもなかったから。


そう言う隆也君の目がすごく嬉しいって色をしてて、
あたしは、その目を見れただけで、気持ちがいっぱいになった。

「あたし、隆也君に最高の誕生日を演出したかったんだ」

だから、ここ最近、態度がおかしかったり
そっけなくしていたりしたのも、許してね。


そう可愛く告げたら、隆也君は赤い顔をしながらも、めって睨んできた。


「だめ、許さない」
「ええええ?」


意外な言葉であたしは目を丸くする。

でも、次の瞬間、

「本当に心配したから、ごめんなさいって思うんだったら、そっちからキスして」


その言葉で理解する。

隆也君は頬を赤らめながらも、すごく目をキラキラさせて、
あたしの顔を覗き込んでくる。
とても嬉しがっている隆也君にあたしは胸がいっぱいになって、
すぐさま、隆也君の首に自分の腕を巻きつけてキスをした。


ちゅーって長く。
そして強く。


そのキスに答えるかのように隆也君があたしの唇を吸う。
目を閉じて、あたしは、その感触を味わう。


今、あたしたち、すごく大好きだよ、って
キスをしてると思う。


離れた唇に、瞼を開ける。
そこには、少し目を細めて、
愛しそうに、あたしをみる隆也君がいる。


「まだ怒ってる?」


その優しい目に見つめられたら。
じゃれあいたくて、“怒ってる”というだろうと
わかりながらも、あたしはあえて訊く。


「もう少し。足りない」


やっぱり。
あたしの隆也君に対する勘は外れない。
そう言った隆也君が、今度は自分からキスしてきた。


両頬を包まれて、少し上を向かされて
隆也君の唇にあたしの唇が包まれる。

舌があたしの中に入ってくる。
そして口の中を優しく撫でる。
軽く唇も甘噛みされる。下唇も、上唇も。
何度も唇を吸われる。角度を変えて、どこからも
あたしの唇を味わおうとする。



このキスが大好き。



唇だけじゃなくて。閉じた瞼にも。
鼻先にも。おでこにもキスされる。


目を開けると、やっぱり優しそうな隆也君がいて。




「これは、許してあげる、のキス」


沢山の言い訳で、
沢山のキスをくれる。


「これは、こんなステキな誕生日祝いありがとうのキス」


とろけそうなほど、沢山キスをされて、
あたしはぼーっとしてくる。

それでも、このキスの感触や気持ちよさだけは、
ダイレクトにあたしの脳に伝わってくる。

(隆也君、もっとキスして)


そう呟いた声を隆也君に届いたのか、
くすっと笑う気配がする。


だめだよ。これ以上したら。
だって、ゆいこ、もう限界だろ?


