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樫原侑人誕生日企画の〆として。
侑人さんのお話を書きました。

ハロウィンシナリオで
ちょっとしか出てこなかった
侑人さんのお話。
勿論、恋人設定で(笑)

ハロウィンパーティ後の
お話になります。
パーティ後の話だから
夜の情景があります。

ハロウィンの夜ですので
ダークな感じで書いています。
少し大人向きかな。
けして裏ではないと想うのですが
夜の情景もあるので
苦手な方はどうぞ避けてください。


このお話は企画に
作品参加してくださった方々
(まりあ様、ゆきな様、ゆん様、ありす様、奈奈子様、MOKKO様、きょう様、sana様)
もしよろしければ
どうぞお持ち帰り下さい。

長いので分割しています。
その1 その2 その3 その4 )


以下、創作になります。
ダークな部分もあります。
夜用のお話です。

注意点をふまえ
ご理解とご了承された方のみ
どうぞお読み下さい。
















**** After the Party.********



ハローウィンパーティは
侑人さんと一緒に過ごせなかった。


あたしの恋人であり
専属執事で、九条院家の執事長で
家例でもある樫原侑人さん。
九条院家でのパーティだから
当然、侑人さんはとても忙しい。


侑人さんが指示を出して
飾り付けや食事の準備や
パーティの進行を全て決める。
侑人さんだからこそできる
こんな仕事。

そう、あたしの恋人は
とても有能で
仕事ができて・・・
すごく素敵な人。








・・・・・・・・



パーティの準備で
傍についていられないからと
あたしの世話を侑人さんが
真壁さんに頼んでくれた。


「申し訳ございません。****お嬢様」

当日は真壁が****お嬢様の
お世話を担当しますので。


そう侑人さんが
あたしに頭を下げた。

ちょっと寂しかったけど
でもこれはしょうがないことだと
わかっているから、と少し笑ったら。


侑人さんが
あたしの右手を取って
その手の甲にキスをした。


「終わったら君の元に戻るから、大人しくそれまで我慢できるかい?」



恋人になった侑人さんが
そうあたしに問いかけるものだから
握られた右手を
頬に当てて、侑人さんの手に
あたしは頬擦りした。


「うん。待ってる」


「いい子だ」


愛しそうにあたしを
見つめる年上の恋人。


「パーティ終わったら、いつものように2人で過ごそう」


侑人さんが柔らかく
抱きしめてくれたから
それに身を任せた。


侑人さんの細い指が
あたしの顎を摘んで
いつものように優しく
そっと自然にキスしてくれた。




・・・・・・・・・・



パーティの仮装は
中世の貴婦人をイメージした。


オフホワイトのドレス。
侑人さんが選んでくれた。


義兄さんが貿易関係で
取引している
イタリアのアトリエで
作られたクラシカルなドレス。


丸く開いた胸元には
レースが施され
背中も開いている。
シルクオーガンジーの
トレーンから覗く
レースがとても素敵。

すっきりだけど
ふんわりと降りる裾。
レースで作られた透ける袖。


中世のジュリエットが
着ていたような
そんなオフホワイトのドレス。


少し大人っぽい感じ。

準備をしているときに
真壁さんが迎えに来てくれて
髪の毛を結い上げてくれた。


緩くカールがかかった毛先。
小さなティアラを
真壁さんがそっと被せてくれる。


髪飾りは赤い薔薇の花。

耳朶の後ろにつけられる
薔薇の香りの練り香水。


優しく丁寧に
ゆっくりと筆で紅を塗られる。


そして顔には
真壁さんが準備してくれた
鈍い金色に光る仮面をつける。


足元にはドレスと
共布に思える
ホワイトベージュに
クラシカルレッドの糸で
バラの模様が刺繍されている。


そっと真壁さんが
靴を履かせてくれる。
優しく足首にもつけられる
薔薇の香り。




「まさに貴婦人です」



真面目な顔をした
真壁さんがそう褒めてくれた。
少し頬が赤くなってる?


