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『4月の雨、夜語り』第3夜は
九条院慎一郎と夏実さんのお話
『雨の日は隣にいて』です。


ヒロインの姉の夏実さんの視点から、
九条院慎一郎に出会ったときのお話を
語ってもらいました。

ヒロインが九条院家に来ることに
なったところからはじまるプロローグ。

そもそも、九条院慎一郎と
姉の夏実さんが結婚しなければ、
ヒロインがお嬢様になることもなかったわけで。


慎一郎と夏実さんの出会いを、
あたし風に想像してみました。


お話が長いので、分割を作っています。
携帯で全文が1つの記事で読めない方は

その1その2その3 でどうぞ。




以下、創作になります。
ご興味のある方のみ、お読み下さい。



↓↓↓↓





******* 雨の日は隣にいて *******






初対面の慎一郎さんの印象?


んー、そうだなぁ。


なんか、仕事はできるんだけど、
お金持ちのぼんぼん?(笑)
あ、でもすごく優しくて紳士だったわよ?



出会いを詳しく話して欲しいって。




何度もこれまで話してきたじゃない。






しょうがないなぁ。










その日。


出逢ったのは、
ちょうど今ぐらいの時期かな。


仕事が終わって。


雨が降ってきて、雷がなりそうだから、
いつもだったら走らないのに、
急いで帰ろうとしてた時に私のヒールが
道路の段差に引っかかって折れてしまったの。


ヒールの折れた靴でどうしようと思って
会社からちょっといったところで、
困っていたら、すっと差してくる傘があって。


「濡れますよ、大丈夫ですか?」


って慎一郎さんが立ってたの。


それが出会い。

え?


それからの話?




んー。

慎一郎さんは、綺麗に
まっすぐぴしっとしたスーツを着て、
にっこりと微笑んでたわ。




顔は知っていた。


だって私の会社の系列元の社長だもの。


でも、関わったことも、
仕事を一緒にしたこともなかった。
ただ遠くからみたことがあっただけ。



「だ、大丈夫です」




そう言って、傘を断ろうとしたら、
少し目を丸くして


「怪しいものじゃないですよ」


って、少し怪訝そうな顔をしたの。
断れたのが意外、って顔だったから、
私はそっちの方にびっくりしたわ。


「僕は九条院慎一郎です。あなたは、第一秘書課の***さんでしょう?」
困ってる様子だったので声をかけたんです。



思わず名前を呼ばれて驚いた。



「なぜ、私の名前を?」


あたしの質問に慎一郎さんは笑って答えた。


「秘書課の中でも、すごく有能な方がいらっしゃるということで、お名前とお顔はうかがっていましたので」

思わず、その言葉にどっきりとした。
まさか、そんな端の人間まで、
顔を知ってるなんて、という驚き。

そして、自分が有能だということを
他が評価しているということに。



「怪しい者じゃありませんし、それにこの状態では歩けないでしょう」


そう言って、慎一郎さんは
駐車場から出てこようとしていた車の
ドア近くに立っていた、
執事服をきた男性に向かって
車を回すように、と指示したの。



樫原さんね。



「外は激しい雨ですし、この靴だと・・・歩けないでしょう」
おうちはどちらですか?


にっこり笑ってたずねてくるんだけど、
でも、そんな初対面の人に、
いくらなんでも、会社関係で
顔は知っているとはいえ
あまりの展開にあたしは、びっくりしすぎて
言葉が出てこなかったの。



珍しかった。
だって、いつも「しっかりしている」っていうのが
他人からのあたしの定評だから。

仕事が出来て、同僚の倍量の仕事をこなし
そつない社交性。
そして、問題処理に関しても一流。
語学も一流。頭脳明晰。
それが、外にいるときの私の顔。
仮面のようなもの。



でも、なぜか、そのとき
仮面をすっと被ることが出来なくて、
思わず戸惑ってしまった。




傘を差されているとはいえ、
濡れた道路からはねる水しぶきで
靴は濡れてくるし、土砂降りだ。
本当にどうしようもなくなって。



「えっと・・・」


困っていると、慎一郎さんが
にこっと笑ったの。


「この靴だと帰宅が大変だ。お宅まで送りますよ」



そう言って、ゆっくりと手を伸ばして、
あたしの手を取ってくれた。


思わず、その手馴れた
エスコートにびっくりしたんだけど、
次の瞬間。


「だ、大丈夫です!」


と、あたしはその手を振り払った。


そしたら、慎一郎さんは
一瞬びっくりした顔をして、
くすっと笑った。


大丈夫じゃありませんよ?
外は激しい雨だし、第一
その靴で歩くなど危なくて仕方ありません。
僕の会社の方が、そんな危ない帰宅をするのを
見過ごすなんて、到底できませんから。
それに、女性が困ってるときは
助けるのが男ってものでしょう?



