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『4月の雨、夜語り』第三夜『雨の日は隣にいて』の
分割分になります。

こちらは、その2です。

その1は、こちらから。

1つの記事で読まれたい方は、
『雨の日は隣にいて』 よりどうぞ。


以下、創作になります。


ご注意の上、お読み下さい。



********* 雨の日は隣にいて その2 **********














昼食の約束をした当日。


なんだか、少し浮かれている自分がいた。
そして、そういう自分に戸惑っている自分も。


久しぶりの・・・・男の人との昼食だからだろうか。


ただ一緒に昼食をするだけだ。
ご飯を食べるだけ。


気を引き締めて、控えめにお洒落をして
迎えが来るのを待っていた。


本当は・・・待ち合わせ場所を決めてもらって
そこに自分で行きたかったけれども、
慎一郎さんが迎えに行くから、と引かなくて
それで・・・・自宅も知っていることだし、と
自宅近くまで迎えに来てもらうことになった。



待ち合わせ時間より
少し前で自宅の玄関先で待とうと、
玄関を出たら。





既に慎一郎さんが既に来ていた。




運転席に座っているのが見える。

それも、前回あたしを
送ってくれたリムジンじゃなくて
普通の高級車だった。



私の姿を見ると、
運転席から慎一郎さんが
少し慌てて降りてきた。



「こんにちは。九条院さん、お久しぶりです」



そう話しかけると、
とても嬉しそうに微笑んだ。



ずっとお誘いをお断りしていてごめんなさいね。



形ばかりでも謝っておいたら、
慎一郎さんは全然気にしなくていい、
という風に笑った。


今日は執事さんも運転手さんもいないんですね、
と訊くと、慎一郎さんは



「念願のデートですから、今日は僕と貴女だけです」



と答えた。
それも、にっこりした笑顔で。


デート!



その言葉で私はとてもびっくりして
ただの昼食です、と言おうとしたけど
あまりにも嬉しそうな顔で
笑っている慎一郎さんを
みていると、それが言えなかった。



私に逢っただけで、
こんなに嬉しそうな顔をする人を見たのは
初めてだった。



その日、慎一郎さんは、
九条院グループ系列で
いつも贔屓にしているというお店へ
連れて行ってくれた。



そのエスコートはとても自然で、
一緒に過ごす時間は、
とても・・・楽しかった。

下手に気を使って
同僚と食事をするより
全然いい。


慎一郎さんは色んなことを知っているし、
それに、持ち前の性格なのか、
鷹揚なところがすごく一緒にいてて
リラックスできる。


思わず、持ち前の口調で
冗談を言ったり、
ツッコんだりしている自分がいた。


九条院グループの御曹司だ、ってわかりながらも、
自分よりも5歳年上だとわかりながらも、
なんだか、親しい友達と話しているように
楽しい時間が過ごせた。



食事もおいしくて、
慎一郎さんがこれまで行った海外出張での
彼のドジな話や、屋敷での出来事など、
色んな話をしてくれた。



食事をした後、まだ時間は大丈夫かと聞かれ、
当初の予定としては、食事だけで
帰ってくるつもりだったんだけど、
あまりにも一緒にいる時間が楽しかったから、
ついOKしたら、慎一郎さんが嬉しそうに笑った。


その日、慎一郎さんの車でドライブをした。
運転している慎一郎さんの助手席に座り
色々な話をした。


この人とは、色んな話ができて楽しい。


正直、そう感じた。



仕事の話は一切なかった。
九条院慎一郎、じゃなくて、
ただの1人の男性だった。








帰り際、また誘ってもいいかと訊かれ、
一瞬迷ったけれども、今度から誘うなら、
会社経由で手紙ではなく、
自分の携帯に連絡して欲しいと、
私は持っていたメモに
自分の番号とアドレスを書いた。



会社の同僚から憶測されたり、
なにかとうるさいから。


そう告げたら、慎一郎さんが
少し困った顔をして謝ってくれた。



僕もあんなに会社経由で送って
迷惑ではないかと心配していたのです。
でも、連絡先を知らなかったので、
あのように送ってしまいました。



今度からは、携帯に連絡くださいね。


そう言いながらも、
私はまたこの人と
出かけることがあるんだろうか?と思った。


でも・・・、嬉しそうに電話番号の登録をしている
慎一郎さんを見て、何も言わないでおいた。


また逢うか、逢わないかは、
ゆっくり決めればいい。



そう計算した私に、慎一郎さんが
柔らかく微笑む。
そして、少し躊躇いがちに訊いてきた。


「僕がこうやって貴女を誘うのは迷惑ですか?」



「迷惑ではないですが・・・・でも、どうして?」


(どうして、そんなに私のことを気に入ってるんですか?)