「ありがとう、真壁さん」


吸血鬼の仮装をした真壁さんは
はまりすぎるほどはまってる。


「非常に古風な美しさで、本当にお美しい」


いつもの真面目な
真壁さんからは
聞けないような大絶賛に
あたしも嬉しくなった。


「真壁さんが髪の毛のセットやお化粧もしてくれたからだよ」


真壁さんって
こんなこともできるんだ、と
びっくりするほど
お化粧道具を扱う真壁さんは
とても器用で。


綺麗にお化粧してくれた。
いつもはつけない
紅い色の口紅さえも
あたしに似合っている。


クラシカルなドレスを着た
あたしと一緒にいると
真壁さんとあたしだけ
違う時代の人みたいだね。


そう言って笑ったら
また真面目な顔をして
真壁さんが
「恐れ入ります」と言った。




・・・・・・・・・・・・




真壁さんにエスコートされて
会場に行くと。


既にパーティ会場は
玄関から続く絨毯も
オレンジ色に変わってて
カーテンもテーブルクロスも
すっかりハロウィン仕様になっている。



(これじゃ、侑人さんが準備で忙しいのもわかるわ)


屋敷全体がハロウィン仕様に
変わっている。
そっと窓から覗く庭も
ハロウィンに合わせて
飾り付けされてる。








つつがなくパーティが進む中
真壁さんが傍にいて
アップルサイダーや
パンプキンパイも
食べさせてくれたけど・・・


あたしはずっと
侑人さんを探していた。








パーティ後半。



会場にしっとりした
ワルツの曲が流れる。
メロディアスでロマンチックな雰囲気。


義兄さんが姉さんに
「これからは大人の時間だよ」と
2人が最初に踊りだした。


侑人さんがいないことに
気落ちしながらも
あたしはダンスの誘いを受け
最初に晶さんと、その次は
ウォルフさんや中岡さんと踊った。


ファーストダンスを申し込んでくれた
晶さんは、いつもの口の悪さもなく
とても綺麗なレディになったね、と
褒めてくれた。


ウォルフさんはいつもどおり
ダンスに誘ってくれるだろうとは
想っていたけれども
ナポレオンの格好をした
中岡さんが


「一曲、お相手願えますか?」

と尋ねてきた時には
びっくりした。


隣にいた真壁さんも
ちょっと驚いていた。


「ええ、喜んで」


差し出された手を握ったら
中岡さんが少し赤い顔をして
にっこりと笑ってくれた。


中岡さんと踊ったあと
義兄さんとも踊った。


今日のオフホワイトのドレスが
とても綺麗だと褒めてくれた。


まるでこんなオフホワイト一色の
クラシカルなドレスだと
ウェディングドレスのようだと
ちょっと寂しそうな顔をする。


「本当に侑人と***ちゃんが恋人同士になってくれてよかった」


「義兄さん・・・」


「おかげでこんなに優雅で気品あふれる****ちゃんをみれた」


「うふふ」


「まったく侑人が妬けるよ」


「え?」


「こんなに綺麗な****ちゃんをお嫁さんにするなんて」


「義兄さんったら」


義兄さんには
姉さんがいるじゃない?
それにまだ結婚の話なんて
されたことないよ?


恥ずかしがるあたしを
義兄さんが優しく見つめる。


「それはそんなに遠くないんじゃないかな?」


「え?」


「侑人が君を手放すとは思えないからね」


嬉しすぎる言葉で
あたしが頬を染めていると
少し義兄さんが
困ったような顔で
溜息をついた。


「きっとぼくは君の結婚式で泣いてしまうんだろうな」


「そう?」


「うん、きっとね。こんなに可愛い義妹が他の男のもとへ行くのだから」


「・・・あたしが結婚するとしたら侑人さんしかいないよ?」


「侑人でも、誰でも、だよ」


それぐらい君は今日綺麗だ。
この手を離したくない、と想うほどにね。
どこにもお嫁に行かせたくないよ。



穏やかで優しい義兄さん。
侑人さんとは違う愛情で
義兄さんから包まれているのを実感する。


侑人さんがいなくて
寂しかった心が
少しだけ癒される。



年上の義兄さんから見ても
この格好がとても上品で
大人びて見えるのなら
きっと侑人さんも
そう想ってくれるかな?


