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ダンスのお相手は?15  04/04/2009  
「執事たちの恋愛事情」の創作になります。


真壁と樫原さんが出てきます。
あ、でも今日は中岡さんも出てきますw

ようやくパーティ当日になりました。

1を書いたときは前編後編のつもりだったのに、
こんなに長くなるとは!
1週間の予定だったのにww
その1週間後のパーティの日まで長かったですね。

いつも、読んでくださってる皆様、
ありがとうございます。
連載で・・・深夜枠でのUPなどで、
やりたい放題やってますが・・・
大目に見ていただいて、感謝しています。

少し感慨深いです。
ようやくパーティ当日まで来たかとw

楽しんでもらえたらな、と思いつつ
あれこれとシリアスな話も書いて、
それでもお付き合いいただいていること
本当に心より嬉しく思っています。

16はほぼ書き終わりなので、
明日できたらUP予定ではありますが、
詳細調整してから・・・なので、
土日、どちらかだと思います。
遅くて月曜かな。






【前回までのリスト】

・ダンスのお相手は?1 幕開け
・ダンスのお相手は?2 レッスン開始
・ダンスのお相手は?3 甘やかしてくれる人
・ダンスのお相手は?4 誘惑
・ダンスのお相手は?5 揺れる心
・ダンスのお相手は?6 告白 
・ダンスのお相手は?7 情熱
・ダンスのお相手は?8 好きという気持ち
・ダンスのお相手は?9 イアリング
・ダンスのお相手は?10 嘘の数 
・ダンスのお相手は?11 涙色の空
・ダンスのお相手は?12 熱
・ダンスのお相手は?13 廃墟の中の2人
・ダンスのお相手は?14 2人だけの世界

以下、創作になります。
どうぞ、ご了承の上、お読み下さい。




↓↓↓↓




↓↓↓↓





***** ダンスのお相手は?15 *****




日曜日の昼下がり。


あたしは、下着姿のまま、
鏡の前に立って、じっと鏡に映る
自分の首筋を見つめていた。



たくさん・・・・キスマークがある。



(これじゃあ、あのドレスは着れない)



あたしは、樫原さんからプレゼントされた
薄いピンク色のシフォンドレスを抱きしめて
途方に暮れていた。


大胆に肩が開いたデザインで、
これを着たら・・・すぐに
あたしの首や胸元につけられた
たくさんの小さな赤い痣が目立ってしまう。



(こんなにも。ここにもある)


くるっと振り返って、背中を鏡に映す。
襟足からすっと伸びた背骨や肩にも、
キスマークはある。



ため息が出てきた。



思わず、パウダールームにあるソファに座り込んだ。



真壁さんからつけられたキスマークで
こんなことになるなんて。

(絶対・・・あたしが樫原さんからもらったドレスを見ていたからに違いない)


真壁さんの表には出さない意地悪や
嫉妬心か?と思わず疑ってしまう。
ありえない、と想うんだけど、多分。




あたしは、本当にため息が出てきた。



特に用はないから、と真壁さんは休憩している。



今日は夕方から白凛学園の同級生である
緑川さんのお屋敷で誕生日パーティが開かれる。
それに出席するために、誕生日プレゼントも準備したし
いざというときの為にダンスの練習だってした。



そう、ダンスの練習だって・・・・。




―――-今夜は樫原さんとお出かけだ。




だからか、真壁さんは朝から機嫌が悪い。


金曜日の夜に熱を出して倒れ、
昨日、土曜日もずっと一日寝ていた。

まだ完全に回復してもいないのにおでかけなど、と
真壁さんが、しかめっ面をしながら
遠まわしにパーティへの欠席を仄めかしたけど、
あたしとしては、どうしても、
今日の誕生日パーティに行きたかった。



(だって、これまでダンスの練習までしてきたんだよ?)