そう、直接続きはいえなかった。


でも、私の言葉を聞いて、慎一郎さんが
少し考えた後、率直に答えてくれた。



「雨の日に、貴女を車で送ったでしょう?」


その時に色々話をしてて、
何か惹かれるものがあったんです。
それで、いつもの僕ならこういうことはしませんが、
貴女にもう一度あって、それが何か知りたくて
少し強引ではありましたが、お誘いしました。



意外な答えだったけど、
なんだかわかるような気がした。


だからちょっと冗談交じりに聞いてみた。



「それが何かわかりましたか?」


慎一郎さんは、優しく微笑む。


「ええ、わかりましたよ」


少し自信満々に答える口調に
え?と思って聞き返す。



「何だったんですか?」


くすっと笑った慎一郎さんが
慎重な口ぶりで話し始めた。

笑顔じゃなくて、
きちんと私の目を見つめていた。


「それは・・・貴女と一緒にいると何故か自分らしくいられるんですよ」


九条院慎一郎だからと、
取り繕わなくてもよくて。


ついつい、素の自分でいてしまう。


なぜだろうかと考えててわかったのは、
あなたが僕を九条院慎一郎だから、という目で
見ていないからだろうと思います。

九条院という名前だけで
僕を見る人は沢山いますから。





そういって、慎一郎さんは笑った。



その笑い顔が、なんだか・・・・
少し切ない気がして。
私は初めて、目の前にいる
男の人のことを意識した。



「貴女は僕に九条院慎一郎であるということを強要しませんからね」


そう付け加えて、こっちを見つめる。
その瞳が、冗談ぽくいながらも、
真剣な色もあるのもわかる。


・・・確かに、私は九条院グループに
あまり関心を持っていないし、
ましてや慎一郎さんと昼食をとるのも、
ただ会社への手紙攻撃をやめて欲しいぐらいの
気持ちで、九条院慎一郎である彼に
近付きたいという気持ちは、全然なかった。


「だって、あなたはあなたじゃないですか」


思わず、そう言ってしまった。
当たり前のことだから。


その言葉で慎一郎さんは、
また目を丸くしたけど、
優しく微笑んだ。


「僕の周りには、僕自身に興味がある人は少なくて、九条院慎一郎に興味がある人が多いんですよ」


だから、貴女はすごく珍しい。
それで、もう一度だけでも
貴女に会いたかった。



そう、しんみりと言われると、
なんだか、この人が可哀想だな、と感じた。


それで思わず


「私でよければ、また昼食、ご一緒しましょう」

自分から誘っていた。


その言葉で、慎一郎さんの顔が
ぱーっと明るくなる。



あれ?


私、かなり喜ばせることを言ってしまった。


言った後で後悔したけど、
でも、一気ににこやかな笑顔になった
慎一郎さんを見ていると、何もいえなくて、
同じように、にこにこしてしまった。



この人の笑顔は・・・、不思議と
他の人も笑顔にさせてくれる。



「じゃあ、また一緒に食事をしましょう」
今度からは、携帯で連絡しますね。



自分が誘ってしまった手前、断りきれなくて
私は苦笑しながら頷いた。



・・・そんなこんなで、初めてデートした後、
毎日メールが来るようになり、
少しづつ慎一郎さんと私の仲が近付いていった。
















3回目のデートの時に、
恋人として付き合って欲しいといわれた。


どうして?と訊くと、
少し困った顔で、
君のことが気に入ってる、という。


まだ今日のデートを入れても
4回しか逢ったことのない相手に
気に入ってる、というなんて、
少し焦りすぎだとは思うけど、
でも、君のことが気に入ってて、
こうやって過ごす時間が、
僕にとって大事だと感じているから。


慎一郎さんの申し出は嬉しかったけど


私もその頃には慎一郎さんが
好きになっていたけど
でも、踏み切れなかった。


だから、答えは保留で。


今のままの関係がいいんです。
答えが出るまでは、今のままで。


今お答えで来ません。



そうきちんと伝えたら、慎一郎さんは、
じゃあ時がきたら教えてくださいね、と笑った。




私たちは、一緒に食事をしながら、
沢山の話をした。



仕事の話じゃなくて、
もっと個人的な・・・・これまでの思い出とか。
慎一郎さんも沢山話をしてくれたけど、
私の話も沢山聴いてくれた。



それからは、2週間に1回は慎一郎さんと
一緒に食事をすることになった。


食事はしなくても、
慎一郎さんが、自宅近くまできて、
少しだけ顔を見て帰ることもあった。


慎一郎さんの仕事の方が忙しくて
滅多に時間があわないときは、
月に1~2回しか会えないけれど、
でも、その代わり、何かにつけて
慎一郎さんは、メールを送ってきてくれた。