そう言って離された唇が寂しくて。
あたしは、隆也君の胸の中に自分を埋めた。


この広い胸にあたし自身を埋め込みたい。
そのままの意味で。

抱きしめられてるだけでは
物足りないから。もっと密着してくっつきたい。


密かにそう願う。


ぎゅって抱きつくあたしを
隆也君が抱きしめてくれる。



ありがとう。
こんなステキな誕生日祝い、オレ、初めてだよ。
こうやって誕生日の日の0時を恋人と一緒に迎えられるなんて。


あたしだって。
今、こうやって隆也君と過ごせるのが嬉しいよ。




ひとしきり、ぎゅって抱きしめられてて。
その温かさに酔いしれる。

隆也君の胸、すごく暖かいや。


「ねえ、隆也君」

「ん?」

こっちを見つめる瞳は限りなく優しい。
すごく、大きな海を眺めてるときみたいな
そんなゆったりした気持ちになる。


「観覧車、乗ろう?」


あたしたちは、まだ遊園地の入り口。

抱きしめあうあたし達の後ろには
きらきらと夜の空に輝く観覧車の光。
星のように、赤や青や黄色、緑色の
カラフルな光で、ゆっくりと回っている。


「ああ、乗りに行こう」

少し興奮が収まった隆也君が
あたしの手を繋いで、遊園地の入り口をくぐる。
もう片手には、あたしがプレゼントした
カーネーションの花束をしっかりと握っている。


今日は切符無しで入れるんだ~。

そんなたわいもないことを喋りながら。


隆也君がしっかりとあたしの手を握ってくれて、
観覧車のところまで歩く。他の遊具は電気ついてないけど
道のりは優しく外灯がついてて、それに照らされた道を歩く。


急いで歩いて観覧車まで歩いていくのが惜しくて。
一緒にこうやって歩いている今が愛しくて。



あたし達はこころなしか、
ゆっくりと歩く。







どんなにゆっくり歩いても、
観覧車が近付いてきた。






観覧車の入り口で、係りの人らしき人が一人待っていた。

ごめんなさいねこんな夜遅くに。

そう言って会釈をしたら、
その人もにこやかに会釈を返してくれた。

観覧車の扉を開けてくれる。




あたしと隆也君は乗り込んだ。





「いってらっしゃいませ」
降りられるときはお声をかけてください。





そう一言告げられて、
あたしと隆也君は夜の空のお散歩へ出かける。








観覧車の動きが伝わってくる。
観覧車がゆっくりと上がり始めた。







「すげえな・・・・」



二人揃って、観覧車の窓から夜景を眺める。


0時を過ぎているからか、明かりは少なかったけど、
上っていくにしたがって、遠くにある港や橋の
ライトアップとかが見える。道路の黄色い光とか。


それをじーっと2人で魅入っていて。
ふと気がついて、お互いが無言なことに、顔を見合わせて笑う。


「こんな綺麗な夜景のプレゼントもありがとう」


そう言って隆也君が、窓に手を当てて、
外を眺めるあたしを後ろから抱きしめた。


そのまま、首筋や肩に隆也君の温かい息が吹きかかって、
その生暖かさがこそばゆいあたしが身を捩って笑う。


すると隆也君が悪戯っこのように、
ぎゅっと後ろから抱きしめた腕を弱めず、
くすぐったくて笑うあたしに
もっともっとくすぐったいことをする。




「やだよ、隆也君」


動物みたいに、あたしの匂いを嗅ぐ真似をしたり、
息を吹きかけてくすぐったいことをする
隆也君がとても好きで好きで。
こんな風にスキンシップしてくる隆也君がとても可愛いと思う。


こんなただ、一緒にいるだけですごく好きだって思う。
こんな幸せな時間がもっと長く続けばいい。



じゃれあっているうちに、
どんどん観覧車は上がっていった。









不意に隆也君が尋ねた。

「でもなんで今日、ここだったんだ?」

その言葉がものすごく純粋な質問だったから
あたしは少し笑った。


「隆也君、覚えてないの?」

「え?何を?」



あれ?
なんか・・・・ん?


隆也君があまりにも普通に、今日この遊園地を選んだ理由が
わかってないから、あたしは思わずポケットに入れていた
あの写真を出した。



「これだよ」

差し出された写真を見た隆也君が
次の瞬間、すごく目を丸くして驚いた。

「え?この写真!?なんで?」

「これ、隆也君のお母さんから借りてきたの」

「えー?!」

ものすごくびっくりしている隆也君に
あたしはプレゼント選びで隆也君のおうちに行ったことを話した。



かくがくしかじかで。





「あたし、隆也君のこの写真を見て、絶対この遊園地で0時にサプライズの誕生日祝いをしたかったの」




だってこの写真の隆也君、少し悔しそうな顔をしてると感じたんだ。
そして淋しそうだったから。



そういって写真を一緒に見ていると、
隆也君があたしの顔をじっと・・・・
穴が開くほど見た後、ふんわりと頬を赤らめて笑った。





「参った」
「え?」



「なんでオレがそんな気持ちだったって思ったの?」
「え?だって、たまにするじゃない、隆也君、こんな顔」
「え?」

え?って言われても。
たまにしてるよ、隆也君。


どんなとき?


そう訊かれて、すぐには思い浮かばなかったけど。

「んー。初めてのお茶会で失敗して反省してるとき、とかに見たかな」



あの時も、笑ってまた頑張るって言っていたけど、
でも、この写真みたいにちょっとだけ悔しそうな顔をしてたんだ。


それに。

この日、誕生日の約束をしていたのがだめになって
やっぱり普通に考えても子どもだから、
がっかりしたんだろうなって思ったの。


そう告げたあたしを
隆也君がぎゅっと抱きしめた。


「・・・・さっきオレがゆいこのことをよく見てるって言っていたけど、それ、オレがゆいこに言いたいよ」

「ん?」

「確かにオレ・・・・この時、少し悔しかったし、がっかりしてた」


でも、誕生日に家族で揃って遊園地に行くなんて、
うちの家庭環境じゃあ、かなり色々都合しないといけないわけで。
無理なことだっていうのも、子どもなりにわかっていたから、
実はそこまで諦めるのは辛くなかった。

