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*******Until sleeping ~ look like moonloght *********

For YUYUMARU




―――、なんだか眠れない・・・・。


あたしは、ベッドの中で寝返りを打った。


掛け布団をぐるぐるにして抱きしめてみる。
目を開けたら・・・そのままずっと起きていそうだから、
ぎゅっとつぶってた。

寝付けない夜って・・・誰にでもあるっていうけど
どうして、こう、夜の遅い時間に眠れないって
孤独を感じさせるんだろう。

眠りに入るタイミングをはずしてしまった。


晶さんとおやすみなさいの挨拶をした後、
ベッドに入って、少し雑誌を読んで、
うとうとしていたから多分今日こそきちんと
眠れると思ったのに・・・・。
いざ眠ろうとしたら、なんだか目が覚めてくる。


目が覚めてくるのを気のせいだと思おうとして、
ずっと眠っているかのように
目を閉じてじっとしていたけど、だめ。
自分にはごまかしがきかない。
ぎゅっとつぶっていた目をうっすら開ける。


窓から、煌々と光る満月が見える。


月光が窓から、一筋の線になって部屋へ差し込む。
黒い雲が少しずつ晴れていって明るさが増してくる。




そうっと息を潜めてベッドから抜け出した。








・・・・・・・



コン、コン。



もうこんな時間だから、と思いながら、
隣の部屋のドアを遠慮がちにノックする。

(メールすればよかったかな)

携帯の着信音で眠りを妨げたくなくて。
直接、部屋のドアをノックした。
ちょっと待って、もしドアが開かなかったら、
自分の部屋に帰ろう。
そう思って、あたしはネグレジェの上に羽織った
カーディガンの前を合わせた。





がちゃ。


予想に反して、ドアはすぐ開いた。
濃紺の・・・・多分シルク素材のパジャマを着ている
晶さんが立っていた。

(今まで寝ていたのかな?)

胸元がはだけてて、少しだけ上着に皺がある。
目をパチパチさせている。


あ・・・・眠ってたの起こしちゃったんだ・・・・。


「あ・・・・晶さん、ごめんね?」

「つぐみちゃん・・・・?どうしたの?」

「あ・・・・・えっと・・・」

起こしちゃったんだ、と思わずごめんねと
部屋に帰ろうとしたんだけど。
晶さんのパジャマ姿から覗く胸元や
その少し・・・・眠っていたせいか
ぼんやりしている雰囲気に
なんだかドキッとしてしまって。

あたしは、言葉を詰まらせたまま固まってしまった。


ドキドキしてる。
晶さんのパジャマ姿、初めて見た・・・。
濃紺の布の光がすごく上品で似合ってて。
肩に羽織っているショールは温かそうな、深緑と濃紺の
チェック模様の柔らかい毛がうっすらとビロードのよう。
こんな時間で、あたし、さっきまですごく落ち着いてたのに、
晶さんに会った途端に、心臓がトクントクンって音を立てるのがわかる。


(逢えて・・・嬉しいから・・・)


言葉に詰まってもじもじしているあたしを晶さんがくすっと笑った。
さっきまで寝ていた人とは思えないほど、普通の晶さんだ。

もう、目が覚めちゃったんだね。


「眠れなかったの?」

「あ・・・う、うん。それで何か飲みたいなと思って晶さんに・・・」


・・・・ほんとはウソ。
眠れなかったから、晶さんに会いたくなっただけ。
ただそれだけのことなのに、あたし言えないんだ。


「とりあえず、中にお入りよ。廊下は冷えるから」

「う・・・うん」



あたしは晶さんに促されて、
晶さんの部屋に入った。


壁に立てかけられた描きかけの水彩画。
机の上に広げられたデッサンの本。
飾り棚にヴァイオリンが置かれている。
レコードが棚の中に飾られててレトロでステキ。


「えっと、こっちに座って、少し待ってて」

ソファにあたしを座らせたあと、肩にかけていたショールを
ソファの背もたれにかけ、晶さんはバスルームでパジャマを
軽く着替えて、部屋の外へさっと出て行った。


(さっきまで・・・・寝ていたはずなのに、晶さん・・・)


思わず、飲み物欲しいなんて言ってしまって。
ただ、一緒にいたいな、ってだけだったのに、晶さんに執事の仕事をさせてしまった。

(なんだか、悪いな・・・・)


ただ眠れなくて顔を見たかっただけだけど・・・。
そう思って、あたしはソファにもたれかかる。
ふと、そばにかけられた晶さんのショールがはらり、と落ちた。
ショールを拾うと、そこからほのかに晶さんの匂いがした。

(晶さんの匂いがする・・・・)


あたしと同じフレグラスをつけているから、晶さんの匂いはわかる。
同じの香りをつけても、晶さんとあたしの匂いは
似ているようで違う匂いになることも・・・
今のあたしは知ってる。


晶さんの肌の匂い・・・だ。

ふんわりと軽くて暖かいショールの触り心地がよくて思わず、顔をうずめた。
そして晶さんの匂いを嗅ぐように、ゆっくりと息を吸い込んだ。
眠れなくて、なぜか寂しい夜は、こんな暖かくて柔らかいものが無性に気持ちがいい・・・・。

あたしはショールを抱きしめたまま、目をそっと閉じた。




晶さんが部屋に帰ってくる音を待ちながら。




カタン





音がして、目を開けた。

晶さんが、右手に乳白色のカップを持っている。
温かそうな湯気が立っている。
その湯気の向こうで晶さんが優しく微笑んでカップをあたしに差し出す。
あたしは、両手でカップを受け取った。


「ココアだよ。眠れないなら、少し甘いものをお飲み」


甘い匂いが、部屋に漂う。

両手で包み込むように持つと、ココアの湯気が、あたしを温めてくれる。

「ありがとう、晶さん」

あたしは、温かいカップでぬくもりながら、ゆっくりと唇を縁につける。
すごく、甘い匂いに酔いしれながら。
晶さんがあたしの隣に座って、こっちを見つめている。


「甘さは控えめにしておいたよ」


その言葉と表情がとても優しくて、あたしはどきっとした。
少し赤くなったあたしを見て、晶さんがまたくすっと笑う。

思わず恥ずかしくなって、あたしは慌ててカップに目を落として、ゆっくりと飲み始めた。





こくん。





一口飲んでみてわかる。上品な甘さで、あとにひかない。
そして、ミルクの柔らかい味が、すごく・・・・美味しい。
あたしが飲む姿をじっと見ている晶さんが視界の横に入る。
見守られている中、こうやって飲んでいるのが妙に気恥ずかしい。


「お・・・美味しいよ、晶さん、ありがとう」


「どういたしまして」


にっこり笑うのが見える。


なんだか、こんな至近距離で見つめられてるのが恥ずかしくて、
あたしはドキドキしてて晶さんの顔を見れない。
もう・・・恋人同士になってしばらく経つけど
いまだに晶さんに見惚れてしまったり、見ているだけでドキドキしたり。



あたしは、いつだって晶さんに釘付けだ。


ゆっくりとココアを飲みながら、あたしはそっと晶さんを見る。
晶さんが微笑む。
なんだか、すごく・・・恥ずかしい・・・。
でも、幸せだと感じる。
どぎまぎしながら飲むココアは、なんだかこぼしそうになってしまう。
こうやって、一緒にいられるだけで、あたしは、すごく幸せ。
ココアも温かいけど、晶さんと一緒に過ごす時間も温かいよ。


「ごめんね、晶さん。こんな夜遅くに・・・・」

そうだった。
部屋に来た理由を言うのを忘れてた。

「いいよ。絵を描いてて、さっきまで起きていたから」

そう言いながら晶さんがこちら側の手を伸ばして
あたしの髪の毛を撫でてくれる。

晶さんは、2人っきりの時こうやって、あたしのことを甘やかす。
その恋人の時間が、あたしを蕩けさす。
思わずどきっとしたけど、羽を触るかのように優しくて軽く触る感触が、気持いい。
一筋、一筋、梳くように髪の毛の中を流れる指。
すごく優しい・・・・。