会場をステップ踏んで回りながら
目ではずっと侑人さんを探してる。


踊っているあたしを見つめている
隆也君や誠吾君、
中岡さんやウォルフさん、
真壁さんと目が合う。
晶さんもあたしを見ている。


皆、あたしの今日の仮装を
とても綺麗だと言ってくれた。


ドレスもさることながら
仮面をつけているからか
いつものお嬢様よりも
もっと大人びて見えて
とても美しいって。



・・・・そんな言葉、
侑人さんの口から
一番最初に
聞きたかった。


いろんな人からの褒め言葉より
なによりも欲しかったのは
大好きな人の言葉。


少しだけでも侑人さんの時間を
あたしにくれたらな。


今日、すごくお洒落したのに。
この仮装だって・・・
気品あふれる貴婦人を目指して
一回り年上の侑人さんの隣に並んでも
見劣りしないように
大人っぽくしたのに。







結局、侑人さんは見つけられないまま。



パーティは終わり
真壁さんにエスコートされて
部屋に戻ってきた。

着替えを手伝いましょうか?と
聞かれ、断った後
真壁さんに仮面を返した。








部屋で一人残されて。


あたしはドレスを
着替えられずに
ソファに座っていた。


(たしか前にもこんなことあったな)


侑人さんと初めて
キスした日を思い出す。
自分の想いを伝えた日。


着替えずに待っていたら
また侑人さんと
踊れるかな?



侑人さんには
あたしの傍にいる
専属執事以外の仕事も
沢山あって。
忙しいってこと分かってる。
だからいつも
我侭は言わないって決めてる。


でも・・・。


今日のこの格好は
きっと侑人さんが
とても褒めてくれるはずだから。
侑人さんに見て欲しかった。


それにーーーー。


侑人さんとダンスを踊りたい。


今日いろんな人と踊ったけど
でも一番最後のダンスは
侑人さんと踊りたい。


今日のパーティ会場、
本当に素敵だった。
ハロウィンパーティ。
仮装した侑人さんを
見てみたかったな。


仮装していた中岡さんや
真壁さん、ウォルフさんも
他の皆も素敵だったし。
きっと侑人さんだったら
もっともっと素敵なはず。



侑人さんの言葉を想い出す。


終わったら戻ってくるって言ってた。



それなら・・・・。



あたしは自分の部屋を
そっと抜け出した。







・・・・・・・・・・・・







オレンジ色の絨毯。


ホールの電気は消えていた。


飾り付けのされた窓は
カーテンがひかれずに
そのままの状態。

黒の総レースに
紫色の刺繍が入った
ハロウィン特別仕様のカーテン。


(こんなところまで凝ってるって素敵)


窓から月の光が入ってくる。

窓から覗くと
庭園の外灯も
かぼちゃの形に変わっていた。
思わず可愛らしくて笑ってしまう。


ホール中に飾られた
かぼちゃやお化けなんかの
オーナメント。


本当に今日のハロウィンパーティは
とても素敵だった。


オーケストラの演奏で
ダンスも踊れた。
いつものお屋敷の人たちも
とても素敵だった。

だからこそ・・・
侑人さんに逢えなかったのは
とっても残念だった。



でも・・・・確信はあった。


ここで待っていたら
きっと侑人さんが
探してきてくれるって。


誰もいないホールは
しーんとしてて。
さっきまでの華やかなパーティが
終わった後の静けさ。



(こんな静けさ、好きだな)


いつからか、パーティよりも
パーティが終わった後のほうが
好きになっていた。


きっとそれは
侑人さんに想いを告げた日から。


華やかなパーティで楽しむより
パーティが終わって
その余韻が残った時間を
侑人さんと味わいたい。


その時間のほうが
もっと大切。


終わった後の静けさが好きだなんて
きっとあたし、変わってるのかな?





窓際に置かれたソファに座る。
きっと会場の片付けは
明日なんだと想う。


明日には無くなってしまう
今日だけの、この空間。


月の光でも
十分に明るいくらい。
そっと窓から
庭を覗いてみる。


10月の終わりの庭園は
コスモスや秋の花が
咲き乱れている。


月も満月に近くて。


(早く侑人さん来ないかな・・・・)

待ち合わせをしたわけじゃないのに。
きっと来てくれると
信じてるから。


あたしはパーティの疲れもあって
近くのソファで
うたた寝してしまった。












・・・・・・・・・・・




ふと目が覚めた
何か音が聞こえる。


え・・・?