それに、熱は1日だけぐっと上がっただけで、
昨日の夕方からは、だいぶ元気になって、
ご飯も食べれたし、それにふらつきもない。


さらにいうならば、
気持ちがすっきりしているせいか、
調子がいい、状態に近い。


出かけるのを渋るあたしの執事さんに
あたしはここぞとばかりに、
ダンスのレッスンが決まった日に
真壁さんがあたしにいった言葉を繰り返す。



「だって、緑川家とは九条院家との家同士の付き合いもあるし
今日になって欠席などとは言えないわ」



と、お嬢様の立場から説得した。



もちろん、そのことは、あたしの執事さんも
重々承知で苦い顔をして、
眉間に皺を作りながらも、
しぶしぶ承知してくれた。



ぶすっとしたままだし、話しかけても
本当に返事もしないから、
少し不機嫌が直るまでと思って
下がってもらった。




不機嫌な理由なんて・・・・わかってる。
わかってるけど・・・・、でも、ごめんね。



心の中で、あたしは、恋人である
あたしの執事さんに両手を合わせて謝った。



(・・・・この状態を、真壁さんには相談できないわ)




まさか、キスマークを「沢山つけられた」から
「樫原さんからもらった」ドレスが着れなくて困ってる。
なんて、そんなことを、当の本人にいうのも、な。


多分、真壁さんに言ったら、
少し困ったなって顔をしながらも
無表情で(内心喜んでる)、
真壁さん好みのドレスを
あたしが今持っている中から
選んでくれるだろう。


でも、それを着ていくと、
今度は樫原さんの目が痛いと思う。


いいえ、ただでさえ、プレゼントされたドレスを
着てこなかった時点で、
まず、樫原さんを傷つけるだろう。




不必要に誰かを傷つけるのは避けたかった。




真壁さんが選んだドレスを着ていったら、
絶対に樫原さんを傷つけるし・・・・。



(どうすればいいかな・・・)



頭を抱えて、ソファに座り込む。
そっと丸まっている体の間から
クローゼットの中に並んだドレスを眺める。


着ていける・・・ドレスは並んでいる。
それを選んで着ていけばいいってわかってるけど、
でも、それって、どう言い訳すればいい?

あたしのこのクローゼットの中に並んでいる服さえ、
樫原さんは全部把握しているはず。


だって、専属でついていたときに、
あたしの服をクローゼットから選んで
コーディネイトまでしていたしね。



再び頭を抱える。




(どうしよう・・・・・)





そのとき、ある閃きが生まれた。




(そうだ!あの人に相談すれば、なんとかなるかも!!)



あたしは、携帯を握り締め、
いつもはメールしたことがない、
あの人に助けを求めた。




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・












「―--―-それで、お嬢様?」



「今日のパーティのために準備されたドレスが・・・・着れなくて」



あたしの前で、中岡さんが
苦笑しながら立っている。



そう、あたしは、中岡さんにメールをした。


中岡さんだったら、こんなときにどうしたらいいか、
多分、いいアイディアを思いついてくれるだろうから。


それに、前に「何かあったら相談してくださいね」と
言ってくれたのを覚えているから。

ついでに、あたしが真壁さんと一緒に雨に濡れて
熱を出したときも、中岡さんが
樫原さんにフォローしてくれたというのを聞いていたから。


あまり核心に触れることなく、
それとなくぼやかして、報告してくれて
真壁さんが樫原さんから、ひどく注意されることは
なかったらしい。




そんなこんな事情を考えて、
あたしは相談役に中岡さんを選んだんだ。





このドレスを着る予定だったんだけどね・・・・と
あたしは、ピンク色のシフォンドレスを見せた。




樫原さんからもらったんだけど、
これを今日は着ていけないんだ。
でも、持っているドレスを着るわけにもいかなくて、
なんか、他のドレスが必要なんだけど、
でも、それがなくて、困ってて・・・。
真壁さんに頼めないのは、その・・・・
彼が選んだドレスを着ていったら、
樫原さんが傷ついちゃったら困るし・・・・・
できれば、真壁さんにも樫原さんにも
顔が立つように、なんかドレスないかな?




苦しい言い訳だった。




「あ、太ったから着れなくなった、んじゃないよ?!」

あたしは慌てて言った。
中岡さんがくすっと笑う。

「全て、了解しておりますよ、お嬢様?」
これは少し肌の露出が多いですからね。


え?


