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ダンスのお相手は?16  04/09/2009  
すいません、だいぶ間が開いてしまいました。
むしょーに悔しい!!(爆)
本当は連続UPじゃないと、
話が繋がらないぜ・・・と思いながら、
なんか、あわただしくUPになりました。

誕生日パーティへ出かける
ヒロインと樫原さんです。

樫原さん、久しぶりに書いたので、
ちょっとドキドキしましたw
リアルに樫原さんみたいな男の人がいたら
あたし、めろめろです。

てか、真壁とかでも、めろめろなんだけどww

真壁・・・・やっぱり好きですね~。
連載で真壁を書いていると、
SSとかで書くときに、どうしても
このイメージになってしまう・・・。
だから、SSは中岡さんに偏ってしまうのか?(笑)



【前回までのリスト】

・ダンスのお相手は?1 幕開け
・ダンスのお相手は?2 レッスン開始
・ダンスのお相手は?3 甘やかしてくれる人
・ダンスのお相手は?4 誘惑
・ダンスのお相手は?5 揺れる心
・ダンスのお相手は?6 告白 
・ダンスのお相手は?7 情熱
・ダンスのお相手は?8 好きという気持ち
・ダンスのお相手は?9 イアリング
・ダンスのお相手は?10 嘘の数 
・ダンスのお相手は?11 涙色の空
・ダンスのお相手は?12 熱
・ダンスのお相手は?13 廃墟の中の2人
・ダンスのお相手は?14 2人だけの世界
・ダンスのお相手は?15 口紅

以下、創作になります。
どうぞ、ご了承の上、お読み下さい。




↓↓↓↓









********* ダンスのお相手は?16 *********




++++++++++++ 真壁直樹のみる景色 ++++++++++++



凛と背筋を伸ばして、
彼女が部屋から出て行くのを
俺は見つめていた。



その背中を。
その後姿を。



(このまま戻ってこないかもしれない)


そう、俺の中で声がきこえる。


じりじりと焦げるような想い。
何かに堰きたてられるかのような想い。


俺はその声を消すかのように
じっと目を瞑った。



気持ちを抑えるために
深く息を吸い込み、吐き出す。





そして考える。



例えば―――-



俺と彼女が「執事」と「お嬢様」として
出逢わなければ、
ここまで彼女のことを好きになることは
なかったんだろうか?



「執事」という職務を全うすること。


これが俺の一番の信条であり、
いつもそれを目指してきた。

そして、その目標が叶えられ、
九条院家の執事になったのが去年の春。




俺は想い出す。




彼女がこの屋敷をはじめて訪れた日のことを。


ただ、俺は何も考えてなかった。

その時、現れた女の子が
俺のご主人様になり、
そして、恋に落ちるなど。



「屋敷のお嬢様と執事の恋愛」なんて、
執事のシナリオとしては、
本当に低俗じゃないか。
執事たるもの、主人に滅私奉公であるべきだ。


そう想っていた俺自身を覆すほどの
俺の中に宿った激しい恋。



俺にはわからない。

俺が執事だったから、お嬢様の彼女に恋に落ちたのか。
それとも、ただの男として、彼女に恋に落ちたのか。



その区別の線をどこで引くのか、
俺にはよくわからない。



最初はきちんと区別しようと想った。
しかし、それはできなかった。


俺は執事で、俺は俺だから。



ただ、わかることは、
執事だからお嬢様を愛している、とは違う、
もっと激しくて、彼女の全てを奪うほどの愛を
俺が感じていること。


その気持ちをもてあましていること。



そして、彼女のためなら、
執事の職を追われてもいいというほど
想っているということ。





俺たちはどこへ行くんだろう。

たまに不安になる。

このままずっと、執事とお嬢様であるしかないのか。




このままずっと。



「ずっと傍にいる」コトができるのは、
彼女がお嬢様で、俺が執事だから。


この立場、この関係なら、
多分・・・彼女が死ぬまで一緒に
傍に寄り添えるだろう。



しかし、それまでの長い時間を
俺は彼女の「執事」として傍にいることが
できるのだろうか?