綺麗なものを見たといっては
その画像を送ってきたり、
寝る前の時間におやすみなさいと
メールを送ってきたり。

どこそこに行ったとメッセージつきで
お土産を送ってきたり。
絵葉書を送ってきたり。

メールもしてくれるけど、
たまに手紙も書いてくれた。

本当に、すごくまめな人だった。


そして、慎一郎さんからの
小さなプレゼントは、
いつのまにか、
私の生活に
小さな幸せを沢山もたらした。



何回か慎一郎さんに逢ううちに、
だんだんと彼に
惹かれている自分に気がつく。


九条院慎一郎ではなくて、
1人の男として、彼に惹かれてる。


その話しぶりや性格、
そして一緒にいて安心できるところ。
少しぬけているところがあって、
それがまた魅力的であること。
お坊ちゃま育ちだからか、
人を疑うことをあまりしないこと。


そして、いつも優しいこと。
私より年上で、たまにすごく・・・
頼りになること。


私をいつも喜ばせてくれること。




今まで、妹の親代わりとして
両親が他界した後、気を張ってきた。


生活面でもそうだし、自分が働いて
妹を育てなければ、という思いや、
家族がお互いしかいない寂しさ、
いつも、妹のことを気にかけていた。


誰にも言えなかった、
そういう自分の強がりも
慎一郎さんの前では消えてしまう。



彼が年上だから、ということだけじゃない。
私が被っていた仮面を
この人の前なら外してもいいと思えるほど
なぜか素直に・・・・甘えることもできた。


しっかりしなくちゃ、って気持ちが
彼の前にいると、そうじゃなくなって、
1人の女の子のように、
無防備でいられるし、
そしてすごく素直でいられる。


それがとても不思議だった。


これまで、私をこうやって
リラックスさせてくれたり
甘やかしてくれる人には
出会ったことがなかった。









・・・・・・・・・・・・





・・・・ずっと、答えを保留にしたまま、
1年がすぎた。


その間も、ずっと慎一郎さんは
私に好意を寄せ続けていて、
好きだといい続けた。

メールもそうだし、時間がある限り、
食事やデートに誘ってくれてた。
その度に、私に愛の言葉を囁くのを忘れない。



今考えれば、1年も答えを待ってくれてたのが
慎一郎さんの根気の良さなんだと思う。



でも、その間、もう既に
慎一郎さんの中では
私たちは恋人同士で
付き合ってることになってたのか、
半年をすぎた辺りから、
結婚の話を匂わせてきていた。




(返事をしていないんだけどな・・・)



そう思いながらも、慎一郎さんが
私にそれとなく結婚して欲しいと伝えてくる。


ちゃんときっちり切り出してこないのは
まだ私が返事をしていなかったからだろう。


こうなってしまった以上、
私が慎一郎さんの告白を受けるということは
もう結婚前提で、いえ、
結婚するという流れを
了解したということになる。



それもあって、
なかなか答えが出せないまま
1年が過ぎた。







慎一郎さんが
九条院家の跡継ぎだから、とか
そういうわけじゃない。




慎一郎さんからの告白を保留にした理由。





それは、ただ妹のことだけが
気がかりだったからだけじゃなくて、ただ・・・。



これまで、父母ともに早く他界してしまって
自分の大事な人が自分よりも先に逝くことを
身をもって経験しているから。


特別な誰かを作るのが怖かった。



だから、これまでも誰かと仲が深くなって
恋人同士になるというときも、
できるだけ、あまり気持ちを
入れ込まないようにしてきた。


大事な人は最小限でいい。


まずは妹だけで。
そう思っていたから。


そんな私の生活に、
慎一郎さんが入ってきた。

今までの人間関係のように
1枚薄いガラスの壁で区切ろうとしたのを
慎一郎さんには、そのガラスの壁さえ
自分から取り払っている。


彼は、私の生活に彩りを
小さなプレゼントの幸せを
温かさをくれた。


でも、関係がもっともっと進むに連れて
彼を愛すことを、
彼を自分の大事な人間にするのを
怖がる自分がいた。



だから、すぐに返事ができなかった。



後から、何で付き合っている間、
1年もずっと待ってくれてたのか、と
慎一郎さんに聞いたら、
いつものように笑ってくれた。





だって夏実が僕のことを
好きになってることは
充分に伝わっていたからね。
待っていれば、必ず、
いい返事をくれるとわかっていたよ。




慎一郎さんは、こういう恥ずかしいことを
てらいもなく言ってしまう。



それに、好きだって気持ちは
言葉に出して証明するだけじゃなくて、
もっと伝える方法があるだろう?