幸い車がありますから、
それに乗って自宅まで帰られたら、
濡れなくてすみます。
・・・急いでいた様子でしたし。




ちょっと困った顔をして、
そう言ってくる慎一郎さんを前に
あたしの脳内では、
ものすごい勢いで計算が始まってた。


こんな雷が鳴りそうな雨の中・・・・。
早く帰らなくちゃ!
でも、この靴では・・・・。


確かに危なくて、電車を使っても
自宅まで1時間あるのに・・・・。
途中で靴を買うにしても、
こんな雨の中・・・・。


思わず、少し考えてしまったあたしを
慎一郎さんが
じっと見つめてたのがわかった。
あたしの答えをじっと待っている。


ここで断るのは、
失礼かもしれない・・・・。


それも会社関係の、
それも、上司の上司にあたりもする。



あたしは、一瞬で色々考えた後、



「申し訳ありませんが、よかったら、自宅まで送ってくださいませんか?」


と慎一郎さんに言ったの。


そしたら、慎一郎さんが
少しびっくりしたような顔をしたけど、
次の瞬間、すごく嬉しそうに、
子どものように笑った。


あたしは、その笑顔が
ものすごく印象的だった。



こんな、子どものように
無邪気に笑う男の人、
初めてみたから。



それに。


あたしの言葉を、
あたしが了解してくれるのを
一生懸命じっと待っている様子が・・・・。


あたしが勝手に想像していた
“九条院慎一郎”とは違ったから。





そうして、あたしは
慎一郎さんの車に乗り
自宅に送られた。



それが、あたしと慎一郎さんの出会いだった。




雨の日にヒールが折れて
歩けなくなっていたのを助けてくれた。
自宅に送ってもらった。


ただ、それだけなはずだった。




・・・・・・・・・・・・・・




車の中で、慎一郎さんが
あたしにあれこれと聞いてきた。


自宅はどこなのか?から始まって
家族の話や、あたしの折れてしまった
ヒールの靴を褒めてくれたり。


どんな学校を卒業したのか、
どんな趣味があるのか。
どんなことが好きなのか、
仕事は気に入っているか。


何でも、あたしのことを知りたいのか
沢山の質問をしてきたけど、
不思議とそれは嫌じゃなかった。


今、ちょうど会社で進めている事業のことで
今日はたまたま会社に顔をだした、のだとか。
自分の話もよくしてくれた。


僕はドジだから、
専属執事の樫原がいないと
何もできないんだ、って。


初めて会った相手に対してなのに、
ものすごくオープンに話す人だなって思った。


雨で渋滞している街の中を
初めて話す相手と2時間近く
リムジンに乗っていた。


不思議と
緊張はしなかった。



ただ。

なんで、今日は急いで帰ろうとしていたの?
と聞かれて、思わず
いつもは聞かれても誤魔化すんだけど、
なぜか、慎一郎さんには素直に
妹が雷を怖がるから、と答えた。




私の家族は父母がすでに他界してて、
10歳年が離れた妹がいるんだけど
彼女が雷をすごく怖がるから、と。




それを聞いた慎一郎さんが
少し目を丸くしたあと、優しく
「妹さん思いなんですね」と言った。



妹思いか・・・・。



どうだろう。
たった一人の妹を庇護するのは、
ずっと私の役目だったから。


妹思い、という言葉だけでは
一言で表せない。


当然であり、
義務であると思っている。

義務、なんていう言葉は
ふさわしくないのかもしれないけど、
でも、私が働いて
この子を学校卒業させるまで、
がんばらなくちゃという、
親代わりの気持ちがあったことは確かよ。




だから、曖昧に笑って流した。





でも、雷がなりそうな雨の日に
すぐに自宅に帰らなくてはいけないのは
妹のためだけじゃない。




もう1つ。
早く自宅に帰る理由は言えなかった。




これは私だけの秘密だから。





リムジンの窓から覗く雨降る街は
沢山の人が黒い傘の下で
ただ下半身だけが動いているような
そんな膨らみが道を歩いているように感じられる。



それをじっと見つめていた。



車の中で静かな時間が流れる。
渋滞だから、と助手席に座った執事さんが
そう声をかけるのが聞こえた。



お時間は大丈夫ですか?
心配そうに慎一郎さんが訊いてくる。


妹の下校時間まで、まだもう少しあるし
今日は友達の家に行くと話してたから
多分遅くなっても大丈夫ですと答えた。


誰かと一緒にいれば、
妹の雷恐怖も、まだ治まりやすいから。



車の中にいても、
雨が激しく降り続いているのがわかる。
遠くで、雷がなっているような気がする。


稲妻がビルの合間からみえる
雲の中を、少しだけ光った気がした。




(こんな雨の日は・・・外にいたくない)



思わず憂鬱になってしまった私を、
慎一郎さんは何も言わず
微笑んで見つめていた。




・・・・・・・・・・



次の日、あたしは、
慎一郎さんに会社経由で
お礼の手紙を出した。


昨日は大変助かりました。
ありがとうございました。


ただ、それだけの
社交辞令のような文章。



そうしたら、すぐさま返事が来た。


渋滞に巻き込まれた車の中でも
一緒に話ができる相手がいて
とても楽しかった。
今度、ぜひ、あんなトラブルでなくても
話ができる機会が欲しい。
今度、昼食を誘ってもいいだろうか。



・・・・・私、本当に
社交辞令みたいなお礼しか
書いてないよね、と、思わず
自分が送った手紙のことを思い出した。


(なんだか、気に入られたみたい?)


びっくりした。


確かに話は弾んでいたけど、
でも途中から雨のせいで
憂鬱になってしまって、
最後の辺りとかは、
黙ったままだったけどな。



それに、慎一郎さんは
九条院グループの総帥で
跡継ぎで、本来だったら、こうやって
私と手紙のやりとりをするような時間は
ないと思うんだけど。



会社経由で届いた慎一郎さんからの
思わぬ返事で、私の部署は、
ちょっとした騒ぎになった。



どこで知り合ったの?
個人的に仲がいいの?
どんな人なの?