必死で苦しい言い訳をしたのに、
中岡さんには笑顔ですかされてしまった。


唖然とした表情のあたしを差し置いて、
中岡さんはクローゼットの中に並んだドレスを見た後、
ちょっと考える顔をして黙っていた。



そして、急に何か思いついたように

「お嬢様、少々、こちらでお待ちくださいね」
「いいことを思いつきましたので、今お持ちします」



にこっと笑って中岡さんが、
さっとパウダールームから姿を消した。

去り方さえ爽やかだな・・・・なんて、
あたしはそれを見て思った。



あの樫原さんからプレゼントされたドレスを
着ることができない理由を
中岡さんにちゃんと言えなくて。

でも、なんだかわかってくれたみたいだから安心した。



どうやら、中岡さんが助けてくれそう。
本当に中岡さんに頼んでよかった。



あたしは、一息ついていた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




しばらくして、中岡さんが持ってきてくれたのは、
白いニット素材で、レース網のように細かい
金糸や銀糸にビーズやスパンコールが
あまり派手すぎず刺繍されたドレスだった。


ピンクのシフォンドレスのように、ふわふわしていない。
どちらかというと、身体の線がぴったり出るタイプ。


胸元は、首のほうまで少しきっちりしていて、
鎖骨のあたりにリボンを結べるようになっている。
首もとのふちを飾るレースには、
ビーズが刺繍されている。


同じようにビーズの刺繍が、袖口にもある。

これだけ、胸元が詰まっていたら、
沢山のキスマークが見えないで済むな、と
最初、この服を見たときに安堵した。

上半身はニット素材特有のぴったり感で、
下半身はマーメイドスカートのように切り替えが入り
ニット素材じゃなくて、黒サテンのような光沢のある布が
切り替えで入ってきて、裾が広がっている。

ひらひらと切り込みの入った裾は、
ターンをすると、ふわっと広がるようになっている。
そのままだと、白いニットドレスみたいに見えるけど
少し動くと、裾の切り替えから黒が覗く。
それがモノトーンチックですごくシックだ。

切り替えの裾も、ランダムに
斜めのラインで切られているから、
華奢なヒールとあわせたら、
多分足元がすごく洒落だと思う。



でも・・・・このデザインはかなり大人っぽい。



片側上半身から下半身へ流れるラインのように
黒と銀の糸で花の模様や、川の流れのような刺繍が
伸びている。ところどころ、くもの巣のような
幾何学的な模様が広がってて、ビーズのキラキラや
スパンコールの放つ光がアクセントになっている。
くもの巣に絡め取られた蝶の羽のような輝きが
ところどころにあるのが素敵。



とりあえず、お召しになってみてください。
微調整はお召しになった後にやりましょう。



そう勧められて、手渡されたドレスを着て、
あたしは、ため息をついた。



「・・・うわあ・・・これ、すごく大人っぽいね」



中岡さんがにっこりと笑う。



「こちらは、慎一郎様が新たに取引を始めましたイタリアのインポート服飾関係からのサンプルでございます」

「ちょうど、サンプルとして届いておりましたものを思い出しましたので、1枚、お嬢様に似合うものと思い、僭越ながら、私の判断でこちらのドレスにいたしました」



あたしが試着してみたドレスの背中で、
余っている部分を微調整している中岡さんが言う。



「こちらでしたら、慎一郎様からのプレゼントということで、お嬢様が今日のパーティでお召しになっても、誰もなにもいわないことでしょう」



中岡さんの顔は見えないけど、
少し苦笑しているような声だ。


確かに・・・・、義兄さんからのプレゼントだ、といえば
樫原さんだって納得するだろうし、
それに、真壁さんと樫原さんの仲にも角が立たない。



「なんか・・・あたしがこれまで着たことのないタイプだからドキドキしちゃうな」



いままで、あたしが着てきた服よりも、
すごく大人っぽい。
着ているあたしが、あたしじゃないみたい。
なんか、一気に大人になった感じだ。



似合うかな?



ちょっと不安そうに聞いたら、
中岡さんがすぐに顔を上げて、
微笑んでくれた。



「お嬢様にぴったりですよ」



「そ、そうかな・・・・?」



なんか、ぴったりすぎて、
胸の辺りとか、余っているんだけどな、布が。


思わず、胸の辺りだけ、
少し余裕があるのをつまんでみていたら、



「お嬢様は成長期ですので、そのあたりはいずれきつくなるかもしれませんね」


と中岡さんが言った。




!!


