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*******Until sleeping ~ look like moonloght *********

For YUYUMARU




―――、なんだか眠れない・・・・。


あたしは、ベッドの中で寝返りを打った。


掛け布団をぐるぐるにして抱きしめてみる。
目を開けたら・・・そのままずっと起きていそうだから、
ぎゅっとつぶってた。

寝付けない夜って・・・誰にでもあるっていうけど
どうして、こう、夜の遅い時間に眠れないって
孤独を感じさせるんだろう。

眠りに入るタイミングをはずしてしまった。


晶さんとおやすみなさいの挨拶をした後、
ベッドに入って、少し雑誌を読んで、
うとうとしていたから多分今日こそきちんと
眠れると思ったのに・・・・。
いざ眠ろうとしたら、なんだか目が覚めてくる。


目が覚めてくるのを気のせいだと思おうとして、
ずっと眠っているかのように
目を閉じてじっとしていたけど、だめ。
自分にはごまかしがきかない。
ぎゅっとつぶっていた目をうっすら開ける。


窓から、煌々と光る満月が見える。


月光が窓から、一筋の線になって部屋へ差し込む。
黒い雲が少しずつ晴れていって明るさが増してくる。




そうっと息を潜めてベッドから抜け出した。








・・・・・・・



コン、コン。



もうこんな時間だから、と思いながら、
隣の部屋のドアを遠慮がちにノックする。

(メールすればよかったかな)

携帯の着信音で眠りを妨げたくなくて。
直接、部屋のドアをノックした。
ちょっと待って、もしドアが開かなかったら、
自分の部屋に帰ろう。
そう思って、あたしはネグレジェの上に羽織った
カーディガンの前を合わせた。





がちゃ。


予想に反して、ドアはすぐ開いた。
濃紺の・・・・多分シルク素材のパジャマを着ている
晶さんが立っていた。

(今まで寝ていたのかな?)

胸元がはだけてて、少しだけ上着に皺がある。
目をパチパチさせている。


あ・・・・眠ってたの起こしちゃったんだ・・・・。


「あ・・・・晶さん、ごめんね?」

「つぐみちゃん・・・・?どうしたの?」

「あ・・・・・えっと・・・」

起こしちゃったんだ、と思わずごめんねと
部屋に帰ろうとしたんだけど。
晶さんのパジャマ姿から覗く胸元や
その少し・・・・眠っていたせいか
ぼんやりしている雰囲気に
なんだかドキッとしてしまって。

あたしは、言葉を詰まらせたまま固まってしまった。


ドキドキしてる。
晶さんのパジャマ姿、初めて見た・・・。
濃紺の布の光がすごく上品で似合ってて。
肩に羽織っているショールは温かそうな、深緑と濃紺の
チェック模様の柔らかい毛がうっすらとビロードのよう。
こんな時間で、あたし、さっきまですごく落ち着いてたのに、
晶さんに会った途端に、心臓がトクントクンって音を立てるのがわかる。


(逢えて・・・嬉しいから・・・)


言葉に詰まってもじもじしているあたしを晶さんがくすっと笑った。
さっきまで寝ていた人とは思えないほど、普通の晶さんだ。

もう、目が覚めちゃったんだね。


「眠れなかったの?」

「あ・・・う、うん。それで何か飲みたいなと思って晶さんに・・・」


・・・・ほんとはウソ。
眠れなかったから、晶さんに会いたくなっただけ。
ただそれだけのことなのに、あたし言えないんだ。


「とりあえず、中にお入りよ。廊下は冷えるから」

「う・・・うん」



あたしは晶さんに促されて、
晶さんの部屋に入った。


壁に立てかけられた描きかけの水彩画。
机の上に広げられたデッサンの本。
飾り棚にヴァイオリンが置かれている。
レコードが棚の中に飾られててレトロでステキ。


「えっと、こっちに座って、少し待ってて」

ソファにあたしを座らせたあと、肩にかけていたショールを
ソファの背もたれにかけ、晶さんはバスルームでパジャマを
軽く着替えて、部屋の外へさっと出て行った。


(さっきまで・・・・寝ていたはずなのに、晶さん・・・)


思わず、飲み物欲しいなんて言ってしまって。
ただ、一緒にいたいな、ってだけだったのに、晶さんに執事の仕事をさせてしまった。

(なんだか、悪いな・・・・)


ただ眠れなくて顔を見たかっただけだけど・・・。
そう思って、あたしはソファにもたれかかる。
ふと、そばにかけられた晶さんのショールがはらり、と落ちた。
ショールを拾うと、そこからほのかに晶さんの匂いがした。