あ・・・眠っちゃってた?



思わずびっくりして起きたら
ホールの隅から
音が聞こえる。

なんかいつもとは違う音。


電気はついていない。
ホールは月の光だけ。


でも・・・。


あれ?と想って
そこに近づくと
古いレコード機があった。

レコード盤が回ってる。

じーっという音と共に
ジムノペディが流れた。








「*****」


優しい声が
あたしの名前を呼ぶ。
その声で誰かわかるよ。




「・・・侑人さん」



振り向けば
あたしがずっと逢いたくて
待ち焦がれていた人。


両手には2つの
中にろうそくが入れられた
ジャックランタン。


かぼちゃの目や口から
柔らかい灯りがこぼれている。


思わず駆け寄ると
侑人さんが仮装しているのが分かる。

思わずその仮装に
目を丸くする。


「侑人さんそれって・・・」


両手に持っている
ジャックランタンの光で
その姿が浮かび上がる。


「****がここで僕を待っていると想ったから、着替えてきたよ」


「え?」


「約束しただろう?パーティが終わったら戻るって」


「うん」


「どうしたの、そんなきょとんとした顔をして」


「だって・・・」


あたしが驚いている様子に
侑人さんがくすっと笑う。
そしてホールの隅に置かれた
テーブルにそれぞれ1個づつ
ジャックランタンを置いた。


「ね、侑人さん。その格好って・・・」


「ヴァンパイアだよ」


灯りをテーブルに置いて
近づいてきた侑人さんは
吸血鬼のマントを羽織っていた。


真壁から借りたんだ。


そう言いながら
近づいてくる侑人さんの影が
蝋燭の光でゆらゆらと揺れる。



黒の燕尾服に
黒の蝶ネクタイ。
そして黒いマント。


(さっきの真壁さんのヴァンパイア姿もよく似合っていたけど・・・・)