その言葉の意味に、あたしは
思いっきり赤くなってしまった。



「な、中岡さん!!」



あたしがあまりにも焦った声で言うからか、
中岡さんがびっくり顔で目を丸くしていたが、
自分の言った言葉の大胆さに気づいたのか、
一気に頬を赤らめて焦っている。

「す、すいません、お嬢様!つい!」

ついって!
うわぁ・・・・・。

焦って、どうにかフォローしている中岡さん。

「あ、でも、えっと、お嬢様は華奢なので、バランスとしては、胸は今くらいのほうが・・・ってあ!」

「っ・・・!!な、な、なな、なかおかさん?!!」


あたしは、いきなりの中岡さんの
男性目線からの意見で
もっともっと赤くなってしまった。


中岡さんも、顔を赤くしたまま、
黙り込んでしまった。


中岡さんが(何か言わなくちゃ言わなくちゃ)と
焦っている様子がよくわかる。
だって、あたしのドレスの微調整を背中部分で
糸と針をつかってやりながらも、少し手が震えてるもん。




二人揃って、気まずいというか、
恥ずかしくて、ぐっと黙ってたんだけど・・・・



でも、そのうち、その妙な沈黙が
おかしくなってしまって、
思わず、あたしは笑い始めてしまった。




「あはは!ほんと、中岡さんったら、なんでいきなりあんなことを!」


あたしが、思いっきり笑い始めたせいか、
一瞬あっけに取られていた中岡さんも
釣られたように笑い始めた。
糸を切って、針を針山に刺す。


「お、お嬢様、さっきの私の発言は内緒ですよ!」


真っ赤な顔を慌てながらいう中岡さんを
ひとしきり笑った後、
あたしはなんだか、すっとした。


こんなにお腹が痛いほど笑ったのは
久しぶりだ。


だって、最近ずっと真壁さんや樫原さんのことで
辛いこととか哀しいこととか、どうしたらいいだろうと
考えることが多くて・・・。
思えばどうやって笑うのかさえ、
忘れてたかもしれない。



ふぅ、と一息ついたあたしを、
中岡さんが優しい目で見ている。


もう、頬が赤くなっているのは治まったんだね。



「-----お嬢様があれほど笑うのを久しぶりに拝見いたしました」


そういって、少し微笑む中岡さん。



「最近、全然お笑いにならないので、心配していたところですよ」



はっとして中岡さんの顔をみると、
少しだけ心配そうな表情をしていた。



あたし・・・・中岡さんに心配かけてたんだね。



思い返せば、真壁さんからメールが来ないとか
中岡さんに愚痴を聞いてもらって、
それで慰めてもらってたな。



「お嬢様がいつものように笑ってくださって、私はとても安心いたしました」

真面目な表情で中岡さんがそう言う。




中岡さん・・・・。

あたしは、胸がじんわりした。



本当に、中岡さんって、
あたしの幼馴染のお兄ちゃんみたいな人だね。
いつも、こうやってあたしのことを心配してくれる。
何かあったら、いつも一番に助けてくれる。
本当に優しい人だな。



なんだか胸がいっぱいになって、
あたしは、少し泣きそうになった。
なんでだろ、最近涙もろくなってる。


でも、ちゃんとお礼を言いたくて・・・・。




「ありがとうね、中岡さん」

「あたしのことを心配してくれて」

「あたしが一番大変なときに中岡さんが助けてくれるよ」

「中岡さん、大好きだよ」


思わず、ぽろっと涙が零れそうになるのを
我慢したけど隠しようもなく
じっと中岡さんの瞳を見て、
思ってることを伝えた。


最後の言葉の「大好き」はlikeの意味だけど。

そう付け加えた。



―----だって、あたしがお礼を言った後に、
中岡さんが一瞬で頬が赤く染まって、
なんか、びっくりしたようにこっちを見つめたまま
固まってしまったから。



あたし、変なことを言ったかな?


「前にも・・・・真壁さんのことで泣いていたときに慰めてくれたでしょ?」


あの時、泣いているあたしの背中を
ぽんぽんと叩いてくれた中岡さんの優しさが、
今でもあたしの中に残ってるよ。



「ほんと、中岡さんは、あたしのお兄ちゃんみたい」


そういって、にっこり笑った。
いつだって、中岡さんの優しさに
あたしは助けられてる。



「いつも、ありがとう」



その言葉で、あたしの顔をじっと食い入るように
見つめていた中岡さんがふっと笑った。


「いえいえ、私の方こそ、お嬢様には助けられてます」
私は、お嬢様の笑顔が好きです。
だから、いつも明るく笑っててください。
それだけで、屋敷の皆は幸せになれるのですから。