色んな質問が同僚から飛んでくる。



それが面倒くさくて。

会社では、仕事をバリバリこなすのが
好きだったから、他のことに
煩わされたくなかった。


私生活と社会生活は
きっちり分けていた。



ただ雨の日に車に乗せてもらって
(それも、予期せぬトラブルで)
別に彼と知り合いになりたかったわけじゃない。


思わぬ出来事に
私は少し戸惑っていた。



現在、恋人として付き合っているような
特別な相手はいない。


それどころか、恋愛をしたい、
という気持ちは、そこまで無かった。


今している仕事が楽しかったし
帰宅したならば、
笑顔で迎えてくれる
可愛い妹がいてくれるから。



順調な仕事、円満な家庭環境。
充分な収入、自分の趣味に費やされる余暇。



妹が二十歳になるまでは。
私が親代わりで、
この子の面倒をみなくてはいけない。


たった一人の妹だから。

たった一人の家族だから。


それだけで私の生活は満たされてた。




確かに・・・・
車の中に2時間も
渋滞で閉じ込められて
沢山話をした慎一郎さんは
・・・・好感が持てる人だった。


育ちの良さから来る鷹揚さや
穏やかそうで、優しそうな話しぶり。
かといって、しっかりし過ぎているわけじゃなくて
なんだか柔らかい感じ。



こんな男の人は、
今まで私の周りにはいなかった。


会話も洗練されていた。
どんな話題でも、きちんと押さえていて、
教養があって、知的ではあるけど、
それをこれ見よがしに匂わせたりはしない。



魅力的な人、だと思った。



いかにもモテそうな感じだけど、
仕事が忙しくて、
それどころじゃないのかしら。


話した感触は、すごく良い人で
周りの女の人が
放っておかないだろうってわかる。



昼食を共に、の真意がわからなかった。


自分から誘わなくても、
あの人だったら、
沢山声をかけられそうだから。




だから、昼食の誘いは、
今手がけている仕事で忙しいから
昼は出先が多くて、
予定がわからないのでと断った。









断ったけれども・・・・。




それから何度も
慎一郎さんから手紙が来た。


それも社内のメールからじゃなくて、
ちゃんと手紙として、紙で。



最初の1回を断ったあと。
一週間後にまた手紙が来た。


それもまた断った。
これで2回目。

でも、また次の週、手紙が来た。
3回目。



・・・考えたけど断った。


3回断ったから、
もう来ないだろうと思っていた。




でも、その数日後。


・・・・・会社経由であたしの
デスクに届けられる。
九条院のマークが押された白い封筒。


それも封筒だけじゃなくて、
何かしら小さなプレゼントもついてくる。


出張でどこそこへ行ったから、と
昼食の誘いだけじゃなくて、
慎一郎さんの近況報告までかかれてて、
本当にちょっとした文通になっていた。



ため息をついた。


なんかすごく、
気に入られちゃったみたいだけど・・・・。


でも、こうあからさまに、
同僚や上司にわかる形で
届くのは嫌だと思った。
もう同僚も冷やかすのをやめたのか、
意味深な目では見てくるけど、
訊いてはこなかった。



キャリアアップのために
御曹司に近付いた、なんて
そんな噂を立てられたくなかった。


ただ、私がずっと断り続けているのを
もったいない、と言っている人たちが
少なからずいるというのを
仲のいい同僚が教えてくれた。


本当にため息が出てきた。





雨の日に送ってもらってから
1ヶ月が経つ。




この1ヶ月の間に、
昼食を誘われたのが4回。



さすがに3回断れば
観念するかな、と思ったら
4回目が来て、
もうそろそろ断れないなと感じた。



一度逢うだけあって、
会社経由であれこれと送られると
困ります、と返事をしよう。



そう思って、
4回目の誘いをOKした。




・・・・・・・・・・・・・・・



その返事を書いた次の日。
すぐさま、会社のあたしのデスクに
慎一郎さんからのカードと
チョコレートが届いた。



カードには、
また逢えることになって嬉しい、
というメッセージと、
当日の時間が書かれてた。



チョコレートなんて・・・・恥ずかしい。
外国の男の人じゃないんだから、
こんなチョコレートなんて!


あまりにもストレートな行動に
私は少し当惑しながらも、
その迅速さに
思わず笑ってしまった。



(よほど、私と昼食がしたかったの?)


そこまで喜んでくれるとは
思っても無かった。


それにこうやってしてくれる男性に
今まであったことがなかった。


まあ、逢うだけ逢って、
一度逢えば、多分満足して、
こんな手紙攻撃が来ることは
ないだろうと思った。





・・・・・・・・・・・






昼食の約束をした当日。


なんだか、少し浮かれている自分がいた。
そして、そういう自分に戸惑っている自分も。


久しぶりの・・・・男の人との昼食だからだろうか。


ただ一緒に昼食をするだけだ。
ご飯を食べるだけ。


気を引き締めて、控えめにお洒落をして
迎えが来るのを待っていた。


本当は・・・待ち合わせ場所を決めてもらって
そこに自分で行きたかったけれども、
慎一郎さんが迎えに行くから、と引かなくて
それで・・・・自宅も知っていることだし、と
自宅近くまで迎えに来てもらうことになった。



待ち合わせ時間より
少し前で自宅の玄関先で待とうと、
玄関を出たら。





既に慎一郎さんが既に来ていた。




運転席に座っているのが見える。

それも、前回あたしを
送ってくれたリムジンじゃなくて
普通の高級車だった。



私の姿を見ると、
運転席から慎一郎さんが
少し慌てて降りてきた。



「こんにちは。九条院さん、お久しぶりです」



そう話しかけると、
とても嬉しそうに微笑んだ。



ずっとお誘いをお断りしていてごめんなさいね。



形ばかりでも謝っておいたら、
慎一郎さんは全然気にしなくていい、
という風に笑った。


今日は執事さんも運転手さんもいないんですね、
と訊くと、慎一郎さんは



「念願のデートですから、今日は僕と貴女だけです」



と答えた。
それも、にっこりした笑顔で。


デート!