現に俺は、もう「お嬢様」としての彼女ではなく、
1人の「女」として、彼女のことを欲している。
そして、自分も1人の「男」としてしか、
彼女に接することができない。

いつか、この恋が終わってしまったら・・・。
その日を想像するだけで、
俺は氷水を被せられたかのように
自分自身の血の気がひくのがわかる。


俺は彼女の傍にはいられない。
どれだけ俺が彼女を愛し続けていても。
「男」として傍にいることができなくなった日は、
「執事」としても、傍にいることはできないだろう。

どれだけ、俺がそれに抗ったとしても。



執事であるからこそ、
傍にいられている事実。


「執事」ではなくて、「男」として
彼女の傍にいることを望む俺自身の矛盾。




なにが、執事だ。
なにが、滅私奉公だ。



俺は心の中で、自分自身を哂った。



彼女の部屋の窓際に飾られた
百合の花とコスモスの花を見る。


毎朝、この2つの花を生けることが、
俺の仕事の始まりだ。


百合のような匂いたつような
凛とした大輪の美しさ。


コスモスのような小さくて
風に乗って揺れる儚い美しさ。


どちらも、俺が思い描く彼女そのものだった。



好きな花だと教えてくれた時から、
この2つの花は俺の中で特別になった。


これまで、「執事」という職務だけを
遂行してきた俺の人生に
彼女は、沢山のプレゼントをくれた。


いや、彼女に出会ってから、
俺の毎日は、色彩豊かな絵のように
とても豊かで、そして切なくて
愛しくて、そしてむせかえるような
幸せで、・・・・苦しい。



綺麗に咲き誇る花の色や香り
俺だけを見つめる視線、
柔らかい身体、そして、
愛情を注げる存在。



彼女を失うなんて
いや、彼女が現れていない、
俺のこれまでの人生に戻るなんて、
到底考えられない。




そっと、部屋の窓から下を覗く。



屋敷の車が玄関先に回されているのが見える。


本来なら、お嬢様専属執事として、
俺は彼女が誕生日パーティへ行くのを
玄関先まで送るのが・・・・職務だ。

しかし、今の俺にはそれができなかった。


執事失格だ。


俺は・・・・私的な感情と執事としての職務を
混合している自分自身に腹を立てた。


ただ、「行くな」、とはっきりと本気で止められなかったのは
まだ、「執事」の俺の理性が残っていた証拠だ。


それだけが救いだと想った。


窓の下の車に、彼女が樫原さんのエスコートで
乗り込むのが見える。


彼女がこちらを振り返るのではないか、と
ひそかに期待している自分がいる。


でも、彼女は2階の自分の部屋の窓から
下の覗いている俺には気がつかない。


その姿をじっと見ている自分が苦しくて、
窓を叩きそうになった衝動を抑えるために
そっと窓際を離れた。



そして、傍の壁にもたれて、
眼鏡をはずす。


ゆっくり目を閉じて、今見た景色を
どうにか頭の隅にやってしまおうと、
懸命に努力した。


彼女が樫原さんと行ってしまう。



俺のいないところで、
俺以外の男と一緒の時間を過ごす。



しょうがないことだ、とわかりながらも、
どうして心が痛むことを押さえられないのだろう。
それがどうしようもなく押さえられない。



俺がもつ嫉妬の炎だ。



いつまで、俺はこの自分自身の炎を
自分の中に留めておけるのだろう。


彼女が雨の中で倒れた夜、
俺はこの炎で彼女を焼き尽くそうとした。


・・・しかし、できなかった。



彼女の全てを手に入れたい。
心も、身体も。


そう、強く願う心を
俺は、もう留めておける自信がなかった。
この我慢がどんな形であれ終わるのは
時間の問題・・・・。


ゆっくりと息を吐く。


この衝動が彼女を壊さぬよう、
俺は、1人で炎でいたぶられるしかない。




もう一度、窓から外を覗いた。


車は・・・・、
もう屋敷内から出て行ってしまっていた。





急に、この部屋に俺1人だけ
閉じ込められたような孤独感が襲う。


彼女は、窓の外の世界に行ってしまった。
その喪失感が俺の心を徐々に侵食していく。
まだ、きちんと失ったわけではないのに。


ガラス1枚、窓の外の世界。
その内側に残された自分。


俺は思い出す。


彼女が熱を出して眠っていたときのことを。
早く良くなって欲しいと
必死で手を握り締めた夜のことを。

心配しながらも、
俺はとても、幸せだった。

無条件に彼女の傍についていることができて。
そして、その手を握って
夜を過ごせることができて。
2人だけの、世界だったから。



彼女が夢で見たという“俺たち”は
廃墟のような部屋で静かに
抱きしめあって眠っていたという。
その幸せそうな姿がとても切なかったと
彼女は言った。



現実にあたしたち2人が、
2人だけでいられる世界なんてないのだから。


この言葉が俺の心をえぐる。


俺はいつだって、お前を閉じ込めたいと想ってる。
俺だけしかいない世界に。


お前だってそうだ。


俺に閉じ込められてしまいたいと想っている。
閉じ込められることを歓んでいるのはわかってる。



しかし、今・・・・。


この部屋に、
“閉じ込めた”はずの彼女はいなくて
閉じ込められた俺しかいない。



俺、1人しか。


彼女はこの部屋を出て行ってしまった。



(待ってて欲しい)