侑人さんはとても・・・
淫靡でもっと艶ぽい。


「さっきまで準備や片づけで追われてたからね」


すごくカッコよくて
ドキドキしてしまって・・・
あたしは侑人さんから
目が離せなくなっていた。


「待ちくたびれた?」

「・・・ううん、大丈夫」

侑人さんがあたしを髪の毛を撫でる。
思わず自分が
真っ赤になるのが分かる。


「どうかした?」

「う、ううん」


あたしが見惚れてることに気がついて
侑人さんがくすっと笑う。


「こんなところで寝てたら風邪を引いてしまうよ」

「・・・侑人さんが見つけてくれるって分かってたもの」


侑人さんがあたしの前に立つ。
蝋燭の光が逆光で
その表情は見えないけど。

すごく愛しそうに
あたしを見つめているのが感じられる。


伸ばされたその手が
優しくあたしの頬を撫でた。
あたしはその手を掴んで
自分の頬に当てた。


「侑人さんを待ってたの。侑人さんと踊りたくて・・・」


侑人さんと踊るまで
着替えたくなかったの。
この姿を見せたかったんだ。



「しょうがない子だ」


侑人さんが優しく笑いながら
あたしだけに聞こえるように
囁いてくれた。








おいで。





手を引かれて
ホールの中央に立つ。





部屋に静かに流れる
ワルツの曲。

ジャックランタンから漏れる灯り。

窓から差し込んでくる月光。


そしてヴァンパイアの格好をした恋人。


「いつもだったら、こうやってホールなんかでは踊らないけど・・・」


「うん、わかってるよ」


建前は執事長の侑人さん。
2人でいるときは
執事だったり恋人だったりするけど
部屋で2人きりじゃないときは
大抵は執事の樫原さんだ。



「この蝋燭の光だけで、誰にも見られないなら大丈夫」


「そうだね」

侑人さんがあたしを
ぐっと引き寄せる。


「一曲、踊ってくれますか、マドモアゼル?」

「ええ、喜んで」


優しく組まれる手。
背中に添えられる手。
優しく笑った侑人さんが
ゆっくりと踊りだす。


そのリードに合わせて
あたしも靴で床を滑るように
踊り始めた。

部屋の隅でともる蝋燭の光で
二人の影が揺れるのが分かった。









「やっぱり、侑人さんとの方がすごく踊りやすい」


「それはそうだよ」


なんていっても
僕は君の恋人だから。
君のタイミングや
身体の使い方、
呼吸の速さまで知ってる。


緩やかでありながらも
しっかりとリードしてくれる。
ナチュラル・スピン・ターン、リバース・ターン。


侑人さんに導かれるまま
あたしはステップを踏む。


侑人さんは踊りながら
あたしの瞳を見つめる。
あたしも侑人さんを見つめる。


踊っている間は
あたしと侑人さんは
本当に二人だけの世界になる。



「ねえ侑人さん、覚えてる?」


何も言わないのに
侑人さんが優しく頷く。


「あの時と一緒だね」


あたしが想いを告げた日のこと。
初めてキスした日のこと。
あの日もこうやって
侑人さんと踊った。


「あたし・・・ずっと侑人さんに恋していたのに、その気持ちを言えなくて」

「わかってたよ」

君の気持ちは全て。
嬉しかった。



そう伝わってくる言葉が
あたしも嬉しくて。
そっと肩に頭をもたれさせた。



「今日のこのドレス姿、とても綺麗だよ」


「ありがとう」

侑人さんの手が
あたしの肩や
ドレスから出ている背中をなぞる。


「パーティで誰と踊った?」


「ん?」

侑人さんの目が
じっとあたしを見つめる。

・・・あたしがこうやって
問われることに弱いって
分かってて。


「・・・晶さんと踊ってウォルフさんと中岡さん・・・義兄さん」


真壁とは?と訊かれて
首を振った。
侑人さんがそっと笑うのがわかる。
安心したのかな?