その言葉で私はとてもびっくりして
ただの昼食です、と言おうとしたけど
あまりにも嬉しそうな顔で
笑っている慎一郎さんを
みていると、それが言えなかった。



私に逢っただけで、
こんなに嬉しそうな顔をする人を見たのは
初めてだった。



その日、慎一郎さんは、
九条院グループ系列で
いつも贔屓にしているというお店へ
連れて行ってくれた。



そのエスコートはとても自然で、
一緒に過ごす時間は、
とても・・・楽しかった。

下手に気を使って
同僚と食事をするより
全然いい。


慎一郎さんは色んなことを知っているし、
それに、持ち前の性格なのか、
鷹揚なところがすごく一緒にいてて
リラックスできる。


思わず、持ち前の口調で
冗談を言ったり、
ツッコんだりしている自分がいた。


九条院グループの御曹司だ、ってわかりながらも、
自分よりも5歳年上だとわかりながらも、
なんだか、親しい友達と話しているように
楽しい時間が過ごせた。



食事もおいしくて、
慎一郎さんがこれまで行った海外出張での
彼のドジな話や、屋敷での出来事など、
色んな話をしてくれた。



食事をした後、まだ時間は大丈夫かと聞かれ、
当初の予定としては、食事だけで
帰ってくるつもりだったんだけど、
あまりにも一緒にいる時間が楽しかったから、
ついOKしたら、慎一郎さんが嬉しそうに笑った。


その日、慎一郎さんの車でドライブをした。
運転している慎一郎さんの助手席に座り
色々な話をした。


この人とは、色んな話ができて楽しい。


正直、そう感じた。



仕事の話は一切なかった。
九条院慎一郎、じゃなくて、
ただの1人の男性だった。








帰り際、また誘ってもいいかと訊かれ、
一瞬迷ったけれども、今度から誘うなら、
会社経由で手紙ではなく、
自分の携帯に連絡して欲しいと、
私は持っていたメモに
自分の番号とアドレスを書いた。



会社の同僚から憶測されたり、
なにかとうるさいから。


そう告げたら、慎一郎さんが
少し困った顔をして謝ってくれた。



僕もあんなに会社経由で送って
迷惑ではないかと心配していたのです。
でも、連絡先を知らなかったので、
あのように送ってしまいました。



今度からは、携帯に連絡くださいね。


そう言いながらも、
私はまたこの人と
出かけることがあるんだろうか?と思った。


でも・・・、嬉しそうに電話番号の登録をしている
慎一郎さんを見て、何も言わないでおいた。


また逢うか、逢わないかは、
ゆっくり決めればいい。



そう計算した私に、慎一郎さんが
柔らかく微笑む。
そして、少し躊躇いがちに訊いてきた。


「僕がこうやって貴女を誘うのは迷惑ですか?」



「迷惑ではないですが・・・・でも、どうして?」


(どうして、そんなに私のことを気に入ってるんですか?)



そう、直接続きはいえなかった。


でも、私の言葉を聞いて、慎一郎さんが
少し考えた後、率直に答えてくれた。



「雨の日に、貴女を車で送ったでしょう?」


その時に色々話をしてて、
何か惹かれるものがあったんです。
それで、いつもの僕ならこういうことはしませんが、
貴女にもう一度あって、それが何か知りたくて
少し強引ではありましたが、お誘いしました。



意外な答えだったけど、
なんだかわかるような気がした。


だからちょっと冗談交じりに聞いてみた。



「それが何かわかりましたか?」


慎一郎さんは、優しく微笑む。


「ええ、わかりましたよ」


少し自信満々に答える口調に
え?と思って聞き返す。



「何だったんですか?」


くすっと笑った慎一郎さんが
慎重な口ぶりで話し始めた。

笑顔じゃなくて、
きちんと私の目を見つめていた。


「それは・・・貴女と一緒にいると何故か自分らしくいられるんですよ」


九条院慎一郎だからと、
取り繕わなくてもよくて。


ついつい、素の自分でいてしまう。


なぜだろうかと考えててわかったのは、
あなたが僕を九条院慎一郎だから、という目で
見ていないからだろうと思います。

九条院という名前だけで
僕を見る人は沢山いますから。





そういって、慎一郎さんは笑った。



その笑い顔が、なんだか・・・・
少し切ない気がして。
私は初めて、目の前にいる
男の人のことを意識した。



「貴女は僕に九条院慎一郎であるということを強要しませんからね」


そう付け加えて、こっちを見つめる。
その瞳が、冗談ぽくいながらも、
真剣な色もあるのもわかる。


・・・確かに、私は九条院グループに
あまり関心を持っていないし、
ましてや慎一郎さんと昼食をとるのも、
ただ会社への手紙攻撃をやめて欲しいぐらいの
気持ちで、九条院慎一郎である彼に
近付きたいという気持ちは、全然なかった。


「だって、あなたはあなたじゃないですか」


思わず、そう言ってしまった。
当たり前のことだから。


その言葉で慎一郎さんは、
また目を丸くしたけど、
優しく微笑んだ。


「僕の周りには、僕自身に興味がある人は少なくて、九条院慎一郎に興味がある人が多いんですよ」


だから、貴女はすごく珍しい。
それで、もう一度だけでも
貴女に会いたかった。



そう、しんみりと言われると、
なんだか、この人が可哀想だな、と感じた。


それで思わず


「私でよければ、また昼食、ご一緒しましょう」

自分から誘っていた。


その言葉で、慎一郎さんの顔が
ぱーっと明るくなる。



あれ?