でも、ま。
それでも遊園地に来たかった気持ちはあったから、こうやって
記念撮影って言われて入り口に立たされて写されると・・・
やっぱり諦めていたけど少しだけ悔しいって思ってた。
そんな気持ちがこれに写ってるや。

また来たらいいってわかってたから
駄々をこねたり、っていうのはなかったけど。


ああでもこの、母の日のプレゼントを
この遊園地で渡そうと思っていたのに時間が遅くなって
結局母の日に渡せなかったのは、結構ショックだったかなあ。




そう言って隆也君は
自分の写真を見て微笑んだ。

そして、あたしを見つめる。


その瞳はいつものにこやかさとか優しさとは違って
もっともっと・・・・大事なものをみる瞳だった。



「オレ、実はこの時思ってたんだ」

「ん?」

いや、俺が大人になったら、
大好きな子を連れてここに来ようって。
後ろに写ってる観覧車、あれに乗りたいって思ってた。

この写真を写されたとき、電気ついて光ってるのが
観覧車だけで、それがとっても綺麗で。
子どもながらに、いつかこの観覧車に乗りたいって思った。
夜、きらきら光ってる観覧車に乗って
遠くの街まで見るんだって。
好きな子と一緒に見るんだって。




その夢が叶えられて―――




とても嬉しい。





そう真っ直ぐに
あたしの瞳を見て告げる。

「ありがとう、俺の夢叶えてくれて。ありがとう」

にっこりと笑う隆也君の笑顔が眩しい。

思わぬ言葉で、あたしは胸が熱くなった。
その言葉だけで胸がいっぱいだよ。

こうやってサプライズな誕生日祝いをして
本当に良かった・・・・と心から思った。
思わず、隆也君の素直さでじーんとくる

お礼の言葉で涙が出てきそうになったから
あたしは、慌てて話をそらせた。



「お花・・・」
「ん?カーネーション?」
「うん」

座席に置かれたカーネーションの花束。
赤くて、綺麗にラッピングされている。

「あたし、初めて自分で育てたお花をプレゼントするんだ」

隆也君が好きなお花を探すの大変だったよ。
瞬くんや誠吾君に訊いたり。
そういって笑った。

そのあたしの笑顔を隆也君が眩しそうに見ている。



あたしね。
いつも隆也君からお花をもらうばかりで。
毎日部屋に生けてくれるでしょ?
あれ、すごく好きなんだ。
あたしは隆也君みたいに植物とかお花とか詳しくないから、
そういう話をすることが出来なくて。
隆也君が大好きな植物とかお花を
もっとあたしも好きになりたいと思ったの。

だってそうやってあたしも好きになったら
あたしと隆也君で“好き”の共通点が増えるわけじゃない?

だから今回の誕生日プレゼントは・・・・
物じゃなくて想い出っていうか、
“想い”を大事にしたものにしたんだ。

お金で買えるものはいつでも買ってあげれるから。




そう告げたあたしを、隆也君が、またぎゅーって抱きしめる。
そして、なにも言わずに、観覧車の座席に座った
自分の膝にあたしを座らせて横抱きにして抱きしめる。



「ゆいこ、そこまで考えててくれたんだ」
「うん、そうだよ」

だって、大好きな隆也君のことなんだもん。

「ゆいこはオレにとって最高の恋人だよ」

何も言わなくても。抱きしめてくれている身体から
隆也君の気持ちが伝わってくる。


好きだ。
大好きだ。
そんな気持ち。


「カーネーションの花、気にいってくれた?」

そう尋ねると隆也君は優しい目で笑う。

「ああ、本当に嬉しかった」



隆也君の世界に近付きたくて。
もっと隆也君の“好き”を知りたくて。
隆也君に日ごろの感謝とあたしの愛を伝えたくて。
隆也君の喜ぶ顔が見たくて。


(あたしの願いも叶ったかな)