「慎一郎様と踊られてるのは見たよ」


「え?」


「丁度その時会場にいたからね」

いつもの笑顔で
にっこり笑う。

「気がつかなかった・・・」


「踊りながら楽しそうに、どんな話してたの?」


どこにいたの?と聞く前に
質問で返された。
その言葉は・・・疑問系だけど
あたしは知ってる。
これって、全部話しなさいって
軽い命令形。



「・・・とても綺麗だからどこにもお嫁にやりたくないって言われたの」

「あたしの結婚式にはきっと泣くだろうな、って」



思わず義兄さんの
困り顔を思い出して
くすっと笑ってしまう。


そんなあたしを
侑人さんが真面目な顔で
見返した。


「慎一郎様が僕にとって一番の恋敵ですね」


「え?」


さらりと言われた言葉に
ドキッとする。
そのままターンでくるりと回される。
戻ってきたところは
侑人さんの胸の中。


侑人さんは何も言わずに
いつもの笑顔だった。


侑人さんの冗談、
ほんとにわかりにくいよ。



「それにしてもこんなにも綺麗な姿でハロウィンパーティ出席なんて、さすがは僕の恋人だ」


「侑人さんが選んでくれたからだよ」


侑人さんが少し赤くなりながらも
あたしのことを褒めてくれる。
それがとても嬉しい。



「もっとこっちおいで」


侑人さんを見つめたら
ステップを踏むのをやめて
背中に添えていた手で
ぐっとあたしを抱き寄せた。

そして組んでいたその手を
あたしの頭に添えて
じっと見つめる。



「本当に綺麗で、見惚れてしまうよ」


「・・・あたしだって・・・侑人さんがとても素敵で見惚れちゃうよ」


「奇遇だね」


思わず笑ってしまう。
懐かしい言葉。


この言葉を最初聴いたとき・・・
すぐには意味がわからなかったけど
でも、とても嬉しかった。


あたしの中で
忘れることのできない言葉の1つ。


「うん。それにこういうの両想いっていうんだよ、侑人さん」


「知ってるよ」



思い出しているのが
わかったのか、侑人さんが
にっこり笑った。


視線が交わる。



そっと瞼を閉じたら
自然と唇と唇が重なった。


ジムノペティの音階。



緩やかでも静かに激しいキス。
角度を変えて
何度も繰り返される。


唇も吸われて、舐められる。


Kiss off.
キスで口紅を剥いじゃうことって
侑人さんが前に
英語の宿題をしているとき
教えてくれた。







時が止まる。





いつの間にか
曲が終わっていた。


侑人さんがずっと
キスしててくれた。
永遠かもと思うほど長く。
何度も何度もキスされる。


繰り返されるキスに
心奪われる。


キスしながら
髪の毛を撫でられる。
ドレスの背中、
開いたところから
肌に触れる。


ドレスの背中から
差し込まれる指先。
それはひんやりとしながらも
優しく撫でてくれる。


うっとりして
力が入らなくなって
そのまま侑人さんにもたれたら
唇が優しく離された。



「曲が終わったね」


「うん」


「もう少し踊る?」


「ううん・・・さっきのでラストダンスは充分」



侑人さんが耳元に顔を近づける。


「薔薇の香りがする」


「うん」



耳朶の後ろにつけた練り香水。
きっとキスで体温が上がったから
それで香りがするんだと想う。


「これだけ近づかないと、匂いがわからないようにちょっとだけ」



侑人さんが傍にいなくて
ちょっと寂しそうな顔をしていた
あたしに真壁さんが
夜を楽しく過ごせる魔法だって
そっと付けてくれた。


その意味が今、よくわかる。



「キスされることわかっていたからかい?」


優しく笑う声が聞こえる。


パーティの時間に
一生懸命侑人さんを探していた
心細さや不安や寂しさが
全部消え去っていく。


パーティは楽しかったけど、
でも侑人さんがいなくて
ちょっぴり寂しかった。


パーティが終わった余韻を
今、2人で味わえて・・・
こんな甘い時間が
ずっと続けばいい、と想った。



「侑人さん・・・大好き」


そう言って侑人さんの
燕尾服の胸元に
頬を寄せる。



「****・・・」



ふわっと何かが背中に被さった。

一瞬の後。
マントの中に包み込まれた。

侑人さんがマントを持ちながら
その中に
あたしを閉じ込めた。





真っ暗の中。




さっきも蝋燭の明かりしかなかった
暗い部屋だったけれど。
今はもっと真っ暗。
頭の先からつま先まで。



ヴァンパイアのマントの中。



何も見えなくなって
ただそばにある侑人さんの
身体しか感じられない空間。


「侑人さん・・・? 」


ちょっとだけ不安になって
侑人さんにしがみつく。
そしたら侑人さんが
くすっと笑うのがわかった。



「僕の心臓の音、聴こえる?」


「うん・・・」


少しだけ速い。


抱きついている
その身体を通して言葉が
自分に響いてくる。


真っ暗なのは
ちょっと怖いけど
でもそれが侑人さんの
マントの中だから・・・
怖いけれど
でもこのままずっと
包まれていたいと想うの・・・。


抱きしめられるだけで
満たされる気持ち。



侑人さん・・・って抱きついたら
抱き返してくれた。





本当に君は
僕の腕の中だけに
納まってしまって。
時々可愛すぎてたまらなくなる。



侑人さん・・・。


こんな可愛い君だから
慎一郎様が手放したくないと
冗談でもおっしゃる理由がわかるよ。


ふふ・・・あれは義兄さんの冗談だよ。


そうかな?





侑人さんの少し真剣な声が響く。





慎一郎様が君を可愛がりすぎて
結婚を許してくれないのならーーー




いっそこのまま君を浚ってしまおうか。



え?




ヴァンパイアの花嫁になるかい、****?



・・・!!