私、かなり喜ばせることを言ってしまった。


言った後で後悔したけど、
でも、一気ににこやかな笑顔になった
慎一郎さんを見ていると、何もいえなくて、
同じように、にこにこしてしまった。



この人の笑顔は・・・、不思議と
他の人も笑顔にさせてくれる。



「じゃあ、また一緒に食事をしましょう」
今度からは、携帯で連絡しますね。



自分が誘ってしまった手前、断りきれなくて
私は苦笑しながら頷いた。



・・・そんなこんなで、初めてデートした後、
毎日メールが来るようになり、
少しづつ慎一郎さんと私の仲が近付いていった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・



3回目のデートの時に、
恋人として付き合って欲しいといわれた。


どうして?と訊くと、
少し困った顔で、
君のことが気に入ってる、という。


まだ今日のデートを入れても
4回しか逢ったことのない相手に
気に入ってる、というなんて、
少し焦りすぎだとは思うけど、
でも、君のことが気に入ってて、
こうやって過ごす時間が、
僕にとって大事だと感じているから。


慎一郎さんの申し出は嬉しかったけど


私もその頃には慎一郎さんが
好きになっていたけど
でも、踏み切れなかった。


だから、答えは保留で。


今のままの関係がいいんです。
答えが出るまでは、今のままで。


今お答えで来ません。



そうきちんと伝えたら、慎一郎さんは、
じゃあ時がきたら教えてくださいね、と笑った。




私たちは、一緒に食事をしながら、
沢山の話をした。



仕事の話じゃなくて、
もっと個人的な・・・・これまでの思い出とか。
慎一郎さんも沢山話をしてくれたけど、
私の話も沢山聴いてくれた。



それからは、2週間に1回は慎一郎さんと
一緒に食事をすることになった。


食事はしなくても、
慎一郎さんが、自宅近くまできて、
少しだけ顔を見て帰ることもあった。


慎一郎さんの仕事の方が忙しくて
滅多に時間があわないときは、
月に1~2回しか会えないけれど、
でも、その代わり、何かにつけて
慎一郎さんは、メールを送ってきてくれた。


綺麗なものを見たといっては
その画像を送ってきたり、
寝る前の時間におやすみなさいと
メールを送ってきたり。

どこそこに行ったとメッセージつきで
お土産を送ってきたり。
絵葉書を送ってきたり。

メールもしてくれるけど、
たまに手紙も書いてくれた。

本当に、すごくまめな人だった。


そして、慎一郎さんからの
小さなプレゼントは、
いつのまにか、
私の生活に
小さな幸せを沢山もたらした。



何回か慎一郎さんに逢ううちに、
だんだんと彼に
惹かれている自分に気がつく。


九条院慎一郎ではなくて、
1人の男として、彼に惹かれてる。


その話しぶりや性格、
そして一緒にいて安心できるところ。
少しぬけているところがあって、
それがまた魅力的であること。
お坊ちゃま育ちだからか、
人を疑うことをあまりしないこと。


そして、いつも優しいこと。
私より年上で、たまにすごく・・・
頼りになること。


私をいつも喜ばせてくれること。




今まで、妹の親代わりとして
両親が他界した後、気を張ってきた。


生活面でもそうだし、自分が働いて
妹を育てなければ、という思いや、
家族がお互いしかいない寂しさ、
いつも、妹のことを気にかけていた。


誰にも言えなかった、
そういう自分の強がりも
慎一郎さんの前では消えてしまう。



彼が年上だから、ということだけじゃない。
私が被っていた仮面を
この人の前なら外してもいいと思えるほど
なぜか素直に・・・・甘えることもできた。


しっかりしなくちゃ、って気持ちが
彼の前にいると、そうじゃなくなって、
1人の女の子のように、
無防備でいられるし、
そしてすごく素直でいられる。


それがとても不思議だった。


これまで、私をこうやって
リラックスさせてくれたり
甘やかしてくれる人には
出会ったことがなかった。









・・・・・・・・・・・・





・・・・ずっと、答えを保留にしたまま、
1年がすぎた。


その間も、ずっと慎一郎さんは
私に好意を寄せ続けていて、
好きだといい続けた。

メールもそうだし、時間がある限り、
食事やデートに誘ってくれてた。
その度に、私に愛の言葉を囁くのを忘れない。



今考えれば、1年も答えを待ってくれてたのが
慎一郎さんの根気の良さなんだと思う。



でも、その間、もう既に
慎一郎さんの中では
私たちは恋人同士で
付き合ってることになってたのか、
半年をすぎた辺りから、
結婚の話を匂わせてきていた。




(返事をしていないんだけどな・・・)



そう思いながらも、慎一郎さんが
私にそれとなく結婚して欲しいと伝えてくる。


ちゃんときっちり切り出してこないのは
まだ私が返事をしていなかったからだろう。


こうなってしまった以上、
私が慎一郎さんの告白を受けるということは
もう結婚前提で、いえ、
結婚するという流れを
了解したということになる。



それもあって、
なかなか答えが出せないまま
1年が過ぎた。







慎一郎さんが
九条院家の跡継ぎだから、とか
そういうわけじゃない。




慎一郎さんからの告白を保留にした理由。





それは、ただ妹のことだけが
気がかりだったからだけじゃなくて、ただ・・・。



これまで、父母ともに早く他界してしまって
自分の大事な人が自分よりも先に逝くことを
身をもって経験しているから。


特別な誰かを作るのが怖かった。



だから、これまでも誰かと仲が深くなって
恋人同士になるというときも、
できるだけ、あまり気持ちを
入れ込まないようにしてきた。


大事な人は最小限でいい。


まずは妹だけで。
そう思っていたから。


そんな私の生活に、
慎一郎さんが入ってきた。

今までの人間関係のように
1枚薄いガラスの壁で区切ろうとしたのを
慎一郎さんには、そのガラスの壁さえ
自分から取り払っている。

彼は、私の生活に彩りを
小さなプレゼントの幸せを
温かさをくれた。


でも、関係がもっともっと進むに連れて
彼を愛すことを、
彼を自分の大事な人間にするのを
怖がる自分がいた。



だから、すぐに返事ができなかった。



後から、何で付き合っている間、
1年もずっと待ってくれてたのか、と
慎一郎さんに聞いたら、
いつものように笑ってくれた。





だって夏実が僕のことを
好きになってることは
充分に伝わっていたからね。
待っていれば、必ず、
いい返事をくれるとわかっていたよ。




慎一郎さんは、こういう恥ずかしいことを
てらいもなく言ってしまう。



それに、好きだって気持ちは
言葉に出して証明するだけじゃなくて、
もっと伝える方法があるだろう?