そう言い残して部屋を出て行った彼女。


彼女は戻ってくる・・・戻ってくると信じている。


だけど、どうして
俺しかいない部屋の静まり返った空気が
こんなにも色褪せて
さびしく感じられるのだろう。


これまで、独りでいても寂しく感じることは
なにもなかったのに。



彼女が俺の全てを奪っていったようだった。









夕暮れで空が染まる黄昏。




俺は、彼女の部屋の壁にもたれながら
虚ろなまま、じっと、窓からの光が消えてしまうまで
彼女が出て行った扉を見つめていた。






誰かが呼びに来るまで。












+++++++++++++ あたしが見る景色 ++++++++++



階段を下りたところで、
正装した樫原さんが待っていた。

蝶ネクタイを結び、タキシード姿。

いつも執事服できちんとした格好をしているとはいえ、
こうやってドレスアップした姿を見たのは
初めてだった。

階段を下りてくるあたしを見つめて、
微笑んでいる。


とても・・・かっこいい。

紳士的な雰囲気で
親しみやすそうな笑顔を浮かべているけど、
いつもよりも、断然、男らしかった。
そして・・・・、とてもセクシーだった。

思わず、あたしは胸が高鳴る。

じっと見つめられている。
その瞳と目が会うと、
そっと微笑んで、目を細めるのがわかった。

「お嬢様、とてもお綺麗です」

じっと見つめる瞳の中に、
その言葉への嘘は混じってなかった。

あたしは、微笑んでいった。

「樫原さんから頂いたドレスを着ようと思っていたんだけど、義兄さんからこのドレスを頂いたので、こちらを着ました。ごめんなさいね、樫原さん」


そっと、あたしが着た
白いドレスに目を落とした樫原さんは、
一瞬くすっと笑って、首を横に振った。



「私のプレゼントしたドレスを着ていらっしゃらなかったのは、大変残念ではありますが、このドレスもとてもお綺麗です。お嬢様がこのタイプのデザインを着こなされるとは、正直私としても、驚きました」

「とても斬新で、そして女性らしい魅力に、大人っぽい色気を感じます」



にっこり笑って美辞麗句をいう樫原さん。
その瞳が、あたしの首元にあることは重々承知だ。


あたしは・・・・、
樫原さんから頂いたルビーのネックレスをしている。


ドレスが着れなくなった代わりに
せめて、ネックレスだけは、と思ったから。
その代わり、真壁さんからプレゼントされた
ハート型のピアスをした。

あたしが歩くたびに、耳元でピアスが揺れる。
その揺らめきと共に、あたしは真壁さんの声が
聴こえるような気がする。


2人きりのときに抱きしめながら、あたしの耳元で
あたしの名前を呼ぶときの、少し掠れた声。




「お嬢様、少し失礼します」

そう言って、樫原さんが
少しあたしの横髪に触れてきた。
曲がってしまった髪飾りの
コサージュを直してくれた。


その指が、あたしのピアスに触れる。
あたしは、思わず目を伏せた。


なんだか、胸が痛かった。



それは、真壁さんを
裏切っているような気持ちになるからか。


それとも、まっすぐに、
今あたしの目の前で、
あたしを見つめる、この視線や、
その気持ちが痛いからか。


あたしにはよくわからなかった。





(待ってて欲しい)