「ううん、せっかく寝たばかりなのに、起こしちゃって・・・・。飲み物まで作らせてごめんね」

思わず気持ちよさで、ココアを飲むのをやめてしまった。
そのまま、ココアをゆっくりサイドテーブルに置いた。

すぐそばに座る晶さんの肩に頭をのせて甘えた。
晶さんの肩から、晶さんの匂いがする。
あたしの口の中のココアの甘い匂いとは違う匂いが、鼻腔をつく。


「いいんだ。これは恋人としての僕の優しさだよ」

・・・こんな甘い言葉が似合う人をあたしは、1人しか知らない。
このココアより、すごく甘い言葉だよ晶さん・・・・。

「晶さん」

そう言って、顔をあげると、晶さんの優しい顔がそこにある。
その瞳がとても優しくて、あたしは胸が一杯になる。
目をそっとつぶって、晶さんに軽くキスをした。

「お礼のキス」

一瞬だけで唇を離すと、晶さんと瞳がきらりと光るのが見え、今度は晶さんがぐっとキスをしてきた。

「っ・・・・・」

味わうように晶さんの唇が何度もあたしの唇をついばむ。

「・・・・甘い味がする」

何度目かのキスの合間に晶さんが呟く。
余裕あるような誘惑してくる口調がまたあたしの心をドキッとさせる。


「美味しい?」


「うん、美味しいよ」

目をつぶったまま、キスを味わう。呟くように聞こえる声が心地いい。

「よかった」

何度もキスをしながら、会話をする。
晶さんがあたしの髪の毛を撫でる。
こうやってキスをしながらお話しちゃうって・・・・ずっと憧れてた。


「眠れなかったの?」

「・・・うん」

何度も何度も、晶さんとキスをしても、こういう甘い雰囲気には、ドキドキしちゃう。

「なんだか、目が覚めちゃって」
「そのまま1人で起きているのが寂しくなったの」

不意にキスが止んで、目を開けたら、晶さんが微笑んでいた。
誘惑するかのように目が魅惑的に輝いて―――。


そして耳元で囁いた。


「じゃあ、2人で一緒に起きていようか?」

いたずらっ子ぽく囁く晶さんが可愛らしくて。
あたしは、くすっと笑った

「今日は月が綺麗な晩だから、2人で起きているのも悪くない」

そんな素敵な提案をしてくる晶さんが本当に・・・・とても、好き。

「ちょっと待ってて」

そう言って、晶さんが部屋の飾り棚をあけてオーディオにスイッチを入れた。
音楽を流れ始める。部屋に小さな音でピアノの音が響く。


そして、カーテンを開けた。
窓の外に、ぽっかりと浮かぶ月が見える。


「これ、聴いたことがある・・・・」


「ドビュッシーの月の光だよ」


そばに戻ってきた晶さんが、あたしの上半身をゆっくり倒して、
自分の膝にあたしの頭を乗せる。
晶さんがゆっくりと膝枕したあたしの髪の毛を撫でる。

「こんな夜には、ぴったりだろう」


静かに、ひっそりと聴こえる。少し切ないメロディが部屋の中を踊るように、月の光と共に満たしていくのがわかる。


2人で眺める先には、窓の外に満月。
耳を撫でる、優しいピアノの音。
髪の毛を撫でる手は優しくて大きくて、細くて・・・・そして温かい。
あたしはその温かさに、うっとりした。


あたしは、晶さんと今ここで一緒の時間を過ごしていることがとても、幸せだと感じる。
そのことを伝えたくて、ちょっとだけ目線をあげると晶さんの顔が下から見えた。
少しだけ目を細めてる。かすかに聴こえる。晶さんが曲にのせて歌っているハミング。
その小さな音すら聞き逃したくなくてあたしは話すのをやめて、そっと息を潜めた。


「眠くなったら、寝てもいいんだよ、つぐみ」

そう優しい声が聞こえる。

「まだ、眠らないもん」

思わず駄々っ子のように言う。晶さんがくすっと笑う。

「それでは、君が眠りにつくまでの時間を、この僕にくださいますか、レディ?」

返事をする代わりに、髪の毛を撫でていた晶さんの手を掴んで、あたしの頬に押し当てた。

晶さんの手の感触。
ふんわりと温かい。
それを包み込んだ。


「ええ。もちろんですわ、あたしの王子様」

頬に当てている手が温かい。あたしの頬も・・・・きっと赤くなって温かいはず。


ふっと笑う気配がした。


掴まれた手と反対の手で、晶さんが膝に置かれたあたしの髪の毛をかきあげて、耳元で優しく囁いた。


「今は膝で我慢して」


「君が大人になったら、一緒にベッドで月を眺めよう」


その言葉の意味に、あたしの心臓はどきっとする。でも、・・・・・それも悪くない。


「うん・・・・きっと、約束ね」


聞こえなくたっていい。小さい声で呟いた。
あたしの頬に包み込むように置かれた晶さんの手が、親指だけ動かして、撫でる。
かすかな動きでさえ、愛を感じるのは、本当に、晶さんがあたしのことを大事にしてくれてるからだと思う。
頭をのせている晶さんの膝からも、晶さんの匂いがしてくる。


頬を包む手からも。
そっと、あたしの肩にかけられた晶さんのショールからも。

あたしは、幸せ一杯になって、そうっと目を閉じた。

眠りに吸い込まれる、ちょっと前の瞬間・・・・
晶さんがゆっくりと小さな声で囁くのが聞こえる。


「おやすみ、つぐみ」



その呟きがとても優しくて。
そして切なくて。胸が一杯なって・・・。






あたしは、優しい眠りに落ちた。











*******Until sleeping ~ look like moonloght Fin. *********




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******* 恋愛写真 **********

 ~ Beautiful Butterfly ~






俺の心の中には、1冊のアルバムがある。

そのアルバムの名前は「つぐみ」。
この九条院家のお嬢様のお名前だ。

そして、俺の想い人。

アルバムの中には、俺がこれまで見てきた
彼女の写真が収められている。
専属執事として傍についている分だけ、
毎日、そのアルバムに写真は増えていく。


朝起こしにいったときの無造作な寝顔。
眠気眼をこする子どものような仕草。
おはよう、と微笑むときの優しい顔。
パジャマの姿を恥ずかしがる背中。
制服のリボンを結ぶときの凛とした表情。
髪の毛を梳かす鏡越しの顔。
並んで歩くときの彼女の華奢で細い肩。
教室で友達といる時の楽しそうな横顔。
俺を見つけて、すぐさま飛んでくる可愛い姿。
靴を履こうとして、うずくまったときに流れる髪の毛。
お茶のときにカップを持つ小さくて細い指。
飲むときに、こくんと動く、白くて小さな喉。
盗み見る綺麗なエッジを描く横顔のライン。
庭の咲き乱れる花を見つめて瞬きする睫毛の作る影。
考え事をするときにひじを突いて顎を乗せる仕草。
何かを語ろうとするときにゆっくりと開けられる唇。


そして、時々俺を見つめて微笑むときの優しい瞳。
眠る前にキスをねだって閉じられた瞼。


どれもこれも。
あまりにも、俺の心を奪うものだから、
心の中でシャッターを切らずにおれない。
俺だけが知っている彼女の1つ1つ。
ちょっとした仕草でさえ愛しい。


今、少女から女性に変わろうとしている彼女。

さなぎから蝶に変わる1人の女の子の傍にいて
成長という名のラインで、日々変化する、
その綺麗さ、儚さ、そして女らしさに
俺は感動し、切望する。

蜘蛛のように、その蝶を捕らえてしまいたい。
そして、その美しい羽を折って食べてしまいたい。


君は気づいているんだろか?
俺がこんな欲望を持っていることを。

ただ、優しい男だと俺のことを思っているのなら
それは大きな間違いだ。

本当の俺は、独占欲もあって、
そして、黒々としたものも胸に秘めている。
でも、これまで生きてきた年数で、
俺はその姿を君の前から隠すことができる。
隠して、君の傍で居続ける。
いつか、君を捕らえようと心の奥底で望みながら。

君を捕らえてしまいたい衝動に駆られたとき、
俺は心の中でシャッターを切る。
捕らえることができないのなら、
せめて、その姿を永遠に心に焼き付けようと思って。

君が美しい羽を持っている蝶だ。
その美しい金粉を撒き散らし、
“女”であることを匂わせる。

その匂いに酔いしれながら
俺は君が傍にいてくれることに
心の底から、幸せを感じるんだ。

君が微笑むだけで、俺がどれだけ心を震わすか
わかっているんだろうか?

その1つ1つの仕草が
たまらなく、俺の心を幸せにするんだよ。
揺さぶられて、見境がつかなくなる。

だけど、たまに幸せすぎて、
それをもっと完璧に自分のものにしたくて、
「終わり」にしたくなる。

自分の手で「終わり」にしてしまえば、
それは、もう誰からも奪われることのない時間だから。
幸せな時間、と名づけて、それを永遠に保存できるから。


「終わり」がいつ来るのか、怯えなくてすむ。


その美しい蝶の飛ぶ姿を
ずっと見守っていきたいという想いと、
どこかへ飛んでいってしまうのなら
今すぐ捕らえて、ここで俺の手で
その美しい羽をもぎ取ってしまいたい衝動。


2つの気持ちのどちらも、俺の心だ。

こんな俺の心を君に伝えたなら、君はどう答えるだろう?