夏実は言葉じゃない方法で
僕にいつも教えてくれてたんだよ。
だから、僕は君がきちんと結論を出すまで
待っていれたんだ。







友達未満、恋人ではないけど、
デートはするし、お互いの気持ちもわかってた。
でも、それから一歩が踏み出せなかった。


キスすることもなく。
抱きしめられることもなく。
手を繋ぐぐらいの仲。



ある意味宙ぶらりんなままの1年。





(このままじゃいけない)

私にも。
慎一郎さんにも。



そう思っても、それを許してくれている
慎一郎さんの優しさに甘えて、
答えを言わないまま、ただ
慎一郎さんからの
愛の言葉だけをもらっていた。



迷っていた私が1年経ってようやく
結論を出した理由は・・・・
慎一郎さんの言葉だった。







・・・・・・・・・・・・・






出逢ってから1年がすぎた頃。



その日は、妹が修学旅行の日だった。
いつもは平日の夜に
慎一郎さんと会うことはない。



平日の夜会えない理由は、
慎一郎さんも納得してくれて、
私たちのデートは、いつも休日か
それか昼間の昼食のときだった。


でも、この日は
妹が修学旅行でいないから、
夜のデートになった。





仕事を終えて、待ち合わせ場所に急ぐ。



最初の頃、慎一郎さんは
1人で運転してきていたが、
仕事の合間のちょっとした時間とかでも
逢いに来ることが多くなってからは、
専属執事の樫原さんや、
一緒にいることが多かった。


この日も、会社からちょっと行ったところに
樫原さんが迎えに来ていた。
慎一郎さんは仕事で
もう少し時間がかかるから
先に迎えに来た、とのこと。


樫原さんは慎一郎さんの影のように
いつも傍に寄り添っている。

私にも、その間に入ることができないと思うほど
慎一郎さんは樫原さんを大事にしているし、
樫原さんも慎一郎さんを大事にしているのがわかる。


いつか、慎一郎さんが言っていた。


侑人は僕の友人なんだ、と。


執事ではあるけど、
僕自身に興味を持ってくれて
そして、僕自身を好きでいてくれる
大事な友人なんだ、と。


だから、彼以外に
自分の専属執事は考えられない。



慎一郎さんの言葉は、
私にも容易に理解できた。


1年も慎一郎さんと会っていると、
彼が九条院グループの後継者として、
どれだけ多忙な日々を送っているか。
そして、どれだけ周りが慎一郎さんを
九条院グループという
看板でしか見ていないか。



両親も先に亡くなっている点は
私と一緒だった。


そのままの自分自身を
愛してくれる家族はいなくて、
慎一郎さんが、
ある意味孤独だということも。


だから、尚更、慎一郎さんが
樫原さんを信頼している
気持ちが理解できた。



私がたった一人の妹を
かけがいのない家族だとして
大事に思っているように
慎一郎さんが樫原さんのことを
執事以上、友達以上、
ある意味家族のように大事に思っている。




私は樫原さんに促されて
リムジンに乗り込む。
もう、何度もこの車に乗っているから、
だいぶ慣れてきた。




慎一郎さんがいないから、
私1人だけの空間。



1年前のあの日のように、
渋滞に巻き込まれる。




(少し予定より遅れてるから、きっと慎一郎さんの仕事も終わってるわね)





時計を見る。



いつもなら、妹が帰ってきてて
多分夕飯を作ってる時間。



あの子は、私が仕事で忙しい分、
家事を全部やってくれるようになった。
まだ中学3年生だっていうのに。



2人家族だから仕方がないにしても、
もう少し・・・・、
子どもの時間を妹には過ごさせたかった。


そう、私がお父さんやお母さんに甘やかされて
学生時代を過ごしたように。





気がつくと、雨が降っている。

車の窓に雨粒がぽつぽつと当たる。





(大降りにならなければいい・・・)




私は1人、
窓の外の雨を見ながら思い出していた。


これまでの雨の日に起こった色々なこと。



例えば、妹を産んですぐに体調を崩して
入院生活をしていたお母さんが、
雨の日は特に具合が悪くなったこと。


そして亡くなって火葬をした日、

あの時、あたしは14歳で
あの子は4歳だった。



それから5年後、お父さんが
突然の事故に巻き込まれて
亡くなったあの日。



雨の日は・・・・沢山の思い出が
襲ってくるから。




だから、1人ではいたくない。





雨の日は・・・・キライ。



どうしようもなく、孤独を感じるから。





(あの子が今日行くところは、こんな雨降ってなければいいけど・・・・)





・・・少し気分が悪くなってきて
私は窓に頭を持たれて、目を閉じた。

























夏実?



夏実、どうかした?
大丈夫かい?





耳元で声がして、目を開ける。


目の前に慎一郎さんがいた。



ああ、そうか。
待っている間に
着いてたんだ。


多分、窓にもたれて眠っていた私を
樫原さんが気を使って
寝かせてくれたのかもしれない。




「遅くなってごめん。顔色がすごく悪いけれど・・・」
気分悪い?