そう言って、部屋をでてきた。
部屋に真壁さんを残して。
真壁さんの返事はいらなかった。


だから、振り返らなかった。



でも・・・・・、それを今、少し後悔してる。




気づくと、樫原さんがあたしの手を
ゆっくりと握っていた。

「そのネックレスをつけてくださったんですね」



ほっとしたような響きが、
その声に含まれている気がする。

そして、すごく嬉しそう。


「ええ。せっかく樫原さんから頂いたドレスも着れなくて・・・・残念だったので、ネックレスだけはと思って」



思わず遠慮がちにそう告げると、
樫原さんがくすっと笑った。



「真壁が選んだ真珠のネックレスをつけてないだけで、私は嬉しいですよ」


「っ・・・・・!」



真壁さんが前に見立ててもらった真珠のネックレス。
あたしのお気に入りだ。
初めて2人で買い物に出かけた時に
選んでくれたネックレス。


今日は・・・この格好には、
そのネックレスの方が合うと思ったんだけど、
やっぱり樫原さんから頂いていたプレゼントを
1つも身につけないのは気がひけた。

それで、このネックレスを選んだ。



「あなたの首元を飾るのが、私からプレゼントだということだけで、光栄です」



ゆっくりと手を引きながら、
樫原さんがあたしをエスコートする。
ドレスの裾をさばきながら、
階段を下りてくるあたしに、
樫原さんが小声でそう言った。


思わず樫原さんの顔を見つめる。


こっちを優しく見つめている樫原さん。
どうしてこの人はこんなにあたしに優しいんだろう。
そして、あたしへの気持ちを隠そうとしない。
なにかしら、気持ちを伝えてくる。


あたしは、その気持ちが・・・今は・・・・。




そう思って何か言おうと思ったあたしの口元を
樫原さんが、しっと言うように人差し指を立てて
近づけた。



「お嬢様がこのネックレスを身につけたからといって、簡単に誤解するほど、私は浅はかではありません」


「え・・・・」


「だから、そんなに怯えないで下さい。取って喰いはしないと、前にも言ったでしょう?」



「っ・・・・・」


思わずぎくりとしたあたしに、
柔らかく樫原さんが告げる。




「それに・・・・、今、ここでお嬢様の返事を聞きたくはありません」



きっちりと言った後、
樫原さんがふわっと微笑んだ。


その微笑みはずるい。
あたしは、その微笑を見ていられなかった。


思わず目をそらせたあたしの目には、
玄関先でフットマンとして準備している瞬君と
その横で、今日の誕生日パーティのために準備した
緑川さんへのプレゼントを持って待機している
中岡さんが目に入る。


中岡さんと目が合った。

あたしだけにわかるように、
少しだけ頷く中岡さん。
(よくお似合いですよ)
そう言っているような表情だった。


にこやかに微笑む樫原さんの横で
戸惑いながら、少しぎこちなく笑うあたしを
応援しているかのような、見守っているかのような
中岡さんの姿にあたしは感謝した。

そして、今ここで真壁さんがいなくて
本当によかったと安堵した。



返事・・・・。
それは、あたしが樫原さんからの告白の返事。
じっくり考えて欲しいといわれ
答えるタイミングを失って、
そのままになっていた。




「お嬢様、お時間ですので、車内へどうぞ」

瞬君が一礼してドアを開けてくれる。



外は夕暮れの時間だ。
開けた扉から、さっと涼しい風が吹き込んでくる。
春の気配が・・・・うっすらと漂っている。


中岡さんが準備していたプレゼントを
樫原さんに手渡している。
このプレゼントは、真壁さんが緑川さんの欲しいものを
リサーチして、準備してくれたもの。
確か、ブランドの限定バッグだったと思う。


玄関先につけられたリムジン。
樫原さんがドアを開けてくれる。



「どうぞ、お嬢様」



エスコートされて、手を取られたまま、
あたしは、ゆっくりと、ドレスが皺にならないように
乗り込もうとしたとき。



不意に視線を感じた。



乗り込む前に、ふと屋敷を振り返る。
2階のあたしの部屋にいるはずの
真壁さんの気配を感じられたから。





乗り込む一瞬。



あたしの部屋の窓を見つめる。





誰もいない。


夕暮れの日が落ちた、
黒い窓になっているのが見て取れた。





(真壁さん・・・・)






わざと、彼を残して部屋を出た。


今日は樫原さんとのお出かけで、
真壁さんがお留守番だとわかりながらも、
見送りをさせたくなかったから。

あたしが樫原さんにエスコートされて
歩く姿を彼にみて欲しくなかった。
自惚れかも知れないけど、それを見た
真壁さんが傷つくような気がしたから。



もしかしたら、窓からあたしの姿をみてるかもしれない。



ふと、そう思ったけど、窓辺には誰もいない。



(本当は、最後の一瞬だけでも真壁さんを見たかった)


さっきまで、部屋であんなに沢山
キスをしたのが夢のようだ。
あんなに激しく、めちゃくちゃになるほど
キスをして、あたしの口紅で口元を汚した真壁さん。
その姿に、あたしの心がどれほど時めいたか。