(晶さんの匂いがする・・・・)


あたしと同じフレグラスをつけているから、晶さんの匂いはわかる。
同じの香りをつけても、晶さんとあたしの匂いは
似ているようで違う匂いになることも・・・
今のあたしは知ってる。


晶さんの肌の匂い・・・だ。

ふんわりと軽くて暖かいショールの触り心地がよくて思わず、顔をうずめた。
そして晶さんの匂いを嗅ぐように、ゆっくりと息を吸い込んだ。
眠れなくて、なぜか寂しい夜は、こんな暖かくて柔らかいものが無性に気持ちがいい・・・・。

あたしはショールを抱きしめたまま、目をそっと閉じた。




晶さんが部屋に帰ってくる音を待ちながら。




カタン





音がして、目を開けた。

晶さんが、右手に乳白色のカップを持っている。
温かそうな湯気が立っている。
その湯気の向こうで晶さんが優しく微笑んでカップをあたしに差し出す。
あたしは、両手でカップを受け取った。


「ココアだよ。眠れないなら、少し甘いものをお飲み」


甘い匂いが、部屋に漂う。

両手で包み込むように持つと、ココアの湯気が、あたしを温めてくれる。

「ありがとう、晶さん」

あたしは、温かいカップでぬくもりながら、ゆっくりと唇を縁につける。
すごく、甘い匂いに酔いしれながら。
晶さんがあたしの隣に座って、こっちを見つめている。


「甘さは控えめにしておいたよ」


その言葉と表情がとても優しくて、あたしはどきっとした。
少し赤くなったあたしを見て、晶さんがまたくすっと笑う。

思わず恥ずかしくなって、あたしは慌ててカップに目を落として、ゆっくりと飲み始めた。





こくん。





一口飲んでみてわかる。上品な甘さで、あとにひかない。
そして、ミルクの柔らかい味が、すごく・・・・美味しい。
あたしが飲む姿をじっと見ている晶さんが視界の横に入る。
見守られている中、こうやって飲んでいるのが妙に気恥ずかしい。


「お・・・美味しいよ、晶さん、ありがとう」


「どういたしまして」


にっこり笑うのが見える。


なんだか、こんな至近距離で見つめられてるのが恥ずかしくて、
あたしはドキドキしてて晶さんの顔を見れない。
もう・・・恋人同士になってしばらく経つけど
いまだに晶さんに見惚れてしまったり、見ているだけでドキドキしたり。



あたしは、いつだって晶さんに釘付けだ。


ゆっくりとココアを飲みながら、あたしはそっと晶さんを見る。
晶さんが微笑む。
なんだか、すごく・・・恥ずかしい・・・。
でも、幸せだと感じる。
どぎまぎしながら飲むココアは、なんだかこぼしそうになってしまう。
こうやって、一緒にいられるだけで、あたしは、すごく幸せ。
ココアも温かいけど、晶さんと一緒に過ごす時間も温かいよ。


「ごめんね、晶さん。こんな夜遅くに・・・・」

そうだった。
部屋に来た理由を言うのを忘れてた。

「いいよ。絵を描いてて、さっきまで起きていたから」

そう言いながら晶さんがこちら側の手を伸ばして
あたしの髪の毛を撫でてくれる。

晶さんは、2人っきりの時こうやって、あたしのことを甘やかす。
その恋人の時間が、あたしを蕩けさす。
思わずどきっとしたけど、羽を触るかのように優しくて軽く触る感触が、気持いい。
一筋、一筋、梳くように髪の毛の中を流れる指。
すごく優しい・・・・。