こんな気持ちを―――、こんな矛盾した俺を、
いつか君に見せることができるだろうか。


「執事でなくなろうとも、おそばにおります」


その言葉は君をずっと見つめておきたいが為。

俺がいないところで、
こんなに愛らしくて美しい存在が
息をしていることが許しがたい。

見ていないところへいってしまうくらいなら、
今すぐ俺のものにしてしまいたい。
傍にいられないのなら、今すぐ――-。






「-----中岡さん・・・?」



気づくと、彼女が俺の腕に手をかけてきて、こちらを見ていた。
覗き込むように、俺の瞳を見つめている。

もう片手には、屋敷に滞在している客人からの贈り物、
色とりどりのチューリップの花。
これを飾ろうと、彼女が花瓶を選んでいたところだった。


「どうしたの?」


贈り物に嫉妬して、俺は自分の世界にいたのか。
もしかしたら、表情にも怪訝な様子が出ていたのかもしれない。

こんな黒い気持ちを彼女に気づかれたくなくて、
すっと表情を整えて彼女に微笑み、
冗談交じりで、彼女に甘い言葉を囁く。

「あんまりにも可愛いから、その姿を写真に撮りたいなって思ったんだ」

じっと見つめて、彼女に告げると、すぐ頬が赤くなる。


彼女は俺のことが好きだ。


こうやって確認しながらも、俺の心は震える。
でも、今日の彼女は赤い顔をしながら、
少しきっぱりと予想もしていなかった言葉を言った。



「いやよ」


「え?」


「だって、写真になってしまったら、なんだか遠いよ、久志さんから」


「・・・・・・」


その言葉の意味があまりよくわからなくて黙ってしまった俺に、彼女が微笑みながら言葉を続ける。


「あたしは、ずっと久志さんの傍にいるの。だから、写真なんて必要ないでしょ?」


そう、首をちょっとだけ傾げて言う。


「写真に写ったあたしを見るより、いつも傍にいるあたしを見つめていればいい」


自信満々で、目をキラキラ輝かせて言う君。
言った後で、自分の言葉の大胆さに赤くなる頬。


君は今、自分の口から未来を語ったのをわかっているか?


この姿に、俺はまた心の中で夢中にシャッターを切る。
これでまた、アルバムの写真が増えた。




君は何もわかってないよ。

どれだけ、俺が君を、
君の全てを愛してるか。


参ったな。
こんなに君を好きになってるなんて。
あんまり、俺を喜ばせないでくれ。


君を好きになりすぎるから。



「つぐみ・・・」



胸の奥からあふれてくる愛しさと、切なさで、俺は彼女をゆっくりと抱きしめた。


いきなり抱きしめた俺の手を振り解かずに君は、
手に握ったチューリップを傍に置いて、
そっと俺の背中に手を回してくる。


胸に頬擦りしてくる彼女。
華奢で、細くて、小さくて。
その身体中、舐めまわしたいほど愛しい。



どこかへいってしまわないでくれ。
ずっと傍にいてくれ。

そう、心の中で呪文のように唱えながら。











願わくは、彼女が死ぬときまで、
俺が彼女の傍にいられますように―――。






















時よ、止まれ。



今、この瞬間が永遠になれ。

















そう、強く祈りながら。


俺は自分と彼女の姿に心のシャッターを切った。














********** 恋愛写真  Fin . ********
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After the Party  11/09/2008  
****** After the Party.********



ハローウィンパーティは
侑人さんと一緒に過ごせなかった。


あたしの恋人であり
専属執事で、九条院家の執事長で
家例でもある樫原侑人さん。
九条院家でのパーティだから
当然、侑人さんはとても忙しい。


侑人さんが指示を出して
飾り付けや食事の準備や
パーティの進行を全て決める。
侑人さんだからこそできる
こんな仕事。

そう、あたしの恋人は
とても有能で
仕事ができて・・・
すごく素敵な人。










・・・・・・・・



パーティの準備で
傍についていられないからと
あたしの世話を侑人さんが
真壁さんに頼んでくれた。


「申し訳ございません。ゆいこお嬢様」

当日は真壁がゆいこお嬢様の
お世話を担当しますので。


そう侑人さんがあたしに頭を下げた。
ちょっと寂しかったけど
でもこれはしょうがないことだと
わかっているから、と少し笑ったら。
侑人さんがあたしの右手を取って
その手の甲にキスをした。


「終わったら君の元に戻るから、大人しくそれまで我慢できるかい?」



恋人になった侑人さんが
そうあたしに問いかけるものだから
握られた右手を頬に当てて
侑人さんの手にあたしは頬擦りした。


「うん。待ってる」


「いい子だ」


愛しそうにあたしを見つめる年上の恋人。

「パーティ終わったら、いつものように2人で過ごそう」


侑人さんが柔らかく抱きしめてくれたから
それに身を任せた。
侑人さんの細い指があたしの顎を摘んで
いつものように優しくそっと自然にキスしてくれた。

















パーティの仮装は
中世の貴婦人をイメージした。
オフホワイトのドレス。
侑人さんが選んでくれた。
義兄さんが貿易関係で取引している
イタリアのアトリエで作られたクラシカルなドレス。

丸く開いた胸元にはレースが施され背中も開いている。
シルクオーガンジーのトレーンから覗くレースがとても素敵。
すっきりだけどふんわりと降りる裾。
レースで作られた透ける袖。
中世のジュリエットが着ていたような
そんなオフホワイトのドレス。


少し大人っぽい感じ。

準備をしているときに真壁さんが迎えに来てくれて
髪の毛を結い上げてくれた。緩くカールがかかった毛先。
小さなティアラを真壁さんがそっと被せてくれる。


髪飾りは赤い薔薇の花。

耳朶の後ろにつけられる薔薇の香りの練り香水。

優しく丁寧にゆっくりと筆で紅を塗られる。


そして顔には真壁さんが準備してくれた
鈍い金色に光る仮面をつける。


足元にはドレスと共布に思えるホワイトベージュに
クラシカルレッドの糸でバラの模様が刺繍されている。
そっと真壁さんが靴を履かせてくれる。
優しく足首にもつけられる薔薇の香り。




「まさに貴婦人です」



真面目な顔をした真壁さんがそう褒めてくれた。
少し頬が赤くなってる?


「ありがとう、真壁さん」


吸血鬼の仮装をした真壁さんは
はまりすぎるほどはまってる。


「非常に古風な美しさで、本当にお美しい」


いつもの真面目な真壁さんからは
聞けないような大絶賛にあたしも嬉しくなった。


「真壁さんが髪の毛のセットやお化粧もしてくれたからだよ」


真壁さんってこんなこともできるんだ、と
びっくりするほど,
お化粧道具を扱う真壁さんはとても器用で。
綺麗にお化粧してくれた。
いつもはつけない紅い色の口紅さえも
あたしに似合っている。


クラシカルなドレスを着たあたしと一緒にいると
真壁さんとあたしだけ違う時代の人みたいだね。


そう言って笑ったらまた真面目な顔をして
真壁さんが「恐れ入ります」と言った。






・・・・・・・・・







真壁さんにエスコートされて会場に行くと。


既にパーティ会場は玄関から続く絨毯も
オレンジ色に変わってて
カーテンもテーブルクロスも
すっかりハロウィン仕様になっている。



(これじゃ、侑人さんが準備で忙しいのもわかるわ)


屋敷全体がハロウィン仕様に変わっている。
そっと窓から覗く庭もハロウィンに合わせて
飾り付けされてる。










つつがなくパーティが進む中
真壁さんが傍にいてアップルサイダーや
パンプキンパイも食べさせてくれたけど・・・


あたしはずっと侑人さんを探していた。

















パーティ後半。



会場にしっとりしたワルツの曲が流れる。
メロディアスでロマンチックな雰囲気。

義兄さんが姉さんに
「これからは大人の時間だよ」と
2人が最初に踊りだした。


侑人さんがいないことに気落ちしながらも
あたしはダンスの誘いを受け
最初に晶さんと、その次はウォルフさんや中岡さんと踊った。


ファーストダンスを申し込んでくれた晶さんは
いつもの口の悪さもなく
とても綺麗なレディになったね、と褒めてくれた。


ウォルフさんはいつもどおり
ダンスに誘ってくれるだろうとは
想っていたけれども
ナポレオンの格好をした中岡さんが


「一曲、お相手願えますか?」

と尋ねてきた時にはびっくりした。
隣にいた真壁さんもちょっと驚いていた。


「ええ、喜んで」


差し出された手を握ったら
中岡さんが少し赤い顔をして
にっこりと笑ってくれた。

中岡さんと踊った後、義兄さんとも踊った。


今日のオフホワイトのドレスが
とても綺麗だと褒めてくれた。


まるでこんなオフホワイト一色のクラシカルなドレスだと
ウェディングドレスのようだとちょっと寂しそうな顔をする。


「本当に侑人とゆいこちゃんが恋人同士になってくれてよかった」


「義兄さん・・・」


「おかげでこんなに優雅で気品あふれるゆいこちゃんをみれた」


「うふふ」


「まったく侑人が妬けるよ」


「え?」


「こんなに綺麗なゆいこちゃんをお嫁さんにするなんて」


「義兄さんったら」


義兄さんには姉さんがいるじゃない?
それにまだ結婚の話なんてされたことないよ?