中岡さんらしい言葉だった。

中岡さんって、ほんと・・・遠慮がちというか、
こういう時にもさりげなく気配りなんだね。

あたしは、そういう中岡さんだからこそ
こうやって頼りにできるんだと思って、
にっこり微笑み返した。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





着ていけるドレスが決まって、
あたしは、すごくほっとしていた。

でも、首もとまで詰まっているとはいえ、
耳元につけられたキスマークが・・・・。

髪型もどうしようと思っていたら、
中岡さんが髪の毛のアレンジまでしてくれた。

少しカールを巻いて、ゆるくラインを作った後に
逆毛を立てて、ふんわりまとめて
片方に回す。そして、髪の毛がない方の耳下に
珊瑚色や桃色が基調になった花びらが散る
大き目のコサージュを飾ってくれた。

コサージュから垂れるリボンや、レースや
パールの光が、とても綺麗で、女らしい。

白いドレスで、モノトーンチックにまとめているとはいえ、
髪型に珊瑚色の柔らかいピンクを持ってきたものだから、
ものすごく目立つ。
そして、そこに視線が集中して、他が目立たない。



(・・・・なんかすごく中岡さん、あたしがカバーしたいところわかってるみたい)



お化粧も手伝ってくれて、
少しアイラインを強く引いて、
目元を強調しながらも、
頬をピンク色に染めてくれた。
口紅は少し強いピンク色。
コサージュの色を濃くした感じだけど、
色合いは似ている。



なんだか、いつもは真壁さんが手伝ってくれるのに、
人が変わっただけで、あたしの着替えや、
化粧や・・・・、見た目がすごく変わることが不思議だった。




これって、中岡さん好みなのかな?



でも、中岡さんが好きそうな服のタイプより
これは大人っぽいと思うけど・・・・。




「――――お嬢様、完成です」


そういって、中岡さんがパフを置いた。


鏡の中に写る自分をじっと見てみると、
やっぱり、自分で化粧するのとは違って、
もっと・・・・なんだろう、女の子らしい、というか
女らしい自分が居た。



「・・・・中岡さん、お化粧上手だね」


顔色もすごくいい。
昨日までやっぱり熱を出していた分、
少し肌荒れもしてるし、顔色も悪かった。
でも、全然違う!



「いえいえ、お嬢様は元が良いですから」



そんなことをいって微笑む中岡さん。
優等生ランキングがあったら、
中岡さんの回答は多分90点越すよ?


「ありがとう、中岡さん」

そう微笑んで、中岡さんを見たとき、
パウダールームのドアが開く音がした。


え?