「ううん、せっかく寝たばかりなのに、起こしちゃって・・・・。飲み物まで作らせてごめんね」

思わず気持ちよさで、ココアを飲むのをやめてしまった。
そのまま、ココアをゆっくりサイドテーブルに置いた。

すぐそばに座る晶さんの肩に頭をのせて甘えた。
晶さんの肩から、晶さんの匂いがする。
あたしの口の中のココアの甘い匂いとは違う匂いが、鼻腔をつく。


「いいんだ。これは恋人としての僕の優しさだよ」

・・・こんな甘い言葉が似合う人をあたしは、1人しか知らない。
このココアより、すごく甘い言葉だよ晶さん・・・・。

「晶さん」

そう言って、顔をあげると、晶さんの優しい顔がそこにある。
その瞳がとても優しくて、あたしは胸が一杯になる。
目をそっとつぶって、晶さんに軽くキスをした。

「お礼のキス」

一瞬だけで唇を離すと、晶さんと瞳がきらりと光るのが見え、今度は晶さんがぐっとキスをしてきた。

「っ・・・・・」

味わうように晶さんの唇が何度もあたしの唇をついばむ。

「・・・・甘い味がする」

何度目かのキスの合間に晶さんが呟く。
余裕あるような誘惑してくる口調がまたあたしの心をドキッとさせる。


「美味しい?」


「うん、美味しいよ」

目をつぶったまま、キスを味わう。呟くように聞こえる声が心地いい。

「よかった」

何度もキスをしながら、会話をする。
晶さんがあたしの髪の毛を撫でる。
こうやってキスをしながらお話しちゃうって・・・・ずっと憧れてた。


「眠れなかったの?」

「・・・うん」

何度も何度も、晶さんとキスをしても、こういう甘い雰囲気には、ドキドキしちゃう。

「なんだか、目が覚めちゃって」
「そのまま1人で起きているのが寂しくなったの」

不意にキスが止んで、目を開けたら、晶さんが微笑んでいた。
誘惑するかのように目が魅惑的に輝いて―――。


そして耳元で囁いた。


「じゃあ、2人で一緒に起きていようか?」

いたずらっ子ぽく囁く晶さんが可愛らしくて。
あたしは、くすっと笑った

「今日は月が綺麗な晩だから、2人で起きているのも悪くない」

そんな素敵な提案をしてくる晶さんが本当に・・・・とても、好き。

「ちょっと待ってて」

そう言って、晶さんが部屋の飾り棚をあけてオーディオにスイッチを入れた。
音楽を流れ始める。部屋に小さな音でピアノの音が響く。


そして、カーテンを開けた。
窓の外に、ぽっかりと浮かぶ月が見える。


「これ、聴いたことがある・・・・」


「ドビュッシーの月の光だよ」


そばに戻ってきた晶さんが、あたしの上半身をゆっくり倒して、
自分の膝にあたしの頭を乗せる。
晶さんがゆっくりと膝枕したあたしの髪の毛を撫でる。

「こんな夜には、ぴったりだろう」


静かに、ひっそりと聴こえる。少し切ないメロディが部屋の中を踊るように、月の光と共に満たしていくのがわかる。


2人で眺める先には、窓の外に満月。
耳を撫でる、優しいピアノの音。
髪の毛を撫でる手は優しくて大きくて、細くて・・・・そして温かい。
あたしはその温かさに、うっとりした。


あたしは、晶さんと今ここで一緒の時間を過ごしていることがとても、幸せだと感じる。
そのことを伝えたくて、ちょっとだけ目線をあげると晶さんの顔が下から見えた。
少しだけ目を細めてる。かすかに聴こえる。晶さんが曲にのせて歌っているハミング。
その小さな音すら聞き逃したくなくてあたしは話すのをやめて、そっと息を潜めた。


「眠くなったら、寝てもいいんだよ、つぐみ」

そう優しい声が聞こえる。

「まだ、眠らないもん」

思わず駄々っ子のように言う。晶さんがくすっと笑う。

「それでは、君が眠りにつくまでの時間を、この僕にくださいますか、レディ?」

返事をする代わりに、髪の毛を撫でていた晶さんの手を掴んで、あたしの頬に押し当てた。

晶さんの手の感触。
ふんわりと温かい。
それを包み込んだ。


「ええ。もちろんですわ、あたしの王子様」

頬に当てている手が温かい。あたしの頬も・・・・きっと赤くなって温かいはず。


ふっと笑う気配がした。


掴まれた手と反対の手で、晶さんが膝に置かれたあたしの髪の毛をかきあげて、耳元で優しく囁いた。


「今は膝で我慢して」


「君が大人になったら、一緒にベッドで月を眺めよう」


その言葉の意味に、あたしの心臓はどきっとする。でも、・・・・・それも悪くない。


「うん・・・・きっと、約束ね」


聞こえなくたっていい。小さい声で呟いた。
あたしの頬に包み込むように置かれた晶さんの手が、親指だけ動かして、撫でる。
かすかな動きでさえ、愛を感じるのは、本当に、晶さんがあたしのことを大事にしてくれてるからだと思う。
頭をのせている晶さんの膝からも、晶さんの匂いがしてくる。


頬を包む手からも。
そっと、あたしの肩にかけられた晶さんのショールからも。

あたしは、幸せ一杯になって、そうっと目を閉じた。

眠りに吸い込まれる、ちょっと前の瞬間・・・・
晶さんがゆっくりと小さな声で囁くのが聞こえる。


「おやすみ、つぐみ」



その呟きがとても優しくて。
そして切なくて。胸が一杯なって・・・。






あたしは、優しい眠りに落ちた。











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