言葉に驚いて顔を上げたら
侑人さんがじっとあたしを
見つめていた。



「返事は?」


その瞳の色が妖艶で
情熱的にあたしを見つめてる。


いつもの優しくて柔らかい
侑人さんじゃなくて
もっとその奥にある
一人の男の人だった。


思わずドキッとしてしまう。



「答えて、****」



軽い命令形に
あたしはくらくらしてしまう。
こうやって・・・
たまに支配的な侑人さんも
好きだと感じてしまうの。



「・・・・侑人さんみたいなヴァンパイアだったら、あたし、浚われてもいいーー」



答え終わらないうちに
激しく唇を奪われた。


さっきとは全然違う。


侑人さんの舌が
あたしの口の中を全て味わう。
熱で浮かされる。
全て奪い去られるかのように
激しく求められて。
息もつけなくなった。



「愛してるよ、****」



両腕で抱きしめられて
その腕の束縛から
逃げられない。


どこにも逃がさない、と
マントにも包まれて
その腕にも拘束されて―――


苦しいって侑人さんの
燕尾服の裾を指先で
一生懸命引っ張ったら
不意に唇が離された。



「っ・・・・!!」


少し咳き込みながら
侑人さんに抱きしめられる。



「・・・****がとても可愛いからだ」



荒くなってしまった
呼吸を整えようとしたら
侑人さんが
あたしの顎をしゃくって
自分の方に向かせる。
その親指で
息の荒いあたしの唇を
優しく撫でた。


「なんだかいつもの侑人さんとは違うみたい・・・」



いつもより・・・激しい。


強引でずるいところも
たまに意地悪で怖いところも
わかっている。


そしてそれを見せてくれるのも
あたしにだけってことも。
思い余って
実力行使に出ちゃうのも
あたしに対してだけだってことも。


今は知ってるよ。




「嫌?」


あたしは静かに
頭を横に振った。


「嫌じゃないよ、むしろ・・・ドキドキする」



こんな、侑人さんの一面を
あたししか見れないことが。


少し戸惑いながらも
頬が赤くなる。

侑人さんの手が優しく
あたしのからだのラインを撫でた。






なぜだろう。
きっと君があまりにも綺麗だから
パーティの時に
一緒にいれなかったことを
悔いてるのかもしれない、僕は。


手放したくないという
慎一郎様の気持ちがわかるからか。




その言葉が切なそうに聞こえる。




でもね、****。

「君が襲いたくなるほど綺麗だから気持ちが抑えられないんだ」



言い訳がましいその言葉に
くすっと笑ってしまった。



だってさっき襲っちゃったのに。
マントの中に閉じ込めて
腕も拘束して、あんなキスなんて
襲ってるのと同然だよ。

それをあたしの責任にするなんて
ずるいよ侑人さん。



拗ねながらそう言ったら
侑人さんがちょっと瞳を和らげて
そうだね、って言ってくれた。





「あ・・・薔薇の花が」


気がつくと
髪の毛に飾られていた
薔薇の花が落ちていた。


花弁が何枚か取れて
あたしと侑人さんの周りに散っている。



「花を散らすなんて・・・・」


その赤い花弁が
侑人さんの黒いマントにも付いている。


花弁を摘んだ指先を
侑人さんの指が包んだ。
その指先にそっと
侑人さんがキスをする。


あまりにもその動作が
色っぽくて・・・
目を離せなくなってしまったあたしを
侑人さんがまた抱きしめる。

力が抜けて指先から
赤い薔薇の花弁が
はらはらと落ちていく。


「・・・・本当に侑人さん、ヴァンパイアみたい」


・・・闇の魅力っていうのかな。
妖艶で・・・淫靡で・・・
見ちゃいけないほど綺麗で
思わず心を奪われてしまうの。



「****はヴァンパイアが好きなのかい?」


「違うよ・・・。侑人さんだからヴァンパイアでも好きなの」


今日の侑人さんは・・・
いつもと少し違う。
でも・・・こんな侑人さんも
すごく好きだよ。

今、あたしが
すごくドキドキしてるのわかる?


「****」

「なあに?」


侑人さんの瞳が
魅惑的に光る。
その瞳がじっとあたしを
見つめながら愛を囁く。


「もし僕がヴァンパイアだったとしたら、君を浚って、ヴァンパイアにして永遠に君だけを愛すだろう」

こんなに綺麗で
愛しい女性を前にして
浚いたくなるのは当然だよ


「そして、僕は君の血しか吸わない」


「え・・・」


そう言いながら
侑人さんの綺麗な指が
あたしの首筋をすーっと撫でた。

ひんやりとする。


「だって愛してるんだから、飲みたいのは君の血だけだ」


指先があたしの髪の毛を
少し耳朶がみえるように
かきあげられる。


「・・・・侑人さん、冗談わかりにくい」


「冗談じゃない」


「侑人さん・・・」


ゆっくりと耳元に近づいてくる唇。


そういうのもいいと思わないかい?