ぱっと振り返ると、真壁さんだった。






「お嬢様、扉が開いておりましたので、失礼いたしました」



一瞬にして、あたしと中岡さんは固まった。
無表情の真壁さんも、表情ぴくりと動かさない。




・・・・・・・・。



言葉は丁寧だけど、
絶対なにしてるんだ、と言ってる。


これは怒られる・・・かな。

真壁さんの表情をそっと上目遣いで見てみたら
案の定、無表情だけど、
すごくぶすっとしてるのがわかる。
眉間に皺がよってるし。
怒るよね、やっぱりこの状況だと。



「ま、真壁!」

少し慌てた様子で中岡さんが立ち上がる。



「これは、」

「中岡さんにあたしがお願いしたの。義兄さんからの新しいドレスを持って来てくれたから」



中岡さんの声をさえぎって、
先にあたしが喋った。
ウソはついてない、うん。
だって、本当のことだ。

まぁ、そうなったのには、色々理由があるけど。




中岡さんが、多分その場の雰囲気を読んだのか

「それでは、お嬢様、後は真壁がやってくれますので」

そう言って、足早にパウダールームから出て行った。
背中が焦ってるよ、中岡さん。







残されたのは、あたしと真壁さん。


・・・・相変わらずだけど、
この雰囲気はいたたまれない。




でも、前回これと同じような場面だった、
ダンスレッスン中だったホールでの
樫原さんと真壁さんを思い出すと、
まだ大丈夫だ、って妙な確信があった。





中岡さんが出て行った扉を、
真壁さんが閉めにいく。




あたしの部屋の入り口の鍵が、カチリ。



そして、すっと入ってきた
パウダールームの鍵も。


カチリと鳴った。









途端に、この部屋の空気が濃くなる。
密度が増してきて、息苦しくなる。







鍵を閉めた真壁さんが、
こっちへ歩いてくる。

あたしは、その場で足が固まってしまったかのように
立ち尽くしてしまった。



真壁さんが乱暴にあたしを引き寄せる。
視線を合わせた状態で問う。



「どうして中岡に化粧とかさせるんだ?」



「お前に触れていいのは、俺だけだと言っただろう?」



いきなりの恋人モードで、
あたしは、ドキッとした。


その声がどこか冷たくて、
少し怖い・・・・。


でも・・・・、こう言われるのも悪くない。



「そうだよ。真壁さんだけだよ、あたしに触れていいのは」



「・・・・だったら、なぜ中岡がここに?」


「・・・・あたしの執事さんは、機嫌損ねてるから頼めなかった」



「・・・・・・・・・」



「それにあたしの恋人が、首や胸元にキスマークを沢山つけてくれたから、着ていくつもりだったドレスが着れなくて困ってたの」



この言葉に真壁さんが少し顔を背ける。


少し気まずいと思ってるのかな?
無表情だった顔が少し赤くなってるのがわかる。

・・・・・こんなことで、真壁さん、
赤くなることもあるんだ。
あたしには新たな発見だった。

照れ隠しなのか、少し真壁さんが小さな咳をした後に



「それで?」


と訊いてくる。

「キスマークにはびっくりしたけど、嬉しかった。でも、それでドレスを着れないなんて、恋人にはいえなかったの。ただ、それだけ」



あたしの言葉を聴きながら、
真壁さんの瞳の色が優しくなるのがわかった。
もう、怒ってないかも。



「このお化粧、どう?」



じっと真壁さんがあたしの顔を見つめる。



「あたしは、真壁さんがお化粧してくれた方が好きだけどな」
真壁さんのタイプの顔になるのが嬉しいから。
でも、これも新鮮だよね?




「・・・・・・」



じっとあたしの顔を見つめていた真壁さんが
不意に、あたしの唇を舐めた。



「っ・・・・!」


思わぬことで、びっくりして目を見開く。
キスはされても、そんなに驚かないけど、
そんなぺろっと舐められることって、あまりないから。


驚いた顔のあたしに満足したのか、
さっきまでの冷たく怒っていた様子を消した真壁さんが
ゆっくりとあたしに顔を近づける。





「・・・・・その口紅の色が気に入らない」




そう言って、強引にキスをしてきた。

舐めるように、舌であたしの唇をなぞる。
食べられちゃうんじゃないかと思うほど、
吸い尽くされて、力が抜けてくるのがわかった。

すごく、気持ちがいい。
思わず息が上がってきてしまう。

あたしは、それだけで頭がぼーっとしてしまった。




不意に離された唇と唇。
さっきまでの温かさが消えていくのが、
とても現実感があった。

目を開けると、真壁さんの口の周りに
あたしの口紅が沢山ついている。
それを、真壁さんが手の甲でぬぐう。
真壁さんは満足げに微笑んでいた。




「これで、口紅は全部落ちたな」



「っ・・・・!」



まだ少し口元に残る、口紅の痕を
真壁さんがまた、手の甲でぬぐっている。


その仕草が、なんともいえないほど扇情的で。
あたしは、その仕草に見惚れてしまった。



さっきまであたしの唇の色だったものが
真壁さんの口元についているのが、
たまらなく・・・あたしをドキドキさせる。



そんなあたしにお構いなしに、
真壁さんは、あたしの腰を
片手で抱きながら、もう片手で、
ドレッサーの前に置かれた化粧品の中から
口紅類と筆を取り出す。




「少し上を向いて?」



あたしよりも、背が高い真壁さんを見上げるように
あたしは、少し上を向いた。
さっきのキスではみ出した口紅を
真壁さんが、丁寧に拭いてくれる。



真壁さんが指であたしの唇をなぞる。

そして、ゆっくりと、リップライナーで縁を描く。
あたしは、真壁さんがそんなお化粧の仕方を
知っていることにびっくりしつつ、
目を閉じてされるがままになった。

中岡さんもお化粧を上手にしてくれたけど、
真壁さんもこんなことできるんだ・・・・。


その後、口紅を含ませた筆で輪郭を描き、
ゆっくり内側を塗っていく。



その筆の動きを、じっと目を閉じて、
感触で追う。たまらなくなる。

息を吐き出すのも惜しくて。
目を閉じたまま、真壁さんの動かす筆の動きだけ
集中する。ゆっくり、優しく塗ってくれる。
その筆だけで、愛撫されているかのような
感覚に陥ってしまう。