食べられてしまいたい、と想った。


今すぐ、ここで、唇だけじゃなくて、
あたしも食べてしまって。
そう、言いそうになっていた自分がいた。

今すぐ部屋に戻って、
またキスをしたかった。








その想いを振り切るかのように
あたしは、車に乗り込んだ。


リムジンに乗り込んだあたしのドレスの裾を
樫原さんが綺麗に直してくれる。



その仕草が、とても・・・・恋人のような優しさで
あたしは、少しだけ心が動かされる。
さっきまで、隣にいたのは真壁さんなのに、
今、あたしの隣には・・・・。




樫原さんがあたしの隣に乗り込んだ。
そのドアを中岡さんが掴んでいる。


「いってらっしゃいませ、お嬢様」


優しくにっこりと笑う笑顔を残して
ドアが閉まった。



いつもは、執事なら助手席に座るけれど、
今日の樫原さんは執事じゃなくて、
あたしのエスコート役だ。


だから、あたしの傍に座っている。


「緑川様のお屋敷まで、この時間でしたら1時間ほどです」

時計を見ながら、車内の電話で
運転手に指示をする樫原さん。



車がゆっくりと屋敷を出て行く。


(真壁さん・・・・・)


あたしは、側にいる樫原さんより、
部屋に残してきた真壁さんのことを思い浮かべていた。

口元を汚していた真壁さんが、
その口元をずっと汚したままだったらいい。
そんなことを思っていた。
あたしの印のような、色だったから。


ふっと気がつくと、
あたしは真壁さんのことをずっと考えている。
そんな自分自身に、少し笑えた。
そして、今自分自身が置かれた状況、
一緒にいる人に目をやる。




電話を切ったあと、樫原さんが
あたしに飲み物を勧めた。


車内に備え付けられたバーのような
飲み物や、お酒の瓶。
あたしはミネラルウォーターをお願いした。


2人だけのこの空気がなんだか重くて。
とりあえず、何か、空気を動かしたくて。


この、大事にされている、という感覚。
こっちを見つめる視線。
樫原さんから漂ってくる、
あたしへ迫ってくるような濃厚な空気。


この、少し距離が近い空間で、
あたしはなぜかドキドキしていた。



彼の心があたしに向かっているのがわかる。
それが、少し・・・息苦しくて、
そして彼を見詰めることができない。


この人といると、あたしは安心するけど、
すごく胸がざわめいて不安になる。
樫原さんが微笑んでくれているときだけ、
少し心が軽くなるけど、今日の、
これからのことを考えると・・・。



「お嬢様?気分が悪いなどありましたら、すぐに仰ってくださいね」



思わず黙り込んで、
ミネラルウォーターを握り締めていると、
樫原さんが顔を覗き込む。

「いいえ、大丈夫です」



少し緊張して固まっていたのか。
思わず、そっと作り笑いをして、
大丈夫だよ、って見せる。

でも、その誤魔化しはこの人に効かない。



「緊張しているだろう?」


急に敬語じゃない喋り方になった。
その変化に気づき、あたしは少し身をすくませた。
胸のドキドキが、とても大きくなってくる。

こっちを見つめる樫原さんの瞳が優しい。
そして、あたしの背中を少し撫でるように
触れてくる。


「うん・・・・こうやって同級生のパーティに行くのは初めてだし、こんな正装して・・・・。それに、樫原さんと2人きりで出かけるのは初めてだから。」


思わず正直に言うと、樫原さんがくすっと笑う。


「大丈夫。私が傍についているから」



そういって、背中を撫でていた手で、
あたしの髪の毛に触れる。
くずさないように、そっと髪の毛に触る指。


その優しさに時めきながら、
あたしは、少し罪悪感を感じていた。


「緊張しなくてもいい。大丈夫だ、なにもかも」


その、なにもかも、には、
あたしと樫原さん、
2人の関係も含まれるんだろうか?