あたしはとても幸せな気持ちになって、
隆也君の抱っこに身を任せたまま、甘えてた。


2人で何も言わずに、しばらく夜景を楽しむ。





「ねえ、隆也君」

「ん?どうした?」

「あのね。瞬君が教えてくれたの」

―――あたしは、数日前に瞬君に聞いたことを話した。


「カーネーションの花言葉、何か知ってる?」

「え?知らないっすよ?」

その少し敬語というか、ちょっとびっくりした声に
あたしは笑う。

「知りたい?」
わざとイジワルに言ってみる。

もちろんそれは、隆也君をからかいたいんじゃなくて、
もっともっと、甘い時間を二人で過ごしたいから。

「え?」

「知りたいなら、教えてあげる」

にこっと笑う。
隆也君はちょっとびっくりしていたけど、
不意に笑顔になって、くすくす笑う。

あたしの仕掛けたゲームに気がついたんだ。

「知りたい。教えて」

あたしもくすくす笑う。

「じゃあ、教えてあげるから」
耳貸して。


隆也君が笑いながら、あたしの口元に自分の耳を寄せる。
その耳元であたしは囁いた。


「カーネーションの花言葉は―――---」










言い終わった後、隆也君の顔を覗き込むと、
案の定、真っ赤になっていた。

えへへ、小ネタ成功♪

「っ・・・!!」


真っ赤になって、少し慌てる様子の
隆也君が可愛い。思わず、笑ってしまう。


隆也君、慌ててる、可愛い~!


そういって笑うあたしを真っ赤な顔をした隆也君が軽く睨む。
膝に抱っこされたまま、至近距離で睨まれても。
その真っ赤な顔で睨まれても。

ただ、あたしはその甘い時間で
こうやってじゃれあってることが幸せ。

隆也君がこの花言葉で赤くなったのが
あたしとしてはとても嬉しかった。
いつも、隆也君の言葉で隆也君の率直でストレートな愛情表現で
赤くなっているのはあたしの方だから。


思わず得意げな顔になったあたしを
隆也君がぎゅっと抱きしめる。




え?


「ね。今の言葉、もっぺん言って」


思ってもない反撃。
目をキラキラさせながら、おねだりしてくる。

「もっぺん。今度は耳元じゃなくて、オレの目を見て言ってよ」

「っ・・・!」

一瞬にして言葉に詰まる。
顔が赤くなったのを見て隆也君が、今度は反対に笑う。


「ね。もっぺん言って」


え!
あ・・・・あの花言葉はさすがにちょっと恥ずかしくて、
耳元ぐらいでしか言えないよ?!
そんなあたしの言葉にも耳を貸さず。


ねえ、ったら。
何度もねだってくる隆也君。


「お願い」

そう目を見つめられて。
返事をするのを待っているのを見たら。
もう言うしかなくて。

赤くなっている自分の頬をとめることが出来ない。
聞こえてたはずなのに、もう一回言わせようなんて、
隆也君ったら!!!


そう思いながらも、こんな隆也君を好きだと思うし
そしてこうやって目をキラキラさせてる
隆也君をもっと喜ばせたいと思う自分がいる。




「カーネーションの花言葉は」





花言葉は?





隆也君の目があたしの目をじっと見つめてる。
その瞳の色はかぎりなく甘くてそして優しい。




『あなたを熱愛する』、だよ。





そう真っ赤になりながら小声で目を見て告げたあたしに
隆也君が、キスをした。


(それは、オレのセリフ)
そんな呟きも一緒に聴こえる。




観覧車がゆっくり回っていく中。
夜景がちょっとづつ変わっていく。

その変化が綺麗で、ずっと見ていたいけど。


でも今あたしが
一番感じていたいのは、
隆也君のキスだけ。

隆也君にぎゅっと抱きしめられている強さだけ。
隆也君の温かさや気持ち、その全て。




沢山のプレゼント
ありがとうな。




隆也君の声が聞こえる。


あたしこそ。


隆也君がいてくれるから、毎日幸せで。
毎日沢山のプレゼントをもらってるよ。




だから今日は。



最高の誕生日を隆也君にあげたい。



傍にいるよ。
もちろん今日だけじゃなくて
明日も、その次の日も。

来年の誕生日だって。




ハッピーバースディ、隆也君。


今年一年が隆也君にとって
とても幸せな年になりますように。




そう呟いたあたしの声は、
キスにのせて
隆也君の中に溶けていった。











******** 夜の遊園地 Fin . *******

Happy Birthday !
Dear TAKAYA !

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