思わず、気持ちが飛んでしまいそうなあたしに、
真壁さんがくすっと笑っているのがわかる。
この状況を楽しんでいるのも。





「お前にはこの色が似合う」




カタっと音がして、筆をおく音がしたと思ったら
すぐ、唇を奪われた。



真壁さんが、何度も何度も、
あたしにキスをする。
唇を味わうかのように。



「お前が可愛いすぎるからいけないんだぞ」

「あんな顔を見ていて、何もしないなんて出来やしない」


キスの合間に、真壁さんが呟く声が聴こえる。



あたしのせいじゃないよ・・・・。


そう言いたかったけど、
真壁さんのキスがとても・・・・
とても気持ちよくて、
あたしは言わないでおいた。



これじゃあ、口紅塗ってもらっても、
また取れちゃうね。




でも、いい。

あたしの口紅は
真壁さんのためにあるんだから。


あたしの唇も。
あたし自身も。




あたしは自分からもキスをした。
真壁さんが喜ぶ気配がする。
2人とも目を瞑って、
お互いの唇を味わっていた。
何度も、何度も。



大好きな人と、めちゃくちゃに
キスをしてみるって、すごく・・・・
とろけそうなほど気持ちいいんだということを
初めて知った。



「口紅、真壁さんに全部ついちゃった」



大好きな人の口元が
自分の口紅で汚れてるのが、
どうして、ここまであたしを歓ばすんだろう。


誘うようにみえてくる。もっともっと。




「また塗ってやるよ」



堂々とそういうんだから。
なんて、大胆で、魅惑的な提案だろう。



あたしは、真壁さんのその呟きに心を震わす。


そうだね、ずっとキスしていよう。

こんなにも、大好きで。
こんなにも、愛してて。
こんなにも、気持ちよくて。



愛されてるってわかる。



そんな人とキスできる嬉しさで、
あたし、身体中が満たされているのがわかるよ。



なんだか、覚悟が出来たせいか、
あたしは、こんなにも自分に溺れる真壁さんも
そして、あたし自身、ここまで真壁さんの行為に
翻弄されることも、とても・・・幸せなだけだった。