密やかに笑う声にさえ
胸をときめかせる。


今日はハロウィンだから。
こんなことさえも
きっと許される。
僕がヴァンパイアになっても。
そして君がその花嫁になっても。


「・・・なんだか怖いよ、侑人さん」

「怖くなんかないよ」


耳朶を軽く舐めながら
喋るなんて・・・
その感覚で思わず
力が抜けそうになる。


「こういう風に愛されるだけだ」


あ・・・・。


侑人さんがゆっくりと
あたしの首筋に噛み付いた。



「っ・・・・!!」


思わずきつく目を瞑る。


痛みじゃない。
これは・・・気持ちよさ。


生温かい唇や
這う様に動く舌。
軽く噛んでくる歯。
肌に吹きかけられる温かい息。





(侑人さんに食べられちゃう・・・)



強烈な感覚で
思わず身体の力が抜けて
くらっと来たあたしを
侑人さんがつかさず
お姫様抱っこのように
抱きかかえた。



「っ・・・!!」



侑人さんがくすっと笑う。



魅惑的に微笑みながら
あたしに言い聞かせる。





今日はもうここには誰も来ない。
鍵も閉めてしまったからね。



ヴァンパイアに浚われた花嫁の
今夜の君は、僕の意のままだ。

可愛い***。
本当に可愛い。
浚ってしまいたい、このままずっと。

誰にも邪魔されないところへ。
2人だけになれるところへ。









僕達2人のパーティは
これからだよ。







顔を近づけて
侑人さんが
あたしにしか聴こえない声で囁く。


初めて侑人さんに
抱かれた夜のように。


あたしの中から
余裕なんてものが
侑人さんによって
全て剥ぎ取られる。



侑人さんに
そう囁かれるだけで。


その言葉の魔力に
身も心も束縛される。


これから起こることに
胸が高鳴って
何も喋れなくなったあたしは
ただ静かに目を伏せた。



その瞼に侑人さんが
優しくキスをしてくれた。















黒のマントが翻されて
2人の姿を隠すように
包み込まれる。



闇に奪われるかのように
白いドレスが乱れる。



ホールの静寂を乱す気配。



蝋燭の明かりが揺れる。


ジャックランタンから
零れる灯りが
弱弱しくなる。


オレンジ色の絨毯に延びる影。


月は雲で覆い隠される。


時折、青白い月光が
天井のステンドグラスに
刺し込む。



鳴り終わった後の
レコードの針が止まる音。


絨毯に散らばった
赤い薔薇の花弁。



テーブルに置かれた
小さなティアラ。



衣擦れの音。
侑人さんの息遣い。
漏らしてはいけないと
抑えるあたしの声。


そっと吐き出される溜息。


闇にゆっくりと飲み込まれる。



ひっそりと耳元だけで
囁かれる愛の言葉。
繰り返される情事。




薔薇の香り。



侑人さんとあたしの匂いが溶け合う。










パーティが終わった後。





2人だけの時間。







パーティの余韻を残し
ハロウィンの夜が
静かに過ぎていった。





ただそれを知っているは
雲に隠れた月だけ。







Fin…..


















■ あとがき■


ハロウィンの夜のお話なので
それにちなんで
ダークな感じを目指してみました。
ほとんど灯りがなくて
月光や蝋燭の光だけのホールを
想像してもらえれば。


「パーティの後で」という題名で
書きはじめたこのお話。
勿論ハロウィンパーティの後で、
という意味と、今回の
樫原侑人誕生日企画という
パーティの後で、という
〆でもあります。


パーティが終わった後の余韻。
楽しかったね、と
親しい人と語ったり
パーティの喧騒から離れて
ほっとする時間。
そういうのがすごく好きです。


夜のパーティ会場。
そこで月光の光や
蝋燭の光だけで
静かに2人っきりで踊る恋人達。


侑人さんの仮装。
実は某執事さんの格好を
イメージしていました。
吸血鬼はゆきなさんにも
リクエストしたんだけど
それとも合わせて。

もっと侑人さんに
大胆で気障な言葉を
言わせたかったなぁと想いつつ。

パーティの後
侑人さんと2人で過ごす時間。
ハロウィンの夜だから
いつもよりダークで。
濃い愛情に満たされますように。


8.Novenber.2009 つぐみ


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