・・・いつも、この人の傍にいると、
あたしは調子が狂ってしまう。



こんな風にさせたらだめだ、ってわかりながらも、
それを許してしまう。
そして、固く持っている心さえも、
甘えてしまいたいと思うようになってしまう。


不意に敬語がなくなって、
執事じゃない樫原さんになったとき。

あたしの中にある真壁さんの姿を消すかのように
心に樫原さんが侵食してくる。




どうしてなんだろう。



あたしは、樫原さんをみることが出来なかった。
じっと包み込むように、あたしに注がれた視線を
振り払うかのように、窓の外を眺めていた。


そんなあたしの手を、優しく握る手。


今日は手袋をしていない。
執事服じゃないから。
正装して、タキシードを着て、
きちんとした男性として、
あたしの隣にいる樫原さん。


包み込まれた手が温かい。
撫でるように、あたしの指の隙間に
絡んでくる指たち。




その手を振り払えない自分がいた。



車内はずっと2人っきりの世界。


夕暮れの街を走る車の中。
黄色く、オレンジ色の光が延びている。
ビルの隙間から見える空。
帰宅を急ぐ人たちの群れ。
そんな外の世界とは全然違う、
あたしが今いる、この空間。


かすかにステレオから流れてくるジャズの音楽。


その音で、あたしの心臓の音や、
少し胸が苦しくて、抑えるようにしている息遣いが、
この人に知られなければいいと思った。


この空間が、この関係が
とても息苦しくて、そして罪悪感を感じる。


真壁さんの声がふと思い出される。
2人っきりのときにあたしを呼ぶ
少し掠れた声。
抱きしめられたときの腕の強さ。
そして、その体温や心臓の音。


今、それらが全て、遠いように感じられるのは
どうしてなんだろう。


ただ、少し離れているだけなのに。
ただ、違う人と一緒にいるだけなのに。


一緒にいるのが、樫原さんだからだろうか。


この絡んでくる指を振り払えない自分。
真壁さんのことを思って胸がきりきり痛む自分。
どちらも、あたしなのに、
あたしじゃないような気がする。


この人はどうしてこんなに、
誘惑するのが上手なんだろう。
この人の隣にいると、
あたしの心は揺れ動いてしまう。
全て、樫原さんのせいにしたかった。


ただひとつ、真壁さんだけを見つめている心が
こうやって、揺れ動いてしまう。


ひっそりとわからないように
あたしは窓の外を見ながらため息をついた。



車で緑川家に着くまでの間、
樫原さんはあたしの手を握り、
なにも言わずに、そっと見つめていた。

そのことに戸惑いながらも、
あたしは許した。





「お嬢様。緑川家に到着いたしました」


車が静かに止まり、
運転手が回ってきてドアを開けてくれる。
そのドアを先にくぐった樫原さんが、
手を差し出しながら、
あたしが降りてくるのを助けてくれる。


差し出された手を握って、車から降りた。


樫原さんが柔らかく微笑んで
あたしを見つめている。
その瞳はあたししか映し出されてないことに
あたしは、胸がきりきりと痛む。


車を降りるときだけ離された手が、
また繋がれている。

指を絡めるんじゃなくて、
樫原さんの大きな手で
あたしの手が包み込まれるかのように。


繋がれた2人の手に、
思わず視線を落としたあたしに
樫原さんがくすっと笑う。


「役得ですね、今日は」


「え?」



「こうやって、ドレスアップされたお嬢様を独り占めできる」


なんてキザな台詞をさらっと言ってしまう樫原さん。


その瞳が、魅惑的に輝いてて、
あたしの瞳を覗き込んでくる。
その仕草に、いちいちドキっとする。


思わず返事もできずに固まってしまったあたしを
樫原さんが笑いながら、手をひいて
歩き出した。

「さあ、お嬢様。誕生日パーティですよ」



繋がれた手が温かい。
そして、こうやって手をひかれている自分自身が
少し恥ずかしい。


でも、楽しそうな樫原さんが傍にいて、
その手を振り払えず、
その笑顔を曇らせることもできなかった。



「ええ。樫原さん。今日の夜は楽しみましょうね」

少しだけ覚悟を決めて、
あたしは微笑む。


「・・・・・ようやく笑ってくださいましたね」


あたしの笑顔が嬉しかったのか、
樫原さんがふわっと微笑む。

こうやって、微笑まれたら、
あたしは、この繋いでる手を振り払うことができない。
そういうことをわかってて、
この人は、こういうタイミングで
あたしに微笑みかける。



「さあ、行きましょう」


そう促されて、あたしたちは歩きだした。


目の前には緑川邸宅。
屋敷の前には沢山の光が放たれて、
パーティが始まっているのがわかる。
人々のざわめきや、気配。
慌しそうな屋敷の人たち。
入り口でにっこりと微笑んで来客を迎える執事たち。


あたしは、樫原さんのエスコートされて
緑川家の誕生日パーティ会場へ踏み込んだ。





********** ダンスのお相手は?16 *********

17話に続く


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