この愛に溺れることが怖くない。
今以上に好きになることも、怖くない。
手放しで好きになっていいんだ、
って、ようやくわかったから。



自分の気持ちを全てぶつけても、
真壁さんは離れていかないって確信できたから。



ううん、違う。

どんなに自分の全てをなげうって
この人に愛をぶつけても、
この人があたしを愛してくれてる度合いには
勝てないってわかったから。


ちょっと前までは、
これだけ幸せになっていいんだろうか、
もし次がなかったら、とか、心のどこかで
セーブをかけていた。

幸せだったけど、色んな心配や不安が
付きまとってて、それを直視するのが嫌で
考えないフリをしていた。


自分の気持ちにセーブをして
愛さないと「戻れなくなる」と思っていたから。






もう、戻れなくていい。




それが・・・・折り合いがついたからか、
あたしの心は、真壁さんの愛を
充分に感じることが出来た。






鍵のかかったパウダールームには、
あたしと真壁さんしかいなくて。





今、ここにあたしと一緒に居る人は
あたしの執事で、あたしの恋人。







その幸せに浸りながら、
2人でキスの海に溺れていたら、
不意に、真壁さんの携帯がマナーモードで震えた。



それでも、むさぼるように
あたしの唇を味わっている。

でも、取り出した携帯を見ようとしている
真壁さんが悔しくて、よそ見して欲しくなくて、
その目を手で隠してしまおうとしたら
こらって怒られた。



そして、すっと身を引いて、
携帯の画面に出た名前をチェックした途端に
すっと執事の顔に戻った。




マナーモードでしつこく電話がなっている。




わかっていたことだけど、その変化が、
あたしには、ちょっと寂しかった。



口元周辺をあたしの口紅でべったり汚しながら、
真壁さんが電話を耳に当てた。


そのギャップがなんだか妙で、
あたしは、ぼんやり真壁さんの口元を見ていた。



その視線に気づいたのか、
真壁さんが少し苦笑し、
横を向いて手の甲でぬぐっている。




電話の相手はだれかわからない。




でも、真壁さんが「了解いたしました」と
畏まって言うのだけが聞こえた。



その声が、少し硬くなっていたことも。




短い数秒の通話で、電話が終わった。
ポケットに携帯をしまいながら、
真壁さんがこっちを向く。





もう、すっかり執事の顔に戻っている。



鍵をかけられた、あたしと真壁さんの世界は
普段のパウダールームに戻っていた。




執事の仮面を被った真壁さんが、
無表情のまま、普段どおり言う。




「お嬢様。今、樫原さんからお電話がありまして、準備ができ次第、出発なさるそうです。準備をお急ぎ下さい、とのことでした」




こっちを見つめる視線が、
さっきの恋人同士だったときと違う。


こんなにいきなり、執事に戻れる真壁さんと違って
あたしは、すぐには戻れないよ。




「わかったわ、真壁。準備はあと、化粧を直すだけだから、すぐ出かけられます」


でも、お嬢様として、あたしは振舞う。

「執事」としてあたしに対応してくるのなら、
それをうけたあたしは、「お嬢様」になるしかない。



そばにあったティッシュペーパーで
真壁さんが自分の口元に沢山ついた口紅を拭く。
そして、あたしの唇からはみ出した口紅も。



その動作が、2人だけの時間の終了を告げていた。
なんだか、すごく寂しい。


すぐには行きたくなくて、あたしはノロノロと
乱れていた襟元を正したり、
髪型が崩れてないか、鏡を覗いた。




「お嬢様」



そう声をかけられて、振り向くと、
真壁さんがさっきの口紅筆を持っていた。



「口紅を塗らせていただきます」



そういって、真壁さんが、ゆっくりと
またあたしに口紅を塗る。


その手つきが、なんだか、
とても辛そうに感じられるのは、
真壁さんとも、この時間が終わったことを
とても寂しく思ってるからかな。



それとも、ドレスアップしたあたしを
樫原さんに渡してしまうのが惜しいからか。


真壁さんが、あたしのことを、パーティに
行かせたくない感がありありと感じられる。




今日のパーティは、樫原さんがついていくから
真壁さんはお留守番だ。






本当は片時も離れたくない。




でも・・・・。




このまま、ここで真壁さんと一緒にいたいけど、
あたしは、するべきことがあって、
今日はパーティにいかなくてはいけない。




口紅を塗り終わって、
真壁さんがそれを片付けている。




あたしは、その無言の背中に言った。




「パーティ行ってくるから」



「・・・・・・・」



返事はなかった。


伏せられた顔には、
苦い表情が漂っている。





「帰ってくるまで、待ってて」

「真壁さんに大事な話があるから」





「待ってて欲しい」




その言葉で、真壁さんが顔を上げた。
少しびっくりした顔をしている。



驚くことなんか、なにもないよ。
だって、あなたはあたしの専属執事で、
いつも、あたしの傍にいる人じゃない。



あたしは、真壁さんに微笑んだ。
そして、あたしより背の高い
真壁さんの首に手を回して
自分からキスをした。



「っ・・・・・!」



なぜか、真壁さんが驚いて赤くなる。
下から真壁さんの顔を覗き込む。



「いい?お嬢様としての命令よ」



冗談交じりでそういうと、
真壁さんが、ふっと笑った。



この笑顔が好き。



今日・・・・出かける前に
真壁さんのこの笑顔が見たかった。


今日だけは、辛そうな顔で
送り出してほしくなかった。




「承知いたしました」




そういって微笑む瞳の優しさや、
あふれてくる感情が、あたしを包む。


そっと身体を離して、
あたしは、ソファの上に出していた
小さなバッグを持った。


出かける準備は完了している。




パウダールームを出ようと
扉の鍵を開けるとき、
不意に真壁さんが後ろから抱きしめてきた。




「必ず戻って来い、俺の元へ」



ひっそりと耳元で囁く声が聴こえる。
抱きしめられた部分が熱い。



あたしは返事をせずに、
少しだけ笑んで、
パウダールームの鍵を開けた。



名残惜しそうに抱きしめる腕を
そっとはずす。





真壁さんを部屋に残したまま
あたしは振り返らず部屋から出た。










********** ダンスのお相手は?15 **********

16話に続く


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