夏実は言葉じゃない方法で
僕にいつも教えてくれてたんだよ。
だから、僕は君がきちんと結論を出すまで
待っていれたんだ。







友達未満、恋人ではないけど、
デートはするし、お互いの気持ちもわかってた。
でも、それから一歩が踏み出せなかった。


キスすることもなく。
抱きしめられることもなく。
手を繋ぐぐらいの仲。



ある意味宙ぶらりんなままの1年。





(このままじゃいけない)

私にも。
慎一郎さんにも。



そう思っても、それを許してくれている
慎一郎さんの優しさに甘えて、
答えを言わないまま、ただ
慎一郎さんからの
愛の言葉だけをもらっていた。



迷っていた私が1年経ってようやく
結論を出した理由は・・・・
慎一郎さんの言葉だった。







・・・・・・・・・・・・・






出逢ってから1年がすぎた頃。



その日は、妹が修学旅行の日だった。
いつもは平日の夜に
慎一郎さんと会うことはない。



平日の夜会えない理由は、
慎一郎さんも納得してくれて、
私たちのデートは、いつも休日か
それか昼間の昼食のときだった。


でも、この日は
妹が修学旅行でいないから、
夜のデートになった。





仕事を終えて、待ち合わせ場所に急ぐ。



最初の頃、慎一郎さんは
1人で運転してきていたが、
仕事の合間のちょっとした時間とかでも
逢いに来ることが多くなってからは、
専属執事の樫原さんや、
一緒にいることが多かった。


この日も、会社からちょっと行ったところに
樫原さんが迎えに来ていた。
慎一郎さんは仕事で
もう少し時間がかかるから
先に迎えに来た、とのこと。


樫原さんは慎一郎さんの影のように
いつも傍に寄り添っている。

私にも、その間に入ることができないと思うほど
慎一郎さんは樫原さんを大事にしているし、
樫原さんも慎一郎さんを大事にしているのがわかる。


いつか、慎一郎さんが言っていた。


侑人は僕の友人なんだ、と。


執事ではあるけど、
僕自身に興味を持ってくれて
そして、僕自身を好きでいてくれる
大事な友人なんだ、と。


だから、彼以外に
自分の専属執事は考えられない。



慎一郎さんの言葉は、
私にも容易に理解できた。


1年も慎一郎さんと会っていると、
彼が九条院グループの後継者として、
どれだけ多忙な日々を送っているか。
そして、どれだけ周りが慎一郎さんを
九条院グループという
看板でしか見ていないか。



両親も先に亡くなっている点は
私と一緒だった。


そのままの自分自身を
愛してくれる家族はいなくて、
慎一郎さんが、
ある意味孤独だということも。


だから、尚更、慎一郎さんが
樫原さんを信頼している
気持ちが理解できた。



私がたった一人の妹を
かけがいのない家族だとして
大事に思っているように
慎一郎さんが樫原さんのことを
執事以上、友達以上、
ある意味家族のように大事に思っている。




私は樫原さんに促されて
リムジンに乗り込む。
もう、何度もこの車に乗っているから、
だいぶ慣れてきた。




慎一郎さんがいないから、
私1人だけの空間。



1年前のあの日のように、
渋滞に巻き込まれる。




(少し予定より遅れてるから、きっと慎一郎さんの仕事も終わってるわね)





時計を見る。



いつもなら、妹が帰ってきてて
多分夕飯を作ってる時間。



あの子は、私が仕事で忙しい分、
家事を、全てやってくれるようになった。
まだ中学3年生だっていうのに。



2人家族だから仕方がないにしても、
もう少し・・・・、
子どもの時間を妹には過ごさせたかった。


そう、私がお父さんやお母さんに甘やかされて
学生時代を過ごしたように。





気がつくと、雨が降っている。

車の窓に雨粒がぽつぽつと当たる。





(大降りにならなければいい・・・)




私は1人、
窓の外の雨を見ながら思い出していた。


これまでの雨の日に起こった色々なこと。



例えば、妹を産んですぐに体調を崩して
入院生活をしていたお母さんが、
雨の日は特に具合が悪くなったこと。


そして亡くなって火葬をした日、

あの時、あたしは14歳で
あの子は4歳だった。



それから5年後、お父さんが
突然の事故に巻き込まれて
亡くなったあの日。



雨の日は・・・・沢山の思い出が
襲ってくるから。




だから、1人ではいたくない。





雨の日は・・・・キライ。



どうしようもなく、孤独を感じるから。





(あの子が今日行くところは、こんな雨降ってなければいいけど・・・・)





・・・少し気分が悪くなってきて
私は窓に頭を持たれて、目を閉じた。













******** 雨の日は隣にいて その2 *********



その3は、こちらから。

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