すごく心配そうな顔をして、
慎一郎さんが私の顔を覗き込む。



「顔色が真っ青だ」
すぐに休めるように、と慎一郎さんが
樫原さんに連絡して、
近くの九条院グループ系列の
ホテルへ行くように
指示をするのが聞こえた。




「大丈夫よ」
そういって、少し微笑んでみる。



憂鬱さや、落ち込んだ気持ちは隠せないけど、
でも、あまりにも心配そうな慎一郎さんが
すぐ傍で寄り添ってくれてるのが申し訳なくて。




「大丈夫。ちょっと昔のことを思い出しただけだから」
だから、少し気分が悪くなっただけ。



「・・・どんなこと?」
心配そうに慎一郎さんが、私の顔を覗き込む。







なんか・・・・こんなことを話すのが
気が引けて、私は黙ってた。




そしたら、慎一郎さんが口を開いた。


「雨が降ってるからかい?」


「え?」


思わず、慎一郎さんの顔を見た。
真剣な眼差しで、
彼は私を見つめていた。



「・・・・夏実はいつもそうだ。雨が降ると、慌てて家に帰るけど、それだけじゃなくて、いつも、そういう顔をする」
気になっていたけど、ずっと訊けなかったんだ。




そう真剣な眼差しで伝えながら、
慎一郎さんが私の隣に座って、
手を握ってくれる。


その手が温かくて。



思わず、私は
慎一郎さんの肩にもたれかかった。



気分が悪いだけじゃなくて。
ただ温もりが欲しくて。


(・・・気づかれてたんだ、私が心の中で秘密にしていること)






この人にだったら、話せるかもしれない。













「・・・・・雨の日になると、すごく哀しくなるの」


「うん」


慎一郎さんが、
私の肩を少し抱きしめる。


私は目を閉じて、
少しつづ語りだした。



「亡くなった母は雨の日になると具合が悪くなったの。」



だから、雨が降らなければいいって、
小学生だった頃の私は雨の季節になったら
沢山の照る照る坊主を下げた。



「母が亡くなって・・・・火葬をした日もひどい雨だった」


その日、すごい雷が鳴っていて、
まだ小さかった妹が
癇癪をおこしたかのように
大声で泣いていた。



その日以来、雷がなると、
妹がとても怖がる。


だから、雨が降ると、
1人で怖がってるかもしれない妹を思って、
すぐに家に帰るの。


父が亡くなったのも、
雨の日だった。
雨の日にスリップして、
交通事故で死んだの。


だから、雨の日になると、
そんな思い出が沢山出てくる。


哀しくて、辛い想いがこみ上げてくるから。



雨が私の大事な人たちを
奪っていった気がするの。





ぽつりぽつり語る私の手をを
慎一郎さんは優しく包んで
話を聴いてくれた。





そして語り終わった私を、
ゆっくりと抱きしめた。




















「夏実、これまで辛かったんだね」


優しい言葉が、
不意に私に降ってくる。


「そんなに1人で抱え込まなくてもいいんだよ」
優しく微笑む。



「これからは僕が君の傍にいるから」



その慎一郎さんがとても優しすぎて
なんていったらいいかわからなかった。



慎一郎さんの優しさが、
すごく伝わってきて、
心を満たしてくれるのがわかる。



ずっと誰にもいえなくて、
誰にも見せれなかった、私の心の中。



仮面の下の、奥に眠っていた
本当のあたし。



本当はとても淋しくて、
悲しくて、誰かに頼りたくて。
ずっと、心の中では
雨が降っていた。













すぐには、多分、
こう思えないかもしれないけど・・・・。
雨の日は哀しいことだけではないよ。



そう、慎一郎さんが話し始めた。


え?



前置きをして、慎一郎さんが語る。
その瞳がとても真剣で、
そして、私をじっと見ている。







「僕と夏実が出会ったのも雨の日だ」


これからは、雨の日は
亡くなった両親のことじゃなくて、
僕とであった日の雨を思い出せばいい。



あの日、雨が降っていなければ、
僕らは出会うことがなかったんだよ。



そう。



雨が降っていなければ
夏実が急いで帰ろうとして
ヒールを折ることもなかっただろうし、
ヒールを片手に困っている夏実に
僕が傘を差すことも無かった。



一緒に車に乗っていて
渋滞で車が進まないのが
初めて嬉しく感じられたんだ。



もっと雨が降って、道が混めばいいと。



そしたら、もっと君と長い時間、
一緒にいられるから。



あの雨の日に、
夏実に出逢ったことが、
僕にとっては、僕にとっては
一生忘れられない思い出だ。



雨の日の想い出は
僕と一緒にいることで、
これから沢山いい思い出を作っていける。



僕は君を心から愛してる。



2人でいるうちに、
晴れの日もあるけど
雨の日もある。



いつも、僕は君の傍にいるよ。


君が雨の日の思い出に
苦しめられてるのなら、
その傍で手を握っている。



そして、楽しい雨の日の思い出を
僕と一緒に作っていこう。



そんな日々が続いていくうちに、
きっと、夏実が雨の日になって
とても哀しい想いをするのが、
減っていくはずだ。


きっと、いつか、雨の日でも
笑っていられるようになる。



一生、君の傍にいたいんだ。
君を守りたい。




君を幸せにしたい。



だから僕と結婚して欲しい。











私は、目から鱗のような、
慎一郎さんのプロポーズに驚きながらも、
その言葉1つ1つに胸を振るわせた。



慎一郎さんが
私の目を見つめて、優しく笑う。

その瞳を見つめてて






その時。
不意にわかった。




なぜ、私がこの人に惹かれるのか。



何でも、心の中に抱えているものを
この人の前だったら
打ち明けることができるのか。





こうやって優しいからじゃない。
話を聴いてくれるからでも。
私のことを気に入ってくれるからでも。





この人、妹と同じ瞳をしてる。



誰かを愛したいって目。





ずっと不思議だった。
この人に見つめられると、
とても愛しい気持ちになるのが。



誰かを強く、「特別」な誰かを見つけて
その人だけを守って、愛していくことを
望んでいる人間の目。


そして、誰かの「特別」として
心から愛されたい人間の目。



この瞳は、私がいつも見つめ返す
妹の瞳とよく似ていた。



私と妹は違う。




妹は愛したい人間だけど、
私は愛されたい人間。



そして、慎一郎さんは、
誰かを愛したい人間だ。


妹と同じ・・・・。


強さを持った人間。



誰かを愛せる強さを持っている人。





(あなたは、自分の特別な人間に、私を選んだんだね)