恥ずかしがるあたしを
義兄さんが優しく見つめる。


「それはそんなに遠くないんじゃないかな?」


「え?」


「侑人が君を手放すとは思えないからね」


嬉しすぎる言葉であたしが頬を染めていると
少し義兄さんが困ったような顔で溜息をついた。


「きっとぼくは君の結婚式で泣いてしまうんだろうな」


「そう?」


「うん、きっとね。こんなに可愛い義妹が他の男のもとへ行くのだから」


「・・・あたしが結婚するとしたら侑人さんしかいないよ?」


「侑人でも、誰でも、だよ」


それぐらい君は今日綺麗だ。
この手を離したくない、と想うほどにね。
どこにもお嫁に行かせたくないよ。


穏やかで優しい義兄さん。


侑人さんとは違う愛情で
義兄さんから包まれているのを実感する。
侑人さんがいなくて寂しかった心が
少しだけ癒される。



年上の義兄さんから見てもこの格好がとても上品で
大人びて見えるのなら、侑人さんもそう想ってくれるかな?



会場をステップ踏んで回りながら
目ではずっと侑人さんを探してる。



踊っているあたしを見つめている
隆也君や誠吾君、中岡さんやウォルフさん、
真壁さんと目が合う。
晶さんもあたしを見ている。



皆、あたしの今日の仮装を
とても綺麗だと言ってくれた。


ドレスもさることながら仮面をつけているからか
いつものお嬢様よりももっと大人びて見えて
とても美しいって。



・・・・そんな言葉、侑人さんの口から
一番最初に聞きたかった。


いろんな人からの褒め言葉より
なによりも欲しかったのは
大好きな人の言葉。


少しだけでも侑人さんの時間を
あたしにくれたらな。
今日、すごくお洒落したのに。
この仮装だって・・・
気品あふれる貴婦人を目指して
一回り年上の侑人さんの隣に並んでも
見劣りしないように大人っぽくしたのに。









結局、侑人さんは見つけられないまま。



パーティは終わり
真壁さんにエスコートされて部屋に戻ってきた。
着替えを手伝いましょうか?と聞かれ
断った後、真壁さんに仮面を返した。















部屋で一人残されて。
あたしはドレスを着替えられずに
ソファに座っていた。


(たしか前にもこんなことあったな)


侑人さんと初めてキスした日を思い出す。
自分の想いを伝えた日。
着替えずに待っていたら
また侑人さんと踊れるかな?



侑人さんにはあたしの傍にいる
専属執事以外の仕事も沢山あって。
忙しいってこと分かってる。
だからいつも我がままは言わないって決めてる。


でも・・・。


今日のこの格好はきっと侑人さんが
とても褒めてくれるはずだから。
侑人さんに見て欲しかった。


それに―――。
侑人さんとダンスを踊りたい。


今日いろんな人と踊ったけど
でも一番最後のダンスは侑人さんと踊りたい。


今日のパーティ会場、本当に素敵だった。
ハロウィンパーティ。
仮装した侑人さんを見てみたかったな。
仮装していた中岡さんや真壁さん、ウォルフさんも
他の皆も素敵だったし。
きっと侑人さんだったらもっともっと素敵なはず。



侑人さんの言葉を想い出す。


終わったら戻ってくるって言ってた。



それなら・・・・。



あたしは自分の部屋を
そっと抜け出した。















オレンジ色の絨毯。


ホールの電気は消えていた。


飾り付けのされた窓はカーテンがひかれずに
そのままの状態。
黒の総レースに紫色の刺繍が入った
ハロウィン特別仕様のカーテン。



(こんなところまで凝ってるって素敵)




窓から月の光が入ってくる。

窓から覗くと庭園の外灯も
かぼちゃの形に変わっていた。
思わず可愛らしくて笑ってしまう。
ホール中に飾られた
かぼちゃやお化けなんかのオーナメント。


本当に今日のハロウィンパーティは
とても素敵だった。
オーケストラの演奏でダンスも踊れた。
いつものお屋敷の人たちもとても素敵だった。

だからこそ・・・
侑人さんに逢えなかったのはとっても残念だった。




でも・・・・確信はあった。


ここで待っていたら
きっと侑人さんが探してきてくれるって。





誰もいないホールはしーんとしてて。
さっきまでの華やかなパーティが
終わった後の静けさ。



(こんな静けさ、好きだな)



いつからか、パーティよりも
パーティが終わった後のほうが好きになっていた。



きっとそれは
侑人さんに想いを告げた日から。



華やかなパーティで楽しむより、パーティが終わって
その余韻が残った時間を侑人さんと味わいたい。


その時間のほうが
もっと大切。


終わった後の静けさが好きだなんて
きっとあたし変わってるんだと想う。





窓際に置かれたソファに座る。



きっと会場の片付けは明日かな。
明日には無くなってしまう今日だけの、この空間。


月の光でも十分に明るいくらい。
そっと窓から庭を覗いてみる。
10月の終わりの庭園はコスモスや秋の花が咲き乱れている。


月も満月に近くて。


(早く侑人さん来ないかな・・・・)



待ち合わせをしたわけじゃないのに。




きっと来てくれると
信じてるから。


あたしはパーティの疲れもあって
近くのソファでうたた寝してしまった。













・・・・・・・・・・・




ふと目が覚めた
何か音が聞こえる。


え・・・?


あ・・・眠っちゃってた?



思わずびっくりして起きたら
ホールの隅から音が聞こえる。



なんかいつもとは違う音。


電気はついていない。
ホールは月の光だけ。





でも・・・。



あれ?と想ってそこに近づくと
古いレコード機があった。
レコード盤が回ってる。
じーっという音と共に
静かにジムノペディが流れた。











「ゆいこ」


優しい声が
あたしの名前を呼ぶ。
その声で誰かわかるよ。




「・・・侑人さん」



振り向けば
あたしがずっと逢いたくて待ち焦がれていた人。


両手には2つの
ろうそくが入れられたジャックランタン。
かぼちゃの目や口から
柔らかい灯りがこぼれている。


思わず駆け寄ると
侑人さんが仮装しているのが分かる。
そして、その仮装に目を丸くする。



「侑人さんそれって・・・」


両手に持っている
ジャックランタンの光で
その姿が浮かび上がる。


「ゆいこがここで僕を待っていると想ったから、着替えてきたよ」


「え?」



「約束しただろう?パーティが終わったら戻るって」



「うん」



「どうしたの、そんなきょとんとした顔をして」



「だって・・・」



あたしが驚いている様子に
侑人さんがくすっと笑う。



そしてホールの隅に置かれた
テーブルにそれぞれ1個づつ
ジャックランタンを置いた。


「ね、侑人さん。その格好って・・・」


「ヴァンパイアだよ」



灯りをテーブルに置いて
近づいてきた侑人さんは
吸血鬼のマントを羽織っていた。



真壁から借りたんだ。



そう言いながら
近づいてくる侑人さんの影が
蝋燭の光でゆらゆらと揺れる。



黒の燕尾服に
黒の蝶ネクタイ。
そして黒いマント。


(さっきの真壁さんのヴァンパイア姿もよく似合っていたけど・・・・)


侑人さんはとても・・・
淫靡でもっと艶ぽい。




「さっきまで準備や片づけで追われてたからね」


すごくカッコよくて
ドキドキしてしまって・・・
あたしは侑人さんから
目が離せなくなっていた。



「待ちくたびれた?」


「・・・ううん、大丈夫」



侑人さんがあたしの髪の毛を撫でる。
思わず自分が真っ赤になるのが分かる。


「どうかした?」


「う、ううん」



あたしが見惚れてることに気がついて
侑人さんがくすっと笑う。



「こんなところで寝てたら風邪を引いてしまうよ」



「・・・侑人さんが見つけてくれるって分かってたもの」



侑人さんがあたしの前に立つ。
蝋燭の光が逆光でその表情は見えないけど。
すごく愛しそうにあたしを
見つめているのが感じられる。


伸ばされたその手が優しくあたしの頬を撫でた。
あたしはその手を掴んで自分の頬に当てた。



「侑人さんを待ってたの。侑人さんと踊りたくて・・・」


侑人さんと踊るまで
着替えたくなかったの。
この姿を見せたかったんだ。



「しょうがない子だ」


侑人さんが優しく笑いながら
あたしだけに聴こえるように
囁いてくれた。










おいで。









手を引かれて
ホールの中央に立つ。





部屋に静かに流れる
ジムノペティの柔らかいピアノの音階。

ジャックランタンから漏れる灯り。


窓から差し込んでくる月光。


そしてヴァンパイアの格好をした恋人。



「いつもだったら、こうやってホールなんかでは踊らないけど・・・」


「うん、わかってるよ」


建前は執事長の侑人さん。
2人でいるときは執事だったり恋人だったりするけど
部屋で2人きりじゃないときは大抵は執事の樫原さんだ。



「この蝋燭の光だけで、誰にも見られないなら大丈夫」


「そうだね」


侑人さんがあたしをぐっと引き寄せる。


「一曲、踊ってくれますか、マドモアゼル?」


「ええ、喜んで」


優しく組まれる手。背中に添えられる手。
優しく笑った侑人さんがゆっくりと踊りだす。
そのリードに合わせて
あたしも靴で床を滑るように踊り始めた。

部屋の隅でともる蝋燭の光で
二人の影が揺れるのが分かった。













「やっぱり、侑人さんとの方がすごく踊りやすい」


「それはそうだよ」


なんていっても僕は君の恋人だから。
君のタイミングや身体の使い方、
呼吸の速さまで知ってる。


緩やかでありながらも
しっかりとリードしてくれる。
ナチュラル・スピン・ターン、リバース・ターン。
侑人さんに導かれるままあたしはステップを踏む。


侑人さんは踊りながらあたしの瞳を見つめる。
あたしも侑人さんを見つめる。
踊っている間はあたしと侑人さんは
本当に二人だけの世界になる。



「ねえ侑人さん、覚えてる?」


何も言わないのに
侑人さんが優しく頷く。


「あの時と一緒だね」


あたしが想いを告げた日のこと。
初めてキスした日のこと。
あの日もこうやって侑人さんと踊った。



「あたし・・・ずっと侑人さんに恋していたのに、その気持ちを言えなくて」


「わかってたよ」

君の気持ちは全て。
嬉しかった。



そう伝わってくる言葉が
あたしも嬉しくて。
そっと肩に頭をもたれさせた。



「今日のこのドレス姿、とても綺麗だ」


「ありがとう」


侑人さんの手があたしの肩や
ドレスから出ている背中をなぞる。



「パーティで誰と踊った?」


「ん?」


侑人さんの目がじっとあたしを見つめる。
・・・あたしがこうやって問われることに弱いって分かってて。



「・・・晶さんと踊ってウォルフさんと中岡さん・・・義兄さん」



真壁とは?と訊かれて首を振った。
侑人さんがそっと笑うのがわかる。
安心したのかな?



「慎一郎様と踊られてるのは見たよ」


「え?」



「丁度その時会場にいたからね」

いつもの笑顔でにっこり笑う。


「気がつかなかった・・・」



「踊りながら楽しそうに、どんな話してたの?」



どこにいたの?と聞く前に質問で返された。
その言葉は・・・疑問系だけどあたしは知ってる。
これって、全部話しなさいって軽い命令形。



「・・・とても綺麗だからどこにもお嫁にやりたくないって言われたの」

「あたしの結婚式にはきっと泣くだろうな、って」



思わず義兄さんの困り顔を思い出して
くすっと笑ってしまう。
そんなあたしを侑人さんが真面目な顔で見返した。




「慎一郎様が僕にとって一番の恋敵ですね」



「え?」



さらりと言われた言葉にドキッとする。


そのままターンでくるりと回される。
戻ってきたところは侑人さんの胸の中。
侑人さんは何も言わずにいつもの笑顔だった。


侑人さんの冗談、
ほんとにわかりにくいよ。



「それにしてもこんなにも綺麗な姿でハロウィンパーティ出席なんて、さすがは僕の恋人だ」



「侑人さんが選んでくれたからだよ」



侑人さんが少し赤くなりながらも
あたしのことを褒めてくれる。
それがとても嬉しい。



「もっとこっちおいで」


侑人さんを見つめたらステップを踏むのをやめて
背中に添えていた手でぐっとあたしを抱き寄せた。
そして組んでいたその手をあたしの頭に添えて
じっと見つめる。



「本当に綺麗で、見惚れてしまうよ」


「・・・あたしだって・・・侑人さんがとても素敵で見惚れちゃうよ」




「奇遇だね」


思わず笑ってしまう。
懐かしい言葉。


この言葉を最初聴いたとき・・・
すぐには意味がわからなかったけど
でも、とても嬉しかった。
あたしの中で忘れることのできない言葉の1つ。




「うん。それにこういうの両想いっていうんだよ、侑人さん」



「知ってるよ」



思い出しているのがわかったのか
侑人さんがにっこり笑った。


視線が交わる。



そっと瞼を閉じたら
自然と唇と唇が重なった。


ジムノペティの音階。



緩やかでも静かに激しいキス。
角度を変えて何度も繰り返される。


唇も吸われて、舐められる。


Kiss off.
キスで口紅を剥いじゃうことって
侑人さんが前に英語の宿題をしているとき教えてくれた。










時が止まる。










いつの間にか
曲が終わっていた。









侑人さんがずっとキスしててくれた。
永遠かもと思うほど長く。
何度も何度もキスされる。


繰り返されるキスに心奪われる。


キスしながら髪の毛を撫でられる。
ドレスの背中、開いたところから
肌に触れる。


ドレスの背中から差し込まれる指先。
それはひんやりとしながらも
優しく撫でてくれる。


うっとりして力が入らなくなって
そのまま侑人さんにもたれたら
唇が優しく離された。



「曲が終わったね」


「うん」


「もう少し踊る?」


「ううん・・・さっきのでラストダンスは充分」



侑人さんが耳元に顔を近づける。


「薔薇の香りがする」


「うん」



耳朶の後ろにつけた練り香水。
きっとキスで体温が上がったから
それで香りがするんだと想う。




「これだけ近づかないと、匂いがわからないようにちょっとだけ」




侑人さんが傍にいなくて
ちょっと寂しそうな顔をしていた
あたしに真壁さんが
夜を楽しく過ごせる魔法だって
そっと付けてくれた。




その意味が今、よくわかる。






「キスされることわかっていたからかい?」




優しく笑う声が聞こえる。


パーティの時間に一生懸命侑人さんを探していた
心細さや不安や寂しさが全部消え去っていく。
楽しかったけど、でも侑人さんがいなくて
ちょっぴり寂しかった。
パーティが終わった余韻を今、2人で味わえて・・・
こんな甘い時間がずっと続けばいい、と想った。



「侑人さん・・・大好き」




そう言って侑人さんの
燕尾服の胸元に頬を寄せる。



「ゆいこ・・・」



ふわっと何かが背中に被さった。

一瞬の後。
マントの中に包み込まれた。

侑人さんがマントを持ちながら
その中にあたしを閉じ込めた。











真っ暗の中。




さっきも蝋燭の明かりしかなかった
暗い部屋だったけれど。
今はもっと真っ暗。頭の先からつま先まで。



ヴァンパイアのマントの中。



何も見えなくなって
ただそばにある侑人さんの
身体しか感じられない空間。


「侑人さん・・・? 」


ちょっとだけ不安になって
侑人さんにしがみつく。
そしたら侑人さんが
くすっと笑うのがわかった。




「僕の心臓の音、聴こえる?」


「うん・・・」




少しだけ速い。



抱きついている
その身体を通して言葉が
自分に響いてくる。




真っ暗なのはちょっと怖いけど
でもそれが侑人さんのマントの中だから・・・
怖いけれどでもこのままずっと包まれていたいと想うの・・・。


抱きしめられるだけで満たされる気持ち。



侑人さん・・・って抱きついたら
抱き返してくれた。













本当に君は僕の腕の中だけに
納まってしまって。
時々可愛すぎてたまらなくなる。





侑人さん・・・。





こんな可愛い君だから
慎一郎様が手放したくないと
冗談でもおっしゃる理由がわかるよ。




ふふ・・・あれは義兄さんの冗談だよ。





そうかな?





侑人さんの少し真剣な声が響く。





慎一郎様が君を可愛がりすぎて
結婚を許してくれないのなら―――





いっそこのまま君を浚ってしまおうか。



え?




ヴァンパイアの花嫁になるかい、ゆいこ?



・・・!!



言葉に驚いて顔を上げたら
侑人さんがじっとあたしを見つめていた。





「返事は?」



その瞳の色が妖艶で情熱的にあたしを見つめてる。
いつもの優しくて柔らかい侑人さんじゃなくて
もっとその奥にある一人の男の人だった。


思わずドキッとしてしまう。



「答えて、ゆいこ」



軽い命令形にあたしはくらくらしてしまう。
こうやって・・・たまに支配的な侑人さんも
好きだと感じてしまうの。





「・・・・侑人さんみたいなヴァンパイアだったら、あたし、浚われてもいい―――」



答え終わらないうちに
激しく唇を奪われた。


さっきとは全然違う。


侑人さんの舌があたしの口の中を全て味わう。
熱で浮かされる。
全て奪い去られるかのように
激しく求められて。
息もつけなくなった。



「愛してるよ、ゆいこ」



両腕で抱きしめられて
その腕の束縛から
逃げられない。


どこにも逃がさない、とマントにも包まれて
その腕にも拘束されて―――





苦しいって侑人さんの燕尾服の裾を指先で
一生懸命引っ張ったら不意に唇が離された。




「っ・・・・!!」


少し咳き込みながら
侑人さんに抱きしめられる。




「・・・ゆいこがとても可愛いからだ」




荒くなってしまった呼吸を整えようとしたら
侑人さんがあたしの顎をしゃくって
自分の方に向かせる。
その親指で息の荒いあたしの唇を優しく撫でた。





「なんだかいつもの侑人さんとは違うみたい・・・」



いつもより・・・激しい。


強引でずるいところも
たまに意地悪で怖いところも
わかっている。
そしてそれを見せてくれるのも
あたしにだけってことも。
思い余って実力行使に出ちゃうのも
あたしに対してだけだってことも。


今は知ってるよ。




「嫌?」



あたしは静かに頭を横に振った。


「嫌じゃないよ、むしろ・・・ドキドキする」



こんな、侑人さんの一面を
あたししか見れないことが。

少し戸惑いながらも頬が赤くなる。

侑人さんの手が優しく
あたしのからだのラインを撫でた。






なぜだろう。
きっと君があまりにも綺麗だから
パーティの時に一緒にいれなかったことを
悔いてるのかもしれない、僕は。
手放したくないという慎一郎様の気持ちがわかるからか。




その言葉が切なそうに聞こえる。




でもね、ゆいこ。

「君が襲いたくなるほど綺麗だから気持ちが抑えられないんだ」




言い訳がましいその言葉に
くすっと笑ってしまった。



だってさっき襲っちゃったのに。
マントの中に閉じ込めて腕も拘束して
あんなキスなんて襲ってるのと同然だよ。
それをあたしの責任にするなんて
ずるいよ侑人さん。





拗ねながらそう言ったら
侑人さんがちょっと瞳を和らげて
そうだね、って言ってくれた。












「あ・・・薔薇の花が」


気がつくと髪の毛に飾られていた
薔薇の花が落ちていた。
花弁が何枚か取れて
あたしと侑人さんの周りに散っている。


「花を散らすなんて・・・・」



赤い花弁が侑人さんの黒いマントにも付いている。
花弁を摘んだ指先を侑人さんが包んだ。
その指先にそっと侑人さんがキスをする。



あまりにもその動作が色っぽくて・・・
目を離せなくなってしまったあたしを
侑人さんがまた抱きしめる。



力が抜けて指先から
赤い薔薇の花弁が
はらはらと落ちていく。





「・・・・本当に侑人さん、ヴァンパイアみたい」





・・・闇の魅力っていうのかな。
妖艶で・・・淫靡で・・・
見ちゃいけないほど綺麗で
思わず心を奪われてしまうの。





「ゆいこはヴァンパイアが好きかい?」



「違うよ・・・。侑人さんだからヴァンパイアが好きなの」




今日の侑人さんは・・・いつもと少し違う。
でも・・・こんな侑人さんもすごく好きだよ。
今、あたしがすごくドキドキしてるのわかる?





「ゆいこ」


「なあに?」



侑人さんの瞳が魅惑的に光る。
その瞳がじっとあたしを見つめながら愛を囁く。





「もし僕がヴァンパイアだったとしたら、君を浚って、ヴァンパイアにして永遠に君だけを愛すだろう」


こんなに綺麗で愛しい女性を前にして
浚いたくなるのは当然だよ




「そして僕は君の血しか吸わない」



「え・・・」




そう言いながら
侑人さんの綺麗な指が
あたしの首筋をすーっと撫でた。
鎖骨と鎖骨の間のくぼみを
指が円を書くように撫でる。



ひんやりとした指先。





「だって愛してるんだから、飲みたいのは君の血だけだ」


指先があたしの髪の毛を
少し耳朶が見えるようにかきあげる。




「・・・・侑人さん、冗談わかりにくい」




「冗談じゃない」




「侑人さん・・・」





ゆっくりと耳元に近づいてくる唇。









そういうのもいいと思わないかい?


密やかに笑う声にさえ胸が高鳴る。





今日はハロウィンだから。
こんなことさえもきっと許される。
僕がヴァンパイアになっても。
そして君がその花嫁になっても。




「・・・なんだか怖いよ、侑人さん」



「怖くなんかないよ」




耳朶を軽く舐めながら、そこで喋られる。
その感覚で思わず力が抜けそうになる。





「こういう風に愛されるだけだ」



あ・・・・




侑人さんがゆっくりと
あたしの首筋に噛み付いた。



「っ・・・・!!」



思わずきつく目を瞑る。


痛みじゃない。
これは・・・気持ちよさ。


生温かい唇や
這う様に動く舌。
軽く噛んでくる歯。
肌に吹きかけられる温かい息。




(侑人さんに食べられちゃう・・・)



強烈な感覚で
思わず身体の力が抜ける。




くらっとしたあたしを
侑人さんがつかさず
お姫様抱っこのように
抱きかかえた。




「っ・・・!!」



侑人さんがくすっと笑う。



魅惑的に微笑みながら
あたしに言い聞かせた。





今日はもうここには誰も来ない。
鍵も閉めてしまったからね。

ヴァンパイアに浚われた花嫁だよ、今夜の君は。
僕の意のままだ。
可愛いゆいこ。本当に可愛くて仕方ないんだ。
浚ってしまいたい、このままずっと遠くまで。

誰にも邪魔されないところへ。
2人だけになれるところへ。










僕達2人のパーティはこれからだよ。










顔を近づけて侑人さんが
あたしにしか聴こえない声で囁く。



初めて侑人さんに
抱かれた夜のように。


あたしの中から余裕なんてものが
侑人さんよって全て剥ぎ取られる。
侑人さんに囁かれるだけで。
その言葉の魔力に身も心も束縛される。


これから起こることに胸が高鳴って
何も喋れなくなったあたしは
ただ静かに目を伏せた。



その瞼に侑人さんが
優しくキスをしてくれた。










黒のマントが翻されて
2人の姿を隠すように
包み込まれる。



闇に奪われるかのように
白いドレスが乱れる。



ホールの静寂を乱す気配。



蝋燭の明かりが揺れる。



ジャックランタンから
零れる灯りが
弱弱しくなる。


オレンジ色の絨毯に延びる影。
格子のように絨毯にうつる窓枠。



月は雲で覆い隠される。



時折、青白い月光が
天井のステンドグラスに刺し込む。



鳴り終わった後の
レコードの針が止まる音。




絨毯に散らばった赤い薔薇の花弁。



テーブルに置かれた
小さなティアラ。







衣擦れの音。
侑人さんの息遣い。
漏らしてはいけないと
抑えるあたしの声。


そっと吐き出される溜息。







闇にゆっくりと飲み込まれる。



ひっそりと耳元だけで
囁かれる愛の言葉。
繰り返される情事。




薔薇の香り。



侑人さんとあたしの匂いが溶け合う。














パーティが終わった後。









2人だけの時間。







パーティの余韻を残し
ハロウィンの夜が
静かに過ぎていった。







ただそれを見守るのは
雲に隠れた月だけ。












Fin.....




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リボン  11/08/2008  
【秘密シリーズ】樫原侑人


********* リボン ********

Nobody can know it.
It's our secrets.
You want to bind my heart,
and me too.
Darling,you are mine and
I'm yours.

【Secrets Serise】










今日も侑人さんが
あたしの制服のリボンを
結んでくれる。


赤いリボン。

きつくないように
ふっくらさせるように
左右均等に結んでくれる。


あたしより背の高い侑人さんの
目の前に立つ。
侑人さんの手袋をはめた指が
器用にあたしのリボンを結ぶ。


自分で出来るよって
最初の頃はそう言っていたけど。


でも毎日こうやって
結んでもらうたびに
なんだかとても・・・
大事にされてるんだなって
愛されてるんだなって想う。


(これって奥さんにネクタイを結んでもらう旦那さんの気持ち?)


なんて変なことを
考えちゃうけど。


でもあたしがこの朝の習慣が
大好きな理由は
綺麗にリボンを結び終わった後
侑人さんがキスしてくれるから。


魔法がかかる瞬間。



「出来たよ」



そう言って侑人さんは
結び終わった後
にっこり笑う。


それが幸せな瞬間で
あたしはちょっと背伸びして
侑人さんにキスをする。


軽く触れるだけのキス。

「ありがと」



行ってきます。

いってらっしゃい。



一緒に学校の、それも
教室まで一緒に行くのに
部屋を出る時の
そんなキスが大好き。


部屋を出たら
あたしと侑人さんは
お嬢様とその執事。


勿論、侑人さんは“執事”の枠に
はまってるだけじゃなくて
たまに執事のお仕事中も
恋人になるんだけど
でもこうやって朝、
あたしの部屋から出る間際。


キスしてくれる。

切ない気持ちにはならない。
穏やかな気持ち。



学校から帰ってきたら
勿論、すぐさま
制服から着替える。


侑人さんが
朝結んだリボンを
解いてくれる。


赤いリボンが
ゆっくりと解けて
きちんと畳まれてしまわれる。


リボンが解けたら
あたしの魔法も解ける。



侑人さんただいま。


朝みたいな軽いキスじゃない。
ちゃんとしたキス。
だって甘い気持ちに
なってもいいもの。


勿論侑人さんもしっかりと
キスを返してくれる。


おかえり。って。



リボンを解かれた瞬間からは
あたしは侑人さんのもの。

あたしと侑人さんの
2人だけの時間。


いつもリボンを結ばれる時と
リボンが解かれる瞬間
二人揃って
ひっそりと視線を交わす。


たまにリボンが解かれた後
すぐさま侑人さんに
浚われてしまうことがある。


愛しい気持ちが募って
思わず、という侑人さんの
そういう余裕のなさを見るのは
あんまりないから
あたしはそんな日は
とても幸せな気持ちになる。


侑人さん曰く
リボンを解く瞬間
なぜかあたしの服まで
脱がせている気になるらしい。


だから、リボンを解きながら
すごくどきどきするって。


そう言われてみて。


確かにそうだなって想ったの。

侑人さんの器用な指が
優しくリボンの端を取って
ゆっくりと引っ張る。

だんだん緩くなっていって
しゅるりと解かれる。
その時、あたしと侑人さんの間に
かすかにある理性の線まで
緩くなる気がする。


あたしが侑人さんの
執事服のネクタイを解く時に
ものすごくどきどきするのと
一緒かもしれない。


執事服を着ているときは
「執事」なはずな侑人さんなのに
それがたまに寂しくて
そのネクタイをキスしながら
解いちゃうことがある。



勿論、侑人さんは
あたしの悪戯に
気がついているけど・・・
そのままやらせてくれる。










そうやって侑人さんのネクタイを
しゅるりと解く瞬間。

犯しちゃいけないことを
やっているような気がして。
禁忌を踏み越えるような気がして。


すごくどきどきする。


きっとそれと同じ気持ちを
侑人さんは
あたしの制服のリボンを
解く時に感じてるんだろうな。











ある日侑人さんに言われた。


縛るのが好きな人は
本当は縛られたいんだって。

それってどういう意味?と聞いたら
いつもの笑顔で


「束縛したいと想う人は
本当は束縛されたい人なんだ」と言った後で


「僕も君を縛り付けて、僕以外には逢わせたくないと本当は思ってるよ」


なんて真面目な顔で言われた。


侑人さんの冗談、
わかりにくいよ。


そう笑ったら
侑人さんが苦笑した。


あたしは気づいてるよ。
その言葉が冗談半分
本気が半分だってことぐらい。


あたしが12歳年上の侑人さんを
あたしだけ見てて欲しくて
束縛したいように
侑人さんもあたしに
束縛されたいんだよね。


きっとあたしの心も
そうすることで
もっと手に入れてしまいたいから。




あたしの心は既に
侑人さんだけのものなのに。
勿論侑人さんの心も
あたしだけのものなのに。




結びたい解きたい。
束縛したい、束縛されたい。
きっとそれは表裏で
どっちも同じこと。




今日も侑人さんに
リボンを結んでもらって
そしてまたリボンを解かれる。
きっとあたしが
学校を卒業するまで。


あたしがもう
制服を着なくなった後は
きっとこの儀式のような
リボンの習慣は
なくなるだろう。


それがちょっと寂しい。


でもきっと。


侑人さんだったら
また別な儀式を考えてくれる。


きっと。



あたしと侑人さんしか知らない
二人だけの秘密の儀式。



リボンを結んで解く。




たったそれだけなのに
その瞬間
あたしと侑人さんの間で
密な時間が流れる。


きっとそれは侑人さんが
あたしの心や身体をそのまま
愛してくれるのと一緒の感覚。









いつか言おう。




侑人さんが
あたしのリボンを解く時に
どきどきするような気持ちを
あたしは侑人さんの
執事服のネクタイを解く時に
感じてるよって。


少し淫靡で、そして
うっとりするような瞬間だよねって。



リボンを結ぶように
緩やかに優しく
侑人さんに束縛されたいんだ。



あたしが侑人さんを
束縛したいようにって。



















****** リボン Fin.... ********
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手袋  11/08/2008  


【秘密シリーズ】真壁直樹


********* 手袋 ********


Nobody can know it.
It’s secrets in my heart.
I remove my gloves,
Because want to touch you more.
Please notice my love.

【Secrets Serise】











「ね、真壁さん」

「はい」

「手袋、貸して?」

「は?」


「執事の手袋ってどうなってるんだろう?っていつも疑問に想ってたの」



にっこりと彼女が笑った。


午後から学校が休みの日。
彼女にアフターヌーンティを
入れていたときの出来事。


やけにカップへティを注ぐ
俺の手を見ているなと想ったら
俺のお嬢様はにっこり笑って訊いてくる。


よく表情が変わる可愛い。
くりっとした目で
見つめられると
そういうおねだりでさえ
はねつけられなくなってしまう。


思わず俺は自分が
微笑んでしまっていることに気がつく。


恥ずかしくても
認めてしまうしかない。

俺はこの、「俺のお嬢様」に
おねだりされるのが弱いんだ。


そういう素振りは
あまり見せないけれども
彼女が俺にしてくるおねだりは
いつも叶えてあげたいと
想っている。


そうやって甘えてくるのは
「俺の」お嬢様だからだ、
とわかっているから。







いつから俺は彼女に
こんなに甘くなったんだろう。



そう思いながら思わず
自分自身に苦笑してしまう。

くすっと笑った俺に
彼女は首を傾げる。


その仕草さえ可愛くて。
子どものようだと想う。






「普通の手袋とそうたいして変わりはありませんよ」


「そう?」

「ええ。しいて変わっている点を挙げるのなら、ボタンがついていることでしょうか」


ふ~ん。


そう感心する彼女の目は
俺の手袋に注目だ。

俺の手袋を借りたい様子が
ありありな彼女。


俺の顔と手袋を交互に見ながら
無言で(いい?)って
目をキラキラさせて
俺を見つめてくる。


(しょうがないな)


その子どもっぽいおねだりに
思わず苦笑しながら、
手袋を右手だけ脱いだ。


指一本一本を
手袋からすっと抜き出す。


脱いだ手袋の指先を揃えて
彼女に渡した。

大事そうに受け取る彼女。


「ボタンがついてるし、普通の手袋よりもっときちんと作られてるね」


彼女が俺の手袋を持って
ひっくり返したりして見ている。


(どう見たって手袋なだけなのに)


俺の手袋を彼女が
自分の手にはめてみる。


「真壁さんの手って大きいんだね」


ぶかぶかの手袋の
余った指先の布を摘む
小さなその指。



さっきまで真壁さんがはめてたから
あったかいや。


にっこり笑って
ぶかぶかの手袋をはめた
手を見せる彼女。


「お嬢さまには少し大きめですね」

「うん」

ぶかぶかの手袋の
指先を遊ぶように
指を動かしてみせる。



そんなに喜んでいる様子が
思わず可愛いと笑ってしまう。


まだ高校生の彼女は
たまに大人っぽい顔も見せるが
こうやって「執事」の俺と
一緒にいるときに
小さい子どもに
戻ったかのように
甘えてくることがある。


それは執事への「信頼」から
成り立っているものだと
わかりながらも。


俺よりも幼くて
純粋で天然な彼女に
・・・なぜか心惹かれてしまう。


彼女がこうやって甘えてきたとき
俺はその甘えに心を許しながらも
それをもっと引き出して
俺に甘えさせたいと願ってしまう。







もっと俺に甘えるといい。


お前は「俺の令嬢」なのだから。






この気持ちは。
執事としてなのか
彼女に心惹かれる男としてなのか。



あくまでも「執事」として
彼女の傍にいればいい。


そう思いながらも・・・・。


甘えられて嬉しく想いながら
これ以上彼女に近寄られたら
執事としていられるかどうか
自信がない自分がいる。


自分で自分自身を
隠せなくなることがある。



たまに俺は
外れそうになる
執事の仮面を
俺は震える手で
もう一度つけなおす。



そういう時は
いつも彼女が
俺に触れてくるときだ。



真壁さん。



そう呼ぶ声。


ねえ、あれをみて。


俺の腕に手をかけながら
向こうを指差したりする。


触れられたところから感じる
熱を感じないふりをしながら
俺は執事として彼女に接する。


なんですか、お嬢様?


そう訪ねながらも
俺は自分がとても優しく
笑っていることに気がつく。
背の低い彼女を
少し上から見つめる。




彼女からしたら
なんでもないスキンシップ。

ただそれだけなのに。













「―――真壁さん?」


はっと気がつくと
彼女が俺のほうに
手袋を差し出していた。


嬉しそうに
俺の持ち物を触る彼女に
見惚れていた。


「ありがとうございます、お嬢様」


見惚れてて
返事が遅れたのが
気恥ずかしくて
その気持ちを隠すように
さらっとお礼を言ったら
彼女がにこっとした。


「ね、このボタン、手袋してたら止めにくくない?」


え・・・?
って返事をするより先に
彼女がすっと手を伸ばしてきた。


そして俺の手袋していない手を
ぎゅっと捕まえて。


「真壁さん、手を出して?」



「っ・・・・!お・・・お嬢様?」



俺の動揺に気づかないように
彼女がふと俺の顔を見上げる。


「手袋、はめてあげるよ」


「っ・・・・!」



想わぬことにドキッとする。



手袋をはめてあげる、という
言葉よりも俺を
動揺させているのは
俺の手を掴む彼女の指。


彼女が触れている部分の・・・
皮膚が敏感に
彼女の温度を捕まえる。



「・・・・・・」



思わず何も言えなくなってしまう。


その沈黙を了承と捕らえたのか
にっこり笑って
彼女が浮かせた俺の手に
手袋をそっとはめようとして。


でも次の瞬間
何を思ったのか、悪戯のように
自分の指を俺の指に絡ませた。


「やっぱり真壁さんの指って綺麗」


「!!」


「男の人だけど、真壁さんの指は器用っていうか、細いんだけどしっかりしてるね」



そう言いながら
指を撫でられる。


「いつも手袋の下はどんなんだろう?って想像してたんだよ」



「っ・・・!!!」


何も意図していないだろう
その言葉と彼女の行為に
俺は思わず言葉が出なくなった。



「こんな綺麗な指をしてるから、真壁さんっていつもすごく色んなことが出来ちゃうんだね」



そして自分の手と
俺の手を合わせて
その大きさを確認する彼女。


「やっぱり男の人の手だな、あたしよりこんなに大きいや」



その大きさの違いに
にこっと笑いながら
彼女が俺を見上げる。


その言葉が何も
意図していないと
わかりながらも。







俺は。

俺はこの指で。

その触れている手のひらを
ぎゅっと返して
彼女の手を掴んで
胸に引き寄せたくなる。


もっと彼女に俺が
「男」であることを
教えたくて。



彼女の全てに
触れてしまいたいと
想っている欲求を
思わず解き放ちそうになった。








この指で色んな事が
出来るというなら。



(俺が一番したいことは―――)



この指で彼女の全てに触れること。
彼女が触ってほしいところも
俺が触りたいところも全て。



いや触るだけでは足りない。
この手で彼女の全てを
奪い取りたくなる。












そんな衝動が自分の中に
湧き上がるのを感じて
俺はぱっと目を伏せた。


彼女の目に浮かんでいる
俺への信頼が痛い。



彼女に触れられているのが
永遠に長いように感じる。



合わさった手のひらで
俺よりも小さな手のひらから
伝わってくる
ひんやりとした柔らかさ。


その部分の感覚は
妙に実感があって
そして温かくて
艶かしく感じる。



(それはきっと俺がそう感じているだけ)



なんでもない
ただ手のひらを合わせて
大きさを比べているだけなのに。


その小さな手で
いつもの手袋を
はめてもらうだけなのに。



「なんかうまくはめれないな」


俺の右手に手袋をはめようと
ボタン留めで苦戦している
少し不器用な彼女の
抱きしめそうになった自分を
ぐっとこらえた。



解き放つ前に
この気持ちを捕まえる。


そう。俺は今、
彼女の「執事」だ。

この気持ちは
もってはいけないもの。

指一本触れられないほど、
触れたら最後だと想うほど
彼女のことを想って
思い詰めているか、なんて。



―――伝えるべきことじゃない。



「手袋って面倒だけど、でも真壁さんにこの手袋は似合ってるよ」


嬉しそうに言いながら
彼女が俺の手袋のボタンを
1つ1つ、丁寧に
その指ではめてくれる。



今だけだ。



そう言い聞かせて
俺は彼女にもっと触れたいと
想う気持ちを抑える。
でもその仕草に思わず
目が吸い寄せられる。








息が止まる。

彼女の指が。

触れたところが。

熱い――――。








その指を掴んで
今すぐ噛んでしまいたい
食べてしまいたいほど
可愛い彼女だから

すぐにでも
口に含んで
その全てを
舐め回したい

舌先で彼女の指を
一本一本
その指を口に含んで
舌を絡ませ
甘く噛んで
彼女がどう反応するか
みてみたい




そんな想いが
頭の中をよぎった。















息を凝らして
耐える時間が
どれほど続いたか。


数秒が永遠に感じられ
時が止まってるのではと想ったとき。



「出来た♪」

全てのボタンを
はめ終えた彼女が
嬉しそうに笑った。




「・・・・ありがとうございました」


かろうじて
口から出たのは
掠れた声。


手が震えてきそうなのを
押さえながら
俺は彼女の手から
自分の手を抜き取る。



彼女が触れてくる
その1つ1つに
胸が振るえるような
締め付けられるかのような感覚が
名残惜しい。



俺は自分が狼狽して
赤くなっていることに
気がついた。


その照れた顔を
動揺した顔を
見られたくなくて。
きつく仮面を被った。




手袋のボタンを
無事にはめれたよ、褒めて?


そういう様に
俺を見上げる彼女に
理性の限界値ぎりぎりの微笑で
取り繕う。






可愛すぎると襲いたくなる。
そんなに可愛い顔で俺を見るな。






思わず呟きたくなるのを
ぐっと口をつぐんで
その呟きを心の中にしまう。



そして何気ないように
目をそらして
彼女が飲み干した
カップを取り
盆においた。




「お嬢様。何かあったらまたすぐにお呼びください」


お茶を片付けてまいります。




胸に手をあて
静かに腰を折って
お辞儀をする。



「ん、わかった」


彼女が俺に微笑みかける。


その微笑には
俺の狼狽に気づいた様子や
何か不思議そうな様子はない。




ありがとうね、紅茶。


そういう風に彼女が
俺がドアから出て行くのを
見つめているのがわかる。








(何も考えるな今は)




そう言い聞かせて
俺はいつも通りの順序で
ティカップを台に載せ
部屋から出た。


そして廊下に出た後
一人その場で立ちすくむ。
誰にも見られないように
ゆっくりと息を吐き出す。



あまりにも純粋に
俺を見つめるものだから。
惹かれてはいけないと
想いながらも
心が揺さぶられる。



彼女がはめてくれた手袋を
ぎゅっと握り締めた。



彼女が触れた部分が熱い。



その指遣いが
脳裏から離れない。
ほんのりと温かい感触。
彼女に掴まれた部分の
手の感覚を忘れられない。



何度も何度も思い出す。


こんなにも彼女から
何も意図せずに不意に
素手を触れられただけで
動揺しているのに。


ただでさえ
手袋ごしで
彼女に触れても
胸が高鳴るのに。




俺の意思でこの手で
彼女に触れた日には―――。


(きっと俺は自分で自分を抑えられない)



さっきのちょっとした
彼女の仕草でも
充分に動揺して
狼狽して、そして
動けなくなっていたのだから。



もうこの気持ちを
己の心の中だけに
閉まっておくことが
出来なくなる。



そう。
だから俺は
この手袋を
彼女がいるところでは
外せないんだ。











彼女に恋をしている。
彼女に触れたい。
もっと、もっと。




この気持ちは
もう消せないものなのに。



消さなくてはいけないものだと
何度も動揺した自分に
言いきかせる。




俺は彼女がはめてくれた
右手の手袋を
左手で押さえた。











心の中を締める想いは
ただひとつ。



もっと彼女に触れたい。
ただそれだけ。



心の中でうずまく想いを
動揺する心を抑えられず
俺は想いを馳せてしまう。




・・・・もし
この手袋を外して
彼女に触れることが
許されるのならば。




彼女の柔らかいところから触れたい。


毎日いつも、つい見つめてしまうところから。


唇。
耳朶。
鎖骨のくぼみ。



その後は
首筋をなぞって
うなじを撫でた後
彼女の髪を
この指で梳かそう。

口付ける前に
もう一度その唇を
指でなぞる。


俺だけのために
その唇が使われるように。
俺だけがその唇を
奪えるのだと教えるために。


ゆっくりと優しくなぞりながら。


もう片手で彼女を
引き寄せて抱きしめる。


その瞬間の柔らかさを
胸に焼き付けながら。


きっと彼女は
俺の指に触れられたところから
赤くなっていく。

その可愛い口から
吐息を漏らすだろう。
俺の名前と一緒に。



この手で。
一度捕まえたのなら。
俺はけして彼女を離さない。







そんないけないことを
彼女にしたいと想っている
俺の心を抑えいるのは
俺の理性だけ。



俺の理性は
この手袋の布きれ1枚で
抑えられている。


けして・・・・悪さをせぬよう
今は手袋をしておかなくてはいけない。


素手でなど
彼女には触れられない。
素手でふれたら最後
自分が何をしてしまうか
わからない。


きっとその瞬間に
全て消し去られてしまうだろう。


執事の仮面も。
得意のポーカーフェイスも。
詭弁も。
俺の理性も。


全て、ただ指から伝わる
彼女の感触を求める
俺の情動の前には
なんの役にも立たない。





すでに俺の心を
捕まえている彼女が
俺の気持ちに
気がつく日が来るのだろうか。

わからない。



ただわかっていることは
俺が触りたいものは
彼女だけだということ。


気持ちが暴走しないように
俺は手袋をはめる。
これは、俺の理性の枷だ。

枷をしないといけないほど
俺は彼女に恋している。


枷はいつか
外されるだろう。
彼女が俺に恋をする
その時が来たら。


触れた先から
赤く熟するように
彼女が俺に
恋に落ちた瞬間を
見届けた後
俺はその想いと共に
この“手”を解放しよう。


この手で彼女を掴んで
もう離さない。


この仮面を外せるのも。
この手袋も外せるのも。
この気持ちを解放させるのも。




俺のお嬢様である彼女だけだ。




そんな日が来るまで。

それまでは。


激しく熱を帯びた
俺の恋心は
ただ、手袋のなか。

















*********** Fin.... *************





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