だから、こんなに・・・・
全力で私のことを愛してくれる。



私は、この人とだったら、
沢山愛されて
きっと、幸せになれるだろう。



きっと、雨の日の悲しい思い出も
この人とだったら、乗り越えていける。


出逢ったあの日のように
私に傘を差してくれた慎一郎さんは
私のこれから一生も、
ずっと傍にいてくれて、
私を守ってくれるはず。













そう、確信した。








抱きしめられている腕から、
少しだけ頭を上げて、
慎一郎さんを見つめる。


「慎一郎さん」


「なんだい、夏実?」


「今の、プロポーズ?」


「そうだよ」


さっきまでの真剣な目線が
少しだけ緩んで、
いつもの優しい目に戻った。
愛しそうに私を見つめる。




私は初めて・・・
慎一郎さんの優しく、
私を見つめる視線を
同じように返すことができた。


今まで、好きな気持ちはあったけど
でも、どこか自分でセーブしていたから。


でももう、それは無しにしよう。


この人を愛していこう。


そう決めたから。





「九条院家に妹も一緒に連れてきてもいい?」


私のその言葉の意味に気がついた
慎一郎さんの顔に、ぱあっと
喜びが走るのがわかる。


「もちろんだよ」


だって、夏実のたった一人の妹なんだ。
僕にとっても大切な家族になるよ。




「嬉しい」




そう呟いた私の言葉は、
また抱きしめてきた
慎一郎さんの胸の中に消えた。










・・・・・・・・・・・・・・・




そう。


それから、すぐに慎一郎さんと婚約して、
入籍の日取りを決めたの。


迷いはなかったって?


あるわけないじゃない。


私が一度決めたことは
必ず実行するってことは
妹の****だったらよくわかってるでしょ?



だって、半年、ううん1年も
ずっと慎一郎さんのプロポーズを
保留にしていたのよ。




私の気持ちが決まった時点で
慎一郎さんがすぐに段取りを整えて、
九条院家に私と、*****が
引越しして来れるように手配をしてくれた。


その準備の手際の良さって言ったら
本当に早かった。



慎一郎さん、家族がいないから、
****のことも大事にしてくれるし。



本当にいい人と結婚したと思ってる。




不思議ね。


全然、結婚したい気持ちとか
なかったのに。
こんなにいい人に巡り会えた。





今?




雨の日は・・・・慎一郎さんが
できる限り傍に居てくれる。



雨が降っているときは、
必ず電話してくれるの。
1人で淋しがってないかって。


でも、あの日以来、
そんなに哀しくなくなったの。
ううん、哀しくないっていうのは嘘だけど、
だいぶ・・・・やりきれるようになってきた。


慎一郎さんが言ってくれた。
私たちが出逢った日も雨だったって。


雨だったからこそ、出逢えたって。


だから、雨の日は
前より哀しくない。


それに、*****だって変わったわよ。



前は雷が鳴るたびに、
私のベッドに来たくらいなのに、
今では、専属執事がついているものね。


中岡くんに話しておいたから。


****は雷をとても怖がるから、
雷の夜は傍についていてあげてねって。



前は私が傍に居たけど、
でも、今の****なら、雷の夜は
私より中岡くんの方が嬉しいでしょう?





ふふ、隠さなくてもいいのよ。



そんな慌てなくても。
全部わかってるんだから。






私が雨の日に一緒にいられる相手を
見つけたように、****も、
そういう相手に出会えて・・・・。





本当にすごく嬉しいわ。



そう、私が幸せなように
****にも幸せになってもらいたいのよ、
姉として心から望んでいるのよ。




多分・・・・。

私が慎一郎さんって、大事な人を見つけたように
*****にも、きっと大事な人が出来る。


もう見つけてるだろうけど。







誰かを好きになることは
怖いことじゃないわ。

沢山の幸せを産んでくれる。


それをおしえてくれたのは
慎一郎さんよ。



だから、****にもきっと
心から大事に思う相手が
いつか出来るわ。




きっと。


ええ、きっと。



****なら、見つけられるわ。





だって、誰かを
好きになる強さを
持っているもの。













******* 雨の日は隣にいて Fin.*********






































◇あとがき◇



思いっきり想像して書きました。

いつも、夏実さんは立ち姿もなく
たまにセリフで出てくるだけ。
でも、主人公とはとても仲が良くて。
慎一郎とも、すごく愛し合ってます。

慎一郎が大好きなつぐみは、
その慎一郎の話を書きたくて。
それで、夏実さん視点で、
慎一郎について語ってもらいました。

もともと、ブログに遊びに来てくれてる
お友達からも、慎一郎の話が出て、
その時にも、ぜひとも夏実さんとの話を
書いてみたいと思ったのですが、
思わぬ形で、夜語りのお話として
出すことが出来ました。

書き始めたら、
すいすい書けました。


夏実さんって、どんな人だろう。
あたしが想像するに、
仕事がきっちり出来て
有能で、そしてそつがない人。
そして、妹も大事にしている。

そういうカンペキな女性が、
慎一郎と結婚するのは、
すごくよくわかるのですが、
でも、カンペキだからといって、
欠点がないわけじゃないし、
カンペキだからといって
恋に落ちるわけじゃない。

お互いに惹かれあうものがなければ。


このお話で出てくる慎一郎は
優しくて、そしてあたしの理想です。
包み込んでくれるような優しさ。
それを描きたかったです。

書きあがってみて、
静かな雨の後のようなひっそり感や
温かさが感じられるような
作品になったのではないかと思います。


誰かを好きになるということの怖さ。
大事な人を失ってしまう悲しさ。
それでも、誰かを愛したい、
愛されたいと想う気持ち。


ちょっと切ないお話かもしれませんが、
気に入ってくださるといいな。

ナイトメアの次の日なんで、
少し和んで欲しくて。
誕生日の今日、
心優しいお話をお聞かせいたしました。


25.APRIL.2009 